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阿武隈の狼  作者: 平良中
-第二部- -第六章- 浄土求道 
234/243

-第二百三十四話- 親子で月見

1595年 天正二十三年 中秋 飯盛山


 「義父上……いや、太郎丸よ。お前も数えで二十となったのだ。ここは一緒に酒でも飲まんか?」

 「仁王……ははは、父上。では成人になったということで、今宵は酒でも頂きますかな?」


 相変わらずに互いの呼び方とか、接し方がどうにも不器用な親子である。


 自分ら、不器用ですから!


 「本来であれば、伏見の指月城から眺める月姿。巨椋池に映るものの方が格段に美しいのであろうがな。……飯盛山からの月見で良いのか?太郎丸よ」

 「太閤秀吉が歌ったとされる巨椋池に映る名月ですかな。そちらの方は、またの機会としておきましょう」

 「そうか……だが、伝え聞くところではかの大地震で指月城は崩壊すると知る。刻は無いかも知れんぞ?ただ、本来のこの時代には無かったであろう鉄筋コンクリートの工法を混ぜ込んだ城ではある……保つと思うか?」

 「ある程度は……」


 残念ながら、俺達は先の世の記憶やら知識なんかを持ったまま、この世に生を受けてはいるが、今を生きている「この世」の先のことは当然のことながら知り得ないのだ。

 前世を含め、俺は生き延びる為や、豊かな生活の為、諸々の行為をしてきた。

 お陰様で、記憶の中にある「歴史」とは大分違う内容の1595年の地球で今を生きている。


 変わっているところは沢山あるけれど、戦国の有名どころ、三英傑で見てみるとだ。


 織田信長は明智光秀とズットモ状態で存命の上、中国大陸で大暴れしている。最近は忘れがちだけど、大型帆船、戦列艦ガレオンやらを駆使して渤海湾から日本海の貿易を事実上武力支配してるんだよなぁ。太平洋貿易の主力である当家の水軍も一番上の将は吉法師だったりするし……こう考えてみると、当家の最大兵力は吉法師が握ってるんじゃないか?うん。


 次いで、豊臣秀吉は当家の重臣として指月城で他国との交渉を行ないつつ、初婚の茶々姫とラブラブしているし……あ、そういや子供が産まれたんだよな。帰りに顔出して「おめでとう」言ってこなきゃだな。吉法師に比べると、なんとも和む存在の藤吉郎君だ。……実情は俺と吉法師から一切の面倒事を押し付けられただけの存在だとも言えるが、そこには気付かぬ振りをしよう。


 最後に、徳川家康は伊藤政権の一大老、大名の一人として、石山御坊を大改修して大坂城を築城、本拠地として紀伊半島の南半分を領している。南伊勢、大和、河内、和泉、南摂津、紀伊を領地として元気に……元気に何してるんだろうな?何回か竹千代君とは、というか松平家とは干戈を交えたもんだが、不思議と俺に対して敵意を向けたことは無いようだ。竹千代君の意識は何処かわからん方向を向いてるっぽいんだよな。……つかみどころがない狸だよね。やれやれ。


 とまぁ、そんなこんなで歴史は大きく?変化しているとは思うんだが、地球規模での現象というか、自然災害なんかは起きるところでは起きてるんだと思うんだよな。

 実際に、先年の天正大地震では日ノ本中に被害が起きて、伊織叔父上の嫡男が命を落としたりもした。

 人間の営みなんてものは、地球規模では意味がない物なのかな?


