学校一の美少女なんて他人からの評価によるものだよね
そう、それこそがこの世の真理。
モテないやつは否定するだろうが、決して覆す事の出来ない絶対の理なのだ。
「モテる方がモテる、ですか」
「ああ。人間は人気があるものが好きという本能がある。『ダメンズ』だってそうだ。最初こそ人気はまだまだだったが、今押しも押されぬ人気アイドルグループになっているのは、イベントやライブ、テレビ出演なんかをこなして確実にファンを増やしていったからだ」
露出が増えればファンが増えるというほど単純な話ではないが、『ダメンズ』は上手く時流に乗ることが出来ていた。
SNSでも好評を得ているし、今となってはファンがファンを呼ぶ形で多くの人を惹き付けている。それは『ダメンズ』という名前に箔が、もっと言えばブランドとしての価値が出来ているからだ。
「ラノベに出てくる学校一の美少女なんかもそうだ。単に可愛いだけじゃ、学校一の美少女扱いはされない。いろんな男から告白されるから、その子は学校一の美少女として扱われるんだ」
いくら可愛かろうと、誰かと付き合っていたらその時点でその子はただの彼氏持ちの美少女だ。噂になったとしても、彼氏がいるからで終わるに違いない。
だが、その子が仮に誰とも付き合っておらず、告白をことごとく断っているとしたら?
そのなかにイケメンやスポーツで有名なやつもいるのに、そいつらの告白を断り続けてるという噂を聞いたら、誰だって気になるはずだ。
その子は一体、どれほど凄い美少女なんだろうってな。
そのうちに尾ひれが付いて、やがて学校一の美少女ととして扱われるようになっていく。結果に至るまでの過程が省かれることは多いが、こういった経緯は確実に存在するはずだ。
「テレビの向こうで見るような芸能人。学校の誰もが持て囃している人気アイドルたちが、俺に夢中になっているんだ。そんな俺が、モテない道理は一切ない」
完璧な理論武装。一切の反論を許さぬ俺の持論に、一之瀬は「なるほど」と深く頷く。
「ですがご主人様。貴方の言い分が確かなら、モテない方はそのままずっとモテないということになりますが」
「うん? そうだよ?」
何を当たり前のことを言ってるんだか。
価値を付与されてないんだから、それこそラノベの主人公みたくある日いきなり美少女を助けるくらいの幸運がないと、モテるはずがないんだが?
「世の中は残酷なんだよ。俺のようにほんの一握りの勝ち組が全てをかっさらう。そういう風に出来ているのさ……」
「ナチュラルに自分は周りとは違うと主張し、悦に浸る。流石ご主人様です。やはりクズとしての格が違いますね。よっ、この駄目人間」
「それ、褒めてるつもりなの?」
「ええ、モチのロンです。ご主人様ほどの人間のクズはまずいませんからね。わたしなりのベタ褒めですから素直に受け取ってくださいませ」
「……さいですか」
グッとサムズアップしてくる一之瀬だったが、俺は全然嬉しくない。
「つーかさ、お前、俺のことホントに好きなの? 俺のことをイチイチクズ扱いするし、モテることを否定してくるし、すっげー雑に扱われてると思うんだが」
「逆にお聞きしますが、想いを寄せている方が他の異性に好意を寄せられていることを自慢げに話しているのを耳にして、よく思う人がいると思いますか?」
俺の質問に頬を膨らませる一之瀬。顔は相変わらずの無表情だったが、目には不満の色がありありと映っている。
「ちなみにわたしは寝取られ性癖は一切ないので、すっごく不満です。ええ不満です不満です」
「……あ、うん。それはその、なんかごめん」
「謝らないでください。申し訳なさそうにされると、クズ度が下がります。もっとこう、「あ? 俺の態度に不満でもあんのかよ? いいからもっと金持ってこいや」くらいにクズ度マシマシの態度で来てください。そのほうが興奮するので」
「さっき謝ったの、撤回させてくれる? あとお前の性癖どうなってんだよ」
