雷鳴⑧
生き返らせることができる。
響いた自身の言葉。
それに付け加えるように、マーリンは続けた。
「身も心も本物の聖女の加護」
「それがあれば、死んだ人を生き返らせることは可能」
しかしそこで目を伏せ、「でも、この世界に本物の聖女はもう居ない」そう呟き、悲しげにヨミへと視線を向けるマーリン。
そんなマーリンを見上げ、ヨミもまた声を響かせる。
「ほんものの、聖女」
「勇者の側に居るはずの女の人。その人はどこ?」
「知っていたら苦労しない。うーん。名前だけは知ってる。確かーー」
「マリア」
マーリンの言葉。
その続きを淑やかな声が受け継ぐ。
それに皆の視線が一斉にそこへと注がれる。
果たしてそこに佇んでいたのは、掠れ切った笑みを浮かべ小さく頭を下げるスズメだった。
そんなスズメの姿。
それを見据え、マーリンは声を響かせる。
「スズメさん」
「はじめまして、賢者さん。こうやってお話をするのははじめてですね」
微笑む、スズメ。
「それに」
「貴女もはじめましてですね。名前は確かーー」
「ヨミ」
スズメの声。
それに短く答え、マーリンの影に隠れるヨミ。
その姿。それは、母猫に縋る子猫そのもの。
「はじめまして、ヨミさん」
顔は笑っている。
しかしそのヨミを見つめるスズメの目にはうつっていた。
アレンにより取り上げられた冥府の残滓。それがヨミの周囲に未だ仄かに漂っているのを、はっきりと。
こちらを見据える、スズメ。
それに、ヨミは呟く。
「こわい」
「あの人。こわい」
小刻みに震え、ヨミはスズメの視線から逃れようとする。
「まーりん」
「よみ、こわい」
「って言われても。わたしにはどうしようもできない」
ヨミの言葉。
それに困惑し、頬をかくマーリン。
元勇者の仲間。
力は衰えているとはいえ、今の自分にどうこうできる相手ではない。
「大丈夫。あの人はなにもしない」
「わからない」
「わからないのは貴女のその考え」
「……」
「今の貴女はペルセフォネじゃなく、ただの少女。わたし、聞いたよ。アレンの力で元の少女に戻ったって」
マーリンの悟すような声音。
それにヨミは落ち着きを取り戻していく。
「冥府という概念。それに支配されていた時の貴女なら、あの人を怖がるのもわかる。でも、今は」
"「返してもらうぞ」"
ヨミの脳裏。
そこに蘇る、アレンの声。
「もう冥府は存在しない。アレンがその存在を消したから」
そんな目の前のやり取り。
それを見届け、魔王は口を開く。
「スズメ」
にこりと。
魔王に微笑む、スズメ。
「何故、ここに? セシリア亡き今、御主がここに用などないはずだが」
「えぇ、そうです」
「では、なぜ?」
魔王の疑問。
それにスズメは答える。
顔から笑みを消し、意思の込められた声音と共に。
「アレンくんに、託したい」
魔王の問い。
それにスズメは更に言葉を紡ぐ。
「セシリアさんがアレンくんに託した思い。それにわたしも応えたいのです」
「……」
意思のこもったスズメの声。
それを静かに聞く、魔王。
そして己の胸中で、「勇者。その存在に人は皆憧れを抱き、そして思いを託す」そう呟き、魔王はアレンの姿を脳裏に宿す。
"「あらゆる困難。そして苦しみを乗り越え、仲間と共に成長し世界を救う」"
"「それが勇者」"
かつて対峙したセシリアの姿。
真紅を纏った勇者の姿。
それを思い、魔王はちいさく笑う。
そして、そこに響くは声。
「みんな、すまない。俺は大丈夫。少し、疲れてただけ……だから」
アレンの声。
心の痛み。それを見せまいと笑顔を浮かべる、アレンの姿。
それが、玉座の間の入り口にはあった。
あけましておめでとうございます!




