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「果たして、真に狂っているのはどちらなのか」

休日に別の色々を挟みつつも書き連ねていたら過去最長に近い長さになりました。

タイトルが不穏ですが、読者の皆様から「そりゃリバユニだろ」というツッコミが来そうな気がします。

【Re:BIRTH UNION総合スレ】より抜粋


881:再生回数7743 ID:********

昨日の執事、四谷、少佐のACT HEROESコラボに低評価爆撃来てる


882:再生回数7743 ID:********

>>881

マ?


883:再生回数7743 ID:********

特に執事のがとんでもねぇ事になってるな

コメントにもなんか頭沸いてるのが湧いてるし


884:再生回数7743 ID:********

一方常連リスナーの大半が「荒れてて草」ってコメントしてて草


885:再生回数7743 ID:********

一番荒れてるのは廻叉で四谷とユリガスキー特務少佐は巻き添え感あるな。

四谷と少佐のコメントの方もアレなのが案の定居るけど、おそらく常連と思われる連中が魔窟コメントで埋めてる


886:再生回数7743 ID:********

魔窟コメントの埋め立て地とか死の大地では?

つーか原因は何だよ


887:再生回数7743 ID:********

執事低評価爆撃の件の今北産業

・ACTでチャンピオン取った時の最後の相手がラブラビリンスのエリザベート・レリックのチーム

・エリザがチャンピオン取れなかった悔しさに号泣、チャンピオンチーム表彰シーンで相手もVtuberとバレる

・頭がアレでお馴染みのラビラビリスナーが「エリザを泣かした」「ランク昇格を邪魔した」という理由で執事たちのとこに凸


888:再生回数7743 ID:********

>>887

執事悪くなくね?


889:再生回数7743 ID:********

>>887

頭がアレで草。いや、まぁラブラビリスナーって真っ当な人も多いけど、ヤベー奴らが一定数いるよな……そういう奴らに限ってコメント欄とかSNSで暴れてるからタチ悪いっつーかなんつーか


890:再生回数7743 ID:********

完全にとばっちりやんけ

むしろエリザが低評価爆撃受ける案件だぞ


891:再生回数7743 ID:********

>>888

ここまでは、な

実際凸が来てからの執事の物言いが完全に火に油だった


892:再生回数7743 ID:********

執事が売られた喧嘩を高額買取しちゃったんだよな……




※※※




 Vtuberを含めたゲーム実況界隈や、FPSプロゲーマーチームの間で流行の兆しを見せている『ACT HEROES』というゲームがある。ミリタリー系の作風が多数だったFPSというジャンルにおいて、SFやアメコミ風の世界観を前面に押し出し、架空兵器やキャラクターの持つ特殊能力や必殺技を絡めた派手な攻防、三人一組のチームでのバトルロイヤル形式だからこそのチームワークや駆け引きなどが受け、初めてFPSに触れるプレイヤーが多く、近年のFPSジャンルでは例を見ない程のヒット作となっている。


「それでは、私は例によってブリンクジャックで」

「僕は……バロールで。一人だけファンタジーしてますよね、魔眼とか」

「吾輩はギガウォールにしておこう。しかし、防御に特化したピックになったな」


 正時廻叉、小泉四谷、ユリガスキー特務少佐の三人はこの日、『初心者三人でランクマッチ』という配信を行っていた。元々は四谷が廻叉を誘い、もう一人のメンバーをDirecTalker上で募集した所にソロ配信予定だったユリガスキーが手を挙げた事でこのメンバーになった。


 廻叉が選択したのは短距離瞬間移動能力を持つ『ブリンクジャック』、四谷が索敵能力と必殺技である完全透視能力を持つ『バロール』、ユリガスキーはバリア展開能力を持つ『ギガウォール』を選ぶ。それぞれ攻撃的な能力がない代わりに生存力に優れたキャラクターとなっており、勝つ事よりも長く楽しむことを目的とするような構成になっていた。


