女子会が急にホラーになるって怖くない?
「えへへへ。こうして布団を敷いてると、本当にお泊り会って感じだね」
雪菜ちゃんやアリサちゃん、それにルリちゃんと一緒に、私はリビングで布団を並べていた。
当初の予定では皆とこうしてお泊り会をする予定だって聞いて、ワクワクしながら訪れたこの家だけど、巡り巡って皆とお話する機会が出来たのは素直に嬉しい。
(それにしても、今日は本当に色々あったなぁ)
思い返しても本当に……うん、本当に、ホンットーに、色々あった。あり過ぎたよ……。
アイドルの仕事をしているから、普通の女子高生とは違う生き方をしている自覚はあるけど、それを含めても最も濃い一日と言っていいくらい、濃厚な時間を過ごした気がする。
(それもこれも、全部葛原くんのせいなんだけど……)
彼と今日一日過ごして、改めて分かったことがある。
彼はクズだ。それも、どうしようもないクズ。
きっと更生なんて出来ないんだろうなって確信出来るくらいには、葛原くんはもう色々と手遅れだ。
「本当はカズくんと一緒のベッドで寝るつもりだったんだけどなぁ」
「和真の匂いを嗅ぎながら寝られるチャンスだったのに……結局お風呂には一緒に入れなかったし最悪の結末だわ……」
そういう意味じゃ、未練タラタラな様子を見せる雪菜ちゃんたちもそう。
あの後、なんだかんだで葛原くんとのお風呂は阻止出来て、監禁リハーサルという訳の分からない計画もご破算になりそうなったのは本当に良かった。
ルリちゃんの説得と葛原くんの土下座が効いたんだろうけど、私としても『ダメンズ』としてもかなりマシな終わり方を迎えることが出来たと思う。
(それにしても、葛原くんって本当にプライドないしクズなんだなぁ……)
そんな彼のことを、雪菜ちゃんとアリサちゃんは好きだと言う。
情けなくみっともなく、「一緒にお風呂は勘弁してください!」と懇願するように土下座をする彼の姿を見ても、まるで幻滅した様子はなかった。
雪菜ちゃんは苦笑して、アリサちゃんは呆れていたけど、それでも好意に陰りが見えたなんてことはない。むしろ好感度が更に増したようにすら思えた。
それってもう、ただの好きじゃないよね。なんていうか、こう言ったらあれなんだけど……ちょっといきすぎというか。
とにかく葛原くんのことが好き過ぎて、ブレーキが壊れているように私には感じた。
(昨日までは説得が出来るんじゃないかなって考えてたけど……うぅ、あれじゃ多分無理だよぅ)
言葉で伝えても無理だし、物理的に止めようにも私じゃ色んな意味で力不足過ぎて止められない。
出来ればルリちゃんに頼ることが出来たらいいんだけど……。
「ふんふんふふーん」
鼻歌を歌ってスキンケアをしているくらいリラックスしているルリちゃん。
楽屋や控室でよく見る光景だけど、ちょっと前は葛原くんのことで雪菜ちゃんと喧嘩一歩手前くらいまでいっていた。
あの時のことを思い出すと、頼りにくいというのが正直な感想。
雪菜ちゃんの言う通りなら、ルリちゃんも葛原くんには好意に近い感情を抱いているみたいだし、今はこの話題に触れないほうがいい気がしている。
「ルリちゃん、それどこのブランドの化粧水? 見たことないけど、新作かな?」
「ええ。この前CMに出た時試供品を貰ったんです。中々悪くないので、セツナセンパイも使ってみます?」
「いいの?」
「勿論。気に入ったならメーカーさんに連絡してセンパイの分も貰えないか聞いてみますよ」
「ありがとうルリちゃん!」
「いえいえ。そうだ、アリサセンパイも使います?」
「そうね。ちょっと使わせてもらおうかしら」
今はこうして仲良くしているけど、それだけに男の子のことであんな風になってしまうのはやっぱり辛い。
私たちは友達で、これまで一緒に頑張ってきた仲間でもあるはずなのに……。
(どうして皆、あんなクズな人に……なんで葛原くんがいいんだろ? クズマくんのほうが、よっぽど素敵な男の子なのに)
