駄目人間が好きな人を説得なんて無理なんですよ
「アタシ?」
「そう! アリサちゃんも葛原くんのことが好きなんだよね!? 今度はアリサちゃんからも葛原くんを好きになった理由を話してくれないかなぁ!?」
傍から見れば、私は凄く必死だったと思う。
多分、これまでの人生で三本の指に入るくらいには必死だった。
だって、雪菜ちゃん怖いんだもん。怖いものは怖いんだから、逃げるのは仕方ないことだと私は思う。
「アタシは……そうね。和真が駄目過ぎるからって感じかしら」
「え? 駄目過ぎるから……?」
ちょっと意外すぎる理由だ。
アリサちゃんは真面目でしっかりしているから、そんな人はむしろ好みと真逆だと思ってたけど…。
「知ってる? アイツ、すっごい駄目人間なのよ。本気になれば色々出来るくせに、わざとやろうとしないの。きっと、アタシたちがなんとかしてくれると思ってるんだわ。昔からそうなんだけど、和真って泣きつけば許されるって考えている節があるのよ。アタシはそんな甘い考えを許してこなかったんだけど、なんかアイツって庇護欲をそそるのよね。アタシにお説教されて落ち込んでいるのを見ると、キュンとしちゃうっていうか。勿論その顔を見ればちゃんと反省しているのは分かったし、その度に許してはきたんだけど……でも何故か同じことを繰り返すのよね。なんでかしら、舞白なら分かるかしら?」
「え、ご、ごめん。分からないかも……」
多分厳しくしているって思ってるのはアリサちゃんだけで、実際は甘々だったからじゃないかな……。
そう言いたかったけど、言えない。なんかさっきも同じことを思った気がするけど、口を挟める空気じゃないもん。
「そう。本当になんでかしらね? まぁそのことはいいわ。話の続きだけど、なんだかんだアイツにもいいところだってあるのよ。人に優しく出来るやつだし、匂いだって最高に好みだわ。ちゃんとアイツのことを知っていれば、嫌いになんてなれないのよ。でも、誠実なやつでないことも確かだわ。このままだと、誰かを不幸にしちゃうかもしれない。そんなことにならないよう、道を正してあげないといけないの。和真には誰かが着いていてあげる必要があるのよ。なら、その役割は幼馴染であるアタシが適任だって、舞白もそう思わない?」
ごめんなさい、全然思わないです……。
でも言えない。もう何回も思ってることだけど、やっぱり無理。
だってアリサちゃんの目、本気なんだもん。
心の底から葛原くんには自分が必要なんだって、そう信じてる目をしてる。
それだけなら素直に応援出来るんだけど、やってることは葛原くんに貢いで甘やかしてるだけだから全然笑えないよぉ……。
「そ、その。わからないでもないけど、でもお金をあげるのはどうかなーって……」
「? だって和真はすぐお金使っちゃうんだもの。なくなったら他の子から貰おうとするし、周りに迷惑をかけるくらいなら、幼馴染であるアタシからあげたほうがじゃない」
「え、いや、でも。それはちょっとやりすぎなんじゃないかな……ホラ、絶対反省しなさそうだし。あと幼馴染は関係ないかなって……」
「大丈夫よ。これでもしっかりお説教はしてるんだから。あと、幼馴染は関係あるわよ。アタシが誰より和真のことを知ってるんだから。そんなアタシが傍にいるんだから、そのうち和真も分かってくれるって、アタシは信じてるわ」
それ、信じたところで絶対報われないし、駄目なやつだよアリサちゃん……。
いくらお説教をしたところで、最終的にお金をあげるんじゃ意味なんてないと思うのは私だけじゃないと思う。
どう考えても反省なんてしなそうだし、彼のクズさならむしろちょっとお説教されるだけでお金貰えてラッキーくらいに思っててもおかしくない。
「ところで、そういう舞白ちゃんは好きな人はいるの?」
「へ? わ、私?」
説得なんてまるで通じなさそうなふたりに憂いていると、雪菜ちゃんがいきなり話を振ってくる。
「そうね。アタシたちは正直に答えているんだから、舞白も話しなさいよ」
「ですね、ルリもマシロセンパイの恋バナ興味あります」
「そ、そんな、ふたりまで……」
そしてアリサちゃんにルリちゃんも流れるように便乗してくる。
うぅ、これは嫌だなんて言えない雰囲気。そもそも最初にこの話をしたのは私だからこうなるのは仕方ないんだろうけど……でもルリちゃんは話してないのにそれはズルくない?
こういう時って要領がいい子は得だよね……そう思ってしまうのは、私がそういうタイプじゃないからかなぁ。
「うぅ、分かったよ……」
現実逃避もそこそこに、私は渋々覚悟を決める。
こうなったらもう言わないと納得してもらえそうにないし。
「その、私にも好きな人は、います……」
「「おおー!」」
私の告白に、三人が一気に盛り上がる。
「好きな人って誰なのか聞いていい?」
「えっと、ネットで知り合った人っていうか」
「おお、今どきですね!」
「会ったことはあるの?」
「それはなくて……実は顔も知らないんだ。よくボイスチャットや電話で会話はするんだけど……」
「えっ、そうなの?」
「う、うん。でも、すっごくいいひとなの。相談にもよく乗ってもらってるし」
矢継ぎ早に飛んでくる質問に、ひとつずつ答えていく。
ただ、これって恥ずかしいな……今までこういった話は秋ちゃんとだってしたことないから、これが合ってるのかもそうでもないのかも分からない。
(これがリア充の気分……? あ、あんまりいいものじゃないなぁ)
人気者の子たちって、いつもこんな会話をしているの?
だとしたら、私は今のままでいいなぁ……毎回こんな話をしていたら、絶対メンタルが持たないよ……。
(…………クズマくんの声が聞きたいな)
彼について話したからか、急にクズマくんと話したい気持ちが湧いてきた。
やっぱり私は、彼と話している時が一番安心してしまう。
「ごめん。話の途中なんだけど、ちょっと席を外していいかな? その、ちょっとトイレに行きたくなっちゃって」
悪いとは思ったけど、断りを入れて私は席を立った。
もう時間は夜だ。土曜日だしまだクズマくんは起きていると思うけど、電話をかけるなら時間は早いほうがいいだろうし。
なにより、私自身彼の声を聞きたくてもう我慢出来そうにない。
「あ、緊張でもしました? ライブでも本番前いつも行きますよね」
「リビングから出たら右手側のドアがそうだよ。ゆっくりしていいからね」
「じゃあ今度はルリの話を聞かせてもらおうかしら。こういうのは順番だしね」
「お、いいですねー。じゃあルリが如何にカワイイ存在なのか、たっぷりじっくりセンパイ方に聞かせてあげますね!」
「……それはもう嫌というほど聞いてるから、普通に恋愛話して欲しいんだけど」
「あ、あはは。じゃあ行ってきまーす」
いつも通りの賑やかなメンバーの会話を耳にしながら、私はリビングを後にした。




