表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
0歳児スタートダッシュ物語  作者: 海華
完落ち編(第5章)
67/177

10


洗いざらい吐かされたあと、頬をぷにぷにとつねられた。

そしてにっこりと笑っている。対して私は心がげっそりしている。


「良いですよ。けれど訪問する孤児院はひとつだけ。そしてそこで早急に魔力操作が出来る者を見つけること。見つけてからはその者を屋敷に招いて重点的に教育して、その者を今後は教師にすればいいんじゃないですか?」


「…教師にして、今後はその者に任せるということですか」


「リリアは教師の育成に専念しろって意味ですね」


ふむ、なるほど。

それならたくさんの場所を回るよりも何とかなりそうだ。

家に招けば、現地に行くよりも時間が取れるし。


「その方が良さそうですね」


「むしろ1人であっちこっちの孤児院を訪問しようとしたリリアが怖いです」


「え、えへへ…?」


「全く、ホイホイ仕事を増やしすぎないように。侯爵様から明日訪問できる孤児院のリストを貰ってますので、明日は孤児院。明後日は魔術棟に行きましょうか。今夜は義父上(ちちうえ)のイヤカフを作ったら魔力をある程度温存して明日からに備えるように」


「了解です!」


完璧な予定に感心する。さすがはエルク様だ。


「じゃあエルク様、お仕事お手伝いします」


「本当に?ありがとう」


部屋から紙の束を持ってきて、エルク様の書類仕事を任された範囲で手伝う。


魔力操作能力が飛躍向上した今の私はーーーー


ふわりと数枚の紙を風魔法で浮かせて、

ジュババババと流れるようにプリントアウトしていき、最後に紙を1箇所にまとめる


イェスラ並のカッコイイプリントアウトが出来る。


張り切って手伝う私を見て、エルク様がどこか遠い目をしていた気がするのは秘密だ。




途中でディナーやお風呂も交えつつ、エルク様のお仕事を手伝い。

いつも通り深夜に帰宅した父様の魔石を作ると、幼いからだは強引に睡魔に引っ張られた。


お昼寝したのになあ?とどこかで思いながら、エルク様に自室に運ばれながらもう目が開かない。

暖かな温もりにベッドに降ろされて、暖かな温もりが隣に入り込んできて。

一緒にエルク様寝る気だなあというのは気づいたけど、目は開くことは無かった。






いつも通り早朝に起きて。

後ろからしっかりガッツリと抱き込まれてる状況に察する。

なお、彼の寝顔は見れない。真剣に爆発するから。


エルク様は本当に寂しがり屋さんだなあ。


『リリィ、はよぉー』


早起きだけど寝ぼけてるイェスラに唇に人差し指を当ててしーっと息を吐く。エルク様が起きちゃうから。


『んぅー、わかった寝る』


(待って、カメラ持ってきてエルク様を撮って)


『えーめんどいー』


(ご飯あげるから)


さっと魔力塊を出すとそれをパクっと食べたイェスラはダルそうにパタパタ飛んでいった。

そして人型でエルク様を撮るとそのまま大きな鳥になってエルク様と私とリェスラを包み込んだ。


(もふい)


