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刻印術師の高校生活  作者: 氷山 玲士
第七章 神器繚乱編

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21・四つの刻印神器

――西暦2098年2月16日(日)AM10:23 伊勢山皇大神宮 仮設神楽殿――


 神奈川県横浜市に鎮座し、横浜の総鎮守とされ、関東のお伊勢さまとしても知られている、天照大神を祭神としている伊勢山皇大神宮いせやまこうたいじんぐう

 その一角に、第三次大戦の影響で工事が延期になっていた区画にある仮設神楽殿に、飛鳥達はやってきている。

 無論飛鳥達だけではなく、七師皇や刻印五剣士の姿もあるため、情報操作の一環のためとはいえ、ヴァルキュリアと呼ばれる雪乃、久美、瞳はそうそうたるメンバーを前に気後れしているようにも見受けられるが。


「前置きは不要だろう。リゲル、ニア、アーサー、頼む」

「はいよ」

「了解」

「わかりました」


 今回、伊勢山皇大神宮に集ったのは、四つの刻印神器を生成し、アゾット生成者ラヴァーナの行方がわからないかを調べるためだ。

 刻印神器は生成された刻印神器を感知することができるとはいえ、生成されなければそれはできない。だが四つの刻印神器の印子を使えば可能なのではないか、という推測が立てられ、今回の運びとなっている。

 来週には刻印術師前世論討論会が開かれるため、できればそれまでには解決したいという思惑もあるし、何より神器生成者が揃っているのだから、今後のためにも検証は必要だろうと結論付けられたことが大きい。

 だが魔槍ゲイボルグの生成者リゲル・ダ・シルバ、魔剣レーヴァテインの生成者グリツィーニア・グロムスカヤ、聖剣エクスカリバーの生成者アーサー・ダグラスとは違い、未だ存在が公表されていない神槍ブリューナクの生成者飛鳥と真桜は、三人に合わせて生成することができないため、先に三人が生成し、結界を構築してもらってから生成することになっている。


「これがゲイボルグとレーヴァテインか」


 ゲイボルグは穂先が全体の三分の一を占めており、柄は黒いが穂先は雷のような色をしているが、比較的シンプルなデザインをしている。これはケルト神話におけるゲイボルグが所有者のクー・フリンに足で投げられていたことに由来しており、手に持って戦うというより投げつけるといった逸話が多いことから、余計な装飾は不要だということなのだろう。

 対してレーヴァテインは柄と刀身が一体化した片刃の大剣だが、遠目から見ると木の枝のように見えなくもない。だが全身が漆黒に染め上げられ、刀身には血のような赤いラインが刻まれており、刃は炎のように紅い。北欧神話においてレーヴァテインは剣とは表記されておらず、槍や矢、杖とも言われているが、枝のようなもの、ということは共通している。


「現存する最古の刻印神器ゲイボルグ……この目で見ることができるとは……」


 刻印神器は過去にも存在していたとされているし、それは刻印神器達も認めている事実だ。だが既に確認することも検証することもできないため、現状では刻印神器から聞ける内容だけが全てとなっているのも間違いない。


「こん中で最初に生成したってだけだからな、そこまで言われるようなもんじゃないぞ?」

「それは吾輩としても同感だ。事実吾輩が生成された時には、魔剣グラム、霊刀れいとう布津御魂ふつのみたまが存在しておった」

「えっ!?」


 ゲイボルグの一言に驚いたのは飛鳥達だけではなく、アーサーを除いた五剣士もだった。こんなにあっさりと過去に存在していた刻印神器の存在が判明するとは思わなかったということもあるが、まさかゲイボルグが生成された時点で二つもあったとは思わなかった。


「ゲイボルグ、グラムはともかく、布津御魂は刻印術師にとって何よりも秘するべき重要機密だ。軽々と話さないでくれ」

「そうだったな。謝罪しよう」


 七師皇の長、アサド・ジャリーディーがゲイボルグを諫めるが、逆にそれが場に混乱をもたらす。

 布津御魂は神刀しんとう天叢雲あめのむらくも妖刀ようとう天羽々斬(あめのはばきり)と並ぶ神代三剣かみよさんけんに数えられており、過去の天皇が生成したと伝えられている刻印神器でもある。その布津御魂が生成されており、さらには刻印術師にとっての最重要機密となれば、現在の天皇が生成しているのではないかという推測につながる。


