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阿武隈の狼  作者: 平良中
-第二部- -第二章- 風雲到来
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-第百三十二話- 七尾城での会談

天正十一年 晩春 七尾 伊藤景竜


 「これが伊藤家の城……天守閣という物でございますか!なんとも見晴らしが良く、遠くが見えますな!国元に帰った暁には、是非とも我らの居城に造りたいものですな!父上!」

 「そうだな!豊寿丸!国元に帰った暁には、是非にとも、この七尾城のような立派な城を造りたいものよな!」


 それは良かった。

 島津家久しまずいえひさ殿とその御子息には、当家の城が好評のようで結構なことです。


 「家久殿と豊寿丸殿に気にいっていただけたのなら何よりだ。……では、我らは場を移して話でもしましょうか……利家!豊寿丸殿に街をご案内してきてもらえるか?」

 「……はっ!」

 「あいや、景竜殿、しばらく!……豊寿丸は元服前ながらも初陣を終え、儂の後を継ぐことを公言しておる跡取りです。話し合いの席には、是非とも同席をさせて頂きたく思います」

 「……そうですか、それではどうぞこちらへ……」


 家久殿は見たところ、私の十近く下……そうですね、市と同年程度でしょうか?豊寿丸は十二三に見えますね。両名共に、背丈はそれほど大きい感じはしませんが、身体つきは逞しく、腰の物も幅広で重量感ある物を下げていますね。


 では、と私は大友家からの使者一行を七尾城の応接室へと案内する。


 七尾城城主は信忠ですが、今日、この場では私が上位ですので案内役は私が勤めるべきでしょう。


 伊藤家の城としての改修を終えた七尾城。

 七尾湾を眺める山頂に築かれたこの城は、石動いするぎ山に連なり、半島を形成している山系の湾に近い辺り、七つの尾根を造成して造られている。

 能登畠山家の初代が礎を築いたということですが、その後も増築が繰り返されてきたのでしょう。中々な規模と堅固さを持つ山城ですが、少々守備を意識しすぎているからでしょうか、湊からの道も悪く、使い勝手という面ではあまり良くありませんでした。

 その点を信忠から相談された私と伊織叔父上とで手を加えたのが、今の七尾城です。


 とぷとぷとぷとっぷ。


 伊藤家の定番ともいえる大陸風丸机に着席し、城主の妻であるお船が率いる女中によって、皆に茶と茶菓子が配られる。


 「なるほど!確かに伊藤家も当家と同じく、明式の茶が一般的なのですな」


 厩橋から持って来た「赤城茶」を一口、口に含み、今回の大友家使節団の団長である高橋紹運たかはしじょううん殿はそう言った。


 今回の大友家使節団は、譜代家臣を代表して高橋殿、アントニオ卿とカブラル一味を匿っているとされる島津家を代表して家久殿、その息子の豊寿丸殿である。

 一方、対応する側の当家からは、私を筆頭に、評定衆より信長、七尾城城主の信忠と能登奉行の利家の四人だ。


 「この茶は上野の山頂で栽培された物でして……作り方も当家の明人料理番が監督しましたので、本場に近い風味かと思います。気に入っていただければ幸いですね」

 「ほう。それは、それは……ふぅっ。なんとも心温まる風味でありますな……さて、旨い茶もいただけたことですし、早速話を進めますかな……家久殿、あなたから今の薩摩、南九州の説明をしてもらえますかな?」

 「……はっ」


 高橋殿と島津殿、年齢は似たようなものでしょうかね。

 ただ、大友家譜代の高橋殿と島津殿では立場の上下があるようですね。


 「先ず……三十年ほど前になりますか、当時島津家の当主であった儂の父、貴久たかひさは宗麟様の姉上、柚様を嫡男の義久よしひさの妻とする形で大友家に仕えることとしました。当時の薩摩を含む南九州は、島津家の宗家、分家と土地土地の領主が入り乱れる形で荒れておりました。……一応は分家出身の父が、嫡男の居なかった宗家へ養子に入り、元服の後に宗家家督を継いではおったのですが……どちらにせよ、そのような状況下、北九州を制圧した大友家に降る結果となり申した」


