察しのいいヤンデレは嫌いだYO!
「ご馳走さまでした……」
「はい、お粗末さまでした♪」
穏便に終わるかと思っていた王様ゲームも地獄に変わり、やっぱりひどい目にあった一日もようやく終わりを迎えかけていた。
雪菜とアリサの用意した夕食は美味かったはずなのだが、正直味はなんにも覚えていない。その原因は雪菜にある。
「うふふっ、皆はいいなぁ。カズくんとあんなにくっつくことが出来て。私なんて、一度もカズくんとイチャイチャ出来なかったんだけどね。うふふふふふふ」
そう、結局王様ゲームでは俺と雪菜は一緒になることはなかったのだ。
単純な確率で言えば結構な割合で罰ゲームを受けることになりそうなものだが、運が悪かったのか、俺が選ばれたときの相手はアリサや舞白ばかり。
最後の方には他のメンツが気を利かせて雪菜を王様にしようともしたのだが、雪菜はそれを拒否した。
曰く、「カズくんと私は運命で結ばれているから何もしなくても最後には選ばれるはず」とのことだったが、結果として最後まで俺たちは選ばれなかった。
それは逆に言えば俺と雪菜は運命で結ばれていないのでは? ということになるのだが、触れることは絶対にしない。
だって怖いもんよ。物理的に結ばれるような行動を取られたら、俺にはなす術もない
「せ、雪菜。その、残念だったな。ホラ、でも明日もあるし、今日のことは全部忘れて、また頑張ろうってことでひとつ……」
とりあえずご機嫌取りを試みるのだが、冷静に考えると何故監禁されてるはずの俺がこんなことをしなければならないのだろうか。
いや、監禁されているんだから相手に媚びを売るのは当然といえば当然ではあるんだが……なんだろう、イマイチ納得がいかねぇ……。
「無理」
「へ?」
「無理。駄目。待てない」
待てないってなに?
そう聞く前に雪菜が口を開き、
「お風呂」
「え?」
「だからお風呂。入ろう。一緒に」
なんで片言なの? なんて聞く前に、雪菜が俺の手を取る。
「ほら、行こうカズくん。一緒にお風呂入ろ?」
「ちょ、ちょっと待て! それ引きずりながら言うセリフじゃないって、おい!」
言い方は可愛いが、行動がそれに比例していない。
抵抗する俺を無視し、ズルズルと引きずっていこうとする雪菜に思わず慌てる。
「おいやめろっ! マジでそれはまずいって! お前らも見てないで助けろよぉっ!」
俺の叫びを受け、やはりというか真っ先に動き出したのはアリサだった。
「せ、雪菜!? アンタなにやってんのよ!? とりあえず落ち着いて……」
「あ、アリサちゃんも一緒に入る? 三人一緒なら別に抵抗ないよね?」
「よし、それじゃ行くわよ雪菜。三人でお風呂とはいつ以来かしら? 楽しみね」
「おまっ、秒で裏切るんじゃねぇ! 欲望に流されるなぁっ!」
ふたりの幼馴染に両手を掴まれ、引きずられる速度が加速する。
気分は猟師に捕獲されたイノシシだ。これから裸に剥かれ、食べられる(意味深)のだと思うと、全力で抵抗せざるを得ない。
「ルリィッ! 舞白ぉっ! お前ら止めろよぉっ! そのためにいるんだろうがぁっ!」
「えっ、あっ!」
事の成り行きを呆然と見守っていた舞白だったが、俺の叫びによってようやく我に返ったようだ。
俺を助けるべく、足を掴んでくれたのだが。
「あ、駄目。これ無理! 私も引きずられるぅぅっっ!」
「ちょっ、なにやってんだよ!」
くそっ、そうだ。舞白は力が弱いんだった!
