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刻印術師の高校生活  作者: 氷山 玲士
第七章 神器繚乱編

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28・潰える野望

 ミシェル、アルフ、星龍、美雀のよ任は、それぞれラム・クリムゾンとプロテクション・チェイン、蒼龍刀、朱雀扇を自在に操り、S級を含む刻印術を発動させながら、次々とインセクターの生成者達を屠り、既に半数以上を倒している。

 だがそのタイミングで、アゾットの神話級術式ホムンクルスによってラヴァーナの分身体が呼び出されたため、3人はアイザックに近付けないでいる。


「ちっ!うざってえな!」

「強行突破は可能だが、こちらも相応のリスクを負うな」


 ラヴァーナの分身体は、以前明星高校で対峙した事があるため、強さもどの程度のものか知っている。

 だがあの時より数が多いため、さすがのミシェル達も厄介だと感じてしまった。


 だがそこに、天から光の槍が突き刺さり、ホムンクルス達を瞬時に消し去った。


「これがロンゴミニアドか。ホムンクルスごときには勿体ない気がするがな」

「こちらとしては、助かるけどな」


 天からの光の槍の正体は、カリスの神話級戦術型広域攻撃対象系術式ロンゴミニアド。


 ロンゴミニアドはエクスカリバー同様、アーサー王が所有していたとされる聖槍だ。

 伝説では、サクソン人をブリテン島に招き入れ、混乱をもたらしたヴォーティガーンを倒したとされ、カムランの戦いにおいては、円卓の騎士であり異父姉モルガンとの間にできた不義の子モルドレッドを貫いた槍でもある。


 その聖槍の名を持つ戦術級術式は、領域内の対象に光の槍を放つ術式であり、ブリューナクのアンサラーと概要はほとんど同じ術式でもある。

 聖槍の名を冠した神話級術式は、この場のホムンクルスの半数程を一瞬で消し去っているが、本来であれば全滅させる事も容易だ。

 雪乃がカリスを生成したのは昨日であり、ロンゴミニアドを使用したのは今回が初でもあるため、今回は試射という意味もある。

 それに雪乃は、現在はアーサーと共にアイザックと対峙しているため、こちらに意識を割くのも難しい。

 だが雪乃は、その難しい事をやってのけた。

 しかも視線を向けてみれば、7つの惑星がアイザックやその周囲にいるホムンクルス、インセクターの周囲を旋回し、閉じ込めている。


「話には聞いていたが、あれがプラネット・クライシスか」

「セシルさんは天才だと言ってたが、マジでそう思えるな」


 アルフ、ミシェルのセリフには、驚嘆が混じっている。

 雪乃のプラネット・クライシスが完成したのは、今から3ヶ月ほど前、平家事件の最終盤だ。

 7つの惑星型術式、自身が開発した2つのS級術式を組み込んだそれは、ワイズ・オペレーターを完全生成しなければ行使する事は叶わない程の処理能力を要求されるが、それに見合うだけの威力と性能を誇る。

 その証拠に、日本の伝説にある鬼達を相手に、属性相克の個別反転までさせることで、ほとんど一方的に殲滅してしまっていた。

 その様を目の当たりにしていたミシェルのかつての上司は、思わず天才だと口にしたほどだ。


 刻印術は刻印から発動しているため、プラネット・クライシスどころか神話級術式であっても、刻印を破壊すれば破る事が出来る。

 刻印五剣士は術式刻印の破壊に長けており、刻印五剣士である一因にもなっているのだが、それでもプラネット・クライシスの術式刻印の破壊は無理ではないかと思えてしまう。

 しかも今回はワイズ・オペレーターではなく、聖杯カリスから発動しているのだから、強度も精度も段違いになっているだろう。


「この分じゃ、あっちは俺達が手を出すのは無理っぽいな」

「だな」

「とはいえ、我々にも権利がある。違うか?」


 星龍のセリフに、ミシェルもアルフも、口角を持ち上げ、不的な笑みを浮かべた。


「違わねえな」

「なら話は簡単だ。こいつらをとっとと殲滅して、俺達も行かせてもらうとしようぜ」

「異議は無い」


 誰がアイザックと当たるかは、特に打ち合わせは行っていない。

 だが法具や適性の関係から、雪乃が最も適している事は分かっていた。

 その雪乃は、アーサーとの二心融合術で聖杯カリスを生成してしまったのだから、アーサーもアイザックと相対する事になるのは必然でもある。

 それでもミシェルもアルフも星龍も、アイザックに一太刀入れる事を諦めてはいない。

 この場にプリトウェンが展開されている事は日本軍も承知の上だが、だからといって長時間の展開は近隣住民の不安を煽る上に、怖いもの見たさでやってくる者が出てくる可能性が否定できない。

