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刻印術師の高校生活  作者: 氷山 玲士
第七章 神器繚乱編

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30・事後報告

――西暦2098年2月19日(水)PM15:17 明星高校生徒会室――


 宮城県沖でアイザック・ウィリアム、並びにアゾット生成者ラヴァーナを倒してから2日経った。

 国際問題も絡んでくるために事後処理はまだまだ掛かると聞いているが、未だ高校生の飛鳥達に出来る事は無い。


 いや、一つあった。

 以前ラヴァーナのホムンクルスが明星高校を襲った事があるし、アゾットがばら撒いたラピス・ウィルスの事もあるため、ある程度は生徒会にも説明しなければならない。

 生徒会長のかすみをはじめ、生徒会役員もそれは理解しているが、連盟から許可が出なければ話せないと聞かされていたから、ようやく許可が下りた今日は、準役員も含めて全員が生徒会室に集まっている。


 だがそこに、まさか刻印五剣士が勢揃いしているとは思いもしなかった。


「な、なんだ……この圧迫感は……」

「圧迫感というか……空気が……」

「ここ、生徒会室よね?」


 迅、瑠衣、真子が戦々恐々としているが、ここは間違いなく明星高校の生徒会室であって、それ以外のどこでもない。


「何を当たり前のことを」

「あのね……」


 飛鳥にとっては何を言っているんだと呆れるしかないが、かすみ達生徒会からすれば刻印五剣士が勢揃いするなど、想定外の事態だ。

 だから慣れ親しんだはずの生徒会室も、連盟の一室なのではないかと錯覚してしまったほどだ。

 設備はそこまでランクが高い訳ではないから、尚更場違い感がしている気もする。


 だがそこに、更なる追い打ちが姿を現した。


「ごめんごめん、遅くなったわ」

「もう揃ってるの?」

「もう、ニアが寄り道なんてしてるからよ?」

「久しぶりだからついね」


 現れたのはニア、イーリス、菜穂の三人だった。

 まさかの三女帝の登場に、生徒会は驚きすぎて声すら出ない。


「母さん、理事長や校長との話は終わったのか?」

「ええ。さすがに絶句してたけど、こればっかりは仕方ないわね」

「前例があるとはいえ、今回は事情が違うもんね」


 生徒会には、目の前の風紀委員長とその妹兼婚約者が何の話をしているのか、さっぱり分からなかった。

 確信を持てるのは、自分達にとってまたしても厄介事を持ち込まれたという事だけだ。


「あ、ごめん。えっとね、実はイーリスさんの娘さんも、春から明星高校に留学してくる事になったんだ」

「「「「「はあああああっ!!」」」」」


 真桜の爆弾発言を受け、生徒会は全員が素っ頓狂な声を上げた。

 ロシアの七師皇 ニアの娘であるオウカが明星高校に留学してきてまだ半年も経っていないというのに、今度はドイツの七師皇の娘まで留学してくるなど、何がどうなっているのかさっぱり分からないし、どうすればそんな事態になるのかも理解出来ない。

 だというのに、そこにイーリスから、さらなる爆弾が投下された。


「あと私は、昨日付けで七師皇の立場を返上したから、もう七師皇じゃないわ。日本への亡命も受け入れられたしね」

「「「「「ぼーめーっ!?」」」」」


 再び生徒会に、悲鳴が木霊した。

 七師皇まで勤め上げた超一流の生成者が亡命してくるなど、一大事でしかない。

 というか、そんなことが起こっているなら、どこのテレビ局もそのニュース一色になってもおかしくはないというのに、何故か報道すらされていないし、噂すらなかった。

 本当に何がどうなっているのか、生徒会は混乱しまくっている。


「詳細は明日公表予定よ。だけどこの子達がいるせいでみんなにも迷惑を掛けたから、先に説明しておこうと思ってね」

「残念ながらリリーは連れてきてないけど、近いうちに挨拶させるわ」


 結構です、という言葉を生徒会全員が飲み込んだ。

 確かに迷惑を掛けられた覚えは多々あるが、だからといってドイツの七師皇が立場と称号を返上した上で亡命し、その娘が明星高校に留学してくるなど、厄介事で済めば御の字な気がして仕方がない。

