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水属性の魔法使い  作者: 久宝 忠
第四部 最終章 暗黒戦争
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0862 魔法使いロベルト・ピルロ

王国軍による戦闘は、おおむね順調に進んでいるが、首を傾げたままの人物が一人……。

「ロベルト・ピルロ陛下?」

気付いて涼が声をかける。


「ああ、リョウ殿……いや、奥の方に、何やら変わった魔力の流れを感じるんじゃ」

「はい?」

ロベルト・ピルロに指摘されて、涼も奥の方に意識を向ける。


さらに……。

(<アクティブソナー>)


「ソナーには反応は無いですが、確かに魔力は変な感じですね。強い魔力なのですが……なんというか、薄い感じ?」

「強いが薄い……ああ、確かに、言葉にするとそうかもしれん」

ロベルト・ピルロが答えた次の瞬間。


「<障壁>」

ロベルト・ピルロが唱える。

前方で戦う王国騎士団のさらに前方に生成される<障壁>。

先方から来た炎の塊がぶつかり、炎と障壁は、対消滅の光を発して消えた。


突然のことに驚く王国騎士団。


「何やら、歯ごたえのある者が来たようじゃ」

そう言いながら、前方に歩いていくのはロベルト・ピルロ。



それに合わせたかのように、ヴァンパイアが一斉に後方に跳び、王国騎士団との距離が開く。


ロベルト・ピルロが王国騎士団を(かば)うように前に出ると、奥から一人の人物が歩いてきた。


「馬鹿な……」

「おいおい……」

涼とアベルが言葉を失う。

それは二人が、出てきたのが誰か知っているから。


王国騎士団と距離をとったヴァンパイアたちが、一斉に片膝をついて礼をとる。


「ロズニャーク大公ゾルターン……」

そう、出てきたのは、討伐(とうばつ)対象だった。



「我の炎と同程度の魔法障壁など、めったに見ぬぞ。老人、今の障壁はお主か?」

ゾルターンは、ロベルト・ピルロに問う。


「老人なのは確かじゃが、お主の方が歳はくっておるじゃろう」

「我らヴァンパイアと人とでは、そもそも生きる長さが違うわ」

ロベルト・ピルロの言葉に、うっすら笑いながら答えるゾルターン。


「なるほど。さすがヴァンパイアの大公、人の強者たちも、いつもの軽口は出ぬようじゃ」

ロベルト・ピルロは、涼やアベルが黙ったままなのを指摘する。


「老人、お主、先日はいなかったな。あそこに揃っていただけでも大した人材たちだと思うたが、お主のような者まで新たに加わるか。はてさて、我が回収した……ハーゲン・ベンダと言ったか。よほど人の世では有名な存在だったのじゃな」

