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刻印術師の高校生活  作者: 氷山 玲士
第七章 神器繚乱編

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31・三女帝の罠

 真桜の生成したフェイルノートを見た生徒会は、混乱の極致にあった。

 真桜が生成する刻印法具は、左手の弓剣状武装型ブレイズ・フェザー、右手の情報端末状携帯型シルバー・クリエイター、そして弓杖状融合装飾型だという事は、生徒会全員が知っている。

 だがフェイルノートは、そのいずれにも合致しない。

 強いて言えばブレイズ・フェザーが似ているが、細部は微妙に異なっているし、醸し出す雰囲気はブレイズ・フェザーより神々しいし、何より言葉を話しているのだから、明確に違うと断言できる。


「これについては、オーストラリアとの問題も絡むし、秘匿は無理よね」

「というか、今晩辺りに公表するって話じゃなかったっけ?」


 呑気そうな声でイーリスとニアが口を開くが、そんな事は何の救いにもならない。

 見れば雅人やさつき、五剣士達も、どうしたものかといった顔をしている。


「と、とりあえず、助けてくれない?体勢的な問題もあるけど、さすがに刻印神器相手は分が悪いわ……」


 珍しく、本当に珍しく弱々しいセリフを口にする菜穂だが、その中には聞き逃せない単語がある。

 既に五剣士は諦めているし、飛鳥も額に手を当てて下を向いた。


「……へ?」

「こ、刻印神器……?」

「やむを得まい。真桜の手にある弓は、紛れもなく刻印神器じゃ。名を聖弓フェイルノートという」


 そしてついに、レーヴァテインが暴露してしまった。


「ええええええええええええっ!!」

「マジでかっ!?」

「ついでという訳ではないが、飛鳥も聖剣カラドボルグを生成可能となっておる」


 さらにレーヴァテインは、飛鳥のカラドボルグの存在も口にした。


 カラドボルグとフェイルノートは、アダムとエヴァというオーストラリアの融合型生成者から刻印を継承した結果、生成に成功している。

 そのためオーストラリアとの間で問題になる事が確定しているため、飛鳥と真桜が未成年であろうと、非公開といった方法を取ることが出来ない。

 だからこそ今晩、飛鳥と真桜が刻印継承を行い、自身の刻印法具と共に刻印融合術を使う事で、新たな刻印神器を生成した事が公表される予定になっている。


 その際、アーサーと雪乃も、二心融合術を成功させ、聖杯カリスを生成した事も、合わせて公表される予定だ。


「レーヴァテイン、バラすなよ」

「文句は其方の母親に言うのじゃな。七師皇の妻が口にしてしまった以上、隠し切れるものでもあるまい?」

「そうだけどな……。さつきさん、真桜をお願いできます?」


 ついうっかりフェイルノートを生成してしまった真桜は、勢いこそ弱まっているが、未だに菜穂にそのフェイルノートを振り下ろしたままの恰好だ。

 菜穂も、先程より幾分楽になってきているが、少しでも気を抜けばそのまま押し切られる勢いと自身の体勢も相まって、あまり余裕は無い。


「了解よ。真桜、今から説明しないとだから、今回はこれぐらいで許してあげたら?」

「ううう……分かりましたぁ」


 自分がフェイルノートを生成してしまったばかりに、とんでもないことをしてしまったと内心で思っていた真桜は、さつきが声を掛けると同時にフェイルノートを引いた。

 これは菜穂を許したわけではなく、単純に飛鳥かさつきが止めてくれるのを待っていただけとも言える。


「それで飛鳥、どうするつもりだ?」

「今晩公表予定ってことですし、ここまで来たら早いか遅いかだけかと。見せるつもりはなかったんですが」

「そうだろうな」


 雅人としても、苦笑するしかない。

 飛鳥がカラドボルグを、真桜がフェイルノートを生成出来た理由は、エクスカリバーに刻まれていたアダム、エヴァという、オーストラリアの融合型生成者の刻印を継承したからだ。

 刻印継承によって受け継いだ刻印に刻印融合術を発動させ、新たな融合型刻印法具を生成したとされる者は、数は少ないが確認されているため、驚きではあるがまだ受け入れやすい。