 普通にニュースで知ってもダメージは大きいというのに、よりにもよって当人から直接説明など、本当に勘弁してくださいという気持ちでいっぱいだ。


 ちなみにイーリスの娘 リリーは、今日はセシルの護衛、というか案内の元、鎌倉の街を散策中だったりする。


「あなた達、いったい何してたの?」


 ところが菜穂は、生徒会の面々が怯え、及び腰になっている事が気になった。

 飛鳥と真桜が入学してからかなりの数の事件に巻き込まれているから、それが原因なのは間違いないのだが、それ以外にも何か理由があるような気がする。


「巻き込んだ事が多いんだよ。特に魔剣事件や平家事件、それと今回の神器大戦もか」


 今回の一連の事件は、現存する刻印神器、及び新たな刻印神器の全てが関与していた事もあり、神器大戦と呼ばれるようになっていた。

 飛鳥は大仰な呼び名だと思ったが、ここにいる生徒会の面々は納得していたし、世間も同様だ。

 カラドボルグ、フェイルノート、カリスの生成者については未だ公表されていないが、日本だけではなくオーストラリアも絡んでいる問題のため、近日中に公表予定でもある。


「魔剣事件はともかく、平家事件や神器大戦は、確かにここも襲われたって言ってたわよね」

「それを言ったら、神槍事件もじゃない?」


 イーリスのニアの挙げた3つの事件は、明星高校にとっても他人事ではない。

 魔剣事件は2年生の修学旅行中であり、狙われたのが生成者達だからこそ被害は無かったが、平家事件や神槍事件はこちらの被害を無視した上で校内に侵入されている。

 特に神槍事件は、多くの生徒が生成者と相対しており、死者が出なかったことが奇跡だと言われているぐらいだ。

 校内に侵入された事件はまだいくつかあるが、それらも飛鳥達が鎮圧、もしくは粛清しており、その現場を目撃した生徒も少なくない。

 だからこそ生徒会がフォローに回っていたのだが、はっきり言えばそれは生徒会の仕事ではなく、教師の仕事だとかすみは思っている。


「なるほどね。新学期になったら一ノ瀬君やセシルさんも正式に赴任するけど、もう少し人数を増やした方が良いのかしら?」

「そうしてくれ。というか、正式な術師教員が名村先生だけっていうのがおかしいだろ?」


 菜穂の提案に、すぐさま飛鳥が飛びついた。

 現在明星高校に正式に赴任している術師教員は、名村卓也だけ。

 さゆりの兄 一ノ瀬準一もいるが、準一はまだ大学生でもあるため、正式に赴任している訳ではない。

 4月からは準一も正式に赴任する予定だし、近々卓也と結婚する予定のセシルも同様に赴任してくるが、それでも術師教員が3人というのは、生成者が8人 雪乃が卒業するために1人減るが、それでも明星高校には不足していると言える。


「とはいえ、人選は結構難しいのよねぇ。あなた達の事もあるし、機密保持の問題もあるから」


 術師教員増員の問題は、菜穂にとっても頭の痛い問題だ。

 本来であれば、とっくに人員が派遣されている問題なのだが、飛鳥と真桜がブリューナク生成者である事は国の最重要機密でもあるため、多くの術師は誰がブリューナク生成者なのかを知らされていない。

 当初は卓也も知らなかったのだが、当時は過激派に送り込まれていた術師教員が相次いで粛清され、明星高校にはいないという状況だったため、急ぐ必要があった。

 その卓也も、魔剣事件で生成者を知る事になったが。


 術師教員は、校内で行われる刻印術の使用や試験に関する監督、監視任務がある。

 特に術式試験に関しては、術師教員の立ち合いが法律で定められているため、一人もいないという事態になってしまえば、試験そのものが出来ないため、大きな問題にしかならない。

