SSR性癖とかいうパワーワード
誰の、なんて言わない。その声にはあまりにも心当たりがありすぎるからだ。
「せ、雪菜、さん? あれ、なんで学校に? 今日は休みのはずじゃ……」
「たまたまお仕事が早く終わったから来たの。そうしたらこれまたたまたまカズくんと一之瀬さんが面白そうなお話してるのが聞こえてきたんだよね」
幼馴染の雪菜が笑顔を向けてくるが、その目はちっとも笑ってない。
むしろ底なしのダークさというか、ハイライトが消えてさえいる。
「雪菜ちゃんの姿が見えたからあまり変な話はしないほうがいいよって忠告しようと思ったんだけど、遅かったみたいだね」
「おまっ、そういうのはもっと早く言えよぉっ!?」
夏純に思わず憤るも、それで誤魔化させる幼馴染ではなかった。
「カズくん、今お話ししてるのは私だよね? なんでよそ見なんてしてるの? 最初の質問にも答えてもらってないし、今は私のことだけ見てもらえないかな? かな?」
「ひぃっ!」
どこぞの因習村舞台のサスペンスゲームに出てくるヒロインのような二度聞きをしてくる雪菜。
この後に訪れるかもしれない惨劇を想像し、ついビビってしまうのは仕方ないと言えるだろう。
「で、カズくん。告白されたってどういうこと? 私がいないタイミングでそんなことされてたって、どうして教えてくれなかったの? もしかして告白受けるつもりだったとか? そんなわけないよね。だって私がいるもんね。今日もちゃんとカズくんにあげるお金持ってきてるんだよ。ホラ、これだけあれば足りるよね。もし足りなかったら言ってね。次はもっと下ろしてくるからね。お仕事ももっと入れて……あ、でもそうなると、学校に来れない時間も増えちゃうね。それは私も寂しいし、なによりカズくんがますます告白されちゃうことになるのかな? うーん、それは困ったなぁ。カズくん取られるのだけは嫌だもん。でも他の女の子にカズくんは私のモノってアピールするのもちょっと違う気がするんだよね。泥棒猫って言葉があるけど、アイドルやってる私がそういうのやったらアリサちゃんたちにも迷惑かけちゃうし。でもカズくんのことだけは譲れないし、やっぱり独占したいなぁ。あ、そうだ。夏休みは来月だけど、監禁の予定前倒しにしよっか。家でも一緒にいられれば、もっとたくさん《《お話し》》出来るもんね。他の女の子のことなんて、きっと考えられなくなるよ。うん、そうしようか。アリサちゃんにもお話しておくから、すぐ私たちと一緒になろうね、カズくん」
そのまま俺を押し切るような勢いで矢継ぎ早に話してくる雪菜。
興奮しているのか頬に赤みが差しているが、俺は逆に血の気が引いて顔が青くなっているんだが。
「あ、あの、雪菜。その判断はちょっと早すぎるんじゃないかなって。ホラ、俺って金の呼吸くらいしか使えないし……」
「カズくんは息をしているだけで偉いけど、これもカズくんと私たちの未来のためなんだよ。だから私も心を鬼にして、一緒に住んで監禁しようかなって。言ってしまえば、私たちの無限城だね♪」
「笑顔で言うセリフじゃないんだが!?」
俺のことを死ぬまで監禁するつもりなのかコイツ!? 俺は血鬼術の餌食になんてなりたくないぞ!?
「ふふっ、安心して。私が一生カズくんのお世話をして……」
「ちょっと待って下さい」
だが、驚いて何も言えなくなった俺に代わって、待ったをかけるやつがいた。
「小鳥遊様。悪いのですが、わたしも一生をかけてご主人様にご奉仕するつもりです。あまり盛り上がってもらっても困るのですが」
「……むぅ、一之瀬さん。邪魔しないでもらっていいかな。今いいところなんだけど」
「そのいいところが続かれるとご主人様を持ってかれてしまいますので。それは流石のわたしも見逃せま千円というやつです」
最後にどうでもいいネタをぶっこんできたが、一之瀬の参戦は非常に助かる。
普段は面倒ごとはスルーする傾向のあるやつだけに、俺のことを本気で想ってくれていることが痛いほど伝わって……。
「持っていくもなにも、カズくんは私たちのモノだもん。一之瀬さんには伊集院さんだっているんだし、ご奉仕する人は他にいると思うけど?」
「いえ、ご主人様でなければいけません。わたしがご奉仕したいのは人間のクズみたいな駄目人間なので。わたしの特殊性癖を満たせるのはあの方しかいないんですよ」
つ、伝わって……。
「カズくん以上のダメ人間なんて他にもいるよ! ……えっと、きっと。多分……」
「その自信のない言い方。どうやら芸能界にはいなかったようですね。嘘がバレバレですよ、小鳥遊様」
「うっ、だって、正面からお金貢いで欲しいなんて言ってくる人、カズくん以外に出会ったことないし……」
「ふふっ、そうでしょうとも。わたしもお嬢様のメイドとして色々付いて回りましたが、ご主人様以上にダメな人には会ったことがありません。ご主人様こそまさにキングオブクズ。わたしの性癖を満たすために生まれてきたとしか思えない、超絶ダメ人間なのですよ」
もう一度確認したいんだが、コイツ、ホントに俺のことが好きなのか?
あと性癖満たすためって言ったな。めちゃくちゃ自分本位じゃねーか。
メイドの適正があるかすら怪しくなってきたぞおい。
「わ、私だってカズくんが性癖だもん! カズくん以外じゃ満たされないんだから!」
「それは承知しています。ご主人様が好きな方は、漏れなく特殊性癖持ちの仲間。すなわちダメ人間好きの同士であることは確実ですからね。それだけに、独占されると困るのです。他に満たしてくれる方がいない以上、ご主人様に尽くす以外ないのですから」
「むー! 特殊性癖じゃないよ! 私の場合はカズくん限定だから限定性癖だもん! 私の方がレア度高いもん! SSR性癖だよ!」
なに言い出してんだコイツら。
もう一度言うがここは教室だぞ。アイドルとメイドが互いに性癖を暴露してるという、いろんな意味でひどすぎる光景を前に、クラスメイトたちも声を出すことも忘れて見守ることしか出来ないようだ。
「ああっ、姫乃とセツナ様が争うなんて……! わ、わたくしはどうしたら。やはり姫乃を止めるべき? いえ、でもいつも笑顔でファンサービスを怠らないセツナ様が、あんなにムキになっている姿など早々お目にかかれない……やはりここは傍観しつつ撮影一択ですわね! レアショット頂きですわぁっ!」
「え、ボクって特殊性癖なの。いや違うし。ボクはノーマルボクはノーマル……」
……ただし、一部例外はあるのだが。
まぁ伊集院に関しては今更気にしても仕方ないし、なにやらブツブツ呟いている夏純のことは無視するとして、さてどうするべきか。
本来なら当事者である俺が仲裁するべきなのだろうが、せっかく雪菜が告白のことを忘れてるだろう状態で下手に声をかけたくはない。
思い出されて蒸し返されても面倒だしな。となると後は……。
「皆―、面倒だけど午後の授業を始めるわよー。今日は何事もなく過ごせるって、先生信じてるから……ね……?」
チャイムと共に午後の授業のため現れたユキちゃんに全てを託すのが得策だろう。
教室の中でにらみ合う雪菜と一之瀬を見て絶望したかのような表情を浮かべる担任教師に、俺は全てを託すのだった。