「ブリンクジャックのウルト講座を見たのですが、相手の行く手を阻むように連続ブリンクで撃ち落としていました。流石に、今の私には厳しいですね」

「ウルトが20秒間ブリンク使い放題、でしたっけ。廻叉先輩、全力で逃走に使ってましたが」

「普通に逃げても、強者のエイムからは逃れられぬからな。一人で生き残った場合はその選択も間違いではなかろう」

「そこはバロール、ギガウォールのお二人に助けていただきたいところですね」

「うむ。特にバロールウルトは公式ウォールハックとも言われる強力な能力となっている。小泉殿が攻防の要であるな」

「うわー、責任重大。少佐もガンガンバリア張ってくださいね。特に、ウルト抱え落ちはギガウォ最大の罪って言われてるらしいですよ」

「うむ、今からでもキャラ変えていいかね?」

「ダメです」


《草》

《雰囲気いいな》

《少佐殿の馴染みっぷりよ》

《誰が一番上手い?》

《FPS慣れって意味なら少佐。戦略眼や判断力なら執事。練習量で上手くなりつつあるのが四谷》

《Tier中位構築かぁ。攻撃系ウルト持ちの強者に当たった時が見物だな》

《清々しいまでの順位点狙い》


 『バロール』は固有スキルの『千里眼』によって、自身を中心としたある程度の距離内に居る対戦相手を見つける事が出来る。ただし、上空から見るという形なので屋内や洞窟内など屋根のある場所に居ると発見できないという弱点がある。その代わり、ウルト『魔眼』を発動することで自身の視界内にある対戦相手を完全に捕捉出来る。チートツールの定番であるウォールハックを限定的な形とはいえ公式が採用することでチート対策の一つにしている。実際に、ACT HEROESにおけるウルトはチートツールを元ネタにしたものが多いのが特徴でもある。


 一方で『ギガウォール』は読んで字のごとく『対銃バリア』をスキルとして発動し、半透明の壁型バリアを張る事が出来る。銃弾を完全に防ぐ代わりに、一定時間で消滅する事やグレネード弾などの投擲武器、一部のスキルやウルトは素通しになってしまうが、ウルトでありキャラクターと同名の『ギガウォール』は一定のダメージを与えなければ割れない上に、スキルのバリアでは防げない攻撃や能力も防いでしまう超強力な能力だ。ただし使用可能までの待機時間が極めて長く、ワンマッチに1回撃てるかどうかという使いどころが非常に難しいウルトだった。無駄撃ち、抱え落ちはギガウォール二つの大罪と言われる程、重要な能力だった。


「実際に動いて、構成変更はそれ以降でいいでしょう。ではよろしくお願いします」

「うむ。それでは参ろうか」

「はーい、頑張りましょう」




※※※




 十数戦後、三人はロビー画面でそれぞれ考え込んでいた。ランクポイントは微減。上位に入れてもキルポイントが少なく、負ける時は初動の戦闘に巻き込まれて何も出来ずに負けていた。このままではポイントを溶かす一方である、という事で作戦会議と相成った。


「私自身も遭遇戦が苦手なのもありますが、乱戦になると対応しきれずに各個撃破されてしまいますね」

「悔しいが、吾輩達に劣勢を覆すだけの技量が無いのが露呈しておるな。序盤からではウルトのゲージも溜まっていないとなると、厳しいな」

「こればかりは自己流で何とかするのは難しいですよね。リブラさんみたいなFPS巧者にコーチをお願いするとかしないと」


 幸いにも結果が出ない事で腐ったり雰囲気を悪くするような事は無く、それぞれが冷静に自分達の短所を把握し、改善点を探そうとしていた。しかし、単純なFPSの腕前勝負になりやすい序盤の遭遇戦に関しては打つ手が見付からないのか、作戦会議の議事録はそこから一行も足されなかった。


《厳しいなぁ》

《チャンピオン取れそうな試合はあったけど、撃ち合いで負けてるのが辛い》

《フレアビーみたいな攻撃スキルとウルト持ってるキャラに変える?》

《練習エリアだと動いてる的に当てるのが無いからなあ》

《試合の中で覚醒するしかないな》

《有識者流石に少ないか》

《どうして覚醒しないんだい?》


「そんな簡単に覚醒出来たら全員HEROESランクに居ますよ」

「先輩どうしました急に」

「いえ、コメントに煽られまして」

「煽りというよりも無茶ぶりであるな」

「まぁ兎に角、遭遇戦よりは撤退戦の方が僕らは得意なので、逃げ回りつつ、チャンスを見付けたら一気にいきましょう。あと、リブラさんも言っていた『フォーカスを合わせる』をもっと意識してやってみましょうか」

