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刻印術師の高校生活  作者: 氷山 玲士
第七章 神器繚乱編

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23・聖剣に宿る遺志

約2年ぶりの更新です。

今後も不定期ですが、更新していきますのでよろしくお願いします。

――西暦2098年2月16日(日)AM11:18 伊勢山皇大神宮 仮設神楽殿――


「アゾットの現在地は宮城県沖、しかも生成されていたか」

「ということは、こちらの目論見もバレてるってことでしょうね」


 当初の予定では、四つの刻印神器を使い、アゾットの生成者であるラヴァーナの位置を割り出すことができないかを試すはずだったが、予想に反してアゾットが生成されており、位置の特定は容易だった。

 だがそれは、こちらも四つの刻印神器を生成していることが知られたことを意味する。


「さすがにこれは想定外だな。こうなった以上、迅速に行動せねばならん」

「うむ。だが全員が動くことはできん。アイザックの目的に復讐が含まれている以上、この地に残る者も必要だ」


 アイザック失脚の原因は夏に行われた世界刻印術総会談の際、刻印後刻術の使用が発覚したためであり、その事実を突き止めたのが飛鳥達若い生成者だということは一部では有名な話になっている。

 実際に突き止めたのは雪乃だが、アイザックからすれば煮え湯を飲まされた相手という意味では大差はない。


「そのことで提案がある」


 そこに口を開いたのは、意外なことにエクスカリバーだった。


「提案?エクスカリバーからか?」

「意外っちゃ意外ね」

「うむ。聞かせてもらおう、エクスカリバー」


 七師皇は幾度かエクスカリバーを見たことがあり、エクスカリバーが生成者であるアーサーと似た性格であることはよく知っている。

 だから少し驚いたが、刻印神器からの提案に興味があるのも間違いない。


「うむ、まずはブリューナクの主達よ、我を持つのだ」

「我をって、俺達がエクスカリバーを?」

「ちょ、ちょっと待って。それって何の意味があるの?」


 エクスカリバーの発言は、誰にとっても予想外のものだった。

 否、生成者であるアーサーだけは眉を顰めている。


「エクスカリバー、まさか君は!」

「その通りだ、アーサー。この中で、いや、この世界で可能性があるとすれば、それはおそらくこの二人だけだ。それがアダムとエヴァのためにもなるだろう」

「それは……」


 エクスカリバーの言葉の意味が分からなかったのは、飛鳥達だけだった。


「エクスカリバー、本当に構わないのか?」

「うちの子達を買ってくれてるのは嬉しいけど、問題も無い訳じゃないのよ?」

「我の知った事ではないが、そなた等に迷惑をかける事も間違いない。故に我も、責任を取るつもりだ」


 刻印神器が責任を取ると明言するとは、さすがに一斗や菜穂にも想定外だった。

 確かにエクスカリバーはオーストラリアの刻印神器だが、エクスカリバーにとっては所属している国など何の関係もない。

 それはエクスカリバーのみならず、ゲイボルグやレーヴァテイン、ブリューナクにも言える事で、生成者達が国のために働いているからこそ、力を貸している。


「剣がどうやって責任を取るのか興味があるが、まずは本当に彼らに可能かどうか、それを試さない事には始まらんな」

「……分かりました。飛鳥さん、真桜さん。お願いします」

「わ、分かりました」


 葛藤の末、エクスカリバーの柄を差し出したアーサー、戸惑いながらも受け取った飛鳥と真桜。

 誰もが何が起こるのかと、期待や不安の眼差しを向けていた。

 そしてしばしの沈黙の後、静かにエクスカリバーの声が響いた。


「……感謝する、ブリューナクの主達よ」


 その言葉に続いて、エクスカリバーの刀身が光を放った。

 刀身から放たれた光は自身を保持している飛鳥と真桜の手元に移動し、2つに別れ、飛鳥と真桜を包み込んだ。


「な、なにっ!?」

「飛鳥君と真桜ちゃんが……!」

「光に……包まれた?」


 驚いたのは久美達明星高校生だが、七師皇や五剣士は慌てていない。

 それでも驚いていない訳ではないが、エクスカリバーが無体な真似をするはずがないという確信がある。

