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阿武隈の狼  作者: 平良中
-第二部- -第六章- 浄土求道 
231/243

-第二百三十一話- 遼東株式会社の兵

天正二十三年 夏 xxxx xxxx


 「……で、いつになったら愛しの君と会えるのか?」

 「いや、それがでおじゃりますな……のぅ?」

 「目下、全力で船を探しておる処でおじゃりまして……のぅ?」

 「さ、左様でおじゃります!不届きにも対馬の奴らめが船を出すのを厭いましたもので……のぅ?」

 「目下、全力で船を探しておる処でおじゃりまして……のぅ?」

 「あ、尼子も所詮はおなごということで、国家の軽重を理解しておらぬようでおじゃりまして……のぅ?」

 「目下、全力で船を探しておる処でおじゃりまして……のぅ?」

 「このままでは……愛しの君と愛しの我が子をこの胸に抱けぬのだが?」

 「む、無論!主上と公主の間にお生まれになられた若君こそが東海の王でおじゃりまする!」

 「日ノ本、朝鮮のみならず中華を含め、数多の民の頂点に立つが若君の務め!当然、臣等、その事は弁えておりまする!」

 「ふんっ!ならば良い!早く為すべきことを為すが良かろう!」

 「「は、はははぁっ!」」


 ……

 …………


 「赤子の頃に寺に送られ、父の顔も母の顔も知らぬで育ち。物心がついた時には、親戚縁者が大罪人ばかりと教えられた。顔も知らぬ父は病気で死に、名ばかりの母方の親戚が現れては私を殿下と呼び習わした」

 「……もう未練は無いということですかな?」

 「……」

 「おや、つれないですな?某に返事をしてくれないとは」

 「返事をせぬのではない。人は私をこの国で一番やんごとなき身分だと言う。だが、本当にそうなのか?本当に私の父母はお前たちが言う人物なのか?」

 「はっはっは!これはなんとも哲学的な話ですな?」

 「「哲学」??いつものようにわからん単語で話しを逸らすでない!私は……私は真面目だ!」

 「それはご無礼を……。さて、話を戻しますと……今のお立場がご不満ですかな?」

 「甚だ不満だ!夫が妻に寄り添う!妻が子をかいなに抱く!夫がその妻を両手りょうのてで包み込む!何故に、平民共が日常的にしておることを私が出来んのだ!」

 「はっはっは!それが、貴方様のお立場というものでしょうな」

 「何故だ!私は国の模範ではないのか!?民を想い、公家どもの言われるままに日々祈祷を捧げる、この私が!!何故、愛おしい者達に会うことも出来ぬのだ?!」

 「そう、不思議ですなぁ……。ただ、一つだけ失礼しますぞ?」

 「……なんだ?」

 「民を想っているのは、民自身もですな。皆が皆、静かに、豊かに暮らしていきたいと願おうております。無論、某もです」

 「だから、その者らの為に私が願っているのだろう!」

 「名も知れぬ者等もですかな?罪人達もですかな?それこそ、今は蝦夷地にまで我らは足を踏み入れておりますが、蝦夷地の何処までの民をですかな?」

 「……」

 「おっと、どうか誤解為されぬよう。某は貴方様の祈祷に「けち」をつけているものではありませんし、その民を想うお心、尊きものと感じ入っております」

 「……よい。其の方まで、そのように思ってもいないことを口の端に上らすではない」

 「これは心外!某は真心を持って……」

 「良いと言うておる!」

 「……では、失礼して。……左様、恐れながら貴方様が為されていること、それはただ先例を、親しくもない親族に言われるがまま、唯々になぞっているだけではありませぬかな?」

 「……」

 「日ノ本はこの数十年、かつてないほどに平和で、豊かで、自由で、正にこの世の春だとは思いませぬか?」

 「……だから、理解できぬ言葉を使うな」

 「はっはっは!またまた、失礼を致しました。左様ですな、簡単に言いましょう。今の世は太平なのです。ならば、何故に太平では無かった、悪鬼、修羅が蔓延る時代の先例の行事を今の世に戻そうとするのですかな?」