 「……そうだな。人の身で自然災害をどうこう出来るとは思えんな。……太郎丸の、義父上の紹介した技術により、多くの時代を越えた技術をこの日本は享受しているが、それをもってして自然災害の全てから身を守れるとは思えない。……地震対策にしたところで、建物の骨組みは丈夫になったかも知れんが、掘削機械などは先の世とは比較にならんであろうしな。基礎工事の重要性を説いて土木作業をしてきたとはいえ、どこまで持つことが出来るかは……」


 とっとっとっと。


 俺は父上の空いたグラスに甲州リキュールを注ぐ。

 多くのヨーロッパ人が移り住んだ酒の都「甲府」で造られたブランデーに甲州の柑橘を風味付けした代物だ。

 父上の変わらぬ酒の好みだな。


 「人事を尽くして天命を待つ。これしかないのではありませんかな?」

 「……そうだな。我らは決して万能ではない。それこそ、我らの何かをこの世界に呼び込まれた神仏ならば別なのであろうがな。そう、我らに出来ることをひとつひとつやって行くしかないか……」

 「はい。そこで、今日ここに俺が来た目的です」

 「アユタヤ……東南アジア、タイか……」


 そう、アユタヤのお坊さん、マハーテラーさんから尋ねられた軍事顧問の派遣についてのご相談である。

 ちなみに、軍隊派遣は費用が洒落にならんことになるので、端から俺の頭にはない。


 「伊藤家の領内が太平洋に面し、当家と深い付き合いがあったのがスペインであったがために、東南アジア方面の西側航路について考える機会は少なかった。だが、今一度考えてみれば、ヨーロッパと日本を結ぶ場合はこちらの航路こそが本命であることに間違いはない」

 「日ノ本の立地上、東を伊藤家、西を大友家と二分して外交政策が進んできたのもあったし、俺達としても意識的に西側のことからは遠ざかっていたのは間違いない」

 「大友家……そうだな、大友宗麟は傑物だったが、その次代はどうにもな」


 そうなんだよね。

 大友家が人的にも、物的にも強大であったが為に、日ノ本の西半分には殆ど手を付けずに、面倒事は任せっぱなしにしてきたんだよ。

 そのおかげで、当家は東国のことだけを考えていれば良く、畿内のことも西国のことも意識の外に追いやれていた。

 ……って言っても、畿内にはそこそこの拠点は所持しているか。

 有能な藤吉郎君がそこいらをこなしてくれているから忘れてた。


 「父上から見て大友殿はどう映るの?」

 「あの人物、才の面では駄目であろうな。宗麟殿と比べては可哀想なことになる。……だが、性根が腐っているわけでも、品性が下劣であるというわけでもない。父親に比べて大器が無いというだけで、人間的に悪い男ではないと思う」

 「人間的に良い人なら、これからも頑張って欲しいところだけどさ。……う~ん、器が無いってことは今の領国を維持するのは難しいってことになるのかな?」

 「それはどうだろうな。嫉妬心が強ければ、無駄に口を出して配下の各家から反発が生まれもしようが、大友殿にそのような気配はない。今までのところは各領主に良い意味での独自性を持たせ、好きにやらせている分、結果として大友家としての纏まりは維持されている。……ただ、管理監督が行き届かぬ分、長崎のようなことにもなるがな」


 これが大友殿の人間性から来るのかどうか、……どちらにせよ、おかしな気配が無いのなら良いことではある。


 「して、大友殿の器の問題があって、今回のアユタヤからの外交が江戸にやって来たのだと思う」

 「ぬ?」


 微妙に父上の理論の繋がりがわからない。

 大友家当主の力量不足がアユタヤからの外交に繋がる?


 「ははは。これは太郎丸に一本取れたのかな?私は義父上の敷いた兄上達との役割分担のおかげで、長い間、外交に徹してきたからな。こういう動きには勘が働くというものだ」


 別に、そんな路線を敷いてたわけじゃないが……どっちかと言えば対外業務は一丸の方が多くないか?


 「軍を率いる一丸兄上、財政を預かる中丸兄上、そして家の形を預かる私。……自然と対外勢力との折衝に関する物は私の下へと来るようになったからな」


 おお!

 言われてみればそうなるのか!