 だからこそ、可能な限り速やかに、アイザックとラヴァーナを倒す事が必要になる。


 だからこそ3人は、刀身にそれぞれのS級術式を発動させ、残っているホムンクルスやインセクターを即座に倒すことにした。

 ただ一人、美雀だけは、自分が来る必要があったのかと盛大な疑問を抱いていたが。


 一方、プラネット・クライシスに捉えられたアイザックは、予想外の展開に戸惑っていた。


「馬鹿な!私が破れない術式だと!?」

「カリスのおかげで、強度も精度も段違いになっていますから。容易に脱出できるとは思わないでください」


 雪乃にとって、アイザック・ウィリアムは直接的な仇というわけではない。

 自身が狙われた事もあるし、後輩や弟妹が狙われた事もあるが、幸いにも無事であるため、自らの手で直接という思いは、この場に集った者達の中では一番低いだろう。

 それでもこの男を生かしておけば、さらなる悲劇を生む事は間違いないし、自分ばかりか家族や友人も巻き込まれるかもしれない。

 既に立花勇輝、ジャンヌ・シュヴァルベ、クリストフ・シュヴァルベといった身近な犠牲も出ているのだから、この場で禍根を断つ必要がある事も理解している。


「お、おのれっ!」


 自分の半分も生きていないような小娘が開発した術式を破る事が出来ない、思ってもいなかった事実に、アイザックの心は屈辱と怒りで支配されていた。

 そこに、アーサーのセリフが刃となって突き刺さった。


「何故僕達が、神話級であなたを狙わないと思う?」

「な、なんだと?」

「さっき雪乃さんは神話級を使いましたが、狙いはあなたではなく、ミシェルさん達を狙っていたホムンクルスだった。だがやろうと思えば、あなたを狙う事も可能だったんだ。にもかかわらず、何故あなたは、今無事でいられると思っている?」


 アーサーに問われたアイザックは、神話級という言葉に青ざめた。

 先程雪乃が発動させた神話級術式ロンゴミニアドは、アーサーの言う通り部下やラヴァーナの発動させたホムンクルスのみが対象になっており、自分は対象外だった。

 いや、プラネット・クライシスに閉じ込められた者が、対象外だったと言うべきだろう。

 いかにプラネット・クライシスが強固であっても、神話級を防ぎきれるとは思えない。

 にもかかわらず、何故雪乃は、自分をロンゴミニアドの対象から外したのか、その理由は、他ならぬ雪乃の口から語られた。


「私にとって、あなたは仇とは言えない存在ですが、他の皆さんにとっては仇です。ですから一太刀でも、皆さんに無念を晴らしてもらいたい、そう思ったからこそ、今はあなたを閉じ込めるだけにしているんです」


 雪乃は、自分が元とはいえ、七師皇を閉じ込める術式を使えるとは思っていなかった。

 事実、ワイズ・オペレーター使ったプラネット・クライシスでは、破られていた可能性がある。

 五剣士ほどではないが、アイザックも七師皇に名を連ねる程の実力者なのだから、術式結界を破る事は不可能ではない。


 だが今雪乃が生成しているのは、刻印神器 聖杯カリスだ。

 術式の強度も精度も何もかもが、ワイズ・オペレーターで発動させるより段違いに上となる。

 いかな七師皇といえど、用意に脱出は出来ないし、そればかりか抵抗すら出来ずに命を落とす事もあり得るだろう。


「こ、この私を相手に……手加減をしているだと!?ふざけるなっ!」


 その事実に激昂するアイザックだが、答えたのは冷たい目をしたアーサーだ。


「あなたの都合など、知った事ではありません。いえ、今まで散々ふざけた事をしてきたのは、他ならぬあなたでしょう?それが自分に返ってきただけの事です」

「利益を求める事が、ふざけているというつもりか!?」

「僕達が言っているのは、その経緯です。人体実験や暗殺、戦争幇助……。いったいどれだけの人が、あなたの策略で運命を弄ばれ、命を落としたと思っているんですか!そんなあなたに、自分の死に方を決める権利など無い!」