「うむ。小泉殿の言う通り、戦闘中の意思疎通に難があったのは事実。ダメージ申告と標的の確認を意識して次戦に臨むとしようではないか」

「講座に参加した時も思いましたが、改めてリブラさんが恐るべき強者だという事を再確認出来ましたね。我々とは雲泥の差だ」


《拾われてて草》

《草》

《一番後輩の四谷がリーダー格として動いてるの面白いな》

《少佐もなんだかんだ上手いけど、ランク的にはC+なんだな…厳しい世界だ》

《バロールがリーダーやるのは定番だからな》

《リブラは上手いだけじゃなくてモチベーションのバケモノだから……》

《電脳銃撃道場がオバズとのW所属前提でリブラをガチスカウトしたらしいしな》


 キャラクターの特性から戦場での指揮官をやっている四谷の提案に、廻叉と少佐が了承の意を示して次のマッチへと向かう。この試合を機にチーム間での会話の内容が少しずつ変わる。雑談交じりではあるが、必要情報の伝達がよりスムーズになった。そして、その結果はすぐに発揮されることになる。




※※※




 『電脳アイドルユニット・ラブラビリンス』は2018年に立ち上げられた女性Vtuberプロジェクトだ。2Dモデルと静止画MADの形で楽曲を発表する一方、生配信でのゲーム実況でのリアクションや、ファンサービスの良さが話題となり、初動での人気上昇具合は界隈でも話題となっていた。現在は脱退などもあり人数を減らしているが、3人で活動中である。


 一方で、行き過ぎたファンサービスが故にファンの過激化・先鋭化が著しいユニットでもあった。メンバーが注意をしても改善の兆しは見られない。だが、そういうファンの方が高額ドネートやグッズ・ボイス購入に積極的であるという点から、厄介なファンを完全に切り捨てる事のない運営やメンバーの態度に非難の声が集まる事も多い。


「ごめんね、私が弱いせいで勝てなくて……」


《¥:3,000 そんな事ないよ!》

《エリザは頑張ってる》

《野良が悪い、エリザは悪くない》

《¥:10,000 気にしないで》


 エリザベート・レリックはラブラビリンスメンバーの中で最もゲーム実況配信が多いVtuberだった。金髪に紫の目を持った、いかにもな貴族のお嬢様感のする外見と、色々と気にしてすぐに謝ってしまう弱気な性格で男性ファンの心を掴んでいる。現在、登録者数は6万人を超えており、新興ユニット所属者としては相当な人気を誇っていた。


「次、頑張るね……!」


《頑張れ》

《俺、エリザがチャンピオン取ったら5万投げるって決めてるんだ……》

《¥:500 頑張れ》

《¥:200 給料日前で少ないけど応援の気持ち》


 彼女を含めたラブラビリンスの生配信における最大の特徴は、このドネート率の高さだった。大半の配信はドネーション設定がONになっており、ファンたちは思い思いの言葉と共に投げ銭を渡す。文字通り、一挙手一投足に反応してドネートを投げているレベルだった。


 彼女がソロでチャンピオンを目指す、という名目で配信を開始して3時間。次の試合で、ようやく残り2チームの所にまで残った。最後の対戦相手は、奇しくも配信中の正時廻叉らのVtuberチームだった。一部ではキルログに表示される名前で気付かれては居たが、彼女よりチャンネル登録者数の少ないVtuberにファンは反応を示さなかった。


 エリザベート・レリックも、正時廻叉らに触れたコメントを確認した上で、それを拾う事は無かった。




 ※※※




「最後っ!そこの壁裏に居ます!!」

「了解しました。ブリンクウルトで突入しますので、カバーを」

「任された!ウルトは無いが、スキルは発動可能である!」


 建物の奥を逃げ回る敵チーム最後の一人を、廻叉の操るブリンクジャックのウルトで先回りして脱出を防ぐ。背後からはバリアを展開したユリガスキーと、ウルトを使用している状態の小泉による援護射撃。完全近距離ではなく、中距離を保ちながら冷静に射撃を繰り返し、ついに最後の一人が倒れた瞬間、画面にこう表示された。