 三十年前ですか……。

 その頃は天文の十四五年ですかね?私も姉上、兄上と一緒に棚倉の野山を駆け回ったり、塚原様の稽古を受けていた頃でしょうか。

 大田原攻めや伊達家との合戦もあった頃でしょう。……今となっては懐かしいものです。


 「その後、大友家の隣領、大内家では大寧寺の変が起き、厳島の敗戦もあり、気付けば大友家は全九州と周防、長門を領し、島津家も大友一門となった義久兄上を中心に、南九州一帯を治めるようになりました。……長兄義久は豊後の府内の館か周防の山口館にて宗麟様の下で執務を、次兄の義弘よしひろは薩摩領内での執務を父貴久と共に行い、三兄の歳久としひさは長兄と次兄の連絡役を、末子の儂は薩摩兵を率いての戦働きを行なってきておりました」


 兄弟で役割を分担し助け合う。非常に結構なことですね。


 「ただ、問題はその後の切支丹令です……」

 「切支丹令?」


 ふむ。

 当家ではそのような令は聞いたこともないので、何やら大友家での話なのでしょうね。


 「永禄十年の事になりますが、宗麟様はそれまで領内で認めてきておられた切支丹布教を更に一歩推し進め、西国を含む領内での切支丹保護を大々的に打ち出しました。その方針により、切支丹に批判的であった大内旧臣や尼子、毛利、や西国の寺社勢力によって、いわれなき迫害を受けている切支丹たちを救済するために大友家が立ち上がると……」

 「……一応の大義名分は立つか、特に宣教師共からの援助は期待出来ましょうなぁ」


 きっ!


 高橋殿は複雑な思いなのでしょうか。

 「大義名分」と言った信長を軽く睨みつけましたね。


 「……で、その令の言わんとするところを以て、当家……特に歳久兄を中心とする者達が琉球征伐を計画し、宗麟様の認可を受け、兵を南に出すこととなりました」


 島津家も強かなものですね。

 主家の方針を使っての勢力作りですか。


 「大友殿もよくぞ認めになられましたな。……琉球には対外への進軍が出来るような兵はおらぬでしょう。また、交易の湊として発展をしておる島国。別に、大友家にも島津家にも迷惑はかけておらんでしょうになぁ」


 信長も言いますね。

 まぁ、私も同意見であるので、特にその発言を咎めるようなことはしません。


 「……当時は私も元服して間もない頃ですから、そこまでは詳しくありませんが、琉球から切支丹信仰を持つ民が大挙して島津に逃れてきたことは事実です」

 「ほう?大挙して?民が?……それは大変でしたでしょうな。島伝いに船を渡せば、島津領には辿り着くでしょうが、言うても薩摩の南、琉球の島々は外界に浮かんでおりますからな。それなりの船でなければそう簡単には渡れないでしょうに……」

 「……船を用意したのは、ゴアとマカオ管区のイエズス会だと聞いております」


 おや?

 思わず口の端が上がる私と信長。


 多少、刻の前後はあるようですが、どうにもカブラルと繋がってきますね。


 「なるほど、なるほど。で、その避難してきた民の窮状を聞いて、大友殿としては琉球の切支丹保護のため、島津家の出兵を認めたということですか……わかり申した、わかり申した。……して、現段階での琉球を見ておられるのは……島津家のどなたですかな?」

 「兄、歳久になります……」


 彼らの中での権力争い、思いや理想などというのはあるのでしょうが、当家としてはあずかり知らぬところです。

 こちらとしてはアントニオ卿の居所が知れて、平和裏に身柄をエストレージャ卿に引き渡せればそれで結構な案件です。


 ……多少は、大友家に対して恩でも売れれば重畳ですがね。


 「……高橋殿、島津殿。当家としては、ポルトガル王殺害の容疑が掛かっているアントニオ卿をスペイン・ポルトガル王の使者に引き渡すことが、これからの日ノ本にとっては良きことだと思っております。日ノ本の善き将来の為ならば、当家としても船を、兵を出すことに躊躇はありません。お話しを聞く限りですと、大友家か島津家のどなたかに当家の船に同乗頂き、琉球までの水先案内をお願いするのが最善と思いましたが、如何ですかな?」