 「……」

 「いみじくも、先ほど貴方様は仰いました。「愛しい者達に会いたい」と」

 「……」

 「お会いになられれば宜しいのでは?」

 「し、しかし……」

 「愛しい者と惹かれ合い、逢瀬し、子を為すこととは古来よりの人の在り様で御座いましょう。そして、その子を愛すことも正に人の在り様そのもの」

 「し、しかし……私には立場が……」

 「顔も知らぬ、勝手に「親族」と名乗る者達の命令がそれほどまでに大事ですかな?」

 「……」

 「貴方様に流れている血は赤くないのですかな?飯は食べぬのですかな?厠には行かぬのですかな?」

 「……」

 「人が人として生きることを、何故に恥じらわねばならぬでしょうか。……貴方様がそのようなお気持ちを抱いていること、それ、すなわち御「親族」様方が、そう願っておるからでしょうな」

 「……私は……私は公主と会いたい!」

 「ええ、ええ」

 「私は、私の赤子を抱きたい!」

 「ええ、ええ」

 「私は、私の想いで祈りを捧げたい!」

 「ええ、ええ」

 「私は、私だ!!!」

 「ええ、ええ」


天正二十三年 晩夏 遼都 前田利益


 新たな草原の民との付き合い方。


 そう言われても、信長様も俺も簡単には思いつくものではなかったからな。

 昨年の、とある長老に言われたことを反面とし、ならば友好的な行軍、交易を行なってみよう。とりあえずは、そういうことだな。

 先ずは近場からということで、撒叉河衛から西に六十里ほどのここ、遼都を目指すこととした。


 実際には遼東郡司で練兵を行なっていた者等、五千を連れてきておるので、撒叉河衛は通らずに、そのまま西遼河沿いに行軍してきておる。


 「その、将軍様……こちらから足を運ばなくても、麦を交換してくれるんで?」

 「ひ、人を送らんでも?」

 「儂らの様な少数部族は、官札なんぞは見たことも無かったのですが……」


 五千の兵、しかも中華ではない軍装の軍を見た遼都の民は、初めの内は恐れに恐れていたのだが、なんだかんだとこちらに敵意は無いと理解してくれたようだ。

 遼都に到着して、まだ十日程にしかならないが、今ではこちらの要請に従って、こうした話し合いの場に来てくれている。

 また、その参加者数も日を追うごとに増える一方だ、


 「何度でも話をしてやろうぞ。儂らは日本の兵だ。明朝より南遼東を預かり、大いに田畑を耕しておるのだ。ついては、その土地で出来上がった作物をこの地で取引させて貰いたいと、そう思い、こうして出向いたのだ」

 「あ、有難いことではありますが……この遼都は、「都」なぞ字をあてがわれておりますが、今はただの小さい放牧地。……そりゃ砂漠の町ではありませんし、川沿いの為に、こうして近隣の者達が集まる場所となってはいるのですが……」

 「安心せい。別にこの土地に城を築くだとか、兵を常駐させると考えているのではないぞ。俺達がここに置きたいのは「市」よ。……なんぞ、その方等の仲間うちで使われる言葉では「バザール」であったか?そのバザールを常駐させたいと考えておるだけだ」

 「「へ、へぃ……」」


 草原の民との付き合い方を如何するか、よくよく考えたものだが、結局は最も単純なものに頼るのが第一歩としては正解であろうと考えた。


 人の心を掴むためには、先ずもって人の胃袋を掴め。


 ユージェニー達との旅でも思ったものだが、草原の世界は食べ物に余裕があるわけではない。

 耕作が出来る地域は限られているし、そもそも水が採れる地域が少ないのだ。人が生活して行く上での量を確保するのが精一杯で、荒れ地を開墾したり、産物を精製するために使える水は極端に少ない。


 腹が減っているのならば飯を持ち込めば良いであろう、という至極簡単な理由から、この「市」を建設するという考えは産まれた。


 「その、将軍様……バザールを常駐なんぞ、そのようなことが可能なので?ただ、そのようにバザールがあったとて、儂らも、そう頻繁には羊を屠殺するわけでもありませんので……」

 「はっはっは!それはそうであろうよ。……だがな?族長よ。お主も知っておろう?西の呼和浩特は、常に商人がおり、東西南北、広い土地から民が集まり、大いに商いをしておるではないか?」

