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修羅場よりも好きな人を確保するほうが大事だよね!

 雪菜やアリサのように吸い込まれるようなブラックホールアイこそ形成してはいないものの、グルグルと回る瞳でこっちをガン見しながら長々と語る舞白を信用することなんぞ一切出来そうにない。


「あの、すみません。俺、そういう重いのはちょっと……」


「大丈夫! 私全然重くなんてないから! むしろ軽いくらいだよ! 仮に重いとしても、それはおっぱいだけの重さだよ!」


「いや、物理的な重さのことを言ってるんじゃないんですけど……」


「あっ、じゃあ財布のこと? そっか、クズマくんはプリペイドカードとか電子マネーの方が好きなのかな? ゲームに課金するならそっちの方が便利だしね。じゃあ今度クズマくん用の口座作ってクレジットカードを渡すから、そっちを使ってね! 勿論いくらでも使ってくれていいからね! ね!」


「金の重さでもないんですが。そっちはむしろ重い方が好きですし」


「とにかく大丈夫だから! お姉さんに全部任せてくれればいいの!」


 ……駄目だ、話がサッパリ通じない。

 こちらが何を言おうがシャットアウトしてくるし、とにかく俺を逃がさないという鉄の意志だけをハッキリと感じる。


「えっと、だから金の話は今はいいんですよ。それより、もうすぐ雪菜たちが帰ってきます。その前に舞白さんには俺と話を合わせて貰いたくて……」


 ならばせめて当初の予定通り、舞白と話をすり合わせるくらいはしておかなければ。

 そう思ってのことだったのだが、


「ハルカゼさん、だよね」


「へ?」


「だから、ハルカゼさんだよ。クズマくんの方が本当の葛原くんなんだから、私のことはちゃんとハルカゼさんって呼ばないと。こういうのは大事なんだよ。ちゃんと意識しないと、すぐにクズな部分が戻っちゃうんだからね」


 小さい子供を諭すようにそんなことを言ってくる舞白だったが、俺から言わせてもらえばズレているとしか言いようがない。

 意識も何も、俺はずっと俺のままだし、そもそもクズどうこうは今重要なことじゃない。


 舞白が目を覚ましてから、既にそれなりの時間が経過している。

 雪菜たちが帰ってくるのも、それこそ時間の問題だろう。

 それまでに口裏を合わせる必要があるってのに、舞白は話を聞いてくれないし、ずっと平行線のままだ。


「あの、いきなり呼び方変えるとややこしいことになるんで、今はそのことは置いといてもらっていいですか? 話は後でちゃんと聞きますから、今はとにかく雪菜たちが帰ってくる前に……」


「……そんなに雪菜ちゃんたちのことが大事なの?」


 このままだと舞白との関係を疑われることになるという思いから、俺は少し焦っていたのかもしれない。

 それはこれまで植え付けられたヤンデレモードへの恐怖がそうさせたのだが、目の前にいる舞白のことをちゃんと見ていなかったということでもある。


「え、あの……」


「そうだよね。先に貢いでいたのはあの子たちだもんね。幼馴染だから、付き合いも私よりずっと長いだろうし。ただ貢ぐだけじゃ、私に勝ち目なんてないよね……」


「舞白さん? あの、一体なにを……」


「なら、勝てる部分で勝負しないと。お金以外で勝てるとこ。雪菜ちゃんやアリサちゃんに勝てるところ……」


「もしもし舞白さん? 聞いてます? もしもーし」


 ブツブツとなにやら呟き始めた舞白を見て、嫌な予感が急速に膨れ上がっていくのを感じる。

 このままじゃなにかマズい。いや、絶対にこれはマズい!


「まし……」


 直感に従い、舞白を止めるべく声をかけようとしたのだが……ほんの一瞬、遅かった。



「一番、春風舞白。脱ぎます!」



 威勢のいい、だがテンパっているのが分かる掛け声と共に、舞白は自分のパジャマを勢いよく脱ぎ去った。


「はぁぁぁぁっ!?」


 そして俺はビビった。

 舞白の白い肌と上下お揃いのレースの下着を目にしたことより、コイツ俺の前で脱ぎやがったという驚愕の方が先に来るくらいにめちゃくちゃビビった。


「な、なにやってんですか!? なんで脱いでるんです!? いやホント、マジでなんで!?」


「だってこうでもしないと雪菜ちゃんたちに勝てないからぁっ! 私があの子たちに勝ってる部分なんて、身体くらいしかないんだもん!」


「ないんだもん、じゃないんですよ!? アンタ状況分かってないでしょ! 俺は今監禁されてる真っ最中なんですよ! それもこれも、あいつらが俺を好きすぎるからです! 下着姿の舞白さんと一緒にいる俺を見たら、あいつら一体どう思うのか……」


