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彼女が『乙女ゲームの悪役』になる前に+オウガIFルート  作者: 空乃智春
【彼女が『乙女ゲーム』の悪役になる前に/高校編】
21/43

21.信じることと信じられること

 帰る時間になっても、先生がホームルームに現れない。

 何かあったのかなと思っていたら、テストの際にカンニングがあったらしい。


 情報だけが隣のクラスの子から入ってきて、クラスの中がざわつく。

 しばらくして先生がやってきたけれど、それについての情報は何もなく、帰るように言われた。


「オウガ、明日お休みだよね。林太郎が映画見にいかないかって言ってるんだけど」

「そういえば、約束してたな。あの青いネコ型ロボットのやつか……感動ものは苦手なんだが」

「あの子、結構ドラ●もんも好きだからね。というか、ドラ●もんって感動ものだったっけ……?」

 そんな会話をしていたら、先生がこちらへやってきた。


「桜河くん、ちょっといいかしら」

「はい」

 二年生になって、担任が若い女の先生になった。

 オウガが呼ばれて頷けば、先生はここじゃちょっと話せないと別の教室へ移動する。


「ふーん、オウガ……もしかしたらカンニング疑われてるのかな?」

 近くにいたサキが、そんなことを言う。

「えっ? でもオウガはそんなことしないよ?」

「そんなこと知ってるよ。あいつはクソ真面目だからね。でも、あの先生はオウガのことそこまで知らないからなぁ。メイコ、行くよ」

 サキがそう言って、ついてこいと歩き出す。

 空き教室のドアの前で、サキは足を止めた。


「先生は怒らないから、素直にいってくれ。桜河くんは、二年前に日本にやってきたばかりだよな。それでこんな成績を取るのは、難しいはずだ」

「……カンニングなんてしてません」

「桜河くんがカンニングをしていたという情報を、先生はもらっているの。誰が、とは言えないけど、悪いことは必ずばれるものよ」

 先生達とオウガの会話が聞こえてくる。


 声からして学年主任の先生と、うちの担任だろう。

 二人ときたら、最初からオウガがカンニングしていると決めつけているみたいだ。

 聞こえてくる話しの内容に、私の苛立ちが募っていく。


「桜河くんは素行も悪いわよね。一年生のときには、他校の生徒と乱闘騒ぎも起こしているし、停学処分にもなってる。悪い噂も色々聞いているのよ」

「……」

 担任の言葉に、オウガは黙って、何も言い返さない。

 それをいいことに、一方的に話しを続けていた。


「失礼します!!」

 もう我慢ができなくて、がらりとドアを開けて中に入る。


「……メイコ?」

「朝倉さん?」

 驚くオウガと先生の間にある机を、バンと強く叩く。

 二人は広い教室の中、小さな机を向かい合わせて話しをしていた。


「オウガはカンニングなんてしてません! 担任なら、疑うより信じてあげてください!」

「勝手に聞いていたのね。これは、プライベートなことだから……」

 声を荒げれば、担任の先生が私を宥めるかのような声を出す。

 それに構わずに続けた。


「オウガが一生懸命勉強をしていたことは、私がよく知ってます。オウガはカンニングなんてするような性格じゃないんです。自分の力でやらないと、勉強は身につかないっていつも言ってますから」

 この人は何もわかってないと、腹の奥がむかむかとしてくる。

 怒りが収まらない。


「他校との乱闘騒ぎだって、オウガは巻き込まれただけです。私が連れていかれそうになったから、仕方なくついていったんです。何も知らないくせに、決めつけないでください!」

 一気にまくし立てれば、担任の先生はぽかんとしていた。

 私がこんなふうに怒るようなタイプだと、思ってなかったのかもしれない。


「ねぇ先生、いったい誰がオウガのカンニングを見たって言ったの?」

「それは……言えないわ」

 いつの間にかサキも教室に入ってきて、担任の先生に問いかける。先生は分が悪いというように、困った顔をしていた。


「ふーん、別にいいけどさ。疑うなら、再テストすればいいじゃん。似たような問題作ってやればいい。できるよね、オウガ?」

「オレとしては、それで問題ありません」

 サキに問いかけられて、オウガが堅苦しく答える。

 学年主任の先生がそれがいいと言い出して、その場はそれで解散することになった。


「本当有り得ない! なんでオウガが疑われなきゃならないの!」

「悪い事があると真っ先によく疑われるから、慣れてる」

 オウガの家で、クッションを苛立ち紛れに叩く。

 怒る私に対して、オウガはいたって冷静な様子で、追試用の勉強を始めていた。


「よくあることじゃないよ! ちゃんと怒らなきゃ! オウガもオウガだよ。どうしてもっと違うってはっきり否定しなかったの!!」

「言ったって信じてもらえないと思ったからな。というか、メイコ。なんでお前が、オレのことでそんなに怒ってるんだ」

 オウガが不思議そうに尋ねてくる。

 そんなのわかりきっていることだろうに。


「オウガのことだから怒ってるんでしょ!! あんなに頑張って、努力したのに、あんなこと言われたんだよ!? 悔しいに決まってるじゃない!」

「……」

 叱り飛ばすような勢いで言えば、オウガは目を見開く。


「なによ……何か言いたいことでもあるの?」

 不機嫌なまま尋ねれば、オウガはペンを置き、自分の口元を押さえた。

 それから少し私から目線をずらす。


「いや……まぁ、そのなんだ。結構嬉しいものなんだな」

「何が」

「自分のために、怒ってもらえることが……だ」

 口元を隠すオウガは、ほんのりと頬が赤い。


「ダメだ、顔がしまらない。ちょっとコンビニまで行ってくる」

 そう言ってオウガは席を立って、部屋を出てしまう。

 私の側を通るときに、少しだけ見えたオウガの横顔は。

 これ以上ないというほどに、緩みきっていた。

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本作のその後の話、「本編前に殺されている乙女ゲームの悪役に転生しました」もよければどうぞ。
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