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阿武隈の狼  作者: 平良中
-第一部- -第三章- 伊藤元景
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-第五十四話- 勿来武凛久 

1559年 永禄二年 秋 勿来


 「まずは船の感想を聞こうか?どうだった?」


 ごくっ。


 紅を筆頭に、固唾を飲んで吉法師の言葉を待つ村上衆。


 「あれは良い船だな!速い!思ったよりも少人数で動かせるのが良いな。それに、何よりも風さえあれば、いつでも何処にでも行けるのが素晴らしいぞ!」

 「「やったっ~!」」「「よっ~し!」」「……合格が貰えたよ」「これで姉御から怒鳴られなくて済む……」


 ……なにやら悲壮な声も混じっていたが、吉法師から合格の言葉を貰って歓喜の雄たけびを上げる村上衆の面々。

 勿来武凛久の進水式と馴らし航海のため、勿来沖から権現堂沖までの二往復を終えて戻ってきた吉法師の第一声がこれである。


 「で、気になる点は?」

 「やはり戦闘になった時にどうなるかが気になるな。武凛久は風さえ吹いておれば逆風であろうと、漕ぎ手がいらぬので何日でも連続で動けるのが利点だが、いざ戦闘となった時にどれだけの速度が出せるかが心配だな。陸から離れた海での戦ならば……そうよな、逃げるか、相手が疲れるまで追い回させてから回頭し、こちらの方から一方的に攻撃してやれば良い。ただ、陸地近くで相手の漕ぎ手に力が残っている時の開戦が厄介だな。……帆を焼かれでもしたらどうにもならんからな。帆柱も竜骨も鉄で覆われておるので、乗り込み以外の海賊戦術にはびくともしないのは凄いがな」


 景能爺の率いる村正一門の製鉄技術は軽く数百年の時を超えてるんじゃなかろうか……有難い話である。と同時に怖い話でもある。


 「そこまでの状況になったら新型鉄砲か大砲で敵船を破壊するしかないか……う~ん。やはり戦闘員が操船せぬことには危険か……」

 「で、あろうな。今の日ノ本に海賊共を取り締まれる勢力があるとは思えん。尾張屋でも決まった船で、決まった航路しか走らんからな。そうしておけばはぐれの海賊、とは名ばかりの漁民程度しか襲ってはこない。その程度なれば、弓と鉄砲さえ積んでおれば撃退は容易い。兵を仕込んでおかずとも船員だけで十分なのだがな」

 「とりあえずの目標としては武凛久船団による蝦夷地との直接取引だ。明の港で力ずくの交易をさせるには、やはり大型の南蛮船が必要……見た目の威圧感は重要だからな」


 十八・十九世紀のBRIGではなくて十三・十四世紀のみたいにオールも装備させるかな……いや、非常用装備以上の形では止めておこう。

 やはり、ここまでの方針通りに二十門の大砲と船首、船尾の新型大砲を前面に押し出す形で行こう。


 さて、そうなると肝心要となるのがその大砲作りということになるのだが……やはり現物を見ないことには上手く行かぬとの報告を羽黒山の海蔵院衆より受けた。

 ふぅむ、こちらはアルベルト卿と交渉だ。

 うまいことスペイン軍船で使っている大砲を何門か輸入しなきゃ駄目だろうな。


 もう一方、鉄砲の方は順調だ。

 ライフリング付き……簡単にライフルと呼んでしまうか。ライフルの作成は順調だということだ。

 海蔵院衆の鉄砲鍛冶からの報告では、作業にさえ慣れてしまえば数を作ることも問題はないとの回答が来た。

 黒色火薬はテスト時だけの使用に控えさせ、あとは褐色火薬をライフル用として準備させなきゃな。


 褐色火薬は売ってないからな……自前火薬となると……硝石か。

 入手方法は輸入と領内各地で作った簡単硝石丘の出来上がり具合だよな。

 硝石丘自体は勿来に城を築いた辺りから方々に作らせているから、十年は経っているかな?丘の中ではしっかりと硝石が出来ているのだろうが、これまた、いい具合に肥料にもなってるよな……。

