修羅場にも相応しい格好と姿勢というものがあるよね
何故だろう。雪菜がその質問を口にした途端、場の空気がどこか冷え込んだような気がした。
「……そんなことはありませんよ。ルリとおにーさんは、この前の球技大会で初めて知り合ったばかりです」
「そう? なら猶更引っかかるなぁ。知り合ったばかりの好みの男の子がいたなら、普通もっとその人のことを知りたいと思うものじゃないかな」
「今回はセツナセンパイたちがおにーさんと仲良くなりたいとのことでしたので、後輩として遠慮しているだけですよぉ」
「私の知っているルリちゃんならそんな遠慮なんてしないはずなんだけどね。物怖じしないところがルリちゃんのいいところだと、私は思っているんだよ?」
「あはは。お褒め頂き光栄です。ルリもセツナセンパイのいいところは、あまり詮索しないところだと思ってたんですけどねぇ」
お互いにこやかではあるが、流れている空気はあまり穏やかとは言えない。
アリサも口を挟めないくらいには、ふたりとも目に見えない部分で互いにバチバチしているのがなんとなく分かる。
「一応言っておきますが、ルリはセンパイたちのことは尊敬してるんですよぉ。そんなセンパイたちに花を持たせてあげようかなって。今回の主役はルリではないので、裏方に徹するつもりだったんですよぉ」
「そうだったの? ふふっ、ありがとう。私もルリちゃんのことは可愛いと思ってるよ。でも、裏方に徹するつもりなら、ここで止めるのはやっぱりおかしいよね」
「流石にセンパイたちの恋愛事情よりは、ユニットの方が優先度高いので。そこは公私混同しませんよ」
「仕事でもないのにコスプレにまで付き合ってくれてるのに、それは今更じゃない?」
「コスプレは楽しいのでいいんですよぉ。ルリにもちゃんとメリットがありますからね。それより、さっきからセツナセンパイはルリに聞いてばかりじゃないですかぁ。それなら座ってちゃんとお話ししましょうよ。勿論、おにーさんを離してからですけど」
「うーん、それはちょっと嫌かなぁ。カズくんは私のモノだからね。これからもずっと一緒にいるんだし、離す必要は感じないかなって」
腹の探り合い。いや、修羅場といったほうがしっくりくるだろうか。
ルリも負けてはいないのだが、会話の主導権は雪菜が握っている。
そのペースに徐々に乗せられていることには気付いていないようだ。
「……いいから離してください。おにーさんはセンパイだけのモノじゃありませんから」
「その目。ふふっ、やっぱりルリちゃんも、カズくんに執着してるんだね」
「もう、セツナセンパイもしつこいですねぇ。だからルリとおにーさんはまだそこまで仲良くないんですって」
「じゃあ、私たちがお風呂に入ることも止めないで欲しいな。カズくんに拘ってないって言うなら、別にいいじゃない。私たちがルリちゃんよりも、カズくんともっともっと仲良くなっても、ね」
どこか挑発めいた上から目線の物言い。雪菜らしくないそれは、ルリが少しづつ感情的になっていることが分かっているからなのだろう。
「……それはちょっと駄目ですね。カワイクないし、なにより面白くないです」
「ふふっ、ようやく素直になってくれたね。ルリちゃんはやっぱりそうでないと。私から見れば、今のルリちゃんはとっても可愛いよ」
もはや一触即発。『ダメンズ』解散待ったなしなこのド修羅場で、声を張り上げる者がいた。
「ふたりとも、もうやめて!」
絹を切り裂くような叫びが廊下に響く。それを発したのは、『ダメンズ』のリーダーである舞白だった。
「舞白さん……?」
「マシロセンパイ……?」
「私、リーダーだから。それにお姉さんだから。怖いけど、ふたりに嫌われちゃうかもしれないけど、それでも言うよ。ふたりとも、喧嘩なんてしないで。私たち、同じユニットの仲間じゃない……」
沈痛な表情を浮かべてそう語る舞白は本当に悲しそうだった。
同じ『ダメンズ』の仲間が争うことに胸を痛めているのが伝わってくる。
「私、今日はお泊り会だって聞いて、本当に楽しみにしてたんだよ? もっと皆と仲良くなりたかったから……」
ただ、こう言ってはなんだが、シリアスな空気にはぶっちゃけなってない。というか、なりようがない。
「なのに今の状況は真逆で、雪菜ちゃんとルリちゃんが喧嘩してる。このままじゃ、仲が悪くなっちゃうかもしれないし、もうこれ以上は見逃せないよ」
だって今の舞白、俺の足を掴んで倒れたままだもん。
かつビキニの水着姿で場所が家の廊下となれば、その絵面はシュールとしか言いようがない。これでシリアスになるのは無理がある。
「だからお願い。喧嘩なんてやめてよ。私、そんな人のために争うふたりなんて見たくない……」
良いことは言ってるんだけども。言いたいことも分かるんだけども。茶化すつもりはマジで一切ないんだけども。
それでもこう、やっぱり締まらないというか、残念と言うか……。
(俺もいち『ダメンズ』ファンのひとりとして、推しているアイドルのそんな姿は見たくないよ……)
そう思ってしまうのは、果たして間違っているのだろうか。いや、間違ってないだろこれは。




