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阿武隈の狼  作者: 平良中
-第一部- -第二章- 阿武隈の狼
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-第三十五話- 奥州は資源の宝庫

天文二十三年 晩秋 羅漢山 伊藤景虎


 「須賀川に関してですが、一つここで皆様にご報告が……」


 おずおずと景藤がしゃべり出した。

 よほど言いにくいことか?ふむ、嫌な予感しかしないぞ。


 「此度の評定に先駆けまして、須賀川城の城主、また、その城代の人選を進めていったところ、一人の二階堂旧臣にぶつかりました。名は須田盛秀すだもりひでと申す者です。彼は、須賀川の阿武隈沿いに館を構えておった者ですが、此度の二階堂家の行動に反対をしたために家を追われたそうです。須賀川城が落城し、当主が切腹したという話の中で、輝行の娘を姉上が保護した噂を聞きつけ、羽黒山を訪ねてきました。話をしたところ、これが中々に義侠心溢れた男でして……」


 その須田は当主の侵攻政策に真っ向から反対し、一時は切腹を申し付かったそうだ。

 だが、その当主である父の怒りを宥め、須田の命を救ったのが輝行の二人の娘、しおりゆいであった。

 このことに深い恩義を感じた須田は、なんとしても二人の助命と、何かしらの手助けが出来ればと羽黒山に押し掛けたそうだ。


 しかし……当家は娘には、姫には手を掛けんぞ?那須と岩城の娘たちもなんだかんだと、景藤の口利きで当家で何かしらの職についておる。

 うむ。この二家の場合は、どちらも親の所業を諫める立場を取っておったのでな、当家としても保護がし易かったということもある。

 ……そうなると、今回の二階堂でも同じ流れか?


 実際、当初はこの二階堂の娘のうちどちらかを城主として、城代に誰を送ろうかと提案するつもりだったと、景藤は言うておる。

 儂でもその案を第一にと考えるであろう。

 人品が卑しくないのであれば、旧主に近いものを使って慰撫するは常套であるからな。

 そんなことを考えているうちに、なかなかの人物であるという評判の須田盛秀、その男が来た。

 では、この男に二階堂の姉妹の下で城代をやらせてはどうか?という提案だな。


 当家の統治方法を尊重するのならば、儂に否はないな。


 「とまぁ、そのような理由ではあるのですが……実は、一つ、須田の話で驚くべきことがありまして……二階堂が本宮一帯を己のものとすべく動いた理由は、蘆名氏方殿より教わった本宮の西、猪苗代に通ずる道の途中にある金山・・の存在であったと……」

 「「…………」」


 金山・・だと……。


 「先ほどここ羅漢山城まで知らせに来てくれた鶴岡斎の大叔父上によると、間違いなく金と銀の石が取れると……しかも、今の段階で採れる阿武隈、八溝のどこよりも潤沢に金銀が含まれている石だとのことです」

 「……二階堂は阿呆じゃが、本当は欲に目がくらんだ阿呆じゃったわけか……」


 父上も言葉が少ない。


 なんということだ。


 かの地域はもとより二階堂が治める形で我ら皆が納得しておったのだが……欲に目がくらみ、他家が怖くなって先に行動を起こしたのであろうな。


 「しかし、そうなると物騒ですね。須田殿は二階堂家中においては金山の話が耳に入り、諫言できる立場ではあったのでしょう?しかし、今の状況で言えば、主家に追放された一浪人が知っている情報です……これは遠からず他家にも金山の話は知れ渡ることとなりましょうな」


 伊織の言葉に皆が嫌そう顔をする。


 大で伊達家、中で蘆名家、小で田村家と近隣諸将が目の色を変えて「金山を抑えに来た」、として兵を繰り出してもなんらおかしなことはない。

 彼らが二階堂ほどに欲に踊らされる人物らであるとは思わぬが、……金山という存在、これは家を預かる立場のものなれば相当に魅力的な響きを持つもの……。


 「斯様な事態となれば……真っ先に動くとしたら蘆名であろうか。その金山の存在を氏方殿は知っていたというが、蘆名家が家を挙げて採掘している、もしくはそういうことをした様子やらはない。ということは、黒川城にいる盛氏殿は知らなかったことと見える……さて、いかに動くのやら……」