「アーサーの言う通りだ」


 吠えたアーサーに同意したのは、インセクターやホムンクルス達を倒してきたミシェルだった。


「ば、馬鹿なっ!我が精鋭はおろか、ホムンクルスすらも退けたというのか?短時間で……!」


 軍艦の乗組員達はともかく、直属のインセクター達はアイザック自らが手塩に掛けていた。

 中には、数人掛かりならば、自分と同等に戦う事も出来る者達もいたのだから、いかに刻印五剣士が相手であろうと、数の利を活かせば対等以上に渡り合えると思っていた。


 だが現実には、手塩に掛けた部下達が、いとも容易く倒され、命まで奪われてしまっていた。

 この事実に、アイザックは大きく目を見開いて驚愕する。


「ふん。あんな雑魚どもより、ドゥエルグの方が何倍も手強かったぜ」

「アイザック・ウィリアム、因果応報という言葉がある。自らの利益のみを追求し、世界を混乱させた罪、今こそ贖う時だ」

「ついでってわけじゃないが、親父やホライズン夫妻、シュヴァルベ姉弟に立花勇輝の仇討ちもさせてもらう」


 そんなアイザックの心中は、この場の誰にとってもどうでもいいものだ。

 そんな事よりも、ようやくアイザックを追い詰めることが出来た事の方が、遥かに重要だ。

 それこそ、天秤に掛けるまでもない。


 そしてそんな事は、アイザック本人が一番よく分かっている。

 だからこそ、顔色は青を通り越して白くなっている。


「では雪乃さん」

「分かりました」


 雪乃はカリスを鞘の形状に戻し、アーサーがエクスカリバーを納刀する。

 そして二人で柄を握り、印子を籠める。


 アーサーと雪乃が起動させたのは、神話級戦略型広域対象干渉系殲滅術式アヴァロン。


 エクスカリバーにはナイツ・オブ・ラウンドという戦略級術式があるが、本来ナイツ・オブ・ラウンドは戦術級術式であり、最大出力で使用したとしてもゲイボルグ、レーヴァテイン、そしてアゾットの戦略級術式の7割程の威力しかなく、ブリューナクのバロールと比較すると半分程となってしまう。


 その理由は、カリスという鞘が存在していないためだ。

 そのために今までのエクスカリバーは、アーサーが自嘲していた通り、不完全な刻印神器でしかなかった。


 だが今、エクスカリバーは自信の半身ともいうべき、鞘であり聖杯であるカリスに納められている。

 だからこそ、本来の戦略級術式であるアヴァロンの封印が解けた。


 そのアヴァロンに、ミシェルがエクリプス・ヴェルミリオンを、アルフが無性S級対象干渉広域系術式アバランシュ・ウェイブ・ストームを、星龍が雷鱗哮レイリンシャオを、美雀が燃焰翼シャオヤンイーを重ねた。

 この場でアヴァロンに重ねる意味は無いが、神話級の直撃を受ければ骨どころか細胞すら残さず消滅する。

 自分達のS級でも倒す事は可能だが、確実かどうかは判断が難しい。

 だからこそ神話級で存在を消し去るつもりなのだが、それだけで自分達の気が済む訳ではない。


 だからこそ4人は、意味が無い事を承知の上で、自分達のS級術式を重ね、少しでも想いを乗せようと考えた。


「アイザック・ウィリアム、エクスカリバーとカリス、2つ揃って初めて使える神話級術式、その身で受ける事を光栄に思いながら、この世界から消え去れ!」

「や、止めろ……止めろぉぉぉぉぉっ!」

「「アヴァロン!!」」


 アイザックの声を聞き流し、アーサーと雪乃は、エクスカリバーとカリス最大の神話級術式の言霊を唱えた。


 その瞬間、エクスカリバーの柄の聖玉、納刀されたエクスカリバーを支えるカリスの天使が持つ2つの聖玉に光が集まり、収束し、放たれた。


 アヴァロンはエクスカリバーとカリスが揃わなければ使えない、つまり二心融合術が大前提の神話級戦略術式であるため、最大出力はブリューナクのバロールすら凌駕する、TNT換算1,2ギガトンという莫大なエネルギーを放射する術式だ。

 当然の話だが、人の身で耐える事など出来るはずがない。


 アヴァロンの光はアイザックを飲み込みながら天へと昇り、ゆっくりと消えた。


 こうしてここ数年に渡り、世界中で暗躍し、多くの犠牲と無用な被害を出した元凶であるアイザック・ウィリアムは、妖精郷の名を冠した神話級術式によって、この世から去った。

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