【Congratulations!! You are the Champion!!!! Your Team...1/20】


「やったああああああ!!」

「勝利の勝鬨を上げよ!!」

「……なんとか、削り切れましたか」


《うおおおおおおおお!!!》

《よくやった!!》

《やるじゃん》

《最後冷静だったな。ブリンクウルトでの先回りがブッ刺さった》

《最悪》

《情報共有ってマジで大事なんだな》

《お前何やってんだよ》

《バロールのウルト、そろそろナーフされそうだな》

《後詰の少佐殿の安心感よ》

《エリザこんなやつに負けて可哀想。謝りにいけよ》

《ん?》

《なんか荒れてて草》

《その時、無感情な執事の下にやたらと感情的な何かが!》

《あー、ラブラビエリザだったのか最後の。配信やってるわ確かに》

《知らなかったからで済ますな。頑張ってたエリザの気持ちを考えろ》

《マジの荒らしで草》

《草》

《執事にそんな事言っても聞き入れられるわけねぇじゃん、俺らが赤ちゃんあやすボイス出せって言っても出さないのに》

《知らんがな>エリザの気持ち》

《赤ちゃん子守ボイス作って何する気だよ》

《あやされてえんだよ!!わかれよ!!》

《最悪で草》


 加速するコメント欄の中に何故か廻叉を糾弾するようなコメントが唐突に増え始めた。その中に、分かりやすく名前を出しているコメントがあり、廻叉だけでなく元々のリスナーも何があったかを理解した。2Dモデルでも分かる程度には眉根を顰めるが、リスナー達は空気を読んでか読まずかネタフリ扱いして漫才を始める始末だった。モデレーターが削除を始めるが、その手のコメントは増える一方だった。


『廻叉さん、こっちの配信にこないだ注意喚起あった所のファンの人が結構来てます』

『吾輩の所にも来ておるな。空気を読んだリスナー達がACT女性キャラ長文百合妄想を叩きつけて中和しているが』

『あ、僕の所もACTの裏設定語りから都市伝説トークにナチュラルに移行して中和しようとしてくれてる……』


 DirecTalkerのテキストチャットに二人からの現状報告が来ている事に気付いた廻叉は、内容を確認すると「それは中和ではなく毒物の精製ではないのか」という考えが浮かぶ。とはいえ、配信上では喜びを露わにする二人が裏でこのような報告を送って来るような事態になっている事が、廻叉にとっては許しがたい事だった。実際、ラブラビリンスの一部ファンによる迷惑行為の注意喚起は来ていたが、まぁ後で事務所には謝っておこうと判断する。


「さて、コメント欄が大変な事になっていますね――申し訳ありませんが」


《謝ってるのに他人事感》

《草》

《早くエリザのとことSNSで謝罪文出せ》

《お前らのせいでエリザ泣いてるんだけど》

《もっと心込めて謝れ》

《執事に『心込めて謝れ』は草》

《この執事が心を込めたらもう演技なんだよなぁ……》

《が?》




「そちらのエリザさんという方にお伝え願えますか?私はそこまで上手くないので、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、と」




 この日、最大のコメントの加速が起こったが、3割が廻叉への罵詈雑言で、7割が草であった

執事、放火犯に対して真顔で火炎瓶投擲。

ラブラビという箱が綺麗な箱なのかそうではないのかは次回以降にお見せできるかと思います。


御意見、御感想の程、お待ちしております。

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― 新着の感想 ―
[良い点] マッチ棒持ってイキってる放火魔を燃え盛る松明で全力で殴りに行くスタイル。嫌いじゃないぜw
[良い点] >荒らしに煽り返す姿を見て爆笑する愉快な野次馬達がメインリスナーという現状が最大の問題な気がしないでもないです。 アンチコメをあてに酒を飲む奴らのリスナーですから類友ですね!()
[良い点] 更新お疲れ様です。 いや草 面白いです、「こういう展開もあったかー…!笑」となってます。良きです。何かこう、すごい現実的だけど、物語としての味がありますね。(?) 応援してます。
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