 父上は名実ともに伊藤家の当主だ。

 そりゃよそ様からのご挨拶は仁王丸の下に殺到するわな。

 本来だったら大御所様案件ってものも……姉上なら父上に振るよね。

 そうなれば、必然と父上が外交を担うこととなるか。


 「それに、私にはこの知識がありますからな。英語とスペイン語も覚えておりますれば、外国との儀礼はこなしてきたつもりです」


 つんつん、と自分のこめかみのあたりを人差し指で叩く父上。


 ああ……そうね。そのあたりの面倒事にしか思えないことは、全て他人任せだったもんなぁ、俺。

 意外と、獅子丸にもその点の負担はさせ続けていたのかも知れない。うん、今度労わりに館山に行ってこよう。

 娘たちも館山城が好きみたいだしね。


 「話を戻すと、アユタヤのマハーテラーという僧。実際に日本を訪れたのは今回が初めてなのかは知れぬが、日本への外交を行なったのが、今回が初めてだとは思えん」

 「……そりゃそうか」


 言われてみればそうだよね。

 王様の親書やら言付けなんかを預かる人物、勿論のこと、国では重職にある人物だろう。

 そんな人物が、ぽっと初回探訪で海を渡って来る筈がない。

 電信電話が無い時代とはいえ、時は大航海時代。船を使ったネットワークは地球上を巡っている。

 一国の重臣ともなれば、それなりの伝手を使っての情報収集に連絡手段を持っているのが常識だろう。

 今のアユタヤがどこまでの国力を持ているのかは知らんが、少なくともポルトガルの商人やら傭兵が活躍していた地域の「国」ならば、それなりの伝手を持ってると考えるのが当たり前だな。


 「まず間違いなく、マハーテラー殿は第一に大友家と繋がりを持つべく動いていた筈だ。場所柄、大友家とポルトガル商人は繋がりが深い。アユタヤから見れば、最も連絡を取るのに楽な相手だろう」

 「そうだとするとさ、なのに何故に大友家からの知らせが無かったの?大友殿で判断が付かなければ大老家の会合で議題に出せばいい。だが、藤吉郎からそのような話は聞いたことが……」


 とぷとぷとぷ、しゅわぁ~っ。


 俺は父上に疑問をぶつける。

 藤吉郎からは外国云々の議題が大老の会合で出たとは聞いていない。

 俺は、記憶を辿りながらそう結論付けた。


 くぴっ。


 ちびりと、甲州ウイスキーの有馬炭酸割りを頂く。

 これで氷とかがあれば完璧なハイボールなんだが、残念ながら食用で供されるような氷ってやつはこの時期の飯盛山では手に入らない。

 春先までなら、氷室から食用でも行けそうなところを削っても怒られないだろうけど、秋じゃね。

 そういえば、古河じゃ今市城から届く氷が有名だったけど、江戸ってどこから持ってきてるんだろ?秩父?八王子?箱根とか?

 今度、麻里の姉上に聞いてみよう。


 「これは私の推測だが、大友家ではその話が大友殿のところまで上がっては来なかったのではないかな?これがスペインやポルトガルなどの大国であれば、彼らも聞き覚えがあるので上役に報告するのであろうが、アユタヤと言って、今の日本に住まう者の内、どれだけの人間がその国の存在を知っていることやら。……大友家の出入り商人たちも、大友殿に至るところまでの付け届けをこなすほどの対価をアユタヤから引き出せるとも思えんし、そのような手間は掛けまい」

 「では、何故に当家では?」


 ぽり、ぽり、ぽりり。


 ハイボールの肴はポテトチップスの海苔塩味である。

 こちら、各種の味を取り揃えて関東から持ち寄った飯盛山城の奥へのお土産である。

 真由美母さんはうすしお味がお好みなので、この辺りの付け届けにはポテトチップスを欠かさない孝行息子である。


 「……それこそ、義父上が行ってきたことの蓄積ではあるが、私とて外交を預かる立場。海外からの連絡、使節が来航した時の通達は各湊の奉行所に伝えているさ」


 なる程ね。

 そのあたりの意識の差なのかね?

