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刻印術師の高校生活  作者: 氷山 玲士
第七章 神器繚乱編

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22・魔人の思惑

――西暦2098年2月16日(日)AM11:02 某所――


「ラヴァーナよ、ちと厄介なことになったぞ」

「どうしたよ、アゾット?」


 USKIAから脱走扱いになっている軍艦の一室で、ラヴァーナはアゾットを生成していた。

 ラヴァーナにとって元七師皇アイザック・ウィリアムやその部下であるインセクターは、あくまでも協力者、利用する者という意識しかないため、軍艦の中では話し相手になるような者はいないし、そもそもアイザックも、用が済めば自分を殺そうと考えているはずだ。そのため一応の友軍ではあるものの、気を許せる相手というものは存在していない。

 だからこそアゾットを生成し、話し相手になってもらっており、今回も話している最中だった。


「ゲイボルグ、レーヴァテイン、エクスカリバー、そしてブリューナクが同時に生成された」

「なんだと?ってことはもしかして、俺らの居場所がバレたってことか?」

「その可能性は高い。おそらく奴らは、我が生成されているとは思ってはおらぬはず。だからこそ四つの刻印神器を使うことにしたのだろう。だが問題はそこではない。いかな我でも、一度に四つの刻印神器を相手取ることは不可能だ」


 刻印神器は相性による優劣は存在するものの、位階や階級などは存在しない。そのため全ての刻印神器は、総合的にはほとんど大差はない。ただし二心融合術によって生成されたブリューナクは、自身の身をアンスウェラー、フラガラッハという神剣に分けることができるため、見方によっては二つの刻印神器で構成されているとも取れる。


「確かにな。だがよ、お前の能力はあっちも知ってるだろ。ってことはだ、神器生成者全員がこっちに来ることはねえ。おそらくだが二手にわかれるだろうよ」

「その可能性はあるが、それでも二つ、あるいは三つ。我だけでは対処が難しいことに変わりはないぞ?」

「あいつらに知らせなきゃいいだけだろ。刻印神器が複数襲い掛かってくるって知りゃあいつらは絶対に逃げるし、最悪の場合、俺を売り飛ばすかもしれねえ。なら一蓮托生ってことで、あいつらにも手伝ってもらおうじゃねえか」

「なるほど。その間に我らは離脱し、改めて刻印神器を狙うわけだな?」

「ああ。サシでなら、たとえ刻印神器が相手でも、俺達が負けるわけがねえからな」


 ラヴァーナは、子供の頃から世界最強の刻印術師になることを夢見ていた。その頃は単なる夢に過ぎなかったが、その一念は今もって陰りを見せず、それが刻印法具の生成につながった。そして新たに就任したルドラ・ムハンマドを含む数人の七師皇が融合型刻印法具の生成者だということを知ったラヴァーナは、独力で刻印融合術を成功させるに至る。

 結果生成されたのが魔剣アゾットであり、その事実にラヴァーナは歓喜した。刻印神器を生成できたということは、世界最強の刻印術師になるという子供の夢が実現可能になったのだから。

 だが問題もあった。アゾットが生成されたのは今から三ヶ月前であり、既に四つの刻印神器が存在していた。その内の一つ、日本の神槍ブリューナクは、昨年の神槍事件において初めて存在が確認されたばかりか、二心融合術という前代未聞の刻印融合術によって生成されており、さらには実際に神話級刻印術を使用したことで大きな話題となり、今も時折ニュースになっている。それはラヴァーナの故郷の町でも容易に入手可能な情報でもあるため、いかに新たな刻印神器が生成されたとしても霞んで見えてしまう。実際にはそんなことはないが、少なくともラヴァーナはそう考えた。


「問題は誰がこっちに来るかだが、全員ってことはありえねえ」

「うむ。おそらく闇属性である我の対となる、聖剣や神槍であろうな。魔剣や魔槍では我の病魔を、完全に遮断することはできぬ故に」

「だろうな。俺達としても都合がいい。なにせ神槍は二人揃わねえと力を発揮できねえし、聖剣にいたっては鞘すらねえ欠陥品らしいじゃねえか?」

「エクスカリバーの場合、それが正常とも言えるがな。だが好都合であることに違いはない」


 アーサー王の伝説において、エクスカリバーの鞘を身に着けていると傷を受けない魔法の鞘であるとされている。しかし、のちにアーサーの異父姉モルガン・ル・フェイの策謀によって奪われてしまい、アーサー王はカムランの戦いにおいて死んだとも、その際に受けた傷を癒すためにアヴァロンへ向かったとも言われている。

