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刻印術師の高校生活  作者: 氷山 玲士
第四章 刻印の光と闇編

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8・魔剣

――西暦2097年4月12日(金)AM8:15 明星高校 2年2組教室――

「オッス、飛鳥。ニュース見たか?」

「ニュース?何のだ?」


 教室に入ってきた飛鳥に、敦が声をかけた。


「現職の警察官が不正術式の密売、刻印法具の情報漏洩してたってやつだよ」


 昨夜から神奈川県警は、上へ下への大騒ぎだ。揉み消そう、握り潰そうと考えたのは上層部の一部だけだが、世間に公表することはさすがに躊躇われた。

 だが連盟に完全なる証拠を握られているため、さすがに黙認することも隠蔽することもできない。昨夜記者会見を開き、不祥事を暴露せざるをえなかった。さすがにこの事実は世間を驚かせるに足るものであり、今朝もトップニュースとして報じられていた。


「ああ、あれか。見たもなにも、俺達は当事者なんだがな」

「やっぱりかよ。けっこうな数を捕まえてたもんな」


 敦は空手部に所属している。昨日も当然、部活に精を出していた。だから不正術式を使った多数の生徒が、風紀委員によって拘束されたという噂は耳に届いていた。部活動をしていた生徒も、ほとんどが知っているだろう。今朝のトップニュースは、まさにそのことだった。


「さすがに学校名とかは伏せられてたけど、警察も慌ててるらしいぜ」

「そりゃそうだろ。なにせ俺達の法具の情報を売るために、あんなことしでかしてたんだからな。そのために精神干渉系術式まで使ってやがったし」

「らしいな。でもそのおかげで、ほとんどの生徒は今回はお咎めなしになるんだってな」

「警察に言われたら信じるし、しかも洗脳までされてたんだから、それで人生棒に振ったら、さすがに泣きたくもなるだろ」

「だけど組み込んだ刻印具は調査されるらしいぜ。掲示板にも警察官だけじゃなく、誰かに頼まれて術式を組み込んだ生徒は調査するって告知されてるしな」


 大河も口を挟んできた。だがそれは当然の話だろう。警察官のような立場の人間に頼まれれば、それが不正術式だとは思いにくいし、精神干渉系術式で洗脳されるなど、思いもよらない。刻印具の調査ぐらいされても、おかしなことは何もない。


「それは当たり前だけど、名乗り出る奴なんているのか?なんだかんだ言っても、不正術式だったってことに変わりはないぞ?」


 飛鳥が気になるのはそこだった。昨日捕まえた生徒は、ほとんど――2,3年生は全員――が無罪放免となるそうだが、1年生には明確な意思を持って行使した馬鹿な生徒もいる。その馬鹿な1年生はともかく、不正術式を組み込んでしまった刻印具がどうなるかは、誰でも知っていることだ。


「事情が事情だからな。不正術式を精神干渉系術式ごと削除して終わりだとよ。そんなわけで警察が専用の機材を持ち込んで、しばらく調べることになってるらしい。さすがに昨日の今日だから、実施は明日かららしいけどな」

「ってことは退学になったのは、委員長が確保した二人だけか。それもそれで問題だな」

「謹慎くらってる奴もいるよ。脅されて金を巻き上げられただけらしいけど、委員長から逃げようとしてたからな。正直に話せば問題なかったってのに、馬鹿な奴だよ」

「それはそれで気の毒だろ」


 そう言いつつも、飛鳥もあまり同情していない。事情はどうあれ、逃げてしまえば事態が悪化することはよくある。飛鳥は詳細を知らないが、退学になった二人の1年生と何らかの関係があったのだろうと推測できる。だから怖くなって逃げてしまったのだろう、そう考えた。


