ストーカーされてること<<<<(超えられない壁)<<<<金
「………………」
金。金か。目の前にあるのは、確かに金だ。
それも見た感じ、結構な厚みがある。あれだけの渋沢さんがあれば、当面の間金に困ることがないのは間違いない。
「……あの、一応聞きたいんですけど、それ全部貰えるんですか? 本当に?」
「も、勿論だよ! 私のお金は全部クズマくんにあげるために貯めてたの。ホラ、ふたりの将来とか、色々必要だと思ってたし……えへへ」
照れ臭そうに笑う舞白だったが、そのこと自体はどうでもいい。
今重要なのは、確かに舞白が持っている金を全部くれると言ったこと。
確実に言質を取った、という事実こそが、なによりも重要なのだ。
「へー……そうですか。なら遠慮なく」
もらうとしよう、そうしよう。
さっきまでの考えは全て吹っ飛び、俺は舞白に向かって手を伸ばす。
ストーカーされてること<<<<(超えられない壁)<<<<金
これがこの世の真理であり、俺の中の絶対だ。
金に勝てるものなど、この世に存在しないのである。なんなら一生遊んで暮らせるなら喜んで愛を差し出すのがこの俺、葛原和真という男なのだ。
「あ、でもちょっと待って」
「ほへ?」
渋沢さんまであと数センチというところまで指が迫ったところで、舞白が待ったをかけてくる。
おいおい、それはないだろ。それはもう俺の金だぞ。ここまで来てお預けなんて、そんな横暴許されないと思うんだが。
「あ、あのね。お金を渡すのは全然いいんだけど……その代わり、私と学校まで登校して欲しいの。こ、恋人みたいに横に並んで、ふたりで一緒に……」
顔を真っ赤にしながら、そんな要求を突き付けてくる舞白。
……おいおい。対価を要求してくるとか、そんなの聞いてないんだが。
「えー……さっきと言ってること違うじゃないですか。その金、俺にくれるって言いましたよね?」
「た、ただでとは言ってないもん。それに、並んで歩くだけだよ。して欲しいことはたったそれだけなんだから、いいじゃない。お姉さんのお願い聞いてよ。ね? ね?」
可愛らしくおねだりしてくる舞白だったが、そんなことでは俺の心は動かない。
色仕掛け程度でコロッといくような男だったら、とっくに幼馴染たちに陥落しているからな。
俺をそこらへんにいる甘っちょろい男だと思ってもらっては困るのだ。
「あのですね、ハルカゼさん。もうちょっと自分の立場をよく考えたほうがいいですよ。その程度のお金で相手を動かそうとしているのもあれですが、そもそもハルカゼさんはアイドルなんだし、男子と一緒に登校なんて……」
「足りないの? ならお金、倍出すよ?」
「じゃ、行きましょうか。足元には気を付けてくださいね。転んだら危ないですし、俺がエスコートしてあげましょう。あ、カバン持ちましょうか? 重いでしょ?」
うやうやしく頭を下げ、俺は舞白へ意図して爽やかな笑顔を向ける。
媚びられた程度で俺の心は動かないが、金をたくさんくれるというなら話は別だ。
俺は決してチョロい男ではないが、こと金に関しては即座にプライドを捨てるなど朝飯前なのである。
「ホ、ホント!? いいの!?」
「ええ、勿論。俺にとって、ハルカゼさんは大事な金……もとい、ゲーム友達で先輩なんですから」
「え、えへへへ。も、もうクズマくんったら、口が上手いんだからぁ。も、もっと言って貰っていい? わ、私のこと、もっと褒めて?」
「ハルカゼさんが望むなら、喜んで」
こうしておけば、きっとチップも弾むだろうしな。
一応言っておくが、俺の中でハルカゼさんは今も大事なゲーム友達だ。
「ハルカゼさんって、本当に頑張り屋さんですよね。それは一緒にゲームをしていた時からなんとなく分かっていたことでしたけど、まさかこんなに可愛い女の子だったなんて思ってもいませんでした」
「ふ、ふへへへ。そ、そう? クズマくんの目から見ても、私って可愛い?」
「勿論。大体、ハルカゼさんのことを可愛くないなんて言う男子なんていないですよ。いたら俺がぶっ飛ばしてやりますもん。とんだ節穴野郎だなってね」
「え、えへへへ。そ、そうなんだ。クズマくんは、私のこと可愛いって思ってくれるんだ。へへへへ……」
だが、金があると分かったら話が違う。
ゲーム友達としての情<<<<(超えられない壁)<<<<金
これもまた、俺の中での真理なのだ。
「ね、ねぇ? 私、雪菜ちゃんたちに負けてないかな? ま、まだチャンスあるって思っていいよね?」
「当然です。ハルカゼさんはふたりにだって負けてませんよ。そもそもリーダーじゃないですか。前に雪菜たちもハルカゼさんのことは尊敬してるって聞きましたし、もっと自信を持って下さい」
「ホ、ホント!? 雪菜ちゃんたちが、そんなことを……嬉しいなぁ……きょ、今日はとってもいい一日になりそう……幸せぇ」
適当にはぐらかし、そして褒める。
この繰り返しで大金を手に入れられるなら、俺は働く以外のどんなことでもするだろう。
(悪いなハルカゼさん。貴方のことは大事な友人だが、俺にお金をくれるなんて言い出したのが悪いのだよ……)
脳内でどっかの赤い彗星みたいな台詞を呟きつつ、ハルカゼさんを持ち上げながら俺は学校へと向かうのだった。