「そうそう、ハーゲン・ベンダ男爵な。彼の人物の奪還のために、多くの強者が動いたのは確かじゃ。まあ、わしは、正直そっちはどうでもよい」

「ほぉ、あの者の奪還が目的ではないのか?」

「ああ、違う。わしがついてきたのは、強い魔法使いたちの本気の戦いが見れると思ったからじゃ。しかし……」

ロベルト・ピルロは、小さく首を振る。


「どうした?」

「出てくるヴァンパイアが弱すぎる」

「何?」

ゾルターンの表情が(ゆが)む。


「わしが見たかった魔法使いは、戦場にすら立っておらん。立つ必要もないようじゃ」

「なるほど。我が準備した余興(よきょう)では足りぬか」

「ああ、全然足りんな」

「ならば、これでどうだ。<燃えろ>」

「<消えろ>」


ゾルターンの手から、人の頭大の炎が放たれた。

放たれたのは確かだ。


ほぼ同時に、ロベルト・ピルロの手から小さな何かが放たれた。

恐らく、放たれた……涼やアベルですら認識しにくいほど小さく、そして高速の魔法。


二つの魔法が衝突した瞬間、ゾルターンが放った炎は消えた。


涼やアベル以外の者たちからは、ロベルト・ピルロに向かったゾルターンの炎が、途中でただ消えたように見えただろう。



「おい……」

だが、その場で最も驚いたのはゾルターン本人。


「何だ、今のは」

「何だと言われても……魔法じゃな」

驚くゾルターン、苦笑しながら答えるロベルト・ピルロ。


ゾルターンは一度首を傾げた後、何が起きたのか理解したようだ。

大きく目を見開いた。

「魔法で魔法を斬ったのか!」

「ほぉ……さすが大公ともなると、頭の中も優秀だな」

笑いながら正解だと頷くロベルト・ピルロ。


「面白い! 実に面白いではないか! 老人、ぜひ名前を聞きたい!」

「老人、老人うるさいのお。歳とってはおるが。わしはカピトーネ王国先代国王のロベルト・ピルロじゃ」

「先代国王? いや、カピトーネといえば中央諸国ではないか。老人も、遠くからやってきたか」

ゾルターンが何度も頷く。



だがその言葉を聞いて、今度はロベルト・ピルロが驚いた。


「我が国を知っておるじゃと?」

驚き、(いぶか)し気な視線を向ける。


「古い国であろう。我が前回起きていた時に訪れた覚えがある」

「それは知らんかった。滅ぼされなくて運が良かったというべきか」

「訪れる国全てを滅ぼすわけではないわ。我とてそこまで暇ではない」

苦笑するゾルターン。


苦笑を収めて言葉を続ける。

「国王として国を統治しながら、それほどの魔法を使えるようになったというのは、本当に驚きだ。王位などほっぽり出して魔法に専心しておれば……どれほどの高みにまで上がれたか」

「ふん、隣国の偉大な魔法使いたちにも、同じことを言われたわい」

「そうであろう? その魔法使いたちも見る目があるではないか」

「そういえば、彼らと初めて会ったのも戦場だったな。敵味方として殺し合う戦場じゃった」

ロベルト・ピルロは遠い目で見る。



涼は知っている。

ロベルト・ピルロが言う魔法使いたちというのが、王国のイラリオン・バラハやアーサー・ベラシスであることを。

今では手紙をやりとりする間柄らしいが、『大戦』の折は、ギリギリの戦いを演じたのだ。


((殺し合いの果てに結ばれた友情。まさに王道展開ですね))

((ロベルト・ピルロ陛下のことか? 陛下が言っている魔法使いたちって、イラリオンやアーサーのことだろう?))

((ええ、そうだと思います))

((あの魔法狂いのイラリオンの爺さんや、一見まともだがイラリオンとそれほど変わらないアーサーとやり合えるくらいなんだから、ロベルト・ピルロ陛下もたいがいということだな))

((なんて言い草))

アベルのあまりにもあけすけな物言いに、さすがに心の中で首を振る涼。


剣士が持つ魔法使いに対する偏見は、いつの時代にもあるに違いない。



「では老人、いやロベルト・ピルロよ、続きを始めるか」

「よいのかヴァンパイア、その体で」

「うん?」

「本体が出てきた方がよくないか?」

ロベルト・ピルロが優しく(さと)す。


「……この体が何か分かっているということであるな」

「分身体とかその辺であろう? 本体の一部を元に、本体と同じ形に……成形し直したとかか」

「ほぼ正解だ」

「そんなもので戦いになると?」

「やってみれば分かる」

「やらずとも分かる。<駿焔>」

ロベルト・ピルロは言うが早いか、炎を放った。


いや、そこにいたほとんどの者が、放たれた炎は見えなかった。

ゾルターンに直撃し、一瞬で広がった瞬間にようやく理解できたのだ。


超高速の炎が放たれ、信じられないほど強力な炎として広がり……ゾルターンを焼き尽くしたと。


「まさか、一撃……」

そう呟いたのはザックだったか、あるいはスコッティーだったか。



「あはははははは。いや、これは失礼した。まさに、我の髪の毛一本では話にならなかったな」

空から響くゾルターンの声。


「髪の毛一本? 馬鹿にし過ぎじゃぞ」

顔をしかめて答えるロベルト・ピルロ。



「一応、戦うにしても形式というものを整えねばな。お主らに見せたいものがあるのだ」

「見せたいもの?」

「奥で待つ。他の軍と共にやってくるがよい」

空から響いたゾルターンの声はそう言うと、去っていった。


アニメ「水属性の魔法使い」に関して、

主演の村瀬歩さんが出演されています、TBSラジオ。

https://x.com/after6junction/status/1926977725199249844


本当に、放送が近付いてきているのだなと感じております……。

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『水属性の魔法使い』第三部 第4巻表紙  2025年12月15日(月)発売! html>
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