駄目みたいですね……(諦め)
「和真が自分から監禁されたいと言ってきたですって……?」
アタシ、月城アリサは驚いていた。
それというのも、かねてから私たちのモノにする予定だった幼馴染の和真が、自ら監禁されたいと言い出したことが分かったからだ。
「雪菜、その話本当なの?」
「うん、カズくんから直接メッセージが来たから間違いないよ」
その情報をくれた雪菜がスマホをアタシのほうに向けてくる。話があるから家まで来て欲しいと呼ばれてきたのだけど、その内容はアタシの予想を大きく超えるものだった。
「ほら、アリサちゃんも一応確認してくれる?」
「え、ええ。分かったわ」
アタシには来ていないのに、なんで雪菜のほうにだけ? という、嫉妬みたいな気持ちが少しだけ湧き上がってくるけど、今はそのことを気にしている場合じゃない。
グッと内心を押し殺しながら、アタシは画面に目を通していく。
「確かに和真から来たメッセージみたいね……」
メッセージ欄の上には和真の名前が表示されていて、監禁されたいという旨と監禁されたい日時の指定が表示されていた。
「まだ夏休みじゃないけど、今月のうちに監禁を体験してみたいんだって」
「そう……」
雪菜の言葉に頷くけど、正直アタシは心ここにあらずだった。
頭がボーっとしている。上手く思考が働かない。
だけど、それは仕方ないことだ。
だってここに書かれていることが事実なら、和真もアタシたちのモノになりたいと言っているも同然なのだから。
「和真……とうとう素直になってくれたのね……!」
胸の奥に温かい気持ちが広がっていくのが自分でも分かった。
こんなに幸せな気分になるのは、一体いつ以来だろう。
ライブ中の高揚感も最高ではあるけど、好きな人が手に入るという達成感は別の意味で至福であるとしか言いようがない。
(ヤバ……明日も仕事あるのに、今日眠れないかも。とりあえず今日は秘蔵の和真シャツを着ながら寝て、それからそれから……)
気持ちを抑えようにも抑えられず、表情がニヤけていくのが分かった。
と、とりあえずなんとか今日を凌いで、明日からは和真に直接……。
「落ち着いてよアリサちゃん。ニヤけている最中に悪いけど、まだ喜ぶのはちょっと早いと思うよ」
「お、落ち着いてって言われても、出来るわけじゃない。和真がアタシたちのことを求めてくれてるんだから。むしろ雪菜こそ、なんでそんなに冷静なのよ」
自分でも分かっていたけど、口角が上がっていたことを指摘されるのはやっぱり恥ずかしい。
なんとか誤魔化そうとして、アタシからも雪菜に抱いた違和感を咄嗟に口にしたのだけど、実際雪菜の様子はおかしかった。
いや、傍から見ればアタシのほうがおかしいんだろうけど、この状況にあの雪菜が喜んでいないのは変だ。
だってアタシより雪菜のほうが和真を監禁したがっていたはずなのに……。
「私も最初はアリサちゃんみたいに喜んだよ。カズくんがようやく私たちのモノになってくれるんだなって」
「ならどうして今は……」
「でも考えてみたら、ちょっとおかしいんだよね。カズくんらしくないっていうか」
「おかしい?」
「だってカズくん、ずっと監禁されるの嫌がってたんだもの。なのに急に心変わりなんてするものなのかなぁ」
「それは……」
……言われてみれば確かにおかしい。
和真の性格はよく知っているつもりだけど、アイツは確かにそう簡単に考えを変えるようなやつじゃない。
その証拠に、和真は小学校の頃から今まで働きたくないという気持ちが全く変わっていない。
アタシがいくら説教をしてもまるで耳を貸してくれなかったし、最終的にアタシのほうが折れて養ってあげることになったくらいには筋金入りだ。
「……雪菜の言う通りかも。和真はそういうやつじゃないわ。真性のダメ人間だし、アイツなら無駄だと分かっていても最後まで逃げ回るはずよ」
頭を冷ましつつ、雪菜にならって冷静に分析してみると、確かに和真の行動には疑問符が浮かんでくる。
そんなアタシを見て雪菜も頷く。どうやらアタシより先に同じ考えに至っていたようだ。
「私もアリサちゃんと同意見だよ。カズくんはクズだから、むしろ私たちを騙してどこかに逃げようとしているって考えたほうがしっくりくるもん」
「ああ、確かにその可能性もあるわね……」
アイツなら普通にそれくらいはやるだろう。好きな人を疑うなんて出来ればしたくないけど、和真の場合は裏を読むくらいがちょうどいい。
……なんかこうしてみると、浮かれていた自分が恥ずかしくなるわね。
それだけアタシが和真のことが好きってことなのかもしれないけど、流石に言われたことを素直に受け取りすぎちゃってたのは反省ね。
「あと、他にもアリサちゃんに報告しないといけないことがあるの」
「え、なに。まだかあるの?」
「うん。今日はアリサちゃん、お仕事で学校休んだでしょ?」
「確かに休んだけど、そんなのアイドルをしている以上珍しいことじゃないでしょ」
年中金欠の和真にお金をあげるためには平日のお仕事だって極力受けたほうがいい。
それに雪菜だって今日は学校を休んだはず。だから今更なにを言っているんだろうと思ったのだけど、
「実は私たちが休んでいる間、カズくんが他の女の子に告白されたみたいなんだ」
「…………………………は?」
スゥッと。頭の奥が冷えていくのを感じた。




