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アイドルが家の前に来るのはまずいですよ!

 なんだかんだ色々とあった監禁リハーサルという名の地獄が終わって一週間。

 7月に突入し、暑さがますます増してきたことを実感するが、俺の日常は比較的穏やかさを取り戻しつつあった。

 一番の懸念事項だった幼馴染たちによる監禁生活も、そこまで悪いものではなさそうだと分かったのが大きいのかもしれない。

 ある程度の自由が保障され、首輪を付けられたり檻だのに閉じ込められる心配もないと分かれば、自然と余裕だって生まれるというものだ。


「行ってきますっと」


 そんなわけで、当たり前の日常を取り戻した俺は今日も学校に通うべく家を出た。

 幼馴染たちはふたりとも今日は仕事のため、朝起こしに来るということもなく、久しぶりにひとりの登校になる、はずだったのだが……。


「え、えへへへ。お、おはようクズマくん。今日もいい天気だね」


 家から出て数歩目。ロクに歩き出しすらしてないタイミングで、俺は声をかけられる。


(うげ……マジかぁ……)


 そして内心ため息をつく。

 別に朝っぱらから知らない人に声をかけられて辟易したからとかじゃあない。

 むしろそっちのほうが億倍良かったくらいだ。なんせその声は知らないどころか、ようく知った人物が発したものだったのだから。


「……おはようございます、舞白さん。また来たんですね」


「う、うん。えへへ、き、来ちゃった」


 振り向きつつ挨拶を返した先にいたのは、春風舞白。

 幼馴染たちが所属するアイドルグループ、『ダメンズ』のリーダーであるその人は、へらっとした笑みを浮かべて俺のことを嬉しそうに見つめていた。

 アイドルだけあって容姿は抜群であり、普通の男なら顔を赤くして目をそらしてしまいそうなオーラを放っていたが、同時にどこか黒いモヤモヤとしたオーラも出しているように見えたのはおそらく気のせいではないだろう。容姿の良い幼馴染たちに日頃から鍛えられている俺の目は誤魔化せない。

 ……いやまぁある意味、誤魔化されるくらいのほうがマシだったのかもしれないが。だって今のこの人、ヤンデレスイッチが入った幼馴染たちと出ているオーラそっくりだし。


「あの……なんでわざわざうちに来たんです? 家の方向、そもそも違いますよね?」


「それはそのぅ……く、クズマくんと一緒に登校したかったっていうか……こういうの、憧れてたし……」


 ちょっとビビりかけている内心を押し隠し、俺は舞白にここに来た理由を聞いてみるも、返ってきたのは乙女チックな回答そのもの。

 ちょっと顔を赤らめもじもじしている姿は間違いなく可愛いと言えるものだ。

 重ねて言うが、普通の男だったらコロッと引っかかり、恋に落ちてしまうことだろう……なんせこの人、文字通りアイドルなわけだし。そしてそれが、なによりの問題だったりする。


「あのー、すみません。舞白さん、本当にアイドルの自覚あります? そういうのって、アイドルやってたら普通口に出しちゃいけないことだと思うんですけど」


「だ、だって! クズマくんと距離を縮めるには、これくらいやらないと……ただでさえ雪菜ちゃんやアリサちゃんに負けてるんだもん。い、一緒に登校くらいはしたいなって……」


「だからってわざわざうちの前に来なくても……」


「い、いいんだよ! こういうの、したいんだから! いつも通りお姉さんの言うことを聞いて、一緒に登校すればいいの! 私、クズマくんよりお姉さんなんだからね!」


 恥ずかしさを誤魔化したいのか、ビシッとこちらを指差し言うことを聞かせようとしてくる舞白。

 それを見て、やはりため息をつきたくなった俺を誰が責められるというのだろうか。


(はぁ……よりによってこの人に家を知られたの、完全に失敗だったなぁ……)


 そう、別にこのやり取りは初めてというわけではない。

 ここ一瞬間で既に何度かやっており、俺にとって新たな頭痛の種になりつつある問題。


(なんでこう、『ダメンズ』って問題あるやつばっかなんだろうな……)


 人気アイドルグループ、『ディメンション・スターズ』。


 そのリーダーである春風舞白は、何故か俺のストーカーになっていた。


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