「おはよう」


 そんなことを考えていると、久美が教室に入ってきた。


「おう、水谷。昨日は大変だったみたいだな」

「家に帰ってからの方が大変だったけどね」

「何かあったのか?」


 久美はけっこう疲れた顔をしている。立候補したとはいえ、初めて粛清の執行人になったのだから、それも当然かもしれない。

 もっとも敦は、久美が執行人だったことを知らない。閉門時間間際だったために、校内に残っていた生徒は少なく、さらに飛鳥のネプチューンが展開されていたため、何が起きていたのかを正確に知っているのは風紀委員だけだ。校長にも雅人とさつきが執行したと報告している。さすがに連盟には、執行したのが久美とさゆりだということを報告してあるが。


「後で話すわ。それより飛鳥君に伝言」

「俺に?誰から?」

「京介よ。けっこうショックが強かったみたいだから」

「当たり前だろ。で、何だって?」


 飛鳥も三人の1年生のことは心配だった。特に京介は、目の前で姉が、一流の術師を粛清する執行人としての姿を見てしまったのだから、そのショックは計り知れない。


「昨日はすいませんでした。心を入れ替えたつもりでがんばりますから、ご指導よろしくお願いします、だって」

「……本当にショック受けてたのか?」


 だが久美の口を借りた京介の言葉は、さすがに予想外だった。本人から直接ではないからかもしれないが、あまりショックを受けたようには感じられない。むしろ変わってないようにも聞こえる。


「かなりね。私から言わせれば、すごい心境の変化よ、これ」

「それならいいんだが……昨日の今日だからな。しばらくは様子を見させてもらうけど、それはいいよな?」


 久美が驚くほどなのだから、本当に心境の変化があったのだろう。だが昨日の朝から放課後までの態度を見る限りでは、さすがに額面通りには受け取れない。


「もちろん。それから浩もお願いできる?」

「浩?誰だ、それ?」

「新田のことか?なんであいつまで?」


 大河も疑問を感じた。京介のことは飛鳥が言い出したことだからまだわかる。

 だが浩はそうではない。昨日一緒に巡回した雪乃やまどかは、控えめな性格だと言っていた。そもそも浩は、刻印術師ではないはずだ。飛鳥も大河も、そう思っていた。


「あの子、先祖返りなのよ」


 だから久美の答えに、少し驚いた。


「先祖返りとはまた珍しいな。ってことは刻印術師なのか?」

「ええ。だけど普通の家庭で育ったから、やっぱり術師の家とは根本的に考えが違うのよ。そこに昨日の事件でしょ。だから、ね」

「それこそ久美が面倒みてやった方がいいんじゃないのか?弟の友達なんだし」

「適性的にも、私じゃちょっと難しいの。それも後で話すわ」

「まあ、ここじゃ話しにくいことだから、それはいいけど」


 ごく稀に、術師の家系ではない者が刻印を持って生まれてくる。先祖に刻印術師がいるのではないかという説もあるが、前世が刻印術師だったのではないかという説も、最近になって浮上してきている。輪廻転生は仏教の用語だが、どの宗教にも生まれ変わりや転生といった概念が、少なからず存在する。ある意味ではオカルトに近い説だが、この説を唱えたオーストラリアの学者は、当時の様子を見てきたように語る術師に会ったことがあるらしい。残念ながらその人物は故人となってしまっているが、語られた話には説得力があり、他にも特定の場所で前世と思われる人物の行動を取る者がいることも確認している。

 日本でもこの説は有力視されており、特に三年連続で夏越の舞を舞った真桜は、静御前の生まれ変わりではないかと目されている。鶴岡八幡宮の舞殿は、静御前が時の将軍 源頼朝の命によって舞を強要された場所でもあり、その時に夫である義経を慕う歌を唄ったことから、頼朝の正室である北条政子に命を助けられた場所でもあると、吾妻鏡という書物に記されている。それゆえに特に練習もなく、いきなり夏越の舞を完璧に舞っていた真桜が静御前の生まれ変わりだと考えられても、さほど不思議ではない。このことには前世説を唱えたオーストラリアの学者も興味を持っているらしく、近いうちに鶴岡八幡宮に訪れる予定があるらしい。

