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監禁って媚びる必要あるっけ?(困惑)

 あくる日の土曜日。

 六月には祝日もないため、三連休などではないただの土日休みではあったが、俺にとってこれからの二日間はある意味今後の人生を決める運命の二日間でもある。

 雪菜たちはアイドルとしての仕事もあるため、今回の監禁リハーサルは一泊二日の予定だ。


 だが、期間が短いからといって安心出来るわけではない。むしろ短いからこそ、なりふり構わず俺を落とそうとしてくる可能性の方が高いとみるべきだろう。 

 そう考えるとロクに寝付けず、そのまま朝を迎えたわけだったが、ここまで来ては逃げ場もない。そもそも監禁されるのも俺の家でのことだ。

 さらに言えば幼馴染ふたりは家にとっくに到着している。逃げるにはとっくに手遅れの状態っていうわけだ。


「嫌だなぁ。マジで嫌だなぁ」


 いつものアリサだったら休みなのにいつまでもゴロゴロしているんじゃないと怒りながら部屋に来るだろうし、雪菜なら笑顔を浮かべて部屋の掃除をしてきそうなものなのだが、その気配が全くないのが逆に不気味だ。

 準備があるとのことでふたりはリビングにいるが、なにをするつもりなのかさっぱり分からない。

 もはや俺に出来ることといえば、悪あがきも兼ねてこうして布団の上でゴロゴロするくらいのものである。まな板に乗った鯉ってやつは、こんな気分なんだろうか。


(クソッ、負けてたまるかよ。俺は絶対に自由に生きてやる。そしてあいつらに養ってもらいながら遊びまくって勝ち組の人生を謳歌するんだ……!)