 たぶん、多くの硝石丘は田畑の肥料に使われていそうで、どれだけの硝石が残っているのかが問題だけれど……こりゃ硝石掘部隊を作って巡回させる他にやりようはないよな……。


 う~ん。

 いうても臭い作業だからね、日当は弾む予定で人を集めよう。


 「さて、太郎丸よ。この武凛久だが、次の尾張屋の北向き船が勿来に来た時に、塩釜まで使って行っても良いか?彼の地までの往復を次の試験としたいのだ。さすれば、自然と日ノ本の船との性能差を調べることが出来るだろうしな」

 「それは良い案だな……是非ともお願いしたい。関船などに比べると喫水の深い武凛久だ。使用方法なども合わせて考えてきて欲しい」

 「まかせろ。そのために俺はここにいるのだからな。日ノ本で作られた南蛮船。使い方を見出すのがこの織田信長の仕事ということよ。戦闘についても考えてきてやるわ!」


 子供の様に目をキラキラさせて満面の笑みの吉法師さん。

 最高のおもちゃを手に入れたようで、今後の暴走が期待できますね!


 「若殿……そろそろ城に戻りませぬとアルベルト卿とのお約束に時間になるかと」


 吉法師の暴走に思いを馳せていると、今日の護衛役を買ってくれた忠清が控えめに次の予定を教えてくれる。


 「ん?もうそんな時間か?では戻るとしよう……吉法師も城に来てくれるか?」

 「もちろんだ」


 アルベルト卿は一年ぶりに勿来にやってきた。

 どうやら、呂栄とアカプルコの二点間貿易に勿来をどう絡めるかでの意見交換と潮と風の具合を確かめるために、この季節に移動をしてみるらしかった。

 台風後で冬前の間、この時期に勿来に寄港する計画で航海試験を始めたいとのことだった。


 「吉法師は呂栄に行ったこともあろう?勿来で南蛮人に売れる商品となるとどのようなものがあると思うのだ?」

 「……そうだな、普通のところでの薪、水、酒、食料。加えて太郎丸が売りつけている果実水か?そのあたり以外で、南蛮人が頻繁に買っていくものといえば磁器に茶といったところか。どちらも明の商品が多かったが、一旦呂栄に集める手間と時間を考えると、勿来でそれらが買えるのならば大いに喜ぶのではないか?ああ、あとは絹も買っておったがこれは日ノ本も明から買っておるからなぁ」


 絹か……八王子で生産して横浜で売買の世界だな……。

 いっそのこと絹生産に特化した人材も明からスカウトしてくるか?

 陶工の里を連れてきた実績があるから、それ以外の職人町を持ってきちゃうのもありだな。

 これからの明は斜陽に向かっていくし、万歴帝の苛政も始まる……ただ、領内にチャイナタウンが出来ちゃいそうな雰囲気なのはちょっと怖いな。

 まぁ、美味しい中華料理が食べれるようになるのは魅力だけど。


 「城には焼酎と磁器は持ってきてもらっている。茶……茶かぁ。確か父上が柏原に城を建てていたな、近くには狭山が有るので茶があるかもしれぬな。うん。なんとか大規模茶産地として開発をし、南蛮貿易で高く売りつけるか」


 狭山茶と言えば日本三大茶の一つだし、伝承では鎌倉時代からの栽培云々だったはず……。

 ただ鎌倉からの割には、今の時代の話に一切登らない産地ではあるが……。


 「ほう。信濃守様が築城中ということは武蔵か。武蔵でも茶が作れるとはな、もっと南でないと難しいと思っていたのだが、太郎丸が言うほどのものであれば十分に交易に使えような」

 「そう思いたいよ。ただ、今でも城で飲んでいる茶は駿河のもので、狭山の茶は飲んでいないからなぁ……果たしてどの程度の規模で栽培をしているのやら……そうだ!今度の古河での評定の時には柏原に寄ってみるか!武凛久で鹿島まで行ってみたいし……吉法師も付いて来てくれぬか?ついでに鹿島より内海、霞ケ浦ではどこの沼まで武凛久が入れるかを知りたい。古河に近いあたりまで入れて港でも作れたら最高だけど、そこまでの深さは無いよな……」