 そのためかエクスカリバーの鞘は、刻印神器エクスカリバーには存在していない。故にエクスカリバーの鞘は、エクスカリバーとは別の刻印神器ではないかと考えている者もいる。


「んなことは別にどうでもいいんだよ。俺に、俺達にとってエクスカリバーは欠陥品。つまり敵じゃねえってことがわかればな」


 だがそんなことは、ラヴァーナにはどうでもいいことだ。エクスカリバーには、伝説に謳われるような鞘は存在しない。それがわかれば構わない。


「それについては同意する。そしてブリューナクも、自身を分けることができるようではあるが、二人で一つの刻印神器を使っていることに変わりはない。つまりその状態ならば、恐れる必要はないということになる」


 そしてブリューナクは、神剣アンスウェラー、神剣フラガラッハという二振りの剣にもなる。アンスウェラーは飛鳥が、フラガラッハは真桜が使い、バロールやアンサラーといった神話級術式も行使できるが、それでも威力は格段に落ちてしまう。

 さらに言えばブリューナクは長さが5メートル以上もあるため、人が扱うには大きすぎるという欠点もある。神槍事件の際、飛鳥はブリューナクを投げたことがあるが、あれはブリューナクの補助があったためであり、飛鳥の力だけではとてもではないが投げることはできないし、それ以降の魔剣事件や平家事件では、真桜と二人で持ち、バロールやアンサラーを使っていたぐらいだ。


 ラヴァーナもアゾットも、アイザックから情報を得ているし、曲がりなりにも刻印神器を敵に回すのだから、その辺りの事情はしっかりと収集している。


「だな。さすがに超長距離からバロール、だったか?あの中華連合の艦隊を吹っ飛ばした神話級を使われたりしたらたまったもんじゃねえが、防げねえわけじゃねえんだろ?」

「さすがに無傷で、というわけにはいかぬがな。我としても、全ての力を防御に回さねばならん。だが防ぎ切りさえすれば身を隠し、傷を癒し、印子を回復させた後、報復に出ればよいだけのこと」


 神話級に対するなら神話級。普通ならばできないことだが、魔剣アゾットならばできてしまう。しかも超長距離からということならば、逃げる余裕も十分にあるだろう。さらにはアゾットの神話級術式エリクシールを使えば、傷の回復までの時間は短縮できる。その後どこか適当な場所に神話級術式を、アゾット最大の神話級戦略広域対象干渉系術式ヘルメス・トリスメギストスを発動させればいい。

 ラヴァーナとしては先手を打つのもアリだと考えていたが、その瞬間にブリューナクのバロールだけではなく、ゲイボルグのアルスター、レーヴァテインのラグナロク、エクスカリバーのナイツ・オブ・ラウンドが向けられるだろうというアゾットの推測に顔を顰め、断念している。さすがに四つの神話級、しかも戦略級の直撃を受けて生きていられる自信は、ラヴァーナにもアゾットにもないのだから。


「さて、それじゃあ飯でも食うか。どうせ今日明日に来るってわけでもないだろうしな」

「明日の可能性がないわけではないが、それなりの準備は必要だからな」

「そういうことだ。なにせここは……」


 アイザックとともにUSKIAから国際指名手配されている特殊部隊インセクター、その母艦は現在、岩手県の釜石沖に停泊している。この辺りには日本国防海軍の基地がいくつかあるため、本来であれば敬遠されるような場所だが、アイザックに協力しているらしい日本人が刻印術師優位論者の軍人に協力を取り付け、補給作業を行っているため、今は動くことができない。予定ではあと2時間ほどで作業は終了するそうだし、この場所に停泊し続けることは自殺行為だから、すぐに移動を開始するだろう。


 だがそれは、ラヴァーナにとってはあまり望ましくはない。幸いと言っていいかはわからないが、協力者とやらはアゾットに興味があるらしいから、それを利用してみるべきだろう。協力者を呼びつけることになるが、こちらから出向けない理由はあちらも理解しているはずだから問題もない。


 ラヴァーナは頭の中で、幾通りもの展開を予想しながらアゾットを刻印に戻し、自分に割り当てられている部屋を出て行った。

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