0884 再び西へ
「アベル陛下、ロンド公爵閣下、三号君さん、御臨席賜り感謝申し上げます」
ゾルン皇太子改めゾルン首長が、感謝を表す。
「良い即位式であったと思う」
「国民も喜んでいましたね」
アベルが頷き、涼が称賛し、三号君が無言のまま頷く。三号君は喋れないから仕方ないのだが……。
((三号君が、一番強気な対応です。いずれ、アベルを超える大物になる可能性があります))
((何を言ってるんだ))
創造者と英雄王の間で、『魂の響』を通して三号君の未来が語られる。
「バットゥーゾン殿はどうするつもりだ?」
アベルの問いは、どうしてもしておかねばならない問い。
場合によっては、内政干渉にあたるだろう。
新政府樹立を後押しした責任者が、新政府のトップに対して問う……それは問いではあるが、「分かっているな?」という確認ともなるからだ。
行ったのは、ある種のクーデター。
前政権のトップであり、新政権トップの父であるバットゥーゾンをどうする?
「気候の温暖な離島がありますので、そこで隠棲してもらいます」
即答するゾルン。
すでに色々と準備しているのだ。
「そうか」
アベルの言葉はそれだけ。
「平和が一番です」
涼が無邪気に言った言葉もそれだけ。
それを受けて、三号君も頷く。
「承知しております。西部諸国連邦とは、あの後、何度か首脳会議を開いております」
ゾルンが大きく頷いて答える。
東部諸国と西部諸国連邦は戦争をした。
しかも東部諸国の策謀によって、西部諸国連邦を構成していた小国家がいくつも離脱したのだ。
戦争が終結したとはいえ、西部諸国連邦政府は東部諸国に対して、もっと言えばバーダエール首長国に対して、良い感情を持っていないだろう。
速やかに国内を糾合したゾルンとしては、隣国との関係の再構築は急いでやるべきであることを理解している。
そのための手も準備してある。
後は、それを成功させるために協力を得たい。
東部諸国にも、西部諸国連邦にも影響力のある、目の前の人物たちから。
「皆様は、再び西部諸国連邦に行かれるのですね?」
「ああ、そのつもりだ」
ゾルンの問いにアベルが頷く。
そう、これはゾルンにとって僥倖。
「私からの親書を届けていただけないでしょうか?」
「親書?」
ゾルンの願いに、アベルが問い返す。
バーダエール首長国自身が届けることは可能。
自国首長からの親書なのだから。これまでも、そうしてきた。
だが、あえて中立国の王に仲介を頼む……その王との関係は良好であると表明していることになる。
それは、西部諸国連邦政府の者たちにとって、不安や不満を少しだけでも緩和することになる……かもしれない。
何と言っても、ある意味、西部諸国連邦を救った王たちなのだ。
ゾルンは親書をアベルに渡した。
「読ませてもらってもいいか?」
「ええ、もちろんです」
アベルが問い、ゾルンが即答する。
アベルからすれば、自分が届ける親書だ。
あまりないだろうが、もしも親書に変なことが書いてあれば、それをアベル王は追認している……そう受け取られる可能性もある。
一応の確認は必要。
「これは……」
しかし、一読してアベルは驚いた。
隣にお行儀よく座っていた涼に渡す。
「なんと……」
涼も驚く。
『お互いの首都で、毎年交互に首脳会議』
まあ、それは分かる。シャトル外交だ。
『ゾルンを弟、ラムン・フェスを兄として義兄弟の契りを提案』
これだ! これが驚くべき内容だ!