ふたり一緒に引きずられる形になるが、幼馴染たちは止まってくれない。
こうなるともはや期待出来るのはルリしかいないが、アイツのことだ。
どうせこの状況を面白く見ているに決まって……。
「待ってください、セツナセンパイ。アリサセンパイ」
その時だ。ふたりの前に、小柄な影が立ち塞がった。
「なに? ルリ、通して欲しいんだけど」
「そうはいきません。ルリがここをどけば、アリサセンパイたちはおにーさんと一緒にお風呂に入るつもりなんですよね?」
「ええ、そのつもりだけど」
「それは流石に駄目ですよ。なんでルリがここにいるか分かります? センパイたちが一線を越えるようなことをしないか監視するためです」
いつになく真面目なトーンでルリが語る。
普段が普段だけに、アリサたちも面食らったのか足を止めた。
「ルリたちはアイドルとして成功している部類ですが、それでもまだ道半ばです。結成してからまだ一年そこらですし、上がり目だってまだまだあります。上を目指せる状態で、スキャンダルなんてゴメンですよ」
強引に俺にキスしといて、いけしゃあしゃあとよく言えるなコイツ。
現時点のスキャンダル度ではルリの方が上だと思うが、それを指摘したりはしない。
「聞いてルリ。アタシたちはスキャンダルになるようなことをするつもりはないわ」
「おにーさんの手を未だ離してない時点で説得力ないですね。そういうことはまずおにーさんを開放してから言うべきだと思いますよ?」
「そ、それは……」
「というか、アイドルでないにしても高校生の男女が一緒にお風呂に入るなんてまずいとは思いませんか? おまけに三人でなんて、やましいことをするつもりだとしか思えませんね」
おお、いいぞルリ。言ってることはバリバリの正論だし、アリサだって明らかに押されてる。
この調子でいけば、この小悪魔系アイドルのほうが勝つだろう。今この場における利は間違いなくルリにあった。
「うう……」
「しかも付き合ってるわけでもないですよね? さっきからおにーさんは嫌がっていますし、合意の上でないことは明白です。嫌がっている相手を無理矢理連れ込もうとするのは、いくらアイドルとは犯罪ですよ。そういう意味でも見過ごすことは出来ませんね」
清々しいほどの論破っぷり。
アリサは言い返すことも出来ずだんまりになったし、もはやオーバーキルと言っても過言ではない。
(おおっ、いいぞルリ! これはイケる!)
そう思っていたのだが、
「お分かり頂けましたか? じゃあおにーさんの手を離してもらって……」
「らしくないね、ルリちゃん」
雪菜の声が間に割り込む。
「普段のルリちゃんだったら、こういう時は間違いなく乗ってきたはずだよ。なのに、なんでこのタイミングで私たちのことを止めたりしたのかな?」
「……それはおにーさんが嫌がっていたからですよ、セツナセンパイ」
「そうなの? でも、ルリちゃんは楽しいことが大好きじゃない。止めるとしたら、もっと楽しんでからするはずだよ。もっとギリギリまで粘るはず。違う?」
「んー、確かにそうかもですが、今日は色々楽しめることが多かったので。ルリとしても色んな意味でお腹いっぱいの状態ですし、たまには止めてあげようかなって。王様ゲームも面白かったですしね」
飄々と躱していくルリだったが、それでも雪菜の追及が止まることはない。
「そうそう、その王様ゲームも気になることがあるんだ。私は一度もカズくんと罰ゲームが出来なかったけど、ルリちゃんもカズくんとはあまり一緒にならなかったよね」
「それがなにか?」
「私はすっごく悔しかったけど、ルリちゃんはそうでもなさそうなのが、すっごく引っかかるの」
「引っかかる? 何がですか?」
「だってルリちゃん、カズくんみたいな人は絶対好みのタイプでしょ?」
「…………!」
……まずいな。
辛うじて表情には出さなかったが、ルリが僅かに動揺したことが空気で分かる。
「やっぱりそうなんだね。なんとなく分かっていたから出来るだけカズくんとルリちゃんを近付けたくなかったんだけど……そうだとすると、色々おかしいところが出てくるんだよね」
「……おかしいって、なにがですかぁ?」
「今日のルリちゃんを見ていたけど、せっかくカズくんと仲良くなれるチャンスなのに、積極的に話しかけたりもしてないよね。むしろ、ちょっと距離を置こうとしているように私には見えたよ」
俺に分かるのだから、勘の鋭い雪菜がそのことを見逃すはずがない。
「ねぇ、聞いてもいい? なんでルリちゃんは、あまりカズくんと仲良くなろうとしないの? それとも……もしかして、カズくんとはもっと前から仲が良かったりするのかな?」