 考えるだけで億劫な話じゃな。

 そんな話はただの噂だ!と突っぱねることは、今回のありがたい輝行の動きのおかげで、誰も信用せぬであろう。

 全くもって忌々しいがな。

 二階堂ほどの小さき土地の領主が動いたのだ。

 この話の信憑性は非常に高いと見えてしまうのだ……。


 ……さて、如何にすべきが上策か。


 「この件を須田殿から聞いて思いついた事なのですが……」

 「うむ、遠慮のう教えてくれ」


 景藤が言う。

 確かに、今しがた聞いたばかりの儂らとは違い、多少は考える時間が儂らよりも多いこやつじゃ、良い意見を言うてくれるやも知れぬ。


 「当家だけで解決が困難なものであるのならば、他家と合同で事に当たるが良いと考えます。今回ですと伊達家とになりましょうか。「鉱山の所有管理は当家で行うが、周辺諸将との調整を共同で行いたい。ついては採掘された金銀の一割を渡す」……とでも約束すれば良いのでは?」

 「ふむ。一割か……蘆名に圧力を掛けるだけなのに他領金山の一割も得られるなど……ちと、虫が良すぎる話とは思われぬか?」


 伊達殿に含むところはないが、何もせずに金山の一割とは……晴宗殿も変に裏を勘ぐるのではないか?

 諸将への牽制だけではなく、伊達家も金山の管理・防衛に兵を向けてくれるというなら、話は別だが……いや、今度は一割では少なすぎるか……。


 「採掘したものの内の一割です。元から採掘しない金山なのでしたら、果たして一銭も支払う必要はないのではないでしょうか」

 「「……」」


 儂も含めて、皆声も出ない……。

 良いのか?そのような論で……。


 「我らにはこの金山、熱海と呼ばれる土地にあるというのですが、この金山以外にも掘れば金が出てくる山はいくつかあります。当面は領内金山を守る姿勢を周に示す一方で、面倒なことになりそうな採掘には手を付けない。これで良いのではないでしょうか?」

 「悪くはないと思います。私は景藤の案に賛成です。後に問題が出てきたら、その時に改めて考えれば良いのでは」

 「伊織と景藤が同じ意見なら、俺には反対する理由がない」


 儂も反対する理由は無いな。

 賛成の意を込め、父上に一つ頷く。


 「……皆にも反対意見が無いようなので、景藤の案を基にするとしようぞ。晴宗殿には信濃守、悪いが其方が説明をしてきてくれ。かの御仁は、こちらの思いを素直に伝えれば、そう悪いようにはせぬじゃろうしな。……そして、須賀川城は二階堂の娘を城主とし、城代に須田を置くとする。ただし、この地域は元の管轄じゃ。そのことを、よう伝えておくのじゃぞ?景藤。皆もそれで良いな!」

 「「はっ!」」


 こうして、この日の評定は終わった。

 さて、久しぶりに米沢まで足を運ぶか……いや、その前に晴宗殿が米沢にいるかどうかを確認せねばな。

 伊達家も相馬領を併合して領地が増えたのだ。

 腰の軽い晴宗殿ならば、小高城あたりに居ておかしなことは無いからな。


天文二十四年 初春 黒磯


 去年の暮から今年の頭に、利根川を使った物流計画が思いがけない形で実現した。


 まずは厩橋城の完成。

 伊織叔父上が心血を注いだ拡張性バッチリの平城だ。

 国峰城、平井城の奥にあたる奥秩父からはふんだんな磁鉄鉱が産出され、今市から桐生、厩橋にかけての山々からは鉄、銅、鉛が発掘されている。

 厩橋城ではこれらの鉱物を精製する高炉群が、景能爺指揮の元、村正一族の面々を中心とする職人たちの手によって絶賛、鋭意、製作中である。


 「羽黒山もおもしれぇんだけど、たまには違う場所で違うことに挑戦したくなった!」とは本人の弁である。日本史に燦然と功績を轟かす刀鍛冶が刀以外の制作に命を懸けるってどうなの?とも思わなくもないのだが……。

 当代の村正さんにそこを尋ねたところ、「あの爺が好きなことを勝手にやっている間はすぐには死なないでしょうから、好きにこき使ってください!」との有難いお返事を頂いたので、老体に鞭打って厩橋に出張してもらっている。

