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トーマの魔力暴走事件後すぐにトーマとフェルナンド様とアイラ様は魔国へ帰っていった。
トーマはあの暴走の時の魔力吸収がきっかけで、メキメキ魔力操作の腕をあげて魔力塊もあっさり作れるようになって帰国した。
また来年な!と言って。
絶対あいつ学園に来る気だよ、とため息をつきつつもトーマがもたらした恩恵のでかさを考えたら無碍にできない。
有形の魔法陣は実に素晴らしかった。
いやもう本当に。ついエルク様とリズに魔道具を送りすぎてたしなめられるほどに。
さらに有形の魔法陣を改造しーーーーーついに、ついに!
映像を記録することに成功した。
魔法陣を刻み込んだ魔石で、陣を発動させるとなんと魔石に映像が刻み込まれたのだ!
コツコツ。
それのファーストコンタクトは、事件から1週間後だった。
赤い魔石に映像が記録できたことに喜んでる時、窓を小鳥がつついた。
「なんだろう」
『精霊だな』
イェスラが特に警戒をしないので窓を開けると、そこには手紙をくわえた小鳥がいて私に手紙を差し出した。
「私に…?」
動揺しつつも、中身を開封すると
『いつでも魔術棟に来てください』
と、可愛らしい便箋に書かれていた。
賢者になったものの特に用事はなかったので「わざわざありがとうございます、何かあったら行きますね」と返した。その返事は特になかった。
そこからさらに1週間。
映像が記録された魔石は光を当てると壁に映像を映し出す映写機のような効果があることがわかったが…陰影があっても赤い魔石は赤い映像にしかならない。
フルカラーの写真を知ってる身としてはとても歯がゆく発展のために苦労していた、その時。
「リリア、魔術棟の賢者からお手紙よ」
「はあ」
母様から一通の手紙を貰った。
今度は可愛らしい封筒に、可愛らしい便箋が入っていた。
『いつ、魔術棟に来ますか?』
それを見た瞬間あー来て欲しいんだなというのがわかったけど。
ちょうど写真のために母様や父様の魔力で魔石を作って実験という第2ステージで忙しかったのと
トーマからのメガネの大量受注で、メガネの大量生産ラインを整えるために忙しい時期だったので『しばらく行けません』とだけ返した。
それからさらに2週間がたった時だった。
母様は灰色、父様は赤色、イェスラは緑でリェスラは青色の魔石が出来てそれらで実験するも、やはり単色映像になってしまい苦しんでいるその時。
エルク様が苦笑いで話を振ってきた。
「リリア、申し訳ないんですが魔術棟に一緒に来てくれませんか?」
「エルク様のお誘いならば喜んで」
アイラブエルク様の頼みなら迷うべくもなく了承する。
エルク様は話を振ってきたくせに、困ったように笑って私の頭を撫でた。
「即答されても複雑なんだが…魔術棟の賢者たちが、深緑の賢者を連れてこないと作業しないと言って引きこもってしまってね」
深緑の賢者は私の称号だ。
再三の要求により来てほしそうだったのは知ってはいたが、仕事放棄までするほどなぜ私に会いたいのか?
疑問はあるものの私はエルク様と一緒に登城した。
私は今まで魔術棟に行ったことがない。
魔法であれこれやってはいるが、全てが独学で相談するとすれば精霊たちだから基本的に魔術棟にはようはない。
でも行ったことがなくても魔術棟については知っている。
基本的には城で使われている魔道具の作成と魔法の研究、魔法陣の研究が行われていたはずだ。
基本的に私が関わっていない魔道具は回数の少ない消耗品ゆえ、魔術棟には各色の賢者を筆頭に賢者の色分けごとに多数の魔法使いがいるはずだ。
行ったことがないので、書物の上での知識の話だけども。
故にエルク様に連れていかれた魔術棟。その入口をみて驚愕した。いやマジでなんだこれ。
「………」
城と隣接された場所にたっていた魔術棟の入口には
多数の大きなぬいぐるみが座っていた。
リズが来たら大喜びしそうな可愛らしい動物のぬいぐるみ達。
そして入口には『深緑大歓迎。それ以外帰れ』と書かれた横断幕が張りつけてあった。
むしろ私が帰りたい。
「来たかリリア。うちの娘を孫扱いするなと散々言っておいたんだがな……大丈夫かリリア、嫌なら無理しなくても良いぞ」
後ろから突然父様から声をかけられた。
どうやら私が来たのを聞きつけて心配してきてくれたらしい。
エルク様と父様と並んで、ファンシー魔術棟を見上げる。
するとたまたま窓をあけて換気?していた若い男性と目が会い……嫌な予感がした。
驚愕の表情を浮かべるその男性に全力で嫌な予感がした。
「きたあああああ!深緑が来ましたよししょおおおおおお」
『なんじゃとおおおおおおお』
男性が絶叫すると、棟の中で絶叫が複数連鎖し。
そして精霊たちが斥候?なのか複数体飛んできた。
全力で帰りたい。エルク様をなんとも言えない表情で見上げると、苦笑いをしたエルク様に抱き上げられた。
最愛のエルク様とくっつけるから抱っこは嬉しいが、逃げられないよう捕獲された感がありありなのがなんとも言えぬ。
そんな私とエルク様の前に父様が立ち塞がると魔術棟の中から人が転がりでてーーーーー来なかった。
「ええい蒼海、邪魔じゃ!」
「だまれ!紅蓮がどけばいいじゃろう!」
「お前らどっちも邪魔じゃ!退け!」
父様の影から覗き込んだだけでもわかる、出入口に詰まった三色のおじいさん達。
彼らの服装は絶望でしかないが、私と色違いのコートを着ていた…。
つまりコレ賢者…。
「お前らいい加減にしろ!リリアはうちの娘だと何度も言ってるだろう!」
溜まりかねたのか父様が怒鳴り飛ばす。さすが騎士団長なだけあって父様の激は背中がゾクッとするくらい怖かった。思わずエルク様にしがみつくとなだめるように強く抱きしめられた。役得役得。
だがそんな父様の激も賢者達には通じないのか1人づつ出てきた三人は一目散に私のところへ来ようとしてーーーー父様にガードされた。
「ふん、小僧よ深緑はわしらの仲間じゃ!」
「そうじゃそうじゃ、お主の娘である前に賢者じゃもん!」
「待っとったよう深緑、美味しいケーキとお菓子とジュースがあるからほれ、おいでおいで」
いや賢者である前に娘だと思う。
そして孫を抱っこしたいおじいちゃんの行動そのもので手を出してくる紅蓮の賢者には悪いがエルク様の抱っこ以上の至福は無いのでそちらに行く気は無い!
2本の手と大きなからだで器用に手を伸ばす三賢者をいなす父様の影でどうしたものかと、少し迷う。
「はじめまして我が国の尊き方々。新しく深緑の賢者の名をちょうだいしたリリア・キャロルと申します」
「りりたん……!」
「りりたん、ほらじーじのところおいで!」
「退かぬかガイ!やっとりりたんが来てくれたんだぞ!」
「だからリリアはうちの娘で!お前らの孫じゃない!」
とりあえず自己紹介したら、尚更カオスになった。
我慢の限界が訪れたのか、エルク様の肩に乗るイェスラはゲラゲラ笑いだした。リェスラも三賢者を威嚇してるし、もうどうしたらいいんですかこれ……
ほんのちょっとだけ、私が逃げられないようにしたエルク様を初めて恨めしく思った。
第5章から1話あたりのボリュームを上げました。また執筆と更新話の差が開きすぎたのでしばらくの間2話更新にさせていただきます。