 「次の評定は冬であったな。塩釜からも戻って来てると思うし。うむ、ついて行くのは構わんぞ。村上衆の水路に詳しいものも連れて行くのも吝かではない、ただ、武凛久では流石に内海は入れんとは思うぞ?内海への入り口、そこの深さが決定的に足りんだろう」


 ですよね~。

 ただ、何事もテストということで。


永禄二年 冬 古河 伊藤景元


 「……というわけでして、スペインの貿易船が呂栄・勿来・アカプルコの三角貿易を試してくれることとなりました。上手く行けば、交易によってもたらされる富は、今までとは桁違いのものとなりましょう」

 「ふむ。して、そのスペインなる国は、九州の大友と仲良うしているポルトガルという国とは違う国なのだな?」

 「はい。同じイベリア半島の国ですが、別の国です」


 太郎丸がフアンから献上された地球儀を指さしながら説明しておる。

 その、「あるべると」なる軍人から教えて貰ったそうじゃが、よう、そこまで南蛮の国々について覚えたものよ。儂など国の名前を覚えるので精いっぱいじゃな。


 「で、今回の私からの議題として話し合いたいのは、柏原城のあたりで細々と栽培されているという茶を大々的に栽培できないか、ということです。スペインを始め多くの南蛮人は茶と磁器を明より買い求めております。これらを当家で用意できるとなれば、明に力を持つポルトガル以外の国々はこぞって当家の領内に寄港することとなりましょう!……とはいっても、今のところポルトガル以外はスペインしか来ませんが」


 ふむ。確かに、かような状況なれば、スペインは明の商品をわざわざ買い付ける必要がなくなり、無駄な銭を使わずに目的の品を手に入れることが出来るようになるか……。


 「確かに、当家が買い求めている茶の大部分は駿河の産。敵連合の今川家が治める土地よりの商品が大部分ですからね。それが自領で栽培できれば、余計な銭を今川にとられずに済みますし、茶を飲むときにも気分が楽になりますね」

 「伊織も賛成か……ならば、柏原城の城主に充てようと思っておる昌貞に茶の栽培に力を入れるよう伝えるか」

 「ふむ。儂もその案に賛成じゃ」


 皆が頷く。これで、昌貞が柏原城の城主となること、茶の栽培に力を入れることが決まったの。


 「交易も大事だが、俺は戦力としてのその武凛久なる南蛮船が気になる。その点はどう考えるのだ?」


 相変わらず、景貞は思考傾向がそっち向きじゃな。だが、気になるのも事実。

 今のところは西の商人達が来てくれるのを待つ形ではあるが、うまく行けば堺に我らの方から乗り込んで商いができるのではないか?

 途中の伊豆、紀伊の水軍がどうにかできればじゃが。


 「そうですね。今のところはあまり……信長とも話しておるのですが、今の武凛久の能力で海賊共を叩けぬわけではありませぬが、無理してぶつかることもないであろうと……。ただ、スペインから大砲を仕入れ、それを基に羽黒山で量産ができるようになれば状況は一変しましょう。関船が何艘寄って来ようとも物の数ではない船へと変貌することでしょう」

 「ほう。それほどにか……それは楽しみだな」


 まったく景貞め。物騒な笑いをしおってからに……。


 「しかし、私は西の勢力、商人との商売はそれほど考えておりません。彼らに対しては、こちらから行くのではなく、来てもらっての商いで十分かと考えます」

 「ほう!それはちょっと予想外ですね。詳しく聞いても?」


 儂も聞きたいの。

 なんといっても日ノ本で一番銭を持っておるのは堺の豪商共じゃからな。


 「簡単なことです。堺には日ノ本の誰もが行け、商売ができるのです。なんといっても言葉が通じますし。それでは、いくら商売のうまみがあったとしても、堺の商人をよそから集まった大人数で取り合うだけにしかなりませぬ……つまり、我々が堺の商人どもを儲けさせるだけの餌になってしまうのです」


 ぱんっ。


 「なるほど!」


 納得すると膝を大きく打つのは伊織の癖なのかのぉ。

 いい音がするわい!儂の心もすっとするの!