 「……左様ですな。当家も、宗麟様もそうお考えなので、私たちが遣わされました。よろしければ、琉球までの案内、私と家久殿にお任せ願えませぬか?」

 「……」


 お二人がここに来られたこと、それが答えということですね。

 大友殿にも、色々と思惑がおありでしょうが、当家としては、この提案に乗ることにおかしな点はありません。


 無言で信長と頷き合う。


 「では、私の船に同乗願えますかな?勿来におられるエストレージャ卿の艦隊とも合流せねばなりますまい。ここ七尾から蝦夷地経由で勿来、その足で琉球まで……そうですな、琉球で事を終えて博多にご両名を送り届けるまで、どんなに掛かったとしても秋の訪れ前までに終えられるでしょう。済みませんが二月、三月。お付き合いをお願い申し上げますぞ?」

 「「……承知した」」


 話は纏まったようですね。


天正十一年 夏 古河 伊藤元景


 「では、今日の稽古はこれまでっ!清丸っ!」

 「はっ!……正面に礼!……師匠に礼!……互いに礼!……ありがとうございましたっ!」

 「「ありがとうございましたっ!」」


 今日は特別に急ぎの案件も無かったので、久しぶりに古河鹿島神宮での稽古に顔を出してみた。


 午前中は古河鹿島神宮の統となっている桐の指導による稽古が行われていた。


 この稽古を受けていたのは、挨拶をした竜丸の長男、清丸きよまるを筆頭とし、竜丸次男の義侠丸ぎきょうまる、太郎丸の末娘の三人、蘭・瑠璃・彩芽と元清の娘二人、麻里と鈴音。佐竹殿の嫡男の徳寿丸とその妹の晶。伊達家からは政宗は来ていないのだけれど、その従弟の成実しげざねが来ている。

 ……政宗はどうも剣術はあまり好みではないようで、もっぱら軍略、政略について学びたいと言って一丸の館で寝起きしている。

 ……まぁ、父親たる輝宗殿もその現状に反対していないようだし、守役の片倉殿も問題にはしていないようだからこのままで良いのでしょうけれど……。

 このままだと、政宗殿は一丸の小姓にでもなったかのように思われてしまうわよね?良いのかしら?本当に?


 「はっはっは。皆さん元気があってよろしいですな。よぅく汗を拭かれたら、こちらに冷えた果実水が有りますからな。一人に一本、お好きなのを取られなさいませ」

 「「やったぁ!」」「和尚様!今日のは奥州の?」

 「おお!よくぞお分かりですな、瑠璃様。左様、会津より届けられた弾ける水が入ったものですぞ」

 「やったね、お姉ちゃん!」「流石は父上ね!」「本当、娘の好みをご存知!」

 「「父上??」」


 ……何してるのかしら?三人娘……。

 他の子らに不思議がられてるじゃない。


 「ああ、その「果実炭酸水」は景藤が生前に考え付いたものでね。その思い付きからだいぶ経って、漸くここまでの形になったという物なのよ。……ささ、そんなことより、皆は汗を拭いて来なさい!汗を拭かねば身体を悪くしますよ?」

 「「はぁ~い!!」」


 中庭の井戸へと走って行く子供達。

 申し訳なさそうに頭を軽く下げる三人娘。

 ……まったく、あのウッカリなところとか、本当に太郎丸の娘、って感じよね。


 「これはこれは、大御所様。今日はわざわざ子供たちの様子を見に?」

 「ええ、時間があったので……後は、子供たちの稽古が終わってから、久しぶりに桐と立ち合い稽古でもと思ってね……それよりも随風和尚はどうしてこちらに?」


 そう、私は自分の腕が鈍らないように、桐と手合わせをしに来たのだけれど、随風和尚はどうしてここに?和尚は天台宗の僧侶であり、当家の大学の長として学校か、城から南東に二里ほど行ったところの妙厳寺にいるはずだ。

 どうして、城から真南に一里の鹿島神宮に?