 「そ、そりゃ……呼和浩特はちょっと前までは都だった。大ハーン様もお住まいだったし、北の都からも多くの人間が移り住んでおった。……ですが、遼都は田舎です」

 「左様、ここは田舎だ。……だが、いつでもここに来れば麦が交換できる。塩が交換できる。香辛料が交換できるとなれば、皆が嬉しかろう?」


 香辛料はぴんと来なかったようだが、塩には強い反応を示したな。


 「塩!!では、胡椒もあ、扱ってもらえるのですかな?」

 「胡椒?……そりゃ、香辛料を扱うのならば、胡椒を忘れてはいかんであろうな?」

 「じゃじゃ、大蒜も?玉ねぎも?!」

 「む?まぁ、よっぽど南で採れるもの以外の大体の香辛料は扱うぞ?」


 うむ、何ぞ俺が知らん作物も多いのか?

 無論、大蒜は知っておるが。


 「それじゃ、茶も安く買えるのかね?わ、わしゃあれが大好きなんじゃ!羊をいつもより一匹多く持ってこよう!」

 「茶も良いが、珈琲もどうじゃな?西の部族に嫁いだ娘が送ってきたんじゃが、あのきつい匂いが癖になるんじゃが……」

 「あぁ、なんだ。個別の作物については、俺では答えようがないが……。そうだな、呼和浩特で扱っているようなものは、遼都のバザールでも扱って行こうと思っておるぞ。それに、お主らも知り合いの商人たちに声を掛けて、このバザールに寄るようにさせれば良かろう?」

 「「おお!!」」


 なんだな。

 数え切れぬほど、このような会合を繰り広げてみたが、やはり皆、物に飢えておるのだな。


 「それでは、ユージェニー殿。いつものように、後はお任せしても?」

 「はい。お任せください、前田殿」


 そう言って、美しい赤毛をまとめ上げ、草原の民の装いに身を包んだユージェニー殿が軽く頭を下げる。


 おや、いつの間にか、彼女は日本の作法が身に付いたのぉ。

 今の頷きなども、なんとも自然な物ではないか。


 金州衛での彼女との話し合いの果て、日本とイギリスは中華に関する取り決めを行なった。

 日本を代表するのは遼東株式会社、イギリスを代表するのは東亜細亜株式会社。

 それぞれの代表者が信長様とユージェニー殿。


 遼東株式会社は、明朝より南遼東の租借権を獲得し、年間の租借料支払いをする代わりに、同地の支配権を認められた。

 一方、東亜細亜株式会社は明朝内での通商特権と自由通行権を手にし、この亜細亜の何処であろうとも自由に交易を行なえること、これらを明朝が与えた。


 東亜細亜株式会社がどのような物を明朝に送るのかは知らんが、少なからぬ上納金は支払うようである。

 また、明朝からの名分としては、東亜細亜株式会社が交易を行なう土地は、須らく明帝の威光届く土地だとの証明なのだという。


 ……よくわからんが、皆が納得をしたのならば構うまい。

 我らとしては、明朝から急に租借料の値上げや、取り上げを言われるのでなければ問題はない。

 書面のやり取りでは、九十九年間は同じ価額であるそうだがな。


 何はともあれ、この場はユージェニー殿にお任せし、俺は軍の様子を聞きに浅利殿の元に向かうとするか。


 浅利頼平あさりよりひら

 甲斐源氏諸流で比内地方を治めた浅利家の現当主だが、先の南部討伐と南部仕置き、それ以前の安東氏との抗争の果て、今では南部安東氏の家臣として仕えておった男だ。

 秋田の助右衛門を訪ねた折に、安東家の和田殿に依頼した練兵役としてここまで来た。

 年の頃は三十そこそこだが、これが中々に兵法に通じておる。

 個人の武という面では大分劣るものの、兵を調練する様は非常に良い。

 特に体力が劣る者を切り捨てることなく、兵士として戦えるところまで掬い上げる技は、中々に見どころがある。


 俺の場合は、どうしても塚原様よりの教育が行き届いてしまっているからな。

 強者への強者としての鍛錬は得意でも、弱者への弱者の鍛錬はどうにも管轄外の所がある。


 「浅利殿!」

 「おお、これは前田殿。話し合いの方は、もう宜しいので?」

 「ああ、俺の説明する部分は終わった。後はイギリスの方々に丸投げだな」


 丸投げ……俺も、どうにも太郎丸様のやり方に似てきてしまったか?