 だが刻印神器を生成した者は存在せず、そればかりか同じ刻印神器であるゲイボルグやレーヴァテインでさえ初めてだと口にしていたぐらいだ。


「さすがに機密もあるから、どこまで話していいのかは判断出来ないんですけどね」

「そこは叔母様に責任取ってもらいましょう」

「ああ、そうしますか」


 飛鳥もさつきも、今回の件がどこまで公表されるのかは聞いていない。

 だが菜穂は日本の七師皇の夫人であり、日本刻印術連盟代表補佐でもあるため、当然のように知っている。

 だからこそ二人は、責任を取らせるという意味も込めて、説明を丸投げすることにした。


 娘から開放された菜穂は、一瞬イヤそうな顔を浮かべたが、今度は息子まで生成しそうな素振りを見せたため、慌てて説明に入った。

 かなり慌てていたため、いきなり飛鳥と真桜の刻印継承から始まったのは仕方がないかもしれないが。


 既に故人とはいえ、自国の生成者から刻印を継承した以上、オーストラリア政府が黙っている理由は無いし、そのつもりもない。

 事実、既にオーストラリア政府は、日本政府に飛鳥か真桜のどちらか、あるいは両方の身柄を引き渡すよう要請してきている。


 ここまでオーストラリア政府が強気な理由は、アーサーとともに二心融合術を行い、聖杯カリスを生成した雪乃の存在も大きい。

 アーサーも雪乃もまだ学生だが、アーサーは聖剣エクスカリバー生成者として、オーストラリアを代表する刻印術師となっている。

 そのアーサーと二心融合術を行った以上、オーストラリア政府は雪乃がオーストラリアに移住するのは当然だと考えており、飛鳥と真桜の身柄引き渡し要請も雪乃が移住する事を前提としていた。


 だがこれに異を唱えたのが七師皇であり、アーサー本人だった。

 オーストラリア政府上層部も、飛鳥と真桜が神槍ブリューナク生成者だという事実は掴んでおり、今回の刻印継承はカリスのみならず、カラドボルグ、フェイルノート、そしてブリューナクさえも自国に取り込める絶好の機会だと勘違いした者が少なくなかった。


 そんな政府上層部に、アーサーは国外脱出はおろか、敵対すら示唆して警告を行っている。

 アーサーにとって、オーストラリア政府はアイザックの暗躍を黙認し、師やその家族の命を奪った遠因でもあるため、自国のあまりの横暴に怒りを覚え、敵意を以て警告まで発していた。

 そのためオーストラリア政府は、飛鳥と真桜を自国に引き入れる事を諦めざるを得なかった。


 本来であれば、結論を出すために何ヶ月も掛かってもおかしくはないのだが、さすがに刻印神器が敵に回ってしまえば自身の政治家生命はもちろん、亡国にも繋がってしまうため、与党はもちろん野党も大筋では同じ意見だったため、たった1日で話が纏まるという結果になっていた。

 ちなみに大筋ではとあるように、飛鳥と真桜のどちらかをオーストラリアに招くという意見は残っており、これは刻印継承を果たした二人のうち一人をという至極真っ当な言い分のため、オーストラリア政府も意見が分かれているようだ。


「というワケなのよ」


 菜穂の説明は、飛鳥と真桜の刻印継承から始まる、オーストラリアとの問題が中心だった。

 神器大戦については、魔剣アゾットがラピス・ウィルスを撒き散らし、それを打ち消すために撃滅するというのが大筋になるため、話しの流れとしても秘するべき内容はさほど多くはない。

 だがその過程において、刻印継承から神器生成、さらには刻印神器と複数属性特化型による二心融合術が行われ、そのために日本とオーストラリアとの間で問題が起きかねないという問題が発生してしまっていた。