 だが当の真桜は、そんなことに興味はない。現世では飛鳥という大切な半身がいるのだから、前世が何だろうと、真桜には関係ないことだった。


「そういや今日だっけ?修学旅行先が発表されるのって?」

「確かね。去年はどこだったんだっけ?」

「USKIAよ。飛鳥が先輩からお土産貰ってたし」

「へえ、興味あるわね。USKIAのどこだったの?」

「そこまでは覚えてないなぁ。けっこう有名なところも行ったって話だったけど」

「昼休みに聞いてみよっか」

「賛成。でも今年はどこになるのかしらね?」

「去年と同じUSKIAじゃない?」

「私はユーロに行ってみたいなぁ」

「いいわね、それ。せっかくなら花の都に行ってみたいわよね」

「私はベネツィアに行きたいわね。ローマも捨てがたいけど」


 少女達の興味は、来月の修学旅行に移っている。明星高校の修学旅行は海外だ。文化や歴史を学ぶことは当然だが、他国の刻印術師との交流も目的の一つだ。同時に修学旅行は、高校生活の重要イベントの一つだ。昨年はUSKIAだったが、今年も同じか、それとも別の国になるのか、それがわかるとなれば、興味を持つ生徒が多いのも当然だろう。

 真桜も同様で、学校行事とはいえ、飛鳥と旅行ができる機会など、そうそうあるものではない。飛鳥が一緒ならどこでもいいが、できればユーロに行ってみたいというのが真桜の本音だ。そしてその思いは叶えられることとなる。

 だがそこで、運命の出会いが待っていることなど、まだ知る由もなかった。


――同日 ユーロ フランス パリ 某所――

「やはりブリューナクの生成者は、あの二名のようです。なおその二名は、所属している高校の旅行で、このパリを訪れることになっています」

「それは好都合だが……万が一があっては日本を敵に回すことになる。貴官も覚えているだろう?神槍事件において発動された、ブリューナクの広域術式を」

「無論です。あれも刻印神器の力の一端にすぎないのでしょう」

「我が国もユーロ圏での発言権を回復させるために、神器生成者は必要だ。こちらの候補は見つかったのか?」

「はい。姉弟ですが、どちらも高レベルの生成者です。ですが一つ問題が」

「何だ?」

「その姉弟ですが、どうも愛し合っているようなのです。どのような影響を及ぼすか、想像もできません」

「確かに懸念材料だな。だが近親婚など、神話などではよくある話だ」

「言われてみればそうですな。では?」

「うむ。一朝一夕でできるとは思わんが、さっそく試してもらおう」


――ユーロ フランス オルレアン サン・クロワ大聖堂――

「ここがサン・クロワ大聖堂か。どうしたの、姉さん?」

「オルレアンに来るなんて、思ってもいなかったからね。ここには私と同じ名前の人がいたわけだし」

「聖女ジャンヌ・ダルク。確かに名前は同じだね。でもジャンヌ姉さんだって、じきに聖女として名を残せるんじゃない?」

「あなたも一緒に、でしょ、クリス」


 ジャンヌ・シュヴァルベとクリストフ・シュヴァルベ。血の繋がった実の姉弟だ。弟のクリスは複数属性特化型刻印法具、姉のジャンヌは融合型刻印法具の生成者であり、フランスにおける最上位の生成者でもある。フランスが二人に目をつけた理由は、血縁者による相性、刻印法具の特性、そしてユーロ圏でも上位に位置する実力者だからだ。


「でも本当に私達にできるのかしら?だって私達……」

「姉さん!」

「ご、ごめん、クリス……」

「姉さんの言いたいこともわかるよ。でも日本で二心融合を成功させた術師は血縁者じゃない。そりゃすごいことだし、簡単にできることじゃないこともわかってるけどさ、お互い愛し合ってるのは僕達も同じだよ。だから僕達なら、きっとできるよ」

「そうね。そうよね。私達ならきっと……!」

「うん。だから姉さん。頑張ろう」

「ええ、クリス」


 実の姉弟でありながら、既に肉体関係すら持っている二人からすれば、日本で二心融合術を成功させた二人は尊敬に値するが、同時に二人が血縁関係にないことも知らされている。血の繋がった実の姉弟である自分達なら、心から愛し合っている自分達なら、日本の刻印神器 神槍ブリューナク以上の刻印神器を生成することも可能だと思える。