 「左様でございますか。……して、兵共の様子ですかな?」

 「おお、そうだ。言うても、俺達が今率いているのは、軍装こそ伊藤家の流れの物ではあるが、中の人間は中華の者等だからな。しかも、一時は奴隷として流れてきた者がその殆どだ。体力も日本の武士とは比較にならんし、領地からの徴用兵と比べてもひ弱であろう?」

 「それはそうですな。一人一人の強さで言うのならば、日本の武士に敵う者は在りません。どういうわけか弓や鉄砲での破壊力も望めませぬな。……されど」

 「されど?」


 おやおや、これは、思いがけずに面白い話が聞けそうではないか。

 手ぶらになるのもなんだな、と浅利殿に話しかけただけなのだが……。


 「されど、集団での粘り強さといいましょうか。特に槍を構えさせ、陣を構築させると面白そうですぞ?」

 「ほう?」


 槍衾か……。

 確かに日本でも有効な戦法ではあるが、如何せん、日本の地形ではそこまで大規模の陣を平地に敷くことは出来ない。

 これもその土地に合った戦法ということかな?


 「しかし、槍や盾程度の陣ならば、弓や鉄砲で穴を作り、騎馬で突撃をしてしまえば終わりなのではないかな?中華の馬や草原の馬では突撃には向かぬであろうが、伊藤家の誇る奥州馬の集団突撃には耐えられぬように思うぞ?」

 「確かに、私は先年の南部合戦の折には留守番でしたので、伊藤家の騎馬隊は存じ上げませぬ。……されど、奥州馬による突撃ならば、南部家のものを見知っております。確かに、ただの盾では駄目でしょうが、柵を建て、厚めの竹束に鉄盾を通して槍を構えさせる。私の感想ではありますが、この塊を削ぐことは出来ようとも、壊すことは出来ぬように思えますぞ?」


 ほほぅ。

 それは、思いがけぬ程の高評価だな。


 「塊と浅利殿は申すが、それは何名程度のものと考えておる?」

 「相手次第……としか言い様はありませぬが、今の様相であるならば、五千の一塊は、正に戦場の礎と成り得ましょう」

 「面白い……」


 中華に東北地方、そして草原……。

 広大な平野を戦場と考えると、この兵団は使えるな。


 「兵の数に関しては、俺の方から信長様に話をしておこう。俺の考えでは、この槍兵部隊は複数必要になりそうだ。……浅利殿、練兵はこなせるか?」

 「お任せ下され。実戦の投入と、実指揮は別の人間が行い、私が練兵に専念できるのであらば。……この遼都への行軍を使い、見事な槍兵部隊を育て上げてみせますぞ」

 「任せるぞ!」


 広大な土地を移動するには騎馬が必要だ。

 だが、この土地での騎馬戦闘では、どうしても草原の民に一日の長がある。

 ならばと、兵の中核としてこの槍兵を持ってくるのは面白い。

 体軸としての槍兵に、打撃を司る両手に鉄砲兵と騎馬兵を置く。


 少数の兵、侵攻の戦を想定した時には、水軍の持つ線条銃を何とか量産して散兵として使うのが最良とも考えたが、東北地方で腰を据えての防衛戦を視野に入れれば、この槍兵は非常に面白いものとなろうな。

 日本とイギリスの会社が東アジアで活動することが名実ともに決まりました。

 南遼東租借と自由通商権、この二勢力が手を組んだらそりゃ大変!ということですかね。

 太平洋の反対側のアメリカ大陸では円が通貨としての力を持っていますからね。明でも日本とイギリスが大きく動き出せば、円の経済圏が環太平洋で使われることになるのでしょうか?

 激務お疲れ様な経済実務担当の田介君の健康面が心配です。


 今後ともよろしくお願いいたします。

 m(_ _)m


P.S. 一口馬主デビューしました。

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