アカン、壊れたぁっ!
「それじゃあちょっと買い物に行ってくるね」
「言っておくけど、舞白が起きたからって変なことしたら駄目よ」
「わーってるって。怒られるのが確定している状態でなんもしねーよ」
去っていく雪菜たちを見送りながら、ゆっくりと部屋のドアを閉めて一息ついていると、スマホにメッセージが届く。
——とりあえず時間は稼ぐつもりですので、その間になんとかしてくださいね♪
「ふむ……ま、とりあえず一旦なんとかなったかな」
まだまだ気を緩めるタイミングではないのだが、幼馴染たちが家から離れただけでも有難い。
「とはいえ舞白が目を覚まさないと、やっぱどうにもならないか」
ベッドに寝かせた舞白をチラリと見る。
流石に意識のないまま一階に運ぶのは良くないだろうと思い、俺の部屋のベッドまで移動させていた。
現在は規則正しい寝息を吐いており、特に別状はないと思われるが、念のため雪菜たちに適当なドリンクや薬を買いに行ってもらったのがここまでの話である。
まぁ夜も遅いし本来なら男の俺が買いに行くべきなんだが、そこは今日一日俺は監禁されているという名目を利用させてもらった……というより、ルリが言い出したから乗っからせてもらった形だ。
(自由ではあるけど、なんだかんだ気が利くところはあるんだよなぁ)
ファーストキスを奪われたことはあれだったが、色々と落ち着いたら多少労うことを考えてもいいかもしれないな。
「ん……」
そんなことを考えていると、眠っていた舞白が小さく声を漏らす。
どうやら目覚めは近いようだ。そのことを感じ取り、俺はベッド近くへと移動する。
寝起きの女の子の顔を覗き込むのはマナー違反であることは百も承知だったが、いつ雪菜たちが戻ってくるか分からない以上、話は早いうちにしておくに限るからな。
「あ、れ……ここは……」
やがてそう時間の経たないうちに、舞白はゆっくりと目を開いた。
「起きましたか? 舞白さん」
「葛原、くん……?」
起きたばかりということもあって、まだ頭が回っていないのだろう。
どこか舌っ足らずで甘えるような口調でこっちを見てくる舞白。
年上の女の子なはずなのに、どこか庇護欲を誘う表情は、どこか危うさを孕んだ美しさがある。
なるほど、こりゃ人気が出るわけだと、自然と納得出来てしまうくらい、今の舞白は綺麗だった。
幼馴染たちで美少女を見慣れている俺でさえ、少しの間見惚れてしまったと言えば伝わるだろうか。
(……っと、いけね。見入ってる場合じゃないっつの)
とはいえ、そこは俺。この場で優先すべきことはこんなことじゃないとすぐに思い直し、改めて舞白に向き直る。
「起きたばかりのところすみません。ただ、どうしても舞白さんと話したいことがありまして……」
まだぼんやりしているというのなら、これはこれで言いくるめるチャンスと考えるべきだろう。
舞白がハルカゼさんであると分かった今では、これからすることに罪悪感を覚えないと言えば嘘になるが、やはり俺は自分のことがめちゃくちゃ大事で可愛いのだ。
せっかくここまで穏便に来ている監禁リハーサルを、ぶち壊しになんてしたくない。
そう思う俺のことを、一体誰が責められるというのだろうか。舞白だって、きっと理解してくれるはずだ。
「…………」
「舞白さん?」
だが、なんだか様子がおかしかった。
目が覚めているはずなのに、焦点が合っていないというか、意識がどこかに飛んだままというか……。
「お……」
「ん?」
「お金、あげる」
え、お金?
舞白が何を言っているのか理解出来ず、一瞬呆けてしまうも、その僅かな隙を突くように起き上がった舞白が俺の肩を掴んでくる。
「あの、舞白さん?」
「大丈夫、私、もう全部分かってるから! 本当の葛原くんはクズマくんの方で、クズな方はストレスが溜まった結果ああなっちゃったんだって!」
えぇ……なに言ってんだこの人。
本当も何も、葛原和真に裏表なんて特にないぞ。
突然訳の分からないことを言い出した舞白に困惑していると、彼女は一方的に言葉を続ける。
「あのね、私クズマくんと葛原くんが同じ人だなんて信じたくなかったの。クズマくんはいっつも私の相談に乗ってくれて勇気をくれる優しい人なのに、葛原くんは私に無理矢理ひざまくらしてきたり水着をジロジロ見てきたり、クズマくんの言う通りのどうしようもないクズだったもの。それは今日一日一緒にいて、ますます確信したよ。だからクズマくんと葛原くんが同じことを受け入れられなくて気を失っちゃったんだけど、夢の中で私はたくさん考えたの。なんであんなに性格が違うんだろうって。たくさん悩んで悩んで、答えが出たんだ。きっと葛原くんは、ストレスが溜まってたんだろうなって。私もアイドルの仕事をしていて、ストレスが溜まることはよくあるから分かるんだ。そういう時は趣味のゲームでなるべく発散するようにしてたんだけど、きっと葛原くんも同じだったんだって、ようやく気付けたの。ごめんね、これまで全然気付くことが出来なくて。きっと私、クズマくんに甘えていたんだと思う。クズマくんはなんでも出来るカッコいい男の子だって、無意識のうちに思ってしまってたんだって、ようやく分かったの。そうしたら、なんであんなことをしていたのかも、全部分かっちゃった。クズマくんも、きっと辛かったんだね。生きるって辛いもんね。実はクズマくんも私みたいに、友達あまりいないんじゃないかな。相談出来ないし吐き出せない辛さ、私には分かるよ。私には秋ちゃんっていう親友はいるけど、それでも全部相談することなんて出来ないもの。秋ちゃんは生徒会長で忙しいし、周りの人にもよく頼られるから私も頼ったら負担かけちゃうんじゃないかって考えて、言えないこともいっぱいあった。そんな時にクズマくんに会えて、私は救われたけど、きっとクズマくんはそうじゃなかったんだよね。本当にごめんね、クズマくん。でも私、これからは変わるから。クズマくんを支えられるような、一緒にいて安心出来る女の子になるから。だからホラ、それまではお金でストレス発散しよ? お金が欲しいのって、そういうことなんだよね。ストレスが溜まったら、お金たくさん使ってパッと発散するのが葛原くんにとっては一番の解消法なんだよね? なら、私も葛原くんにお金あげるね。大丈夫、私たちふたりの将来を考えて、ちゃんと貯金はしてあったからね。そのお金全部あげるから、ストレスなくそ? そして、本当の自分を取り戻そう? クズマくんの方が、本当の葛原くんなんだもんね。クズな部分を浄化して、優しいクズマくんの方がが本当の葛原くんだって言えるようになろうよ。そのためなら、私なんでもするから。これからは私がずっと傍にいるから、大丈夫だからねクズマくん!」
「お、おおう……」
一体なにが大丈夫だというんだろうか。
とりあえず今の俺に分かることは、なんか舞白がぶっ壊れたということだけなんだが。