内心ひとりごちてしまうけど、同時にほんの少し安心もしていた。
自分の気持ちがブレていないことを確認出来たからだ。
葛原くんに惹かれる要素は微塵もないから当然だけど、一応私にとっては初めて訪れた男の子の家ということになる。
プライベートでこんなに長く異性と接したこともなかったし、もしかしたら心が揺れることがあるかも、なんて不安が少しだけあったから。
実際は葛原くんがあまりにもクズ過ぎて、幻滅してばかりだったから問題はなかったんだけど……それは私個人としては良くても、『ダメンズ』としては決していいことじゃない。
「……ねぇ、雪菜ちゃんたちは、どうしてそんなに葛原くんのことが好きなの?」
気付いたら、私はそんな疑問を口にしていた。
リーダーとして、ひとりの女の子として気になったからだ。
「お、恋愛トークですか。いいですねー、ルリも聞いてみたいです」
私の話に、ルリちゃんも乗ってきてくれた。
正直、凄く助かる。私だけじゃ話を盛り上げるなんて出来ないだろうし、そういうのが得意なルリちゃんなら、上手く雪菜ちゃんたちから話題を引き出してくれるはずだ。
「どうして、かぁ。うーん、それはあまり深く考えたことなかったなぁ」
「そうなの?」
「うん。私は昔からずっとカズくんのことが好きだったから」
何の迷いも見せずに頷く雪菜ちゃん。
本当に葛原くんのことが好きなことが伝わってくる。
「それは、幼馴染だから? ずっと一緒にいたから、気付いたら葛原くんのことが好きになっていたのかな?」
それを受けて、私は更に踏み込むことを決めた。
そんなに彼のことが好きなのは、長く一緒にいたせいなんじゃないかと思ったからだ。
彼なら洗脳のようなことをしていてもおかしくない。
「ううん、それはちょっと違うかな。私、カズくんのことは生まれる前から好きだったし」
「え?」
だと思っていたのに、雪菜ちゃんが急に変なことを言い出した。
「えっとね、私とカズくんは生まれる前から出会う運命だったの。初めてカズくんと出会った時、それが分かったんだ。勿論前世とかそういうファンタジーなお話じゃないよ。あくまで私とカズくんのふたりが出会うこと、それ自体が運命だったんだ。だから、私がカズくんのことを好きになるのは必然だったの。出会った瞬間に、この人以外を好きになるなんて絶対ないって分かったから。分かるかな? 理屈じゃないんだよ。気付いたらじゃなく、私がカズくんを好きになることは初めから決まっていたの。舞白さんにもそういう人はいる? いたらとっても素敵だよ。だって悩むことなんて一切ないもの。自分にはこの人だけって思える人に出会うって、きっとあまりないことだと思うの。実はね、私は恋愛ソングってあまりピンと来なかったりするんだ。だって、私とカズくんが離れることなんて絶対あり得ないから。そう信じられる根拠だって、ちゃんとあるんだよ。だってカズくんから直接、一生養って欲しいって言われたからね。あ、カズくんも私と一生一緒に居たいんだって知ることが出来た時の私の気持ち、分かるかな? すっごい幸せな気持ちになれたんだよ。好きな人に求められるのがこんなに嬉しいことだなんて、私あの時に初めて知ったの。あの気持ち、舞白さんやルリちゃんも味わって欲しいなぁ。そうしたら、私と同じ気持ちになれると思うよ。もうこの人のこと、絶対逃がさないし誰にも渡したくないってね。それが人を好きになるってことだって、私は思うなぁ」
「え、あ、うん。そ、そうなんだ……好きになるって凄いね……」
「うん、私もそう思うな♪」
どうしよう。雪菜ちゃんが怖い。
マシンガントークが凄すぎて、口を挟む余地が一切なかった。
「あ、そうだ! 次はアリサちゃんのお話も聞きたいなぁ!」
あれ以上雪菜ちゃんの話を聞くことに耐えられなくて、私はアリサちゃんに話を振った。




