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0歳児スタートダッシュ物語  作者: 海華
欲求の取捨選択編
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7



「リリア…?」


「はい。おじゃましないのでここで待っていていいですか?」


「中に入っていいですよ」


目が合って会話をしてるだけなのに嬉しそうなエルク様に手を引かれて。

同時に私にしがみついたリェスラをしっかりと抱いて入室する。


リェスラは弾かれるわけがないが、怯える彼女も。そして“私”が“私”であるだけで嬉しそうにするエルク様もだいぶ心の傷を残してしまったようだ。


でもなあ、

当時は本気でリュート嬢を救いたくて頭がいっぱいだったからなあ。まあリュート嬢を取り巻く環境が一切の予断を許さない切羽詰まった状況だったからだけど。

むしろ捕らえた方がいいって言ったの私だけど。いやでも呪いの拡大を考えたら私が接近するより捕らえるのが1番だったけども。



『あれー、リリそれ何?』


『リリの願いに寄ってきた小石』


『小石じゃないよー僕宝石だよー』


室内には教頭先生と、エルク様と、見知らぬ男性とイェスラが居た。

ぺこりと頭を下げると、即座に教頭先生が頭をしっかりと下げた。

挨拶にしては深いそれに疑問を感じる。


「この度は元学園長の企みに気づいてくださりありがとうございました。貴女が居なければシザー嬢の不思議な力の犠牲者はもっと多かったはずでしょうし、魔国の王太子様にもとんでもないことをする所でした」


「いえ、私は出来ることをやっただけですので」


ああ、謝罪だったのか。

謝罪を適当にいなして、壁際にたとうと思ったが見知らぬ男性が新しく茶を入れたので仕方なくソファに座る。


学園長の机の上はたくさんの書類が散乱して、大人三人が真面目な会話をしている。


「では学園内の予算はーーー」


「特別予算として被害者たちのケアをーー」


「治療の完治までの予測と賠償金はーーー」


「リリアは教師ですが医師ではないのに彼女の技術を当たり前に利用するなどーーー」


「しかし賢者としての業務は国からーー」


「治療補佐は依頼されて無いはずーー」



うん、私は無関係の振りを決め込もう。

なんとか私を利用して賠償金や被害額を抑えたい学園と、賢者としてのなんでもかんでもさせたい国を相手取ってエルク様が頑張って守ってくれてるんだから。

ただの1教師のエルク様が学園長代理となんでこんなに長く話し込むのかと思ったら、私の力を利用されすぎないように頑張ってくれてたんだね。


頑張ってくれてたんだね。


でもそんなことより、真剣に討論するエルク様の美しさに胸が高鳴る。高鳴らないわけが無い。むしろ爆ぜる。

ちらちらとしか見ないけど(巻き込まれたら対処に困るから)


厳しい顔とでも言うのだろうか。

私の前ではあまり見せない類の表情も素敵です。


そして大人三人が議論を重ねる中




精霊三匹でも議論が重ねられていた。


『にーさんなんとかしてよー僕も契約したいよー』


『うーん。強くてリリを守れるやつならいいと思うけどなー。でもリェスラはヤキモチ焼きだからねー』


『絶対やだ!リリは私とイェスラとエルクのなの!』


『そこに僕も入れてよー。にーさんはなんでいいのさー』


『リェスラより俺の方が先だったしーリリに目をつけたのは俺がいちばーん』


『僕だってちょっと前から見てたのに……にーさんとねーさんに阻まれて近づけなくて、やっとチャンスだって思ったのにー』


別に増えてもいいじゃんなイェスラ

絶対契約したいーなカーバンクル

絶対無理なリェスラ


こっちの会話にも混ざれない。巻き込まれたら色々と困るから。

でも土の精霊か。

土の精霊がいれば、鉄の塊から鍛冶屋を通さずに色々と思うままに……便利だなそれも。

思えば映写機も色々とパーツが足りなかった。

もしカーバンクルがいれば、あれも完成したのだろうか。




そこまで考えて思い出す。

見逃したエルク様の授業を。

いや見逃したわけじゃない。見逃したわけじゃないんだ。

二回目の時は「なるほどこういうふうに伝えたら伝わりやすいんですね」とかくっそ真面目に評価してました。

あの時の私、帰ってこい……!何故記録できないなら出来ないなりに刻みつけるように見なかったんだ…!