 それでも2人の盾であることを誓っている雅人とさつき、エクスカリバーの生成者でもあるアーサーは、少し不安げな表情をしているが。


 ゆっくりと光が収まる。

 飛鳥と真桜はエクスカリバーを手にしたままだが、明確な違いも現れていた。

 特に真桜の目には、涙が浮かんでいる。


「ありがとう、エクスカリバー」

「礼を言うのは我の方だ。これでアダムとエヴァの魂も浮かばれるであろう」

「そうだといいな」


 飛鳥は左手の、真桜は右手の刻印に視線を落とした。


 その刻印は、今までの物とは意匠が異なっている。

 刻印の意匠は個人個人で異なり、生物だったり無機物だったりすることが多い。

 飛鳥の右手の刻印は雪の結晶、左手の刻印は大樹のように見え、真桜の右手の刻印は蝶の羽、左手は星のようにも見える。

 だが現在、飛鳥の右手の刻印は雪の結晶に剣の意匠があしらわれ、左手には狼の顔のような刻印に、真桜の左手の刻印は星と蝶の羽が融合したような意匠になり、右手には盾のような意匠の刻印に変化していた。


「お、おい……なんで刻印が……」

「刻印の意匠が変わるなんて、聞いた事無いわよ?」

「エクスカリバー……飛鳥さんと真桜さんは……」

「然り。ブリューナクの主達は、あの2人に認められた」


 エクスカリバーの言うように、飛鳥と真桜の刻印が変化した理由は、2人がアダムとエヴァに認められたからだ。

 だからこそエクスカリバーに刻まれていた2人の生刻印が、飛鳥の左手と真桜の右手の刻印と融合し、変化をもたらしている。


「つまり……刻印継承ってこと!?」

「然り。だが我も、彼らの刻印と融合するような形で継承されるとは思わなかった」

「って言うか、そもそもそのアダムとエヴァって、誰なの?」


 久美の疑問は当然だが、この場でアダムとエヴァについて知らないのはさつき以外のヴァルキュリア、つまり雪乃と久美のみだ。

 飛鳥と真桜も知らなかったが、2人はエクスカリバーを持つ事で全てを知る事が出来ている。

 だからエクスカリバーも、全員が知っていることを前提として話を進めていた。


「あ~、あなた達は知らなかったのよね」

「1年近く前に亡くなられた、オーストラリアの融合型生成者夫婦っていう事は知っていますけど、それぐらいですね」

「私もです」

「……アダム・ホライズン、そしてエヴァ・ホライズンは、僕の師匠です。同時に約1年前、僕が命を断ちました」


 重い口を開いたのは、刻印五剣士にして聖剣エクスカリバー生成者のアーサーだった。


「えっ!?」

「アーサーさんの……お師匠様?」

「はい。とはいえ彼らと知り合ったのは、エクスカリバーを生成してからですが」


 刻印神器は融合型刻印法具と同様、両手の刻印に刻印融合術を発動させる事で生成される。

 アーサーがエクスカリバーを生成したのは、約3年前の世界刻印術総会談の場で、雅人とミシェルのアドバイスを受けていた。

 以前からアダム、エヴァに師事していれば、もっと早くに成功させていただろう。


 アダムとエヴァがアーサーの師となった理由は、エクスカリバーを生成したアーサーに力を付けてもらうため、オーストラリア政府が依頼したからだ。

 2人も自国から刻印神器生成者が誕生した事で快く引き受けてくれたのだが、当然それを良しとしない勢力も存在する。

 その筆頭が、元七師皇にして覇権主義者、アイザック・ウィリアムだ。


「ここでもアイザック・ウィリアムが……」

「2人の娘を人質に取り、アーサーをUSKIAに、いや、自分達の手駒に引き入れようとしたんだ」

「アーサーはそれを拒絶したんだが、そのせいでアダムさん、エヴァさんと戦わざるを得なくなってな。最後にはエクスカリバーの神話級術式、ナイツ・オブ・ラウンドも使ったそうだ」


 雅人とミシェルは、全てが終わってから、アーサーから直接話を聞かせてもらっていた。

 同時にアダムとエヴァの娘も、事態を聞きつけたアイザック・ウィリアムの手によって命を奪われてしまった事も。

 本来ならばオーストラリアとUSKIAの全面戦争に発展しかねない事件だったが、当事者のアーサーが絶望しエクスカリバーを封印してしまった事、アダムとエヴァがナイツ・オブ・ラウンドによって命を落とす間際、エクスカリバーの刀身に自身の生刻印を刻み込んだ事、いずれその生刻印は、誰かに継承される事がオーストラリア政府に伝えられたため、宣戦布告という事態は避けられた。