 「いやいや、今日は朝から妙厳寺で務めが有りましてな。そこから大学へ戻る際に鹿島神宮にご家来衆の姿が見えたために、こうして寄らせていただき、多少のお手伝いをしたということです」

 「そうですか。それはわざわざすみません。……ただ、こうして和尚にお会いできたのも何かの縁。どうです?あの子たちの大学での様子は?」

 「左様……皆様、優秀ですな。流石のお血筋だと感心します……」


 前置きのお世辞は要らないのだけれど……。


 「……ただ、大御所様がお聞きしたいのは、こうした建前ではないでしょうな。……そう、最も学問に興味を持ち、向学心に溢れておるのは蘭様ですかな。奥州で太郎丸様の下で事務をされている姉上方の手伝いをすぐにでもしたいのでしょうな。少しでも何かを吸収しようと、日々頑張っておられますな」

 「……和尚が評価するのは?」

 「評価でございますか……それはなんとも難しゅうございますが、大御所様がお聞きしたい内容を推察しますと、それは瑠璃様となられるかと……拙僧も景藤様のご息女の方々は存じておりますし、両統領を初め、伊藤家の方々とも親しくされておりますが……瑠璃様程の才の輝きを見せる方にはお会いしておりませぬな。このまま、健やかにお育ちなされるのであれば、大御所様の後を継がれても問題ないほどの方になられると……」

 「そうですか……お言葉、胸に刻ませていただきます」

 「お役に立てたようでしたら、何よりでございます」


 和尚はそう言って、子供たちの方へと歩いて行った。


 ……そう、瑠璃ね。

 確かに、太郎丸の子供たちの中でも一番……そう、私に似ているかもね。

 ただ、母親の阿南の影響も感じられるから、私程血の気が多いようには感じられないけれど……。


 「伯母上?……今の話は何か?」

 「ああ、気にしないで、桐。単に子供たちの様子が気になっただけよ。……これからはあの子たちの時代ですからね。もちろん、あなたも含めて、ね」

 「いや、どうでしょうかね?私は……どうにも、母上と同じで剣の道に生きるのが楽しいものですから。……いずれは父上の護衛を母上の代わりに、美月姉上とこなせたら良いと考えております」

 「……わかったわ。そうね、後十年。太郎丸が家督を継いでからは頼むわよ」

 「……心得ました。伯母上」


 しかし、こうなると、太郎丸の娘の内、嫁ぐことになるのは上の二人だけになりそうで怖いわね……。

 和尚の評価を考えると、瑠璃は嫁には出せない。


 そうすると、ここは佐竹殿の要望通りに、元清の娘の鈴音を徳寿丸殿の下に嫁がせることになりそうね。

 姉の麻里は、真田の信繁あたり……あとは、そうね、島津から預かった男の子もいたわね。

 琉球の始末の付け方次第でしょうけど、何人かの子供は大友家からも古河に受け入れる形になりそうだものね。


 幸か不幸か、今回のヨーロッパから齎された騒動で日ノ本の各武家同士、繋がりを持とうと考えるようになったわ。

 日ノ本の外の情勢で、こちらが大きく揺らいでしまうのは怖いものね。

 多少は血の関係をお互いに結んで、何かがあった時にはすぐに話が出来るような関係を構築しなければいけないというものか……。


 ふぅ。

 これも、先ずは琉球の始末によるわけか。


 ……そろそろ、信長も関東に戻って来ても良い頃のはずよね。

 作中九州での過去経緯、駆け足でのご紹介となります?

 とりあえずは、お豊が古河にやってきそうな流れ。今後は愉快な幼少期を古河で過ごしてもらいたいものです。


 武力は使わないし、見せない方針で……などと言っていましたが、やっぱりチラ見せは大事ということで、スペインの戦列艦に勿来水軍の戦列艦、少名等で編成された艦隊を率いて、砲艦外交をしに行く模様。経緯はどうあれ、刃傷沙汰にならないことを作者は祈っております。


 今後もよろしくお願い致します。

 m(_ _)m

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[良い点] 妖怪「首置いてけ」が登場したこと [気になる点] 瑠璃さんの今後
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