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話は戻して、器用だったマイクの1時間で100ルーツ。
クリップの理想価格は10個で100ルーツとすると販売手数料、輸送費、原材料代を加味して……単価で1個あたりの儲けが10ルーツくらいにすれば孤児院で制作依頼は受けてくれるだろうか。
とりあえず制作利益を単価10程に設定する方向で話を作ろうと指針を決める。
原材料、あと輸送費や販売手数料はとりあえず鉄線の改良が完成してからだ。と、とりあえず決めたことをクリップの書類に書き足すあいだにもコツを覚えたのかマイクはサクサクと作り出した。
1個あたりの制作時間は30秒ほどだ。
出来たものも綺麗で問題ない。
5分で造花1時間分の儲けとなると造花の内職の方にも支障が出て、さらに大人も競ってやりたがるか…。もう少し市場を調べる余地があるなあ。
でも、これは早めに実用化も可能そうだ。
と思っていると、マイクの手が止まってこちらを真剣な目で見てきた。
「あの……あの、お嬢様!お、俺勉強とかすごい頑張りますから……いつか、いつかお嬢様の従者にしてくれませんか!」
「従者?」
「はい!親いないし、身分もないしでリリアお嬢様の従者なんて身の程知らずってわかっているんですけど…拾い上げてくれたお嬢様に恩返しをしたいんです!!」
私には、今は従者はいない。エルク様と母様にはいるけど。
私は別に孤児だろうがなんだろうが構わないのだけれど、そうか。
従者になりたいから私からの仕事をあんなに熱意を込めてねだったのか。
少し考えて、慎重に言葉にする。
「私には今は従者は居ません。けれど母様には執事、従者含めて10数人の部下がいます。将来私が侯爵位を継いだ時には彼等の中で希望をしてくれれば雇い入れると思います」
「は、い……」
「母様の従者には貴家の出身の方や、うちに遠縁の方も居ますし従者歴数年~数十年のプロたちです」
「……」
呼べばいつでも出てくる爺を筆頭に、母様の従者や執事はとても優秀なものが揃っている。それこそ、今のマイクでは到底太刀打ち出来ないほどの。
「……彼等に負けない実力をつけるのは大変ですよ。それでもマイクが私の従者を望んでくれるのなら頑張ってください。全てにおいて優秀じゃなくてもいいです。突出した優秀さでも、武器になりますから」
「は…はい!!一生懸命学びます!!」
嬉しそうに笑うマイクに私まで嬉しくなってにこりと笑う。もし彼が私の従者になってくれるなら、それはすごく頑張ってくれる結果だ。
私もマイクに負けないように日々精進を重ねよう。
そう決意も新たにしていると、
開いているドアから爺が姿を表した。
「従者になりたいのならばまず、頼まれた仕事を忘れないことですな。お嬢様、食事の用意が整いました。お客人も奥様たちもお待ちです」
「あら。わかりましたすぐに参ります」
「あ、お、お嬢様ごめんなさい!」
「次から気をつけてくださいね」
なるほど、マイクは食事の連絡に来たのか。
まあ完全に仕事モードに入って尋ねなかった私も私だが、とりあえず待たせるのは失礼なので片付けも軽くですぐに食堂に向かった。
「申し訳ありません、お待たせしました」
「おうリリア先に食べてたぞ」
「あら。お父様も帰ってらしたんですね」
「ああ、我が家に最重要護衛対象が居るからな」
ああ、居るね。
既に食事を食べていたエルク様の隣に座ると小声で大丈夫?と聞かれたので笑って返す。
うん、仕事は問題ない。
仕事を片付けていたら、なんか増えたこと以外は特に問題ない。
「ととしゃ、あしょぼ!」
「ご飯が終わったらなリズ」
珍しく早くに帰宅した父と、トーマも混じえて食事を取り。
リズは食事が終わると父様を引っ張ってどこかに行った。
母様もトーマにゆっくり休んでくださいねと言って執務室に戻った。
そしてエルク様とトーマと一緒に応接室で呪いは通さないけど術者の魔力を通す結界の作成に取り掛かる。
「だー!!ああ、もう、こんな複雑な構造の展開陣なんて出来るわけねえだろ!!」
「頑張れ魔法陣の天才」
トーマは魔法陣が書かれた紙と睨めっこをして、怒りながらガリガリと書いては紙を丸めて投げ
私は結界を展開しながら魔法陣をちょっとづつ弄っていたが
「ダメだ全然できる気がしねえ」
「同意……」
完全に詰まった。
結界に穴を開ける。これは容易い。
けれどその穴の部分に複雑な形をとなると、全然上手くいかない。
これは、このままじゃ無理だわ。ちらっとトーマを見ると彼も行き詰っているからか何故か共鳴を感じた。
「ちょっとそもそもの作りを変えてみるか」
「同意…コレじゃ、これ以上の改善は難しい」
細かいものを防いで大きなものを通す。
逆は簡単だけど、大きなものを通すとかどうすればいいんだ。
「イェスラー何か案をちょうだいー」
『無茶言うなよー。カーバンクル何かないのか?』
『僕そういう細かいの苦手なんで。姉さんは何かありますか?』
『わかんない……エルクは何かいい案ないの』
「……魔法使いの人は結界を使うと、結界を通り過ぎる魔法は使えなくなるんですか?」
「結界の種類にもよりますけど今回……は…」
普通にエルク様が精霊組の一員になっていることを突っ込みたいけれど、疑問に答えようとして少し考える。
例えば父様にあげた魔道具に刻んだ、魔力無効化魔法と結界魔法の複合陣。
この魔法効果は魔力無効化と結界の二重構造になっている。
結界魔法の内側に、魔力無効化の魔法があるのだ。
つまり、魔力無効化するための魔力は結界を通り抜けている。
そうだ物により結界を通り抜けるのだ。
今回の結界の元は精神防御結界を使った。
精神防御=目に見えないタイプの魔法攻撃だ。つまり、魔法を封じる。魔力を通さない。
だけど、その結界が物理防御なら………魔力は通す!だって魔力は防がないから!
「物理防御で作れば、魔力通すじゃん!!」
ついそう叫ぶと、トーマは目をカッと見開いた。
そうだ、盲点だった。
結界の形状よりも何よりも、そもそも魔法そのものを変えればいいのだ。
やったと喜ぶ私は気づかなかった。魔力を通す=呪いも通すということを。そんな当たり前のことに気づかないくらいトーマも私も頭を使い疲れていたようだ……。
「もうダメだ。俺はこれ以上何も出来ない」
「これは今の私じゃまだ無理だから長期でやって行くよ……」
圧倒的に操作技術と経験とアイディアが足りない。
トーマは考えつかれたのかソファにだらけ、私も隣のエルク様によりかかって萌えで挫折感と疲労を癒す。
エルク様の足元にはカーバンクルが寄り添うように座っていた。
そう、まるで私が寄り添うかのように。
その姿をじっと見て今日一日を振り返る。
エルク様がお菓子をあげる姿を
エルク様が撫でる姿を
エルク様と子供たちと楽しそうに会話する姿を
ん……?
その姿はまるで私とリェスラ、イェスラのようで。
と言うか根本問題において精霊は基本的に触られるのを好まない。
好まないはずなんだ。
エルク様の足に完全にピンクモフがくっついている現状を見てふとそれを思い出した。
契約者以外は、好まないんだ。
あれ、これって……