「お、親父……それって……」

「アサド殿が言ったように、最重要機密だ。こればかりはお前達といえど教えることはできん。知りたければブリューナクから聞け」



 何とか口を開いた飛鳥が一斗に尋ねるが、一斗としても七師皇以外の刻印術師に直接話すことは躊躇われる。だが飛鳥はブリューナクの生成者でもあるのだから、知りたければ直接聞くことができてしまう。実際に他国の神器生成者は知っているのだから、皇室や宮内庁も何も言うことはないだろう。



「アーサー……お前は知ってたのか?」

「はい、エクスカリバーが教えてくれたので。さすがに驚きましたが」


 五剣士の一人、フランスのミシェル・エクレールが、五剣士の中で唯一驚かなかったアーサーに尋ねるが、アーサーは聖剣エクスカリバーの生成者でもある。故にエクスカリバーが伝えていたということらしい。

 だが飛鳥も真桜も、そんな話はブリューナクから聞いてはいない。


「気持ちはわかるわよ。というか、もう生成しても大丈夫なんでしょう?」

「構わぬ」

「ということだ、飛鳥、真桜」


 だが今はやるべきことがある。飛鳥は右手を、真桜は左手を重ね、二心融合術を発動させた。


「これが二心融合術か。見事なものだな」

「直接見たのは私達も初めてですよ。それにしても、まさかブリューナクがまだ二人に教えてなかったとはね」


 菜穂も二心融合術を見たのは初めてだが、雅人やさつきから話だけは聞いていたし、刻印融合術と大差はないだろうと考えていた。実際に二心融合術は二人で行う刻印融合術なのだから、その考えは間違っていない。

 それよりも菜穂が気になったのは、ブリューナクが布津御魂のことを飛鳥と真桜に伝えていなかったことだ。


「我の存在を秘匿しているということは、主達もまだ知るには早いということだ。故に時が来るまでは我が内に秘しておくつもりだった。まさかゲイボルグに暴露されるとは、露程も思わなんだが」


 ブリューナクは、菜穂が思っていたより思慮深い性格をしている。同時にブリューナクは、初の二心融合術で生成された刻印神器だということも理解している。刻印融合術で生成された刻印神器ですら世間を騒がせるには十分なのだから、時が来るまで二人に明かさないつもりだったブリューナクの考えは、菜穂にとっても一斗にとってもありがたいものだった。


「すまぬな、ブリューナク」

「だがブリューナクよ、我らにも予感というものは存在する。この場では無理だが、主にだけは教えておいてもよいと思うが?」


 口を滑らせてしまったゲイボルグが謝罪するが、エクスカリバーは何かを感じ取っているようにブリューナクを諭す。


「予感……。エクスカリバーよ、そなたは何を感じている?」

「言葉にするのは難しい。だが我の予感では、そなたの言う時が来る前に、そなたの主らは知ることになるだろうということだ」

「ブリューナクよ、そなたと同じ光に属するエクスカリバーの言うことじゃ。一考の余地はあるじゃろう?」

「……さすがにこの場では結論は出せぬな」


 エクスカリバーの意見にレーヴァテインも同意するような意見を述べるが、ブリューナクは慎重に言葉を選んで返答する。

 刻印神器は意思を持っているが、それぞれに個性がある。また生成されていなくとも生成者の内で世界を見ていることもあって、生成者の知識や経験が刻印神器にも共有される。そのため三十年以上前に生成されたゲイボルグや十八年前に生成されたレーヴァテインは当然、四年前に生成されたエクスカリバーもそれなりの経験を積んでいるが、ブリューナクが生成されたのは二年前であり、しかもそこから一年以上封印されていたことを考えると、経験が足りているとは言い難い。


「それでよい。それにしてもゲイボルグよ、相変わらずそなたは迂闊じゃのう。そなたの主によう似ておる」


 表情があればにこやかに微笑んでいるのではないかといった雰囲気をかもしだしたレーヴァテインだが、突然ゲイボルグに矛先が向けられた。


「レーヴァテインよ、その言葉、そのまま返させてもらうぞ。相変わらず口数の多い奴め」


 しかしゲイボルグも慣れたもので、すかさずレーヴァテインに言葉の刃を返す。


「悪いことではあるまい。そもそも妾は、迂闊に口を滑らせるようなことはせぬ」


 何度も直接顔(?)を合わせたことがあり、互いの性格も互いの主の性格も知り尽くしているゲイボルグとレーヴァテインだからこそのやり取りだが、これが刻印神器同士の会話だとは、会話内容だけ聞いたのではとても信じられそうもない。