 特にアダムとエヴァの生刻印を継承する者は、オーストラリア人とは限らないため、オーストラリア政府はアーサーに刻印継承を行わないように圧力まで掛けたぐらいだ。

 もっとも報告は七師皇への方が先だったため、逆にオーストラリア政府が七師皇から圧力を受ける羽目になっていたが。

 この事件が契機となり、アイザックは七師皇でありながら七師皇の権限を全て剥奪され、その後日本で行われた世界刻印術総会談で正式に七師皇から除名されている。


「そ、そんな事が……」

「エクスカリバーに刻まれたアダムさんとエヴァさんの生刻印は、罪の証だとアーサーは言っていた。だが飛鳥、真桜ちゃん。違うんだろう?」

「はい」


 飛鳥と真桜は、アダムとエヴァの生刻印によって、全てを知った。

 アイザックはアーサーのみならず、アダムとエヴァの身柄も狙っていたのだ。

 そのため、まだ2歳だった二人の娘を人質にしたのだが、実はここで、アイザックにも予期せぬトラブルが起こっていた。

 そのトラブルとは、アイザックの部下が誤って、アダムとエヴァの娘を殺害してしまった事だ。

 そのためアダムとエヴァは、娘が攫われてから一度も面会できていない。

 当然二人は訝しみ、探索系術式を使い確認まで行っている。

 そこで知ったのは、既に娘が命を奪われており、アイザックの指示によってそれを徹底的に隠蔽されている事実だった。


 アダムもエヴァも自らの無力さに絶望し、即座に命を断とうとまで考えたのだが、ただ命を断っただけでは自分達の死体を回収され、徹底的に解剖されるだろうことは予想が付いた。

 だからこそアーサーと戦い、いつか自分達の刻印を誰かに託すために、戦いの中でエクスカリバーに生刻印を刻み込み、アーサーに倒されることを望んだ。

 アーサーを深く傷つける事は分かっていたが、娘が殺され、さらに弟子までいいように扱われ、自分達の死後も体を弄ばれるなど、許容範囲を逸脱し過ぎている。

 本当ならば最期に謝罪の一つもしたかったのだが、さすがに神話級術式ナイツ・オブ・ラウンドの直撃を、生刻印を失った状態で受けてしまえば、死体どころか細胞すら残らない。

 これはアダムとエヴァにとっても誤算であり、エクスカリバーの封印を決意させるほどにアーサーを傷つけてしまったが、今日ようやく、飛鳥と真桜という自らの刻印を継承するに相応しい存在に出会う事が出来た。

 だから飛鳥と真桜の口を借りて、ようやくアダムとエヴァはアーサーに心からの謝罪を述べていた。


「そ、そんな……。エクスカリバー、何故教えてくれなかったんだ!?」

「我が教えたとしても、あの時のそなたは信じなかったであろう?だから我は、時が来るのを待っていたのだ」


 エクスカリバーにそう言われてしまい、アーサーは言葉に詰まった。

 確かにあの時のアーサーは、恩師ばかりか恩師の愛娘すら救う事が出来なかった。

 そんな自分に、鞘のない不完全な聖剣であろうと、刻印神器を扱う資格など無いと思い、二度と生成しないように戒めたぐらいだ。


「……分かった。正直、まだ心の整理は出来てないし、それどころか何がどうなってるのか理解が追い付いてない。だけど刻印継承は、アダムさんとエヴァさんの遺志なんだな?」

「然り」


 エクスカリバーは、迷いなく応えた。

 アーサーはまだ混乱しているし、まさか飛鳥と真桜にアダムとエヴァの生刻印が継承されるとは思わなかった。

 だがそれが二人の遺志だと言われてしまえば、アーサーには何も言えない。

 それに、例え飛鳥と真桜が届けてくれた決意が本当であっても、いや、生刻印に刻まれていたのだから、本当なのは間違いないのだが、それでも本当に継承されたのなら、アーサーは二人の遺志を違えるつもりはない。

 オーストラリアは問題にしてくるだろうが、そもそもアイザックの暗躍を許していたのは他ならぬオーストラリア政府なのだから、問題にさせるつもりもない。

 自らの手で殺めてしまった二人の師匠に向かって、アーサーは心の中で深々と頭を下げ、自らの決意も新たにした。

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