14・刻印五剣士集結
遅くなりました。
PCが逝ったため、データ全部消えてしまいました……。なので今回はかなり短いです。続きは月跨ぐかもしれません……。
――西暦2098年2月6日(木)PM13:05 明星高校 校庭――
大和の決意を嘲笑うかのように、あの日以降、ラヴァーナは動かなかった。だがいつ、どこで襲ってくるかわからない以上、狙われている身としては常に警戒しなければならない。しかも相手が刻印神器である以上、少しの油断も死に繋がる。
そのためここ数日、飛鳥、真桜、雪乃、久美の四人は神経を擦り減らしていたし、敦とさゆりの入院している鎌倉市民病院にもイーリスやエアハルト、サクールといった名高い生成者が詰めている。
「これがホムンクルスか。なんてことはない、ラヴァーナって奴を模した人形じゃない」
「おそらくアゾットも、模倣神器に分類されるんだろうな」
あの日からずっと、雅人とさつきは、飛鳥と真桜から離れなかった。敦とさゆりが倒れたこともあるが、二人の身の安全は何よりも大切だ。しかもラヴァーナは明確に飛鳥達を標的に定めているし、ついには明星高校にまでホムンクルスを放ってくるのだから、盾であることを誓った身としては、飛鳥と真桜から離れるなど、何があってもありえない。
そして今、明星高校にいるのは、雅人とさつきの二人だけではない。
「模倣神器か。あれを便宜上そう呼んだだけで、特に意味はなかったんだがな」
「何のことかわからんが、そうしていたら本当に模倣神器が出てきた、か。これは責任を取るべきだろうな」
「俺がかよ?」
「それもいいだろうが、我々にできることは、この場を守ることだけだ。彼らに何かあれば、戦争になるかもしれないからな」
「それは避けたいですね」
刻印三剣士のミシェルとアーサーだけではなく、中華連合陸艇軍大尉 王星龍、USKIA海軍中尉 アルフレッド・ラヴレスまでもが、明星高校を守っていた。
来日寸前にアゾットの情報を得た四人は、日本に到着するとすぐに雅人と合流し、そのまま飛鳥と真桜の護衛についている。とは言ってもアーサーは雪乃の護衛についているのだが。ちなみに久美には、さゆりの兄 準一が護衛についている。
雅人達がホムンクルスを見たのは、これが初めてだ。だが事前に情報を得ていることを差し引いても、五人は一切臆した様子がない。
「それにしても、アルフさんの法具が、そんな形状だったとは思いませんでしたよ」
「剣であって、剣ではない。そもそも名前からして違うからな」
アルフが手にしているのは、双刃剣状複数属性特化武装型刻印法具プロテクション・チェイン。二振りの剣を柄尻で合わせた形状だが、一方がロング・ソードと変わらない大きさに対し、もう一方は一回り小さいショート・ソードに酷似しているが、柄尻を離すことで双剣としても使うことができる。ロング・ソードは刃が蛇腹状になり、ショート・ソードは柄尻から鎖を出すことができるため、攻撃力も防御力も高い。
アルフは三剣士に匹敵する実力を備えているが、三年前の総会談の際、雅人、ミシェル、アーサー、そしてアルフの刻印四剣士にならなかった理由は二つある。
一つはアルフの刻印法具が両端に刃のあるポールアームだという情報しか表に出ていなかったこと。双刃剣はポールアームではないが、当時はアルフも柄が短く、刃が長い槍の類だと思っており、剣とは似て非なる物だと認識していた。だがプロテクション・チェインは、ロング・ソードが土、ショート・ソードが水属性の複数属性特化型刻印法具であり、アルフとしては痛恨事だが、妹に指摘されるまで試したことがなかったという事情がある。
そしてアルフが総会談に参加していなかったことも、大きな理由だった。逆に三剣士は三人とも参加していたばかりか、アーサーに刻印融合術を教えてまでいた。だから互いの刻印法具も自身の目で見ており、そこから親交も始まっている。
余談だが、USKIAが世界から孤立せずに済んでいるのは、アルフの存在があるためだ。総会談における軍事行動に刻印後刻術など、世界から孤立してしまうには十分な事件を起こしてしまった上に、アゾットの生成者に手を貸し、日本で凶行に及んでいる以上、通常であれば孤立どころか全世界を敵に回した上での戦争もありえる。
だがUSKIAは、元凶である元七師皇にして海軍大佐のアイザック・ウィリアムに全ての罪を着せ、国家反逆罪で指名手配し、アルフに全権を委任することで、世界から孤立しないよう努めている。
「アルフと星龍も加えて、五剣士にしてもいいと思うけどな、俺は」
ミシェルの提案は、実は七師皇からも出ている。直接会う機会は世界刻印術総会談ぐらいしかないため、今年の総会談で議題に上がると噂されてはいるが、全員が参加できるかはまだわからない。もっとも当人達にとっては、あまり興味ないことだが。
「彼はともかく、私にはまだ、そこまでの実力はない」
「そんな人が、今回の件で派遣されることはないでしょう」
「確か林虎さんが、星龍さんは自分を超えたって言ってましたよね」
さらに星龍は、自分でも言うようにそこまでの実力はないと思っている。実際にはそんなことはないし、中華連合の七師皇 白林虎を相手にした模擬戦でも最近は白星が続いている。戦闘向きではない林虎とはいえ、並の術師、生成者では相手にならない高い実力を持っており、他の四神達はまだ勝てないという事実から見ても、星龍は中華連合最強の生成者になっていることに疑いの余地はない。
そのことは前回、前々回の七師皇会談で、林虎本人が嬉しそうに語っていたから、参加していた雅人やアーサー、そしてミシェルも知っている。
「あたし達の出る幕がないじゃない。美雀さん、あっちでお茶しませんか?」
対象的に、さつきは手持無沙汰になっていた。
五人は会話しながら、次々とホムンクルスを倒している。それだけでも余裕を感じられるのだが、この場にいるのは戦闘中の五人とさつきだけではなく、同行者の姿もある。しかもそのうち二人は生成者ですらないというのに、五人は打ち合わせもなしに見事な連携を見せているからすごい。
それを見たさつきは、本当に自分の出番はないと感じ、星龍とともに来日した四神の一人 中華連合陸艇軍少尉 李美雀に声をかけた。
「いいのでしょうか?」
だが真面目な美雀は、絶対に自分が必要ではないとわかっていても、この場を離れるわけにはいかないと考えているようだ。
「別にいいでしょう。あれでも本気じゃないし」
「兄貴も奥の手を使ってないしね」
さつきに同意したのは、アーサーの姉クレア・ダグラスと、アルフの妹アリス・ラヴレスだった。
「もう終わりそうね。やっぱりお茶しましょ。雅人!あたし達は食堂にいるからね!」
「わかった。俺達の分も用意しといてくれ」
「了解。それじゃ、行きましょ」
さつきが声を上げて雅人に声をかけると、雅人は展開させていたジュピターの結界の一部を開放した。そしてさつき達が結界から出たことを確認すると結界を閉じ、雅人は再び剣を構えてホムンクルスへ向かっていった。