「ゲイボルグ、それにレーヴァテインよ。我らが一堂に会するなど初のこと故、浮かれるのはわかるが本題を忘れるのは関心せぬぞ?」

「そなたも変わらずに生真面目よのぅ、エクスカリバーよ。わかっておるわ。じゃが初のこと故、多少は浮かれてしまうのも仕方あるまい?」

「そこは吾輩も同意する」


 二人?二体?二本?に比べれば若いエクスカリバーが苦言を呈するも、あまり効果があるようには見受けられない。だが三つ、そして四つの刻印神器が一堂に会することは、紛れもなく初めてのことでもあるため、ゲイボルグとしてもレーヴァテインとしてもこの日を心待ちにしていたようだ。


「変わらぬな、そなたらは。だが見よ、ブリューナクを。呆気にとられておるではないか」

「……」


 だが僅かに緊張してこの日を迎えたブリューナクは、三人?三体?三本?のやり取りに口を挟むことができなかった。表情があればエクスカリバーの言う通り呆然としているのではないかとも思える。


「一斗の息子と菜穂の娘が主である以上、それも仕方あるまいて?」

「同意じゃ。よくもまああの二人から、このようなできた子が生まれたものだと感心することしきりじゃ」

「ゲイボルグ、それはないんじゃないか?」

「レーヴァもひどいじゃない」


 刻印神器とは思えない会話を呆然と眺めていた飛鳥達だが、話が自分と真桜になった途端、一斗と菜穂が口を挟んだ。我が両親ながら、刻印神器の会話に割り込めるとは、相変わらず神経が図太い。


「事実ではないか?特に菜穂は、ニアやイーリスとよく悪さをしておろう?」

「悪さって何よ?というかレーヴァ、あなたも加わったことあるでしょう?」

「悪さをした覚えはないのぅ。そもそも妾は主の指示に従ったにすぎぬ。そうじゃろう、ニアよ?」

「それは否定しないけど、あなたもかなりノリノリだったじゃないの」

「私や菜穂には、ここはこうした方がいいんじゃないかって提案までしてきてたわよね」


 女三人寄れば姦しい、とはよく言うが、四人だと何と言ったらいいのだろうか?レーヴァテインは女性の人格を持っているが、これでは近所の奥様方の井戸端会議となんら変わりがない。


「三女帝だけではなくレーヴァテインまで加わると、明日の朝日が昇っても話が進まなそうだな」

「同感ですな。四人とも、済まないがその話は後でゆっくりとしてもらえまいか?」

「皆困惑しているし、何より今回集まったのは歓談のためではないのだからな」


 レーヴァテインは生成者であるニアと同じ性格をしている。つまり三女帝と非常にウマが合うということでもあるため、三女帝が直接会う機会があればニアは必ず生成している。

 レーヴァテインもそれを楽しみにしており、ニア、菜穂、イーリスの三人にのみレーヴァという愛称で呼ぶことを許しているぐらいだ。事実飛鳥達は知らないが、半年前の世界刻印術総会談の際にも生成されており、久方ぶりの旧交を温めていたりする。

 その三人プラス一本の会話は、こちらから歯止めをかけない限りは何時まで続くかわかったものではない。とは言っても誰もが突っ込めるわけでもないため、七師皇の長と七師皇の良心が口を挟むことになったわけだ。


「そうであったな。僅か半年で菜穂やイーリスと再会できるとは思わなかった故、どうやら妾はかなり舞い上がっていたようだ」

「普通は数年単位だものね」

「うむ。だが今回はオウカや菜穂の娘だけではなく、イーリスの娘もいると聞いている」

「いいわね。全部終わったら、源神社でってことでどう?」

「異議なしよ」

「妾もじゃ。となれば、アゾットの件は早急に片をつけねばならぬな」


 真桜の背筋に激しい悪寒が走る。菜穂、ニア、イーリスの三人だけでも自分の手には負えないのに、そこにレーヴァテインまでもが加わればどうなるかわかったものではない。


「飛鳥……」

「……悪い、真桜。俺にはどうしようもできない」

「さ、さつきさん……?」

「努力はするけど、期待はしないでね?」


 それでもできることなら逃げたいと思い、飛鳥とさつきに助けを求めるが、二人も頼りなさそうな答えを返してきた。救いがあるとすればニアの娘のオウカ、イーリスの娘のリリーも巻き込まれることか。だからこそ絶対に二人は逃がさないと、心に誓った真桜だった。

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