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「母様、ただいま帰りました」
「おかえりなさいリリア」
玄関を抜けるとエルク様の定位置から下ろされて、執務室からちょうどでてきた母様に抱きつく。
むぎゅっとくっつくと楽しそうに笑いながら抱き上げられた。
「リリアはエルク様に出会ってから甘えん坊になりましたね」
「だって今日は母様と一緒じゃなかったから」
書類のあれとかあれとかあれとかどうなったかも気になるし、朝から城に行っていたからなんか寂しいんだ。
「キャロル侯爵、明日は休みを貰えたので今晩はお邪魔をしてもいいでしょうか」
「構わないわよ。爺、客間の支度をしてちょうだい」
「かしこまりました」
「そうね…食事まではまだ少し時間があるわね。もし良ければエルク様とリリア、お仕事を手伝ってくれるかしら?」
「はい喜んで!」
エルク様も一緒にお手伝いとは初めてで張り切る!慌てて母様から降りてお部屋に『お給料』を置きに走った。
「母様嘆願書の裏付けと見積もりです」
「ありがとうリリア。こちらの見積もりの金額がおかしくないか確認してくれる?」
「はい」
イェスラに頼んで調べて貰った資料を焼き付けて、割と重要と判断した嘆願書のみ提出する。
それ以外は要望者と簡単な内容だけメモした一覧に書き込み、提出のし直しに回させる。
侯爵家ではやらない仕事や、情報に不備がありすぎて判断しきれないものだ。
母様に貰った見積もりは北の街の壁の補修工事の見積もりだった。
人件費、材料費、宿代…と一つ一つの項目をみて計算をしていくが…
人件費と宿代の金額がおかしい。
雇う人材が40名。これはいい。期間もおかしくないし材料費もおかしくはない。
が、どうみても宿代が40人分ではない。45人分程の金額になっている。
「イェスラ、北の街の調査報告書を取ってきて」
『あいよー』
そしてイェスラから貰った資料を元に確認をしてみると、北の街の宿代は私の想定よりも安くなっていた。
つまり、45人分所ではない。
のでその書類に宿代50人は泊まれる金額。と書いた付箋をつけて母様に戻す…と、エルク様が固まってこちらを見ていた。
執務室に初めて入ったエルク様の机は当然ない。
おいおい覚えてもらうから今日は見ていてね。と母様に言われたとおり見て、覚えているのだろう。
目が合ってニコニコと笑うと、また不器用ながら笑い返してくれた。
「リリア。ここの公共事業なんだけど…」
「はい母様」
「これは賃金が高くなっても一年中やりたいわ。冬だけやらせるのはもったいないもの」
「でしたらこの街にはスラムがあると聞きます。春と冬の賃金を割った数で長く雇い入れてはいかがでしょうか。雇用率も上がっていいかと」
「そうね。スラムとの中継ぎが出来る人物を調べて書き足しておいてちょうだい。それでその見積もりどうだった?」
「宿代の金額がだいぶ多めに設定されておりました」
「はあ、また宴会代を足しているのね…それは別にしなさいと注意しておくわ、ありがとう」
「はい」
なるほど会社の金で飲み食いか。
ボーナス代わりに多少なら良いだろうが、それならば誤魔化さず初めっから別口で書いてもらいたい。
月一度くらいなら母様も士気を高めるもので許してくれるのに…
「ああリリア。この書類を3部ずつコピーしておいてくれるかしら」
「わかりました」
「奥様、お嬢様、エルク様お食事の用意が整いました」
爺が食事の知らせを持ってくるまでいつも通り母様と仕事をして。
我に返ったとき、
エルク様は少し遠い目をしていた。