「どう思っているのか、教えてあげよっか?」


「ってうわぁ! 出たぁっ!」


 すぐ近く、それこそ耳元で囁かれ、恐怖から俺は思わず飛び跳ねる。


「ふふっ、びっくりしちゃったなぁ。家に戻って部屋まで来たら、舞白ちゃんが脱いでるんだもん」


「ホントよね。まさか和真にそんな度胸があったなんて思わなかったわ。アタシたちが留守にしたちょっとした間に、舞白に手を出そうだなんて、随分男らしいところがあったんじゃないの」


「ま、待て! だから誤解だ! そんな無謀すぎる男らしさなんざ、俺にはない!」


 自分で言っててちょっと悲しくならないでもないが、これは事実だ。

 少なくとも、留守中に舞白に手なんて出したらこの幼馴染たちがどんな反応をするかなんて読めないほど俺は馬鹿じゃない。

 そのことは雪菜たちだって分かっているはず……。


「ふふっ、舞白ちゃんの下着姿を見たなら、私たちはそれ以上のことをしてもいいはずだよね?」


「舞白に手を出そうとするくらい、男らしいところがある和真だものね。アタシたちと一緒にお風呂に入るくらいは、もう訳がないんじゃないかしら?」


「そういえばそうだね。舞白ちゃんがなんで脱いでたとか気になることは色々あるけど、それはお風呂に入りながら聞けばいいしね」


 こ、こいつら……この状況を利用しようとしてやがる!

 てっきり修羅場になるか俺が締め上げられるかと思っていただけに、俺は驚愕を隠せない。


 俺とお風呂に入ること>>>>(越えられない壁)>>>>舞白が下着姿になっていること


 つまり、こういうことか?

 俺の方が圧倒的に優先順位高いとか、こいつらどんだけ俺のこと好きなんだよ!


「さて、それじゃ行こうかカズくん」


「言っておくけど、逃がさないわよ。元々これが目的の監禁なわけだしね」


 いつぞやのように両脇をがっしりと挟み、俺を連れ去ろうとする幼馴染たち。

 文字通り力づくの連行をするつもりなのだろう。このままでは強引に既成事実を作られかねない。


「そ、そうだ。ルリ、助けてくれ! お前が最後の頼みの綱だ!」


 それだけは流石にまずいと、この場における唯一の味方と言っていいルリに助けを求めたのだが、


「つーん」


「ル、ルリ?」


 何故かそっぽを向いていた。表情も明らかに不機嫌そうだ。


「せっかくルリが色々頑張ってたのに、おにーさんはそういうことをするんですか。ひどい人ですねーおにーさんは。今回ばっかりは、流石に反省してください」


「な……! お、俺を見捨てるつもりなのか!?」


「見捨てるとか人聞きの悪いこと言わないでくださいよぉ。ルリだって女の子だってことです。それで察してくださいね、クズで鈍感なおにーさん」


 なんだそりゃ!? 

 俺が一体なにしたってんだよ! 今回ばっかりは、マジでなにもしてないぞ!?


「こ、こうなったら舞白でもいい! なんとかしてくれ!」


「クズマくん、今助け……むぎゅっ!」


「あっ、クソッ! そうだ、コイツ力弱いんだったー!」


 俺を引き留めようにも何の抵抗にもならず、そのままベッドから落下する舞白。

 それでまた気を失ったのか、あっさり目を回しているあたり、本当になにをしているんだとしか言いようがない。余計なことしかしてないじゃん、この人!


「これでようやく、監禁の目的を果たせそうね……」


「さ、行こっかカズくん。大丈夫、たくさん気持ちよくしてあげるからね♪」


「ひぃっ!」


 なんでルリが怒っているのかはやはり分からないままだが、確かなことはただひとつ。

 この場において、俺の味方はいないという、絶望的な真実だった。


「ちょっと待てって! やめろぉっ!」


 俺の悲痛な叫びを聞いて留まってくれる者はどこにもおらず、結局そのまま風呂場へと連行されてしまうのだった……。


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