普段おちゃらけている子が急に真面目なこと言うとキュンとくるよね
「監禁リハーサル、だと……」
ルリの言った言葉を反芻するも、なにを言っているのか全然ちっとも理解出来ない。
上がったテンションが急激に下がっていくのを感じる。
今の俺はきっとチベットスナギツネみたいな顔をしていることだろう。
「だからそのままの意味ですよ。監禁リハーサルをしましょうと言ってるんです、おにーさん」
「だからそれが分からないと言ってるんだが」
秒も間を置かず言い返す。
爽やかな笑顔で言われようが、そこに監禁の二文字が混じっている限り、俺には通じない。
例え美少女であり、現役アイドルという肩書きがあろうともだ。
「ふむ、おにーさん案外物分かりが悪いですね。じゃあ簡単に説明しますが、ライブは本番前にリハーサルを行うことは知ってますよね?」
「まぁそれくらいはな」
リハーサルはライブにおける一連の流れを確認する予行演習だ。
ライブにおいて、演者は会場に慣れたりステージの立ち位置やどのタイミングで曲が流れるか、セットリストの内容をスムーズにこなせるかを確認するし、スタッフなら演出や段取り、起こりえるトラブルへの対処、それにスタッフ間同士の連携を確認する等、要求される作業は多岐に渡る。
それらをぶっつけ本番でやる、なんてことはまずしない。
というより、そんなことをしたらまずプロとして失格だ。
アニメ等では直前にトラブルが発生し、ギリギリで間に合うも、時間がないなか強行でライブを敢行する……なんて展開をたまに見ることもあるが、それはあくまで話を盛り上げるためのご都合主義。
現実ではそんなことをしたらスタッフはまず混乱するだろうし、衣装合わせやメイクアップもせずにライブを敢行するなど、チケット代を払ってライブを見に来てくれたファンにも失礼である。
美談にもならないししてはいけない。それがプロとしての誠意というものだ。
ま、俺には働くつもりがないのであまり関係ない話なんだが。
「要はそれと同じですよ。本番前に監禁されてみて、実際にどんな感じなのか、どんな扱いを受けるかを事前に知ってみるんです」
「つまりお試しで監禁されてみろってことか? この後の本番に備えるために」
「そういうことです」
コクリと頷くルリだったが、ハッキリ言って冗談じゃない。それが嫌だからこうして頑張っているというのに、なんでわざわざ自分から虎の穴に飛び込まないといけないというのか。
「嫌だ! 俺は監禁なんかされたくない! それを防ぐためにこの集まりを開いてるのに、自分から監禁されるだなんて本末転倒じゃないか!」
立ち上がってそう叫ぶも、当然腹の虫が収まるはずもない。
「ホラ、お前らもなんか言ってやれ!」
当然味方になってくれるだろう、ルリ以外のふたりへと顔を向けた。
「ご主人様、キスしてください。ほら我慢なんてせずに。ミートゥー」
「あ、じゃあボクはその次で。さ、三人目ならもう価値も急落してるし、対価を払う必要なんてないよね。えへへへ……」
「お前ら、ちゃんと人の話聞いてた? 俺の命運がかかってるんだけど」
こいつら自分のことしか考えてないだろ。俺のことを全く気にもしてねぇ。
こっちは真剣だというのに関係ないとばかりに唇を突き出してくるとか、配慮もなにもないし話を聞いていなかったのは丸わかりである。
「まぁ見ての通りということですよおにーさん」
「ルリ……」
「ぶっちゃけ皆飽きてるんです。おにーさんは自分の都合のいいことを要求するばかりで妥協をしませんし、これじゃ話が進展なんてするはずないですからね」
思わずガックリきていると、ルリがそんなことを言ってくる。
「監禁はされたくない。だけど幼馴染たちは貢いでくれるから離れるようなことはしたくない。だからなんとかするためのアイデアを出してくれ、なんて言われても、そんなの早々出てきませんって」
「そうは言うが、お前だって俺の立場になればそんなこと言えないだろ。健全な高校生が自由を奪られようっていうんだぞ。そんなことになったら、藁にも縋りたいと思うのは当然だろうが」
「それはそうかもしれませんが、結局のところ、最終的にどうにかしないといけないのはおにーさんです。ルリたちがアイデアを出したところで、おにーさんが実行するつもりがないんじゃどうしようもないですよ」
「…………」
「念のため聞きますが、監禁されないためにセツナセンパイたちに嫌われるような行動してくださいと言っても、おにーさんはやらないでしょう?」
ルリにしては珍しく、挑発めいた言い方だった。
否定出来るかを問うような眼差しを向けてくるが、俺の答えは最初から決まっている。
「そりゃ出来るわけないだろ。あいつらには一生養ってもらわないといけないんだし」
「なら、やっぱり一度監禁されてみたほうがいいですよ。虎穴に入らずんば虎子を得ず。恐れているばかりでは勝利を掴むことは出来ません」
「…………その先に、なんとかなるヒントがあるかもしれないってことか?」
「さぁ? でもまぁ、飛び込んでみたら案外なんとかなるかもしれませんよ。世の中には新しいことに挑戦することを必要以上に恐れて、チャンスを不意にする人はごまんといます。芸能界に限らずですが、それはもったいないことだと、ルリは思いますけどね」
そう言って、ルリはテーブルに置いてあったコーヒーを一口含む。
どこか余裕のある態度の中には、ある種の教訓のようなものが見え隠れしていた。
普段はおちゃらけているが、ルリとて雪菜たちとともに人気アイドルとして活動してきたひとりだ。
彼女もアイドルとして芸能界で揉まれていくなかで、世間ってやつについてなにか学んだことがあったということなのかもしれない。
(……恐れてばかりいては駄目、か)
現役アイドルが言うと、説得力がある言葉だ。
確かに嫌だ嫌だと拒絶してばかりでは、闇雲に時間が過ぎていくだけ。
それは俺にとっても望むところじゃない。もう六月に入っているし、タイムリミットである夏休みは着実に近づいているのだ。
「……監禁されろというが、俺ひとりを危険に晒すような真似はしないよな?」
しばし考えた後、俺はルリに聞いてみることにした。