 俺としては父上の対応は当たり前のように考えるが、大友家ではどうやらそうでもないらしい。

 翻ってみれば、そのような湊への監督が出来ているような体制だったのならば、長崎の様な事件は起きることも無かったか。


 「他家は他家。西国は西国ということにしておいて、そちらの方の始末、対処は秀吉殿にお任せしよう。……それよりも、今回のアユタヤへの派遣。正直なところ、太郎丸はどう考えるのだ?」


 むしゃむしゃむっしゃ。

 もっきゅもっきゅもっきゅ。


 パリパリの海苔塩味も良いが、やはりハイボールの最強アテはビーフジャーキーだな。

 この香辛料をふんだんに使った贅沢ビーフジャーキーは絶品だ。

 特に今回持ち寄ったのは、相模は足柄の最乗寺の住職が開発したという調合香辛料「天狗」を使った天狗ビーフジャーキーだ。実に美味し。


 「アユタヤからは離れますが、マラッカ海峡は要衝です。これよりの人類社会の発展を考えると、確実に押さえておきたい拠点です」

 「……アユタヤを大きくさせて支配させるのか?」

 「いや、そこまでは考えておりません。実際にタイからマラッカ海峡、シンガポール近辺までを支配するのは困難でしょうしね。我らが住む日ノ本でさえ分国制を採用してなんとかかんとか列島が治まっている状態です。熱帯ジャングルで広大過ぎる領域を一国で支配をするのは不可能というものでしょう。それこそ電車やら飛行機が有るのならば別の話でしょうがね……」


 こいつは持論だが、時空の概念から生まれる統治範囲の限界というのは存在するんだよ。

 大反乱が起きました!大災害が起きました!敵対勢力が攻めてきました!って報告が入ってから実対応するまでの時間。これがある種の限界を生む。

 「困った時に助けてもくれない人を、どうして戴くの?」ってやつだ。


 「ならば、此度は断るのか?」

 「いえ、断るのも勿体無いかと思います。マラッカ海峡までの距離があるとはいえ、アユタヤ、タイとマラッカ海峡は日ノ本からの距離と比べれば圧倒的に短いのですからね。……近場に日ノ本の拠点を置く。とりあえずはこのような方針が良いと思います」

 「タイで日本人町を造るか……正に山田長政の世界だな」

 「はい。……鄭和の頃より生まれた中華街の歴史。ポルトガル商人によって造られ、イギリス、オランダによって活用されたアジア植民地の街。吉法師が大いに暴れた結果の中国東方地域は例外として、日ノ本による移民街を東南アジアに広げてある種の網を創り上げる。前々世の歴史では家光により棄却された政策ですが、我らが住まうこの日ノ本では、捨て去るには惜しい政策だと思います」


 三代将軍家光による「鎖国」政策。

 それまでにも、伴天連追放令や禁教などが行われてはいたが、一応は限定した数カ国とは湊を使って外交を行っていた。それが、彼の政策によって以前とは大きく世が変わった。

 一説によれば、日ノ本に居住していた「混血児」と思しき人物を百万人単位で国外追放したとも伝わる謎の純化政策。

 当時は遺伝子検査なんか無かったわけだから、担当した役人の胸先三寸で悲惨なことが起きていたんだろうね。

 少なくとも、今の日ノ本ではそのようなことが起こらないで欲しいもんだ。

 神奈川県南足柄市の最乗寺には天狗伝説があります。

 歴代住職の中には、半ば伝説と化した法力の使い手の方々の存在も伝わっていたりします。

 戦国小ネタとしては、晩年の北条幻庵が過ごした場所としても有名です。


 ようするに、お腹が減ったということです。

 食欲には逆らえません。

 取引先よりお土産で貰った炭酸せんべいも美味しかったですが、空腹時には中途半端な食料はただの呼び水です。

 これよりなんか作ってきます!はい!


 今後ともよろしくお願いいたします。

 m(_ _)m

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