 二つの影が一つに重なり合う姿は、誰も見ていない。ここはヘルヘイムの結界の中だ。二人とも一糸纏わぬ姿となり、幾度も交わり、その度に感じる背徳感さえも快楽へ変え、飽きることなく愛し合う。理由などない。

 弟は複数属性特化型刻印法具を、姉は融合型刻印法具を生成しながら、再び交わる。同時に刻印法具も交わり、禍々しく形を変える。ヘルヘイムの闇の中で誕生した剣は、弟の胸を貫き、姉の身体を血に染めた。

 サン・クロワ大聖堂は、フランス陸軍によって閉鎖されていたことが幸いだったかもしれない。ヘルヘイムの闇が晴れた時、そこに立っていたのは一糸纏わぬ裸身を紅に染め、禍々しい剣を手にした少女だけだった。


「我は魔剣ダインスレイフ……。我は解放された。もう二度と封じられることはない。汝は我のしもべとなり、我の手足となってもらう」


 ジャンヌの足下には、愛する弟クリスが倒れている。既に息はない。だがジャンヌは涙すら流していない。ダインスレイフによって支配されてしまっている。同時に発動した闇性神話級戦略広域対象干渉系術式アポカリプスによって、大聖堂を監視していたフランス陸軍すらも闇に飲み込んだ。


「久方ぶりに発動させたが、想定外にしもべの印子を使ってしまったか。つがいだけでも生かしておくべきだったかもしれぬが……まあよい。しもべよ。汝が回復するまでの間、我はしばしの眠りにつく。奴が来るという話は既に知っている。それまでには回復させておけ」


 ダインスレイフはジャンヌの右手の刻印へと消えていった。

 ジャンヌは融合型刻印法具の生成者でもあるため、両手に刻印がある。あったはずだった。

 だが今、左手に刻印はない。ダインスレイフが食ってしまった、と言えばいいのだろうか。クリスの刻印とジャンヌの左手の刻印を吸収し、強烈な自我を目覚めさせ、同時に罪悪感を抱いていた二人を支配し、片方を殺すことによって、ダインスレイフはこの世に顕現した。

 北欧神話において、一度鞘から抜いてしまえば、生き血を浴び、誰かの命を奪わなければ決して鞘には戻らないと言われる伝説の魔剣。それがダインスレイフだ。

 フランスの目論見通り、刻印神器の生成は成功した。だがそれは、悲劇の始まりでしかなかった。


「クリス……私……私達……なんてことを……。なんで、あなたが……」


 ジャンヌは大聖堂の中で立ち竦んでいた。自分が何も纏っていない、紅く染まった裸身をさらしていることなど、どうでもいいことだった。クリスを失い、決して許されぬ罪を背負ってしまったジャンヌは、二度と目を開けない最愛の弟クリスにしがみつき、嗚咽を漏らしていた。


――西暦2097年4月13日(土) ユーロ フランス パリ 某所――

「……なんということだ」

「間違いないのか?」

「はっ。サン・クロワ大聖堂を監視していた部隊は全滅。クリストフ・シュヴァルベの死亡も確認されました」

「……だが刻印神器の生成はできたのだろう?」

「ジャンヌ・シュヴァルベはそう言っておりました。ですが……」

「ですが、何だ?」

「生成された刻印神器 魔剣ダインスレイフは、ジャンヌ・シュヴァルベの刻印の中で眠っているそうですが……彼女はダインスレイフに、意識を支配されていたようです……」

「なんだと……?」

「間違いないのか?」

「推測でしかありませんが、間違いないと思われます。クリストフ・シュヴァルベは、正面から胸を一突きされ、死亡していました。あの状況でそんなことができる者は一人しかおりませんが、ジャンヌ・シュヴァルベがそんなことをするとは……」

