表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
水属性の魔法使い  作者: 久宝 忠
第四部 最終章 暗黒戦争
901/932

0854 アベルへの報告

そんな世界平和を追求する四人がスキーズブラズニル号に着いた時には、すでに王国の偉い人は戻ってきていた。


そのため、四人は報告する。

「陛下、残念ながらミトリロ鉱石は取引されておりませんでした。それどころか……」

ニルスが、鉱石取引所でのやりとりを報告する。


それを最後まで聞いてから、アベルは口を開く。


「実は採掘場の件、王宮でも話が出てきた」

「やっぱり」

アベルの言葉に、涼が頷く。


四十カ所もの採掘場が奪われ、そのまま占領され続けているというのは異常なことだ。

国が手を打たないわけはない。


しかし疑問がある。


「でもそれって、エトーシャ王国にとっては恥ずかしい……あんまり表ざたにしたことはないでしょう? それなのに、アベルとグラハムさんに王様は話したのですか?」

「ああ、それには理由がある。占領している者たちの問題だ」

「占領している者たち?」

アベルの答えに、涼が首を傾げる。

横に並ぶ『十号室』の三人も首を傾げる。


「占領しているのはヴァンパイアたちだそうだ」

「なんですと」

驚く涼。

無言のままではあるが『十号室』の三人も驚きの表情だ。


その先の展開を、涼は王道で推測する。

「つまり僕らが、占領しているヴァンパイアたちを駆逐(くちく)するのですね!」

そう、それこそが王道展開!


「駆逐するのはそうだが、基本的には法国軍が行う」

「え、僕ら王国軍は?」

「今のところは待機だ」

「またしても王道展開が……」

なぜか悔しそうに呟く涼。


それを見守る『十号室』の三人もアベルも、小さく首を振っている。

全員が、涼に関しては一種の共通認識があるらしい。


そもそも涼は『王国軍』と言っているが、その中身は王国騎士団五十人だけなのだ。

王国騎士団にザックとスコッティーという二人の中隊長と、国王アベルは、王国軍と言ってもいいのかもしれないが、『十号室』の三人と涼は……。


「陛下の(めい)とあらば、どんな危地にも飛び込みます」

ニルスははっきりと言い切る。

エトとアモンも頷く。

『十号室』は冒険者だが、アベルを冒険者時代から尊敬している者たちなのだ。


「アベルの命令ならば、どんなことでも協力しますよ」

涼もはっきりと言い切る。

涼は王国筆頭公爵として、国王アベルを支えるのだ。


「週一ケーキ特権と引き換えに」

「うん、そう言うだろうと思っていた」

……涼は国王アベルを支えるのだ。



とりあえずの報告が終わったところで、アベルはずっと気になっていたことを尋ねる。


「リョウの後ろにいる<台車>のやつだが、何が入っているんだ?」

「アベルよ、よくぞ聞いてくれました。我々ミトリロ鉱石捜索隊は、鉱石の発見には至りませんでしたが、それと同じくらい、いえ世界平和の観点から見れば、それ以上の素晴らしい発見物を手にしました」

「うん?」

「これです!」

涼がそう言うと、<台車>の上部が開き、九十個ものクレープがアベルの前にお披露目された。


「ほぉ、これはくれーぷだな。暗黒大陸にもあった……いや、それをいえば、アウグジェ第三守備隊のミニ殿が言っていたな。暗黒大陸南部に昔からあるおやつ、あれだな」

「さすがアベルです……なんて完璧な記憶力」

驚きを通り越して、恐ろしいものを見る目になっている涼。


「俺もあの時、興味を持って聞いていたからな。そういうのは勝手に覚えるよな」

「そうかもしれませんけど……え? アベルってクレープに興味があったんですか?」

「うん? 時々王国内でも売ってたことあるだろ? 食べたぞ……というか、俺がローマンと戦った時に、リョウとセーラがクレープを持ってきて仲裁(ちゅうさい)しただろうが」

「ええ、もちろん覚えていますけど……」

アベルの言葉に、涼も頷く。


そう、王都の路上でそんなことがあった。


「ローマンって……勇者ローマンですか?」

大きく目を見開いて言葉を発するのすら難しくなっているのは、珍しいことにアモンだ。


もちろんアモンも驚くことはあるのだが、ここまで大きく驚くのは珍しい。


「そうなのです、アモン。アベルは、かの勇者ローマンと王都の路上で死闘を繰り広げたことがあるのです」

「そ、それで、勝敗は……」

「引き分けに終わりました」

「おぉ……。勇者と引き分けるなんて、さすがはアベル陛下……」

「当然だ、アベル陛下だからな」

涼が勝敗を告げ、アモンが何度も頷き、なぜかそこにアベル崇拝者(すうはいしゃ)ニルスが乗っかる。


一人当事者のアベル自身が、顔をしかめて首を振っている。

アベルとしても、実はあれは恥ずかしい記憶だから……。


「リョウ風に言うなら、いくつかの誤解が招いた不幸な衝突(しょうとつ)だ」

「まったく……僕とセーラとクレープがなかったら、王都が灰燼(かいじん)()していましたよ。そういう意味でも、クレープは王都を救った英雄なのです」

「うん、それは大げさだがな」

涼の断言を、アベルは否定するのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『水属性の魔法使い』第三部 第4巻表紙  2025年12月15日(月)発売! html>
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