「ラムン・フェスって、西部諸国連邦元首のラムン・フェスさんですよね?」
「はい」
「ゾルンって、ゾルンさんですよね?」
「はい」
涼の確認に、思わずゾルンも苦笑する。
一応、説明をした方が良いと思ったようだ。
「国が関わるものになると、首長会議などの許可を得なければなりませんが、私個人の義兄弟の契りならその必要はありません」
「確かに、西部諸国連邦に対して誠意は伝わるかもしれんが……東部諸国の、それこそ他の首長たちが文句を言うんじゃないか?」
「大丈夫です。言えないくらいの状況は作り上げてありますので」
アベルの確認に、ゾルンは笑う。
その笑いを見て、涼はゾクッとした。
決して、ネガティブなゾクッではない。
凄味、畏怖、驚愕……そういった感情がない交ぜになったゾクッだ。
目の前の青年が、決してお人好しなだけではないと、あらためて認識する。
そして呟いた。
「三号君を置いていったかいがありました」
涼とアベルと三号君、そして王国騎士団はスキーズブラズニル号に戻った。
親書を届けるための出港の許可は貰っている。
出港準備を進めるスキーズブラズニル号の甲板上では、筆頭公爵が国王に熱弁をふるっている。
「東部諸国と西部諸国連邦、この二国が手を結べば、暗黒大陸は平和になります」
「そうだな」
「ひいては、それが世界平和につながるに違いありません!」
「そうなるといいな」
涼が力説するが、アベルは熱量が低い。
当然、そこは指弾される。
「アベルは、中央諸国を代表する大国ナイトレイ王国の国王なのですよ? 俺が世界平和をもたらしてやるぜ! くらいの気概がないと困ります」
「そう言われてもな。足元の中央諸国だって、完全に平和かと言われれば怪しいしな」
「まあ……戦争したり、襲撃されたりしましたしね」
二人とも同時にため息をつく。
平和の、なんと難しいことか。
「ですが、あれはあれ、これはこれです」
「んあ?」
「アベル襲撃の命令を出したのは、前の、何とかさんでした」
「ヘルムート八世な」
「騎馬の王に殺されてしまいました。しかし今は、ルパート陛下に……あれ? ルパート陛下って先帝でしたけど、そのヘルムートさんが亡くなった後、また皇帝に戻られました?」
「いや、帝国からそんな発表はされていない」
「じゃあ、今、デブヒ帝国の皇帝って……」
「法律上は空位なんじゃないか? まあ、どう考えてもルパート陛下が再び国政を司っているだろうが」
アベルは肩をすくめる。
「ルパート陛下は凄く怖い方ですけど、愚かな方ではありません。むしろ、平均以上に鋭敏です」
「ああ、驚くほど平均より上だな」
「ということは、帝国や帝室の利益になる何かがあれば、平和であってもいいと判断されるはずです」
「そうかもしれんな。それで、帝国や帝室の利益になる何かってのは、何だ?」
「え、まだ決めてませんよ」
「……決めてない? それは、いくつか候補がある場合の言葉だよな」
「もちろんです。例えば……平和を望まないと、帝国全土を氷漬けにしちゃうぞ、って交渉すればいけるかもしれません」
「うん、それは交渉じゃなくて脅迫な」
「例えば……帝国軍全てが武装解除しないと、帝国全土を氷漬けにしちゃうぞ、って交渉すればいけるかもしれません」
「うん、それも交渉じゃなくて脅迫な」
「最後の切り札として……帝国が王国の属国にならないと、帝国全土を氷漬けにしちゃうぞ、って交渉すればいけるかもしれません」
「うん、もはや帝国にも帝室にも利益がある提案じゃないな」
涼の提案を、全て却下するアベル。
当然である。
「提案した時点で、王国対帝国の戦争になる未来しかないだろうが」
アベルはため息をつく。
もちろん涼も、自分の提案が通るとは思っていない。
え? もちろんですよ?
当然じゃないですか?
本当に、思っていませんから……多分。
「オホン」
わざとらしく涼が咳払いをした。
「まずは、今回の西部諸国連邦への親書のお届けが、世界平和の第一歩になるに違いありません」
「……」
「今回の西部諸国連邦への親書のお届けが……」
「分かったから。続きを言え」
「そうですか? とにかく、このお届けを成功させましょう。それが平和への第一歩です」
「まあ、少なくとも、暗黒大陸の平和には繋がるか」
涼が熱っぽく言い、アベルもそれほどではなくとも否定はしないで頷く。
そんな二人の元へ、一人の女性が近づいてきた。
「陛下、スキーズブラズニル号、全ての出港準備が整いました」
パウリーナ船長が報告する。
アベルは一つ頷くとはっきりと言った。
「船長、出港しよう。最終的には、西部諸国連邦首都タギュンザへ」
次話<0885 涼の夢、叶う>は、エピソード名と話の骨格はできあがっているのです。
ええ、できあがっていますので、そのうち投稿します、書く時間さえ見つかれば……。
今しばらくお待ちを。
さて、筆者は先日、インタビューぽいものを受けました。
それがnoteに公開されました。
「レグザ みるコレ編集部」様からのインタビューというか、対談ですかね。
アニメ「水属性の魔法使い」は2025年夏に放送されましたが、
「Anime Data Award 2025夏」において「総合ランキング新規作品部門」「予約消化率部門」で
1位を獲得いたしました。
『水属性の魔法使い』の紙版をご購入いただいている方は、
「そういえば帯に、そんなの書いてあった、1位(2冠)って」
と「第三部 第四巻」の帯をもう一度見られたことでしょう。
テレビのREGZAが、純粋なデータで1位でしたよ、と表彰してくださったわけですね。
ありがたいですね~。
それで、今回の対談へと繋がったわけです。
https://note.com/regza_mirucolle/n/n35e36c1fc733
「『水属性の魔法使い』の原作者・久宝忠先生と、レグザ視聴データで人気シーンを分析!
原作からこだわっていた先生のポイントも明らかに!果たしてアニメ化で狙いはうまくいったのか?」
けっこうなボリュームもあり、久宝初めてのインタビュー的対談でもありますので、
お暇な時に、ぜひお読みください。
アニメだけでなく、原作小説についてもけっこう触れておりますので。