「そう、だったな。そして同時に発動した広域系術式によって、陸軍は一瞬で壊滅か……。もしや我々は、寝た子を起こしてしまったのではないか?」

「……貴官はどう考える?」

「仰る通りかと。ダインスレイフは一度鞘から抜き放たれてしまえば、生き血を浴びなければ鞘には戻らないとされる魔剣です。そしてジャンヌの意識を支配までしているとなれば、ことは我が国だけで済む問題ではないかと……」

「……だがようやく手に入れた刻印神器を手放すこともできん。たとえ魔剣だろうと、ユーロでの発言権を高めることはできるからな」

「だが同時に、世界を敵に回す可能性もあるぞ。ましてやジャンヌ・シュヴァルベは、最愛の弟を自分の手で殺したも同然だ。何が起こるか、見当もつかん」

「僭越ながら、よろしいでしょうか?」

「何だ?」

「ご存知の通り、来月にブリューナク生成者がフランスへ訪れる予定です」

「ああ、確か学校の行事だったな」

「はい。ジャンヌ、クリストフ両名にも、ブリューナク生成者のことは伝えてあります。だとすれば……」

「まさか……ダインスレイフはブリューナクを狙っているとでも?」

「否定は、できんな……。北欧神話とケルト神話に直接の関わりがあるとは思えんが……」

「神槍と魔剣が出会ってしまえば、最悪の事態もあり得る、か……。だがダインスレイフの情報を、他国に知られるわけにはいかんぞ?」

「ブリューナク生成者の学校が、予定を変更する可能性は?」

「現時点ではありません。ブリューナクの生成者は非公開となっておりますので」

「そうだったな。とすれば、ダインスレイフとブリューナクの激突を回避するには、日本政府、もしくは日本刻印術連盟には伝えねばならんということか……」

「だがそうなれば、他国にも情報が漏れることになるぞ。ユーロ諸国も黙っているはずがない」

「……ジャンヌ・シュヴァルベはどうしている?」

「独房で大人しくしています。自ら命を断つ可能性も高いため、二四時間体制で監視も続けています」

「彼女は何か言っていたか?」

「……本心かはわかりませんが、ブリューナクの生成者達と会ってみたいといったようなことを口にしていたようです」

「益々もって危険だな……。ん?何だ?」

「申し訳ありません。部下からの報告です。よろしいでしょうか?」

「構わん。出ろ」

「はっ。私だ。何かあったのか?何だと?間違いないのか?わかった。監視を続けろ」

「何があった?」

「ジャンヌ・シュヴァルベの左手の刻印が、消えているそうです……」

「なんだと?どういうことだ?」

「詳細は不明です。今弟の死体も調べているそうですので、そちらにも何かあれば報告が来る予定になっています」

「……私はこの件を公表すべきだと思う。ジャンヌ・シュヴァルベは融合型刻印法具の生成者であり、両の手に刻印を持っている。だがその彼女の左手から刻印が消えるなど、ただ事ではない」

「だがそれでは……!」

「ユーロでの我々の立場がなくなるぞ!」

「だがこのままでは、我々はユーロだけではなく、世界からも孤立することになるぞ!手をこまねいていては、最悪の事態もあり得る!」

「だからといって、刻印神器を……!またか?」

「申し訳ありません。私だ。なんだと!?それで行き先は?……そうか。わかった。現状の任務の優先度を下げ、彼女の捜索を最優先とする」

「どうしたのだ!?」

「ジャンヌ・シュヴァルベが、逃走しました」

「逃走だと!?どういうことだ!?」

「ダインスレイフが生成されていたということですから、おそらくジャンヌの意思ではなく、ダインスレイフの意思ではないかと。いずれにせよ、放置できる状況ではありません」

「やむをえまい……。ジャンヌ・シュヴァルベの身柄確保を最優先とし、それまで議題は一時預ける。異議は?」

「仕方なかろう」

「なるべく早く身柄を確保してくれよ」

「努力いたしますが、刻印神器相手にどこまでやれるか……」

「それでもだ。失敗は許されんのだ。たとえ、どちらに転ぼうとな」

「はっ」

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