 幼馴染として当然の権利を勝ち取るべく、決意を新たにしていると、枕元に置いていたスマホがふと震えた。見ると、雪菜からメッセージが届いたようだ。


『皆の準備が終わったからリビングに来てもらっていいかな?』


 ……皆、ねぇ。

 それはルリも含むのだろう。ルリが到着していることはメッセージが来ていたので知っている。

 アイツが上手くやってくれていたらいいんだが……いや、これ以上はここで考えていても仕方ないか。


「よし、行くか」


 覚悟を決め、生き残る方法を探るために俺は下に降りていく。

 リビングまではあっという間にたどり着いたが、人の気配はあるのに物音ひとつしないのが逆に不気味だ。

 まるでダンジョンのボスに挑戦する冒険者の気分だな。この先には一体、なにが待ち受けているのだろうか。


「……ええい、ままよ!」


 いつまでも立ち止まっていると、余計なことを考えてしまいそうだったため、半ばヤケクソ気味にドアを開く。

 すると——


「「いらっしゃいませ、ご主人様ー!」」


 ハモる出迎えの声。同時にクラッカーの鳴る音が小さく響く。

 予期せぬ出来事に一瞬呆けてしまうも、すぐに気を取り直して前を見ると、そこには何人ものバニーガールが立っていた。


「驚いたカズくん? びっくりしたかな?」


「そりゃびっくりしたわ。というか、しないやついないだろこれは」


「だよねだよね! やった! 大成功だよルリちゃん!」


「やりましたねセンパイ! ルリの言った通りです! 最初はインパクトが肝心なんですよ!」


 いぇーいとハイタッチする雪菜とルリ。

 随分と楽しそうだが、事情が分からないこっちは完全に置いてけぼり状態である。


「えーと、これはどういうことなんだ? 俺って監禁されるんだよな? なんで皆バニーガールになってんの?」


 当然の疑問を口にしてみると、何故か雪菜はきょとんとした顔をして首を傾げ、


「だってカズくんはバニー好きだよね?」


「そりゃまぁ大好きだけど」


「うんうん! だから皆で着てみたの。この方がカズくんもきっと監禁に乗り気になってくれるかなって」


 笑顔で頷く雪菜だったが、気遣いの方向が大分明後日にいってる気がする。

 こうして俺の好きな衣装を着ていれば、絆せるとでも思っているんだろうか。

 ……まぁ実際ちょっと心が揺らいだけど。それは男の性が絡んでくるのでどうか簡便して欲しい。


「アリサちゃんもそう思ったからまたバニーを着たんだもんね?」


「着たんだもんね、って言われてもね。雪菜とルリがこのほうがいいって押し切ったんじゃない。アタシはこんなサービスする必要ないってずっと主張してたんだけど?」


 不服そうなアリサだったが、コイツも当然のようにバニーである。

 なんだかんだ着ているあたり、雪菜に後れを取りたくないということなんだろうな。

 その対抗心を出来れば監禁しない方向に活かして欲しかったと切に願う。


「ていうか、アタシも和真に聞きたいことがあったんだけど」


「ん? なんだ?」


「ルリたちのことよ。アタシたち以外も今回の監禁に参加するって知って驚いたわ。アンタ、ルリにアタシたちが監禁する気だってこと話してたの?」


「あーそれはだな」


 アリサとしては当然の疑問だろう。だが、俺が答える前にルリが挙手する。


「はい! それは確かにルリがおにーさんから話を聞きました! 監禁される決意が出来たけど、流石にメンバーには話を通しておいたほうがいいと思ったようで、ルリに連絡してきたんですよ。そうですよね、おにーさん」


「あ、ああ。その通りだ」


 ルリの説明に素直に頷く。これは予めルリと話し合っていたことだ。

 アリサたちにはこの前知り合ったということにしているし、顔合わせは済んでいるが、疑いはされないに越したことはないからな。


「その後は話の内容が面白そうだったので、ルリもご一緒しようと思って段取りを組ませて頂いたんです! ルリ、楽しいこと大好きですので、混ざりたいなぁって!」


「ふーん……」


 が、アリサはそれでも疑いの目を向けてくる。

 ……やっぱり不自然だったか? いや、俺がルリに話を通しておくのはそこまで変な行動ではないはずだ。

 となると……。


「あ、やっぱりご迷惑でしたか?」


「迷惑っていうか……」


「いえいえ、取り繕わないで貰って結構です。センパイたちだけで監禁したかったのが本音ですもんね」


 したり顔で頷くルリ。まぁそういうことなんだろう。

 ふたりだけで俺を独占しようと思っていたんだから、同じユニットの仲間とはいえ参加して欲しくなかったと思うのは当然のことだ。


「となると、ルリは当然おふたりにとってはお邪魔虫。ルリがいなければバニーではなくもっと大胆な衣装を着たり、裸で誘惑したりなど色々やれただろうなと思うのは自然なことです」


「は、裸っ!? ア、アンタなに言ってんのよ!? そ、そんなことアタシは別に……」


「考えなかった、なんてことはないでしょう。じゃなきゃ監禁なんてしませんよ。おにーさんを手に入れたいならそれが一番手っ取り早いでしょうからね」


 相も変わらずずけずけとした物言いだが、それだけにアリサには効いたのだろう。

 顔を赤らめ、目をそらしている。こうなればもう会話の主導権を取り戻すのは難しい。


「そ、そりゃあまぁ、全然考えなかったわけじゃないけど……」


「ですよね。でも、それだとちょっと困るんですよ。監禁を楽しそうと思ったのは本当ですが、本音を言えばセンパイたちにはあまりハメを外されたら困るんですよね。

 ユニットを組んでるメンバーに不祥事なんて起こされたら目も当てられませんから」


「それは……」


「というわけで、今回の監禁ではセンパイたちの監視をさせてもらいます。まぁそれはそれとして楽しむつもりですが、やりすぎだと思ったら即NG出しますのでそのつもりでいてくださいね」


 何も言えなくなったアリサに、ルリはそう言って締めくくる。

 流石、上手いな。完全にアリサを手玉に取っていた。

 明確な弱みを見せたのもあるが、同じユニットを組んでる以上、ああ言われたら言われたらアリサが何も言えなくなるの当然だ。

 効果は覿面だろうし、これでアリサたちもあまり大胆な行動を取れなくなるはず。


(ただ引っかかるのは、雪菜が何も言ってこないことなんだよな……)


 チラリと雪菜の方を見ると、いつもの笑顔で傍観したままだ。

 会話に一切入ってこなかったが、何を考えているのかイマイチ分からない。

 やっぱり雪菜には注意しておく必要があるだろうな。


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