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こっそり扉の隙間から様子を伺う。
イェスラとカーバンクルには気づかれていたけど。
と言うか、帰宅してから見かけないと思ったらカーバンクルこっちにいたのか。
エルク様が楽しそうに談笑しながら半透明のカーバンクルを撫でている。
カーバンクル、ちょっとそこ代われと思いつつももふもふと戯れるエルク様も良い!
子供たちと言っているけれど。
うちに来ている孤児たちはみんな私より年上だ。
そこには孤児たちが全員いた。
エルク様が1番大きく、次にネルとリア。
トーマとシャルマとマイクとレティシアはその次で、全員同じくらい。
具体的に言うとエルク様とネルとリアは目線が少し違う程度で、
トーマ達は頭半分ほど下といったくらいか。
私だけ、エルク様と頭が1個以上違う。
こうして近い年代の人と雑談をするエルク様は、当たり前だが私に見せる顔とは違っていて。
悪いとも良いとも言えないけれど、なんか、こう。
10歳差って辛いな。
中身は熟成されきっているはずだが、子供な自分が少しだけ悔しくってそのままその場を離れた。
私はエルク様の幸せを祈っている。楽しそうな彼の邪魔はできない。
もうすぐ夕御飯なのでそれまでの間部屋で仕事をすることにする。
土嚢の作り方と、活用方法を書類にし『土精霊魔法と土嚢の効果対比実験のレポート』添付予定とメモを一緒にまとめる。
そういえば、こういうのもクリップとかあれば便利なんだけど。
クリップなのにうさぎとかのワイヤーアートがついたやつ、昔衝動買いしたなあ。でも仕事ではさすがに使えなかったから結局封を開けないで目で楽しん………だ…。
そう、可愛さに衝動買いをしたのだ。
そしてあったらいいなと思っている。
……作るか。クリップ。
あったら便利だもんねー。
そう思い記憶の中のぐるぐるしてるクリップを設計図として書き出す。
ぐるぐちゃな線が出来た。こんなところで画力の弊害が出るなんて。
もう一度書く。結果は何も言えない。そうだ定規を使おう。
そこで気づく。待って、クリップってどんな形。
何気なく使っていたアレ。改めてしっかり書き出そうとするとどんな形だったかさっぱり記憶にない。
わかるのは外周と内周があってそこに挟む、ということだけだ。
「爺?いない?」
廊下に出て試しに爺を呼んでみると、爺が奥の曲がり角から「なんですかな」と言いながら現れた。
大声で呼んだわけじゃないのに、と精霊ばりの感知能力の爺にちょっと怖くなる。有能すぎて怖い。
「鉄で出来た糸とかって、ある?」
「存在と言う意味ではもちろんございます。主に二種類、武器や罠として使われる鉄線と、日常生活や農業で使われる鉄線がございます。細かくすればもっとありそうですな」
「我が家に、という意味では?」
「後者の物なら庭師が所持をしています。どれほど欲しいのですか?」
「とりあえず庭師がすぐに使う分を除いて、全部で」
「かしこまりました」
爺が取りに行ってるあいだに定規で直線を整えて設計図を書く。
曲線がひどいが直線を整えるとそれは少しマシになった。
しばらくして、爺が工具と鉄線を持って帰ってきた。鉄線は円柱型の木にたくさん巻き付けられてあった。
思ったよりも硬い。変形しにくいが、素手で曲げられないほどでもない。硬さはちょうどいいが太さはパスタほどの太さで大きかったがとりあえずそこは目を瞑る。
とりあえず設計図を見て、中指ほどの長さを切り折ってみる。
手先は、そこまで不器用じゃないし曲線はペンなどを利用して曲げると割とすんなり出来た。出来たけど爪ほどのサイズだった。
小さすぎるので今度はもう少し長さに余裕を持って作る。
すると今度は大きめの物ができた。
これはこれで多めの紙を纏められる。
そう思いふたつの中程の長さの鉄線で作ってみると、何となく記憶通りのクリップが出来た。
満足のいくそれで土嚢の書類をまとめてはさみ、今度は20本ほど成功品に近い長さで切りペンを軸に黙々と作る。