ちょっと切なげにこっちを見ていたじゃないか……!!


『ほら、赤い子めっちゃ僕を望んでたじゃないですかー』


『あれは違うぞ。あれはエルク絡みの苦悩だ』


脳内記憶の記録装置、作れないだろうか。

ちなみに思い出して書くのは却下だ。私には画力もない。画力も、無い。

どこの会話にも混ざれないので一人ソファで悶絶ぐるぐるしていると、ふわりとイェスラが目の前に飛んできたのでさっと手を出すと慣れた様子でそこに止まった。


「お話まとまった?」


『ぜーんぜん。リリはどう思ってるの、あいつ』


『僕便利だよー僕よく働くよー』


カーバンクル、か。

改めてカーバンクルをよく見る。

ピンク色のもふもふ。クリっとした黒い目はとても可愛く尻尾もパタパタ揺れてとても可愛い。

とても可愛いのだが、なんというか、こう


あざと可愛い感じがする。可愛いとわかって行動をしている気がする。それは別にいいのだが…なんかこう、誰かに似てるような……


ピンク……あざと可愛い……


あ、わかったフェルナンド様だ。そう思うと喋り方と良い、フェルナンド様そっくりだ。

カーバンクルの背後にピンク縁のメガネをかけて一見のほほんと笑う末皇子の残像が見える…!

知りたくなかった事実を知り、やや好感度が下がるがそれはカーバンクルには関係ない。


「おいで?」


イェスラ肩に移動してもらい、そっとカーバンクルに手を差し出す。

するとスリスリと甘えてきたカーバンクルをひょっと抱き上げる。

抱き上げる瞬間、カーバンクルは子猫より少し大きいくらいのサイズに縮んでクリクリの目であざと可愛く見上げてきた。



「あのね、役に立つとか立たないとかはどうでもいいの。私はリェスラもイェスラも家族だと思ってるし居てくれるだけでも嬉しいの。だから私は君がうちの子になってもならなくてもどうでもいいのだけれど……大切なリェスラが嫌がるなら、ダメかな」


『今さっきもあんなに望んでくれたのに……!』


「まあ居てくれたら色々と出来そうだとは思ったけど、居なくても問題ないし……」


『ほら!リリに振られたんだからさっさと消えなさいよ!!』


『つーわけだカーバンクル。リェスラをまず口説き落とせなきゃリリの契約の座は渡せないなー』


『むー!僕も赤い子の精霊になりたいのに!』


『リリはあんたなんていらないって言ってるわよ!』


『言ってないだろ!どっちでもいいって言ったもん!』



リェスラのタックルにより、カーバンクルを落とすと床でまたリェスラとカーバンクルの喧嘩が始まった。

噛み付くリェスラに対して今度はカーバンクルも応戦し、噛み合いながらゴロゴロと床を転がり回る。どうしたもんかと困っているといつの間にか話し合いが終わったエルク様にふわっと抱き上げられた。


「お待たせしましたリリア。で、リェスラとあの子は……どうしたんですか?」


「契約希望のカーバンクルと、契約して欲しくないリェスラの戦いです。エルク様の方は大丈夫ですか?」


「ええ。問題ないです」


問題ないのか。向こう側で教頭先生と代理学園長?が頭を抱えているけど。


「私にできる範囲のお手伝いならしますよ」


そうコソッとエルク様の耳元で囁く。

実際私にしか出来ないものも今は沢山あるのだから。

そう思っての発言だったのだけれど、エルク様はニコニコと笑ってたった一言


「ダメ」


で終わらせた。

そっか、ダメなら仕方ない。


「ほらリェスラ、帰るけど……君も来るかい?」


『行く行く行く!』


『なんで野良精霊なのについてくるのよ!!』


私を抱いたまましゃがんだエルク様は容赦なく絡まっているリェスラとカーバンクルを鷲掴み、私にポイっと抱かせた。

もふもふカーバンクルとツルツル水竜をだき抱えて、さらにエルク様にだかれながら



本日の学園での業務は終わった。


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