 そのため、生成者である必要はないが、刻印具が破損する可能性もあるため、刻印術師であることが望まれている。

 必ずという訳ではなく、刻印術師ではない術師教員も少なくないが。


 ところが明星高校では、その術師教員が極端に少ない。

 しかもタイミングの悪い事に、諸事情で術師教員の主任が退職し、もう一人が産休で休職してしまったため、飛鳥達の入学直後は一人だけになってしまった。

 さらにその術師教員が過激派と繋がりがあったのだから、連盟も慌てて増員を用意したのだが、今度はその増員が過激派と繋がりがあったどころか過激派そのものだったのだから大変だ。

 特に後者は、連盟にとっても失態でしかなかったため、術師教員の選別はかなり厳選に行われ、その結果卓也に白羽の矢が立った形になる。


 その後、総会談においてブリューナク生成者をなし崩し的に知ってしまった大学生の準一も、教育実習生という扱いになり、4月から正式に赴任する。

 同じく日本に永住を決めたセシルも、フランス有数の術師であり連盟も素性を把握している事もあり、準一と同じく4月から赴任予定だ。

 卓也との結婚は夏か秋になるそうだが、結婚後も夫婦共に明星高校で教鞭を取るとも聞いている。


「イーリス、日本での生活費を稼ぐためにも、非常勤講師にでもなる?」


 菜穂からのまさかの打診に、飛鳥達を含む明星高校生全員が驚愕した。

 元とはいえ七師皇が講師になるなど、さすがに想定外だし、授業を受ける身としては緊張して何も身につかないのではと感じてしまう。


「それも面白そうだけど、私もエアハルトも、特に仕事に困るような事はないのよね」


 イーリスも、夫であるエアハルトも、共に医者であり医学者でもあるため、働き口に困る事は無い。

 そればかりか二人とも高名なため、既に日本全国から打診が来ているぐらいだ。

 もっともイーリスもエアハルトも、鶴岡八幡宮での軟禁が続いている息子アクセルの事もあるため、鎌倉から離れるつもりはないが。


「それはそれで羨ましいのよね。私もしばらく日本に滞在したいぐらいだし。レーヴァもそう思うでしょ?」

「それについては、妾も同意じゃ」


 何を思ったのか、ニアが無造作にレーヴァテインを生成している。

 まさかこんなところで刻印神器 魔剣レーヴァテインを見る事になるとは思ってもいなかった生徒会は、見事に全員が固まってしまった。


「ニアさん……なんでレーヴァテインを……」


 飛鳥や雅人にとっても、これは全く予想外だ。

 激しく頭が痛い。


「オウカがお世話になってるんだし、レーヴァも気にしてたからね。それにオウカがどんな学校に通ってるのか、直接見てみたいって言われてたのよ」

「その通りじゃ。さらにここは、ニアや菜穂の母校でもある。妾が興味を持つのも当然であろう?」


 そう言われてしまうと、そんなものかもしれないと思わずにはいられない。


「いや、納得してるなよ?そもそもレーヴァテインどころか三女帝も、絶対に面白半分に決まってるだろ」


 納得しかけた飛鳥と雅人だが、ミシェルの呆れたような声で正気に返った。

 確かにそちらの方が、遥かに説得力は高い。


「酷いわね、ミシェルも。まあ、そんな考えがあるのは否定しないけど」


 やっぱりか、という思いが、瞬時に五剣士に共有された。


「はあ……。あんまりこの子達をいじめないで下さいよ?」


 さつきも頭が痛いが、三女帝に言葉での警告が意味をなすかは疑問でしかない。

 五剣士どころか三女帝の突然の来訪でいっぱいいっぱいになっているというのに、さらに魔剣レーヴァテインまで生成されてしまったのだから、後輩達の気持ちがどんなものなのかは察して余りある。


