0812 暗殺教団の歴史
涼は二度、暗殺教団と戦ったことがある。
一度目は彼らの村で、二度目はトワイライトランドで。
一度目の戦いで、彼らの指導者であった首領『ハサン』を涼は倒した。
二度目の戦いのときには、『黒』という人物が新たな指導者になっていたはずだ。
「あの後、暗殺教団の噂は聞かなくなりましたけど……まさか西方諸国に移っていた?」
涼は呟く。
「暗殺教団なら、噂だけですが聞いたことがあります。数十年前から、西方諸国でも暗躍していました」
「ああ、そうだったのですね」
涼との衝突後に、西方諸国に移ったわけではないようだ。
そういえば創設者でもあった首領『ハサン』は、西方諸国出身だと言っていた気がする。
「ただ、本拠地は中央諸国にあるという噂もあり、西方諸国での活動はそれほど活発ではなかったかと」
ボニファーチョが思い出しながら答えている。
そして答えた後、涼を見て問うた。
「公爵閣下が、この者たちを暗殺教団の一員だと判断されたのは、この胸のタトゥーですか?」
「はい。暗殺教団は、全員がこのタトゥーを胸に刻まれるのだそうです」
「失礼ですが、それは……確かですか?」
「確かです。以前、暗殺教団の幹部だった者から直接聞きました」
涼の頭に浮かぶのは、教団を脱退し、今ではゲッコー商会で働いているシャーフィーだ。
「暗殺教団の錬金術のレベルは非常に高いものでした。その中心にいた創設者はもう亡くなりましたが……ある程度は引き継がれていると思います」
「なるほど」
ボニファーチョは顔を思いっきりしかめている。
噂に聞く……そして噂でしか聞いたことのない暗殺教団という組織。
それが襲撃者であり、残り半分のミトリロ塊を持っているとなると、どうやって探せばいいか良いアイデアが浮かばないのだ。
主目的はミトリロ塊の奪還。
だが、暗殺教団の壊滅も共和国政府は指示してくるのではないか……そんなことまで考えて、さらに顔をしかめるボニファーチョであった。
いくつかの情報の交換を終えて、買い付け一行は現場を離れることにした。
欲しい情報は得られたし、これ以上いては捜査の邪魔になる可能性も出てくるので。
「それにしても……まさか暗殺教団が関わっていたとはね」
エトが呟く。
それを聞いて表情を変えないニルスとアモン。
なぜなのかは、涼にはお見通しだ。
「ニルスとアモンは、暗殺教団をよく知らないのですね」
「うぐっ……」
「やっぱり、分かります?」
涼の指摘に、ニルスが言葉に詰まり、アモンが苦笑する。
とはいえ、二人が普通なのだ。
暗殺教団などというものは、おとぎ話や噂話の中で出てくるもの。
ある種の都市伝説なのである。
「昔々、西方諸国の西の端で生まれた男が、いろいろあって暗殺教団を設立しました。彼はハサンと名乗り……いや、名乗ってはいないのかな? ハサンの生まれ変わりだと認識しました。ちなみにハサンというのは、昔、別の場所で暗殺教団を作った人です。彼はただ『首領』と、教団の人たちからは呼ばれていました」
「暗殺教団の話か?」
「首領は土属性魔法に長け、錬金術においても驚くほど高いレベルに達しました。もちろん、近接戦も超絶技巧を誇る強者。教団の暗殺者たちは、彼が鍛え上げたのです。時は流れ、彼らは中央諸国のナイトレイ王国の中に村を作りました」
「……は?」
涼が滔々と紡ぐ暗殺教団の歴史物語に、時々茶々を入れるニルス。
「年老いた首領は、永遠の命を手に入れたいと思いました。彼が確立した錬金術ならば、材料さえ揃えば不死を手に入れることができる」
「なんだと」
「それをきっかけになんやかんやあって、彼らの村は壊滅しました」
「おい……」
最後を端折った涼の説明に、ツッコむニルス。
「適当な物語を話すにしても、最後までちゃんと話せよ」
「適当な物語とは失敬な!」
ニルスの言葉に気分を害する涼。
「リョウのその話は、本当なの?」
「けっこう本当です」
エトの問いに、涼は頷く。
「どうして、そんな話を知っているの?」
「いろいろあって、その村を潰してしまったのが僕だからです」
「なるほど」
「いや、エトも、なるほどじゃねーだろ!」
涼の説明に頷くエト、だがそこにもツッコむニルス。
やはり剣士は、ツッコミに向いているのかもしれない。
「暗殺教団の村が王国にあって、それをリョウが潰した? まだ他にも村があるんじゃねーか?」
「あると思いますよ」
「おい……」
「僕が潰した村は、表向きの村だったと思います。子供たちが一人もいませんでしたからね」
そう、だからこそ涼は潰すことができたともいえる。
多分、目の前に立ち塞がったのが、暗殺者として育てられたのだとしても子供であったなら、攻撃をためらったと思うのだ。
「実は暗殺教団の生き残りは、トワイライトランドでも襲撃してきました」
「トワイライトランド? それって、リョウと即位前のアベル陛下が使節団として向かったやつだよね?」
「ああ、冒険者代表だな」
「カッコいいですね!」
涼が思い出し、エトが指摘し、ニルスが頷き、アモンが憧れる。
そう、その時、暗殺教団の生き残りが使節団を襲撃した。
正確には、使節団の中にいたウエストウイング侯爵の娘であり、トワイライトランド大公の孫にