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彼女が『乙女ゲームの悪役』になる前に+オウガIFルート  作者: 空乃智春
【彼女が『乙女ゲーム』の悪役になる前に/社会人編】
33/43

33.逆転したのはいつなのか

「一気に飲むなんて、何を考えてるんだ!」

「……ごめんなさい」

 オウガにおぶられながら、帰路につく。

 吐き出したので酔いはすっかり覚めていた。


 酒に弱いわけではないのに、どうにも私は調子に乗って飲み過ぎてしまう。

 オウガに介抱されて迷惑をかけたあげく、記憶を無くして、朝目覚めればオウガのマンションにいるのがパターンと化していた。

 まぁ、今回はそれとは違うけれど、迷惑をかけたことは変わりない。


「……まぁ、酒を勧めたオレも悪いから、反省してるならもういい。酒が少し入ったほうが、親父さんとも話しやすいと思ったんだけどな」

 オウガは私をよく見ている。

 わかってくれることがありがたかった。


 街を歩けば、まだ十一月だというのに、クリスマスのイルミネーションがキラキラと光っている。

 私の借りているアパートは、オウガのマンションの隣だから、帰り道は一緒だ。

 

 高校を卒業して家を出ると言えば、母さんも史人さんも大反対した。

 就職先に選んだ会社は、実家から通える距離にあって、一人暮らしをする必要はどこにもなかったのだ。


 いっそ県外に行ってしまえば、一人暮らしもできるかな。

 そんなことを考えた矢先、オウガが自分のマンションに住めばいいと言い出した。


「メイコの実家より会社に近いし、メイコも入り浸ってて、住み慣れたものだろ? シェアハウスってやつだ。もちろん家賃は安くする」

 凶悪面にしか見えないよい笑顔で、オウガは提案してきた。


 確かにオウガの家にお泊まりすることもあるし、入り浸ってはいたけれど、一緒に住むのはさすがにまずい。

 少し心が揺れながらも断れば、オレのマンションの近くにあるアパートならいいんじゃないかと、オウガが物件を探してきてくれた。


 手頃な値段で、オウガの家も近い。

 オレがいるからメイコに何かあっても大丈夫ですと、オウガが母さんと史人さんを説得してくれて、私は念願の一人暮らしを手に入れていた。

 オウガには世話になりっぱなしだ。


 ……おかしいなぁ。

 最初は確かに、私のほうがオウガの面倒を見てたはずなのに。

 いつの間に逆転してしてたんだろう。

 今じゃすっかりオウガは日本に馴染んでしまって、私が教えることなんて何もなかった。


「親父さんも誘って……クリスマスパーティを開くのはどうだ、メイコ?」

「えっ?」

「それなら、プレゼントをあげるついでに色々ときっかけもできるだろ?」

 オウガが立ち止まって、私を下ろす。

 いつの間にかアパートの前まで来ていた。


「それは……いいかもしれないけど。私が誘っても、参加してくれるかな……」

「大丈夫だ。聞いてみればいい」

 不安な私の前で、オウガは史人さんに電話をかけだす。


「もしもし、史人さんですか。メイコならもう大丈夫です。アパートの前につきましたから。さっき言い忘れたことがあるみたいで。メイコにかわりますね」

 オウガときたら、心の準備ができていないのにいきなり電話を手渡してくる。


「あ、あの……!」

『なんだい、メイコちゃん?』

 電話の向こうから、史人さんの声がする。


「クリスマス、開いてますか」

 オウガが私の目の前で、言う言葉を指定してくる。


「クリスマス、開いてますか!!」

 パニックになりながらも言葉を繰り返せば、オウガがその調子だと親指を立てた。


「えっと、そのっ……家族皆でクリスマスパーティをしたいなって考えてて。史人さんも参加しませんか……?」

『……参加していいのかい?』

 勇気をふりしぼって口にすれば、躊躇いがちに史人さんが尋ねてくる。


「もちろん!」

 電話の向こうにいる相手には見えないのに、思わず大きく頷いて答える。

『そうか。今から楽しみだ』

 史人さんは、優しい声でそう言ってくれた。


 その後でお母さんにも電話を替わってもらう。

 家族でのクリスマスパーティの計画を話せば、お母さんも喜んでくれた。


