実際一回刺された方がいいと思うの
アリサの声は震えていた。多分、俺が自分のことを好きじゃないのではないかと考えているんだろう。
(参ったなこりゃ。俺のミスだわ)
考えてみればアリサの目の前でハグしないでいいか聞きだしたなら不安に思うのは当然だ。
舞白の手前、アイドルだからという建前で押し切ろうとしたのが良くなかった。
そもそもアリサたちが俺を監禁したいと言い出したのは、自分たちのことだけを見てもらいたいからだったに他ならない。
だっていうのに、俺はそのことを忘れ、アリサのことを抱き締める気がないと取れる行動を取ってしまった。
当然アリサは思い詰めるだろう。自分のことを見てもらえないと考え、俺のご機嫌取りがメインの緩やかな監禁リハーサルが一気に本格的な監禁へと早変わり。そして……。
「すまない、アリサ!」
そこまで思考を巡らせると、俺は考えることを辞めた。
俺の方からアリサを思い切り抱き締めたのだ。早い話が思考停止からの危機回避である。だって想像するの怖いんだもん。
「そんなつもりじゃなかったんだ。アリサを傷付けるようなことをしてしまって、本当にごめん」
「和真……」
「ああは言ったけど、アリサをハグするなんて初めてだからさ。実はちょっとビビっちまったんだ。お前に抱き着いたら本当は嫌がられるんじゃないかって……」
我ながら自分の口の上手さに惚れ惚れする。特に意識しなくてもこれくらいのことならスラスラ言えるんだから、俺はやはり天才なのだろう。
「そんな、アタシ和真になら……」
「ハグは王様ゲームの命令だろ? アリサもあまり乗り気じゃないように見えたしさ。やっぱりこういうのは良くないんじゃないかって思ってしまったんだ。アリサには嫌われたくなんてないから……」
すぐ近くから「えっ、じゃあ無理矢理ひざまくらさせられた私はなんだったの?」なんて呟きが聞こえた気がするが、そこに関してはノータッチでいかせて欲しい。
実際はひざにタッチとかしていたが、俺は過去を振り返らない男なのだ。
「馬鹿……アタシが和真を嫌うはずなんてないわよ」
「アリサ……」
「そうでなきゃ、こんな水着なんて着ないし監禁しようだなんて思わないわよ。そうでしょ?」
「ああ、そうだな……その通りだ」
いや、ホントにな? 好きすぎるあまり監禁しようなんて、お前じゃなくても普通思わん。
「じゃ、じゃあこれでお互い誤解は解けたわよね? それじゃ改めてハグの続きを……」
「はい、ストップ。時間切れだよー」
「え、ちょっ、雪菜!?」
俺の背中に回していた手をワキワキさせたところで、アリサは雪菜によって強引に引き剝がされる。
「流石にあの流れだと邪魔しちゃ悪いかなって思ってたから何も言わなかったけど、まとまったなら話は別だよね? あれだけ長くハグ出来たんだし、アリサちゃんも文句ないでしょ?」
「ちょ、ちょっと待ってよ。アタシなりにショックを受けてたし、まだキチンと和真とのハグを堪能してないわよ!? 匂いだって嗅いでないし!」
「それを言ったら私はまだ罰ゲームに選ばれてすらいないんだよ? カズくんと抱き合うことは出来たんだし、今はそのことに満足してもらえないかな? かな?」
「え、あの。せ、雪菜? ちょっと怖いんだけど……も、もしかしなくても、嫉妬とかしてる?」
「しないほうがおかしいと思わないかな? 私より先にカズくんと抱き合う姿を目の前で見せつけられて、何も思わない方が変だよね。アリサちゃんもそう思わない?」
「お、思う、かも……」
「だよね。良かったぁ。アリサちゃんも私と同じ気持ちで。やっぱり私たちって親友だね!」
親友って、黒いオーラを出しながら長い付き合いの幼馴染に圧をかけるものなんだろうか……。
自分の中で親友の定義がぐらぐらと揺らぎ始めるのを感じつつ、俺は雪菜に戦慄する。
(ハグでこの反応……これ、俺が既にファーストキスを奪われてると知ったらマジで刺されるんじゃないか……?)
流石にそれはないと思いたいが、雪菜から放たれるプレッシャーを間近に感じている身としては割とマジで洒落にならない。
(そ、そうだ! ルリは大丈夫なのか!?)
俺でさえこうなんだが、ルリだって当然萎縮するだろう。そうなったら雪菜だって不審がるはず……。
「いいですねー! シリアスな空気を出していましたけど、室内でコスプレしている状態だと絵面がギャグっぽくなるだけだって初めて知りましたよ。いやー、いいもの見れました。ルリ、大満足です! アハハハハ!」
こ、こいつ……マジか!? あれを見てよく爆笑出来るな!?
繰り返すが、ハグを見ただけであの反応だぞ!? 俺とキスしたことがバレたらタダじゃ済まない可能性が滅茶苦茶高いのに、お前なんでそんな余裕なの!?
おかげで膝を抱えて蹲る舞白を見ると安心するまであるんだが!?
「せ、雪菜ちゃんが怖いよう……バンドは男女の恋愛が絡むと解散するってよく聞くけど位、『ダメンズ』もそうなっちゃうの? 助けてクズマくぅん……」
そうそう、こういうのだよ。怖がるのが普通のメンタルをしたやつの反応で……ん? クズマくん?
「じゃあ次の王様ゲームをやろっか。カズくんもそれでいいよね?」
「あ、はい。全然構わないっす。はい」
全然目が笑ってない幼馴染の圧を受けたことにより、俺の中に芽生えた疑念は再び霧散するのだった。