『寒くなってきたなあ』


頭だけは出してもらっているが、ぬくぬくとりモフのおかげで体がポカポカしてきた。

それでもエルク様は離さない。

最近、エルク様も危惧してる通り私ちょっとぎりぎりのラインのおねだりも受け入れている気がして来た。


でもなあ、何故か拒む気は全く起きないのだ。

そこまで好きなのか。そこまで惚れているのか。単純に私もそういうものを望む性質なのか。


はたまた、強制力か。


最近少しだけ心配になってきたのは、強制力だ。

よくゲームであるだろう。はい、いいえで選択肢を与えているくせに間違った選択をしようとするとエンドレスリピートするあれだ。

思えばエルク様に関しての私は始めっからおかしい。これは恋なのか強制力なのか。

私個人としてはどっちでも構わないのだが……。


エルク様がもし、強制力で他の誰かに恋をしたら。


夫婦にまでなった私は一体どうなるのだろう。


ドンドン深みにはまっている私は、それが少し怖い。


………もしもの時はすべて捨てて、冒険者にでもなろう。なんて、もう言えない。


望むのは、エルク様の喜ぶこと。

あと、毎日やれることをやりたい。この世界には行動制限も課金でパワーアップも無いのだから日々出来るとこまで限界まで、がんばりたい。



でも。

今はエルク様を癒そうと思って自然に彼が目覚めるまで、この腕の中に居ることにする。目が覚めて傍に居なかったら多分がっかりしちゃいそうだから。


とはいえ暇である。


(イェスラ、羽1枚ちょうだい)


『いたいからやーだー』


ああ、もう生え替わりは終わったのか。

ならば仕方ない。諦めてエルク様の懐に収まって目を瞑る。


そういえば、気になることがある。

エルク様のプロポーズに混乱した時だ。あの時私はリェスラに部屋の扉を体で塞いで居てもらった。

そのうえで、暴走が酷かったので結界を張ってもらっていたはずだ。


なのに、頭が真っ白になって行かないと、と思った瞬間エルク様の目の前にいた。

イェスラは精霊だから僅かな隙間でも風になって通れるけど私はそうじゃない。


エルク様のところへ行く物理的な道は無かったはずだ。

それなのに、私はエルク様の前に居た。


普通に考えておかしい。

おかしいが、その現象を私は聞いたことがある。



転移、という魔法だ。

魔法なのに、どういった原理で出来ているのか使えるものでもわからない魔法だ。

わからない。けど何故か目的の場所にワープできる。

魔法陣でもなく、精霊魔法でもなく、謎の魔法。



その使い手にも脈絡はない。魔力量の少ない平民でも多い貴族でも、大人でも子供でも老人でも突然覚えることがあるそうだ。


理解もできないし説明も出来ないけど。


あの時の魔力のうねりは、何となく覚えている。


ーーーー転移は出来たら便利だけど。

その事は胸の中にしまっておこう。

さすがにこれ以上周りの人に心労をかけたくはない。これからもかけていく予定だけども。



「ん……」


不意に聞こえた色っぽい声に背中がゾワっとした。

抱きしめる手がモゾモゾと動いて、強く抱きしめられる。

起こすべきか否か。窓を見ると空もだいぶ白けてきた。


「エルク様、朝ですよ」


「んー…もうちょい…」


きつく抱きしめられたまま、耳元で聞こえたかすれた声に腰が抜けそうになりながら目を瞑る。

寝起きのエルク様直視したら死ぬかもしれない。

でも見てみたい気もする。命懸けの葛藤だ。


結局欲望に負けて。

モゾモゾと振り向く。エルク様は動きたいのを察してくれたのか腕は少しだけ緩めてくれた。


振り向くとそこには眠そうに瞬きをしながら嬉しそうに笑うエルク様がいた。超近距離でれでれ微笑みに体が危険を感じてビクッと飛び跳ねる。

が、それでも私の拘束は緩まない。



「おはよぅ、リリア」



そしてガチっと固まってる私の額に、柔らかな何かが触れた。



で、



でこちゅーーーー!!


ボンッと頭が湧き上がるさなかでも、次々に落とされる顔面に柔らかな感触。額に、目元に、頬に、


で、でろ甘だーーー!!


今度からエルク様が寝てる間に絶対逃げ出そう。じゃないと心臓がまじで持たない。


そんなことを思いながら色んな感情で半泣きになりながらエルク様がしっかりと覚醒するまで甘い責め苦を耐えた。耐えきったよ私、偉いよ!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 転移とか瞬間移動とかは謎でもなんでもないよね。時間と空間と次元をどうにか出来ればいいだけだしその為の時空間だろうし。
2022/01/09 08:00 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