素直に謝って損したわ。俺はクズのチンピラじゃねぇし、真っ当に貢がれて生きてるイケメンなんだよ。
「わたしの性癖を知りたいと……? それはつまり、わたしの身も心も暴き出し、自分の色に染め上げたいということですか。いいですね、口説き文句としてグッときます。ご主人様にプラス100点」
「いつの間に加算制になったの? ていうか別に口説いてねぇよ。性癖が口説き文句とか嫌すぎるぞ」
「ちなみにお答えしますが、わたしの性癖は駄目人間へのご奉仕願望です。いわゆる特殊性癖というやつですね」
「いや聞いてない聞いてない。それ、全然聞いてないから。なにも言ってないのに、勝手に俺が聞いたみたいな体で言わないでくれる? 変な誤解されちゃうじゃん」
「いいじゃないですか。聞かせてあげましょうよ。ご主人様は普通の人はおろか、普通のメイドでは満足出来ないことを知らしめましょう。そうすれば悪い虫もよってこないでしょうからね」
「恐ろしいことを言い出すやつだなお前……」
教室でなに言い放ってんだコイツ。TPOってやつを気にしないんだろうか。
……しなそうだな、そういや初めて教室に現れた時もメイド服着てたし。普段からフリーダムなやつだから、あまり深く考えないほうが良さそうだ。
「フフフ、わたしはご主人様専属の特殊性癖持ちスーパーご奉仕メイドですからね。そこらへんにいるメイドと一緒にしてもらっては困ります」
胸を張る一之瀬だったが、ごめん、俺には普通のメイドとの違いがよく分からない
だってメイドの知り合い一之瀬以外いないもんよ。いや、他のメイドが一之瀬みたいなやつばかりだとは思わないが……というかいかん、メイドを連呼し続けて頭が痛くなってきた。
なんかメイドのゲシュタルト崩壊しそうだぜ……。こんなこと、普通あるか?
自分の置かれている状況が特殊であることを、つくづく痛感させられるな。
「フフフ。何も言えなくなりましたね。わたしのような美少女メイドが性癖を暴露したのが驚きでしたか。それとも興奮しました? ご主人様も男の子と言ったところでしょうか。いやん、ご主人様のえっち」
「驚いたは驚いたが、それはお前が教室のど真ん中でエッジの効いた発言をしたからなんだが……あと真顔で照れるな。お前の場合ホントに恥ずかしがってるのかイマイチ分かんないんだよ」
「それがわたしの持ち味ですから。個性を大事にしないと今の時代生き残れないんですよ。そこにいる夏純様を見ればよく分かるでしょう?」
相も変わらずのポーカーフェイスで後ろを指差す一之瀬に釣られるようにそちらを見ると、そこには確かに俺の知り合いである夏純紫苑が立っていた。
「あ、クズっち。あのね、今……」
「夏純様は上から下までなんとなく流行ってるものを取り入れましたみたいな装いで、かつ校則に違反しているような箇所はどこにもありません。シャツもよくいる陽キャギャルのように、胸元を大胆に開いているということもなく普通です。あまり大きくないからそこは仕方ないのかもしれませんが、ハッキリ言ってこれではなんちゃってギャルですね」
「言われてみると確かに……」
「ちょっと待って。今ふたりとも、物凄く失礼なこと言わなかった?」
一之瀬の言葉にうなずいていると、凄い目でこっちを見てくる夏純。
何かを言おうとしていたようだが、この感じだと既に言いたかったことは頭から吹っ飛んでいるのかもしれない。
「言ってない言ってない。俺らは昨今の学生たちの風紀の乱れについて議論を交わしていただけだ」
「その割には視線に悪意があった気がするんだけど……」
「それより何の用だ、何かあったから俺のところに来たんじゃないのか?」
あまり突っつかれても面倒だったため、さっさと話を流すことにしたのだが、
「あっとそうだ、あのね」
「カズくん、告白されたってなに?」
突然底冷えのする声が聞こえてきた。