『メイコから家族でパーティをしようなんてお誘いがくるなんて、思わなかったわ!』

「まぁ……オウガの案なんだけどね」

『そうなの。オウガくんにありがとうって伝えておいてね』

 母さんと少し話してから、おやすみと言って電話を切る。

 携帯をオウガへと返却した。


「……ありがとうオウガ。母さんも、史人さんも……喜んでくれてた」

「よく頑張ったな。勇気出せたじゃないか」

 お礼を言えば、オウガが頭を撫でてくれる。


「林太郎とオレも準備は手伝うから。メイコは親父さんへのプレゼントを用意しておけ」

 声が優しくて、力強い。

 甘えてしまってるなと思う。


「オウガ……ありがと」

「気にするな。オレがしたくてしてることだ」

 頑張れというように、オウガが肩を叩いてくれる。

 まるで勇気をもらったような気分になって。

 次こそは――お父さんと呼べるような気がした。



 ◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆


「よし、できた!」

 史人さんへのクリスマスプレゼントに、手編みのセーターを作った。

 こう見えて手先は器用だ。

 既製品にもまけない、なかなかのできだと自負している。

 

「次は……オウガのマフラーを仕上げなきゃね」

 史人さんへのプレゼントをラッピングしてから、編みかけのマフラーを手に取る。


 今回のお礼も兼ねて、オウガには青いマフラーを編むことにした。

 絶対に喜んでくれるとわかるから、編むのが楽しい。

 コツコツと編んでいって、完成したのはクリスマスの四日前。作り終えたところで満足して寝て、起きたら朝だ。


 遅刻ぎりぎりだったので弁当を作ることは諦め、いつもオウガが待っている場所へと急ぐ。

 アパートとマンションの建物の間、特に決めたわけではないけれど、ここで待ち合わせしてから会社へ向かっていた。


 目的地は一緒だし、朝の通勤時間を使って今日のスケジュールを確認すれば、一日の仕事はスムーズに進む。

 とても効率的だ。


「っと危ない! お金忘れるところだった!」

 この日のためにと取ってあったお金を、鞄にしまう。

 今日は私の大好きな乙女ゲーム『黄昏の王冠』の続編が発売する日だった。

 すでにアニ●イトには初回限定版を注文済み。店舗別特典もしっかりとチェックしてあるから、抜かりはない。

 

 好きなゲームの発売日ってだけで、今日は頑張れる気がする。

 仕事が終わったらアニ●イトでゲームを受け取り、明日は公休日でお休みだから一日中ゲームをする予定だ。

 そのために昨日でやるべきことは全て終わらせてあった。


「……それはどういうことだ! 答えろ!」

 弾む足取りで待ち合わせ場所へ向かえば、オウガの切羽詰まった声が聞こえた。

 何事だろうと思えば、誰かと電話をしている。


「お前は何を知ってるんだ。ちゃんと言え! ちっ、切りやがった……!」

 オウガは悪態をついて、誰かに電話をかけ直す。

 らしくない焦った様子だった。


「どうしたのオウガ! 何かあった?」

「……メイコ」

 駆け寄って尋ねれば、オウガは少しほっとしたように見えた。

 けれどその顔色は悪い。


「いや……何でもないんだ」

 オウガの電話から「電源が入ってないところにいるか……」というアナウンスが聞こえてくる。

 かけ直した相手は、オウガの電話を取ってくれなかったようだ。


「何でもないって感じじゃないよね?」

「平気だ……大丈夫だから」

 心配で声をかければ、オウガはまるで自分に言い聞かせるみたいにそう口にする。

 それから私の手をにぎってきた。


「……行くぞ」

 何で手を繋ぐの!といつもなら文句を言って振り払うところだけれど、できなかった。

 オウガは険しい顔をしていて。

 何よりも……私の手をにぎるその手が、何かに怯えるように小刻みに震えていた。

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本作のその後の話、「本編前に殺されている乙女ゲームの悪役に転生しました」もよければどうぞ。
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