 「つまり、景藤は堺の商人を儲けさせるのではなく、堺の商人に儲けさせるということですか!」

 「はい!それを目指すが上策と考えます」

 「……済まないが、俺にも解るように説明してくれ……正直に言って、伊織のようには理解できておらんわ。景竜、お前は解るか?」


 そう言って息子を見やる景貞。

 景貞も大体は理解しておるとは思うがの、景竜にも発言させようという腹か……そのようなことをせずとも景竜への儂らの評価は高いぞ?


 「では……僭越ながら。若殿はいつもおっしゃっておりました。堺の商人が銭を稼げるのは人が多く住む地域に位置しながら自由に商売ができるからだと。自由な商売、これは政の方針で幾らでも対応できる、特に今日の王家や公家や将軍家がうるさく言わない東国では、なんの障害にもならない、と。」

 「……続けるのじゃ」


 ふむ。本当に景竜は、景藤が考えていることをわかりやすく儂らに伝えてくれる。

 景藤は自分が考えていることを説明するのが苦手じゃからなぁ。

 説明するという行為自体をも面倒臭がってしまうように見えるのが問題じゃ。


 「次の人の数ですが、これは純粋に人の数として捉えるのではなく、物を買う力の合計として捉えればよいと。いくら畿内の人が多かろうと、戦乱に明け暮れる地域では人々は貧しくなる。それよりも東国の戦乱が遠のき、人々が豊かになるのならば人は少なかろうとも、物を買う力が畿内を上回るようになるのは時間の問題だと。さすれば、今の堺の機能が勿来や鎌倉や江戸などに移ったとしても誰も驚かぬと」

 「……それはそうか。幕府の位置とて天地開闢から同じ場所にあり続けたわけもなし。さすれば、日ノ本一の商人の町が当家の領内に移ったとしても不思議はないということか……」

 「……なるほど。景藤の狙いはわかった。ではこれより如何してその地位を獲るつもりなのだ?」


 あやつが童の頃に「東国を抑える」と話をしたことにも十分に驚いたものじゃが、今度は東国が日ノ本の中心となるか……鎌倉の世が終わってからの混乱により、そのようなことはご先祖様もついぞ思いつかなかったであろうな。


 「そうですね。まずは先ほども言った、スペインから大砲を入手すること。それと同時に蝦夷地と直接に交易をしたいと考えております。南部家が勢力を伸ばし、伊達家と争いを繰り広げるようになってからこの方、北の産物が思うように集まってきておりません。中継港の酒田と塩釜は伊達家の治めるところですので……そこで、我々が直接蝦夷地から産物を買い求めることが出来れば、この強みは他家にはとうてい真似できないものとなります。商人たちを当家の港に呼ぶ、良い呼び水となりましょう!」


 ふむ。蝦夷地か……。

 先ごろには、南部が秋田を抑えた余勢をかって、蝦夷地の南端を蠣崎家より奪ったと聞く。

 南部領に寄らず、蝦夷地まで向かえるのならば、蠣崎家と交渉する余地は幾らでもあろうな。

 極論を言えば、彼らに通訳をさせて、我らで蝦夷の民と交易を行なっても良いわけじゃな。


 ほっほほ。これは楽しみじゃな。

 スペインにポルトガル商人を通さない形で東洋物産を提示しようと画策する太郎丸。

 太平洋航路の中に自然とこれらの産物を混ぜ込むことによって、スペインの調達コスト激減、商売繁盛でデフォルトしないで済むでしょ?作戦の発動です。

 イギリス艦隊に負けるにしても、ぼろ負けではなく惜敗ぐらいにはなって欲しいとの思いですね。


 そして、どうやって蝦夷地との繋ぎを得るのか。方法はアレです。創造プレイヤーなら予想できそうなあの方法です(笑)


 今後ともよろしくお願いいたします。

 m(_ _)m

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― 新着の感想 ―
[一言] スペイン相手なら、支払いに金や銀を使っても問題ないし、 スペイン側も支払いに金や銀を使える。 これでお互いに金銀の流出を抑えつつ、商売できるね。
[一言] 静岡のお茶って勝海舟が茶畑作ったから盛んになったはずだとおもいます。 江戸時代にはお茶は贅沢品としてではありますが定着していきます。 自分もそんなに詳しく調べたわけではないので分かりませんが…
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