 本人は大興奮で厩橋に向かったのだが、はてさてどうなることやら……。


 まぁ、厩橋城城主は景竜となっているので、景能爺の情熱は何ら余すことなく、創作物へと昇華されるだろう……景竜の苦労の下に……。

 何か問題が起きた時には焼酎を持っていけば万事解決だ、ということは長く俺の傍にいた景竜ならよくわかっているだろう。


 そうだな、勿来の空から景竜の成功を祈ろう。

 ついでに、どうか厩橋で精製される鉱物資源が伊藤家を潤してくれますように!とも……。


 そうそう、困ったときは多恵が景竜を癒してくれるだろうしね……。


 うん。いつの間にか母上の周りに多恵がいない日が続いたので、「多恵はどうしたのですか?」と尋ねたら「多恵なら景竜を追っかけて今市に行ったわよ」ですって!

 いやぁね。あの子(景竜)ったら。

 モテモテのハンサムボーイはこれだから!な状態である。


 ちなみに、勿来で望まぬ子どもを無理やり産まされた娘たちは、やはり子供を育てる気にはどうにもならなかったようだ。

 自分のお腹を痛めて産んだ子ではあるが、どうにもその子らの父親の汚らしい存在が思い出されて辛いとのことだった。


 相談を受けた母上は、城の裏手にある金毘羅権現寺と話をし、子供たちを僧見習いとして育ててくれないかと頼み込んだ。


 この話を聞いた金毘羅権現寺の住職は、「子供達には何の罪もないことではあるが、そのような目に遭われた母御も辛いのであろう。無理に一緒にしておくのではお互いに辛いこととなってしまいましょうな。……ええ、当寺で良ければ、その子らを引き取りましょう。また、その父親たちもその無知と残虐さによって己の身を滅ぼしたわけですが、死して弔う者がいないというのも忍びないことです。子供を引き取ったのも何かの縁、当寺境内にて供養をさせて頂きましょう」とのありがたい対応をしてくれた。


 港町として勿来、湯本、飯野平と発展させていくつもりの俺だ。

 金毘羅さんを祀るのも自然の流れと思い、もろもろの法要その他には積極的に支援していくこととした。千年後にも「勿来の金毘羅さん」の名前が親しまれるようにしたいものです。


 と、トリップはこのぐらいにして本題に戻ろう。


 今日はいつもの羅漢山城での評定から場所を黒磯城に移しての第一回目。


 上野からの爺様は厩橋城から赤城山脇の渡良瀬川を遡り、途中の鉱山宿舎を使いつつ中禅寺湖経由で今市城、そこから黒磯城という四泊五日コースの往路。

 復路は、鬼怒川と利根川を使い古河経由で一泊二日を計画しているそうだ。


 黒磯城に到着早々、爺様は「山道は爺には疲れる。ここは、やはり、足利の方々には退場してもらうしかないかのぅ」と黒い笑いをしていた。

 普段は温厚な爺様が足利にだけ厳しいのは……まぁ、いろいろとあるのだろう。


 「で、大道寺政繁だいどうじまさしげ殿。なにゆえ早雲殿の頃から続く伊勢家重臣の惣領が当方に降られるのか?」


 そう、一族内での評定が終わってから、一人の男を父上がこの場に呼び込んだ。


 名を大道寺政繁。爺様の言う通り、早雲の下向から付き従った重臣の直系惣領で二十三の若さながらも伊勢家重臣としての実績もある男だ。

 前世世界でも知勇兼備の武将として評価が高かった。


 「はっ。端的に申し上げますと、伊勢家を見限り申した!先代氏綱様、当代氏康様も常々「天下万民の救済、領民の安寧を第一とする」とおっしゃってまいりましたが、ここ近年の主家のやり方には付いていけず袂を別った所存」

 「やり方というと、具体的には?」


 伊織叔父上の冷静なツッコミ。

 政繁自身は実直な性格のように見えるが、彼の立場が立場だ。

 裏がある投降かもしれないと疑うのも当然だよね。


 「近年の伊勢家領内の凶作は人為的なものです。春・夏と領民を田畑から引き離して戦に駆り出す。治水もせず河川の管理すら放棄して負け戦三昧。これまでに数万の領民の命を無駄に散らすことになったというのに、これを一向に反省せず……今度は安房への出兵を計画しております……」

