あれ? この人もちょっとヤバい……?(今更感)
「クズマくん、やっぱり優しいなぁ……」
彼との通話が終わったことを名残惜しみながら、私、春風舞白はそう思う。
お仕事前のほんの僅かな待機時間。誰もいない控え室で私はクズマくんに電話をかけた。
アイドルとしてはいけないことだとは分かっているけど、どうしてもクズマくんの声を聞きたかった。
彼の声を聞くと安心出来るから。クズマくんの言葉は、私に勇気をくれる。
突然の相談にも嫌な顔ひとつ見せないでこうして相手をしてくれる彼を想うと、胸の奥が温かくなるのを感じる。
(まぁ嫌な顔してるかどうかもそもそも分からないんだけどね……)
私はクズマくんの顔を知らない。でも、彼がどんな人なのかはよく知っているつもり。
クズマくんはとっても優しい人だ。性格だって凄くいい。いつも私を気遣ってくれるし、欲しい言葉をかけてくれる。そんな彼が、悪い人なわけがない。
アイドルをしているんだから自分の連絡先を男の子に簡単に教えてはいけないことは百も承知だけど、クズマくんだけは別だ。
だって、クズマくんは私にとって特別な人だから……。
「雪菜ちゃんたちも、クズマくんみたいな人を好きになったら良かったのになぁ」
思わずそう呟くけど、すぐに頭を振って否定する。
「だ、駄目! それは駄目だよ! クズマくんのことを知ったら、雪菜ちゃんたちだって絶対クズマくんを好きになっちゃうもん!」
私はただでさえ自分に自信がないうえに、恋愛に関しては奥手であるという自覚がある。
雪菜ちゃんやアリサちゃんのことはとても大事だけど、流石に彼のことを紹介なんてするなんて出来ない。
だって、ふたりともすっごく可愛いもの。私がグズグズしている間に彼を取られてしまうかもと思うと、とても正気ではいられない。
(ううん、こうしている間に、他の子がクズマくんにアプローチしているかも……うぅ、そんなの絶対嫌!)
ただのゲーム友達でしかない私にも、あんなに誠実に接する人だ。
リアルでもきっと凄くモテる人に違いない。
というか、考えれば考えるほどモテなかったらおかしいのがクズマくんだ。実はもう、彼女がいたりして……。
「そ、そんなの、絶対考えたくない。ク、クズマくんは私のなんだから……」
ぎゅっと手を握りながら、私は決意を新たにする。
今回の件が上手くいって、雪菜ちゃんたちをクズな幼馴染から引き剥がすことが出来たら、絶対クズマくんに告白しよう。
イケメンだとかそうでないとか、そんなのは関係ない。私がアイドルをしていることを知らせたらクズマくんは驚くかもしれないけど、それでもなんとか付き合ってもらえるように頑張るつもりだ。
「だって、クズマくんは私の運命の人だもん」
あんな人、絶対他にいないよ。
誰にも絶対渡したくない。雪菜ちゃんにもアリサちゃんにも、ルリちゃんにだって絶対渡せない。
「クズマくん大好きクズマくん大好きクズマくん大好きクズマくん大好きクズマくん大好きクズマくん大好きクズマくん大好きクズマくん大好きクズマくん大好きクズマくん大好きクズマくん大好きクズマくん大好きクズマくん大好きクズマくん大好きクズマくん大好きクズマくん大好きクズマくん大好きクズマくん大好きクズマくん大好きクズマくん大好きクズマくん大好きクズマくん大好きクズマくん大好きクズマくん大好きクズマくん大好きクズマくん大好きクズマくん大好きクズマくん大好きクズマくん大好きクズマくん大好きクズマくん大好きクズマくん大好きクズマくん大好きクズマくん大好きクズマくん大好きクズマくん大好きぃ……」
あぁ、自分に言い聞かせていると落ち着くなぁ。
自分に自信のない私だけど、それでも譲れないものはあるんだ。
「舞白さん、出番でーす」
「あ、はい。今行きます!」
控室のドアをノックされ、私は椅子から立ち上がる。
「よし、頑張ろう! 私、アイドルだもんね」
アイドルモードに切り替えると、私は似合わないスポットライトを浴びにスタジオへと向かうのだった。