 だからこそ七師皇にとっても頭の痛い話になっていたのだが、それは日本政府も同様だったはずだ。


 だが生徒会からすれば、そんな事はお上の仕事になるし、自分達がどうにか出来る問題ではないと理解している。

 そんな事よりも、目の前の同級生達が、新たな刻印神器を生成してしまった事の方が遥かに問題だ。


「あ、頭が……」

「俺、帰っていいか?」


 現実逃避をしたくなる気持ちは、五剣士達もよく分かる。

 だが現実は非情であり、この場から逃れることが出来たとしても、今晩公表される事は決まっているのだから、結果的に被害は変わらないだろう。


「それに関してなんだけど、雪乃ちゃんが大学を卒業と同時に、オーストラリアに行く事になったわ」


 そして一部の者にとって、死刑宣告が下された。


「……へ?」

「そ、そうなんですか?」


 少し頬を染めた雪乃に視線を向けながら、菜穂がそう口を開いた。


「ええ。雪乃ちゃんは大学で前世論を、というより歴史や人物史を専攻するんだけど、前世論の発祥はオーストラリアだし、権威であるマーリン・フェニックス教授もオーストラリア在住だからね。それにアーサー君と二心融合術を成功させてるから、そっちの面でも適任なの」

「へー、そうなんですね。……って、二心融合術を成功させた!?」

「嘘でしょっ!?」


 一瞬納得しかけた真子だが、さすがに二心融合術を成功させたという話は聞き逃せない。


「と、というか、アーサーさんってエクスカリバーの生成者ですよね!?なのに二心融合術を試したって……そんな事出来るんですか!?」

「出来ちゃったわね」

「エクスカリバーの強い要望だったしね」

「あれは凄かったわね」


 軽い感じで答える三女帝に、真子は絶句するしかなかった。


「って事は、まさか三条先輩は、アーサーさんと結婚するってことですか!?」


 連絡委員長がもの凄い形相で割り込んできた。

 壮一郎は雪乃に惚れており、ここ数ヶ月で数々の問題を起こしてきていたが、さすがにこれは想定外の事態でしかない。


「ええ、そうよ」

「多分近いうちに、正式に婚約って事になるでしょうね」


 膝から崩れ落ち、床に手を付いて嘆く壮一郎。

 雪乃とアーサーは顔を赤くしているが、同時に少し照れたような顔にもなっているため、既に割り込む余地はどこにもない。


「二心融合術を成功させたんですから、それは分からない話でもないですけど……」

「でも先輩の法具って、確か世界でも類を見ない貴重な法具でしたよね?日本的には問題になりませんか?」

「なるけど、こればっかりは仕方がないわ。まあ里帰りとかもしたいだろうから、オーストラリアから出国できないなんて事態は避けたけど」


 雪乃は明星大学卒業と同時にオーストラリアに移住する予定だが、実家は日本の鎌倉にあるため、里帰りなども考慮する必要がある。

 そうなると婚約者予定のアーサーも該当してしまうため、オーストラリア政府は難色を示したのだが、そこは日本政府や日本刻印術連盟が頑張ったようだ。

 正式に決まった訳ではなく、まだ微調整も必要な上にそれぞれの国内でも議論が必要だが、これについては飛鳥と真桜も無関係ではいられないだろうと予想されている。


「あとは……そうね。飛鳥、生徒会と風紀委員会は、今晩うちに招待しなさい」

「は?なんで?」

「面白い事になるからよ」


 突然菜穂が意味の分からないことを口にしたが、飛鳥からすれば嫌な予感しかしない。


「ほほう。いいではないか。妾はあまり人前では生成されぬ故、これほどの子が集まる場で話せるのは楽しみだ。それにオウカの学校生活とやらも、可能であれば直接聞いてみたいものだ」


 さらにレーヴァテインまでもが、嬉々として賛成してしまった。

 となると当然、ニアやイーリスも賛成という事になるだろう。


「だそうだ。どうやら拒否権は無さそうだぞ」


 全てを諦めたような顔で、飛鳥が生徒会にそう告げる。

 確かに三女帝にレーヴァテインまでもが賛成となると、拒否権はもちろん逃げる事も不可能だ。

 気の毒だとは思うが、自分にはどうしようもない。

 それは飛鳥だけではなく、五剣士も同様だ。

 なるべく被害を抑える努力はするが、果たしてどこまでできるか、飛鳥には皆目見当がつかなかった。

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