とりあえずプライベート用に100個くらい。細く硬い鉄線の改良と、加工しやすい工具を……そうだな、細かいし表面のコーティングは腐食防止だけじゃなく色々なカラーバリエーションもありかもだからアジさん辺りに依頼をしよう。
色々なバリエーションを作ってからまずは鉄線の安価生産を整えて、加工は……とても簡単だから誰でも出来るしこれは副職向きか。
北部の冬は鳥よけネットの生産で忙しいし他での内職を頼んで……
頭の中で考えながらクリップを作る。
そうか、とても硬い鉄線を使って洗濯バサミ形のクリップも欲しい。
数枚ならこれでいいが、数十枚となると挟むタイプの方が良い。
そっちは鉄線よりも本体の加工に手がかかりそうだ。
頼むならば木工職人……そこまで考えてはっと気づく。
結界改良型を作るはずが土嚢、さらにはクリップ、挟むクリップへと仕事を減らすどころか増やしていた。
いやでも……大量生産、したいし……うん、クリップ欲しいし。
仕方がない。これは必要な仕事だと言い訳をして加工をしながらアジへの依頼書を二枚と、今思いついたことを書面に焼き付けて出来たてのクリップでまとめる。
「リリアお嬢様、いらっしゃいますか」
「どうぞ」
言い訳をしながら加工をしていると扉がノックされてマイクが入ってきた。
マイクは入るなり私と机の上の工具と鉄線を見て首を傾げた。
「何してるんですか、“お嬢様”が工作遊び…?」
「これを作っているんです。ほら、数枚の書類をまとめるのに便利じゃないですか?」
「ほー、これいいですねえ」
「作りも作り方も簡単で、ほらこう」
くね、くねとマイクの前で軽くひとつ作るとマイクもやりたがったので任せる。
するとマイクは初見でも器用に一つ作り上げた。
自分で作ったクリップをみて、白紙の紙を数枚まとめて感嘆の吐息漏らす。
「それで、これ何個くらい作るんですか?」
「とりあえず100個くらい?それだけあれば鉄線の改良、実生産までの間持つかと」
「……じゃあこれ、俺に作らせてくれませんか!!」
一瞬何かを考えたマイクは急に勢いよく頼み込んできた。
その突然の熱意に椅子に座りながらも身を引くが、マイクの熱意はちっとも引く様子はない。
「いやでも、ほかの形状とか飾りとか色々と試したいから…」
「なら屋敷にいる人たちに好みそうなデザインを聞いたり色々と調べてやってみます。ですから、お願いしますお嬢様!」
あまりにもぐいぐい来るので、結局は頷いた。
するとマイクはよっしゃあ!と声をあげて喜び、たかがクリップ作りでとなんだか申し訳なくなる。
「孤児院で造花の内職を手伝っていたので手先は器用なんですよ、俺」
「造花の、内職?」
「はい。と言っても造花なんてあまり需要がないので依頼が来た時だけでしたけど」
孤児院の子供が、内職。
孤児院で様々な小さな仕事をしていることは知っていたけど、作り手を探しているところでタイムリーな話題だ。
「マイク、これは使い捨ても可能な文房具です。1個あたりの単価はとても安いけどもし孤児院に制作を依頼したら幾らくらいなら受けてもらえると思いますか?」
「え、えーっと、その辺は少しわからないですけど造花は100本で1000ルーツの儲けと院長に聞いたことがあります。器用な俺で1時間で10本くらい作れていた感じです」
時給100ルーツか。
100ルーツはパンや鉛筆が1つ分の値段だ。
とんでもないブラック企業のような時給に見えるけど『子供でも出来る』仕事なら仕方が無いのかもしれない。
そんな安い仕事なら大人は受けないだろうし。
大体10万ルーツで女性1ヶ月分の平均収入兼一人の1ヶ月分の生活費だ。
余談だけれど私は月30万ルーツで学園と契約をしている。それ以外にも賢者の役員報酬とかも貰っているし、母様にも経営補助の正当報酬も頂いている。
他にも魔道具などのロイヤリティも収入としてある。
でも、子供が大金を持っていてもいいことは無いので基本的には持ち歩いてないけれど。