 「里見攻めか……」


 伊勢と里見は天敵の間柄だ。

 両者が、攻めて、攻められてを繰り広げるのは別に不思議な事ではない。


 「して、その方は如何なることを我らに望むのだ?里見殿と当家はそれほど親しく接しているわけではない。正直な所、対伊勢家で思いが通じておるだけの間柄ぞ」


 里見とは産品を交換しつつ、「お互いに敵になるのは止めとこうね?」との思いを忖度し合う程度の関係性。

 四国連合の家々のように血縁で結ばれた強い同盟関係というわけではない。


 「出来ますならば、安房侵攻軍が進発した瞬間に忍城に向け軍を出していただきたい。さすれば自ずと伊勢は軍を引きましょう」

 「当家にとっての利点は?話を聞いているだけでは、当家の草臥くたびれ儲けとしかならぬのでは?」


 個人的には国内コルク製造の為に安房は荒らされて欲しくないところではあるが、伊藤家の方針としては伊勢家が安房でどれだけの人命と物資を消耗しようと、なんの関係もない話だ。

 短期的には「どうぞ、どうぞ!」な雰囲気さえある。


 ただ、長期的には敵国の国力が上がるのはおもしろくないし、東京湾の入り口を固められるのはご勘弁いただきたいところではある。


 「決して、そのような事には!利根川と荒川に囲まれた一帯は某の治めるところです。無事、安房攻めを中断できました折には、私の治める岩付城ともども伊藤家にお仕えいたします」


 う~ん。政繁の話だけの利では、割に合わないな。

 伊藤家は土木奉行所という、農業事業部を併せ持った国営総合土建会社を持っているので、他家のような農繁期の出兵が即座に生産力に影響するわけではない。

 わけではないが、やはり当家にとっても農繁期の出兵が望ましいことではないのは事実。


 「一つ私から政繁殿に確認したき儀があります」

 「構わん。尋ねい」

 「では、政繁殿にお尋ねいたす」


 爺様の了承を得て、政繁に向き直る。


 「氏康は、我が軍が忍に攻めかかる様子を見せたら安房攻めは止めるでしょう。しかしその軍をそのまま忍に向けてまわしてくるのではないですかな?さすれば、当家はやりたくもない大規模な戦をする羽目になり申す。さすれば如何してくれるのです。戦になれば兵は死に、物資は浪費され、民は疲弊いたす」

 「いや……そのような無益な戦をする氏康様では……」

 「近年、立て続けに無謀な戦を仕掛け、自領、数万の民を殺したのはどこの当主殿と政繁殿はお言いでしたかな?」

 「あ、いや、それは……」


 この程度の話、いくらでも誤魔化したり、詭弁を弄したりできる程度のものだ。

 特に詰問しているのが、年少の俺。威圧的な態度で話をすり替える手もあるだろうが……政繁殿は実直に己の言葉で話をしようとしている。


 「戦は常に最悪を考えねばなりますまい。もしそうなった場合、岩付の総勢をもって政繁殿は氏康殿の陣を背後から討ってくれますかな?かように約束していただけるのならば私は政繁殿を信用できましょうが……」

 「……それで、我が心を信じていただけるのならば……それに……そこまでに愚かな主君であれば、これを討ち破ることこそが万民の為となりましょう」


 実直な男、不器用な男だ。政繁殿は。

 個人的にはこういうタイプの男のことは信じてやりたい。


 「そこまでの覚悟を政繁殿が見せてくれるのならば、私は信じるとしましょう」


 爺様と景貞叔父上も小さく頷き同意を示した。


 ……父上と伊織叔父上は、そこまで追い詰めなくても良いだろう……と言わんばかりの顔をしていた。


 いや、まぁ、いいじゃないですか。

 良将の心意気を確認できたということで……。

 二階堂君の御乱行は高玉金山が原因でした。

 日本三大金山の一つに挙げられた金山、史実では天正年間に蘆名家によって採掘が始まったと伝わります。


 現状の伊藤家では、たとえ金銀が採掘できたとしても、貨幣経済が発達していない日本では貴金属としての価値以上ではなく、扱いに困ってしまっている現状です。

 重商主義が世界の主潮流となり、欧州各国の東インド会社成立が始まるまでの五十年間で東アジアで重商主義を一足先に発展させるのか?はてさてどうなることでしょう。


 今後ともよろしくお願いいたします。

 m(_ _)m

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