「時に雪乃よ、そなた、本当に構わないのか?」


 そのレーヴァテインは、話の矛先を雪乃に向けた。

 生成されてから18年、女性人格の刻印神器はレーヴァテインのみだったところ、先日二心融合術を使ったとはいえ、雪乃が聖杯カリスを生成した。

 エクスカリバーの鞘ではあるが、カリスの人格も女性であるため、レーヴァテインにとっては初めて出来た同性の刻印神器という事になる。

 友人としては菜穂やイーリスがいるが、同種の存在という意味ではカリスの存在は大きいらしい。


「え?あ、はい。ちゃんと考えて決めましたから」

「面倒事を押し付けた形になるけど、本当に構わないの?」


 菜穂にとって、雪乃の決断はありがたく、同時に申し訳ないと思える。

 おかげで思っていたより遥かに楽に問題が解決したのだが、それでも本当に良かったのか、改めて聞いておきたい。


「はい。恩返しという気持ちもありますけど、それ以上に私のためにもなる事ですから」

「ありがとう、雪乃ちゃん。良かったわね、真桜。これで飛鳥が取られる心配も無くなって」

「ちょっ!!」

「な、何言ってるの!?」


 ここで良い話風に終わらないのが、三女帝が三女帝たる所以だろう。

 菜穂の槍玉に上がったのは娘だが、さりげなく息子にも流れ弾が飛んでいる。


「何って、事実を言っただけじゃない。前世論の事もあるし」


 意地の悪い笑みを浮かべる菜穂。

 事ここに至って、完全に娘で遊ぶ気満々だ。


「そういえば私も、相談されたわね。飛鳥君の前世の件で、雪乃ちゃんが急接近してるって」

「ニアさん!?」


 さらにニアまで菜穂に加勢してしまった。

 父を巡ってのライバルだっただけあって、こんな時でも息はピッタリだ。


「噂には聞いてたけど、真桜ちゃんてホントに可愛いわよね」

「ヤキモチが過ぎるけどね」

「あとはもうちょっと、身長があっても良かったと思うのよねぇ」


 確かに真桜の身長は、150センチもない。

 本人は気にしてないし、飛鳥もそうなのだが、菜穂にとってはそうではなかったようだ。

 だがそんな事より、三女帝が団結して自分をいじめにかかっている事実の方が問題だ。

 特に母については、この場で命を貰っておいた方がいい気がする。


「お母さん、覚悟!」


 瞬時にそう判断した真桜は、フェイルノートを生成し、菜穂に斬りかかった。


「ちょ、ちょっと真桜!いくらなんでも、フェイルノートはないんじゃない!?」


 咄嗟に真剣白刃取りでフェイルノートを受け止めた菜穂だが、さすがに不意打ちだったため、体勢的にもけっこうキツい。

 しかも菜穂の法具は、複数属性特化型とはいえイヤリング状のため受け止める事も出来ないし、それでなくとも刻印神器を振りかざされてはたまらない。


「姫よ、我も母君の意見と同意だ」


 呆れたようなフェイルノートの声が響く。

 フェイルノートは聖弓だが、ブレイズ・フェザーの要素も継承しているため、両弦を刃に変化させる事も可能だ。

 今回はそこまでしていないが、いきなり生成されたと思ったら母に向かって振り下ろされたのだから、フェイルノートとしても呆れるしかない。


 それは雅人達も同様だが、それで済まなかった者達もいる。

 言うまでもなく生徒会の面々だ。


「ま、真桜……、何、その法具は……」

「というか……法具が喋った?」

「あ……」


 かすみと真子の囁きに我に返った真桜は、どうやって説明しようかと、心の中で頭を抱え、母に対して呪詛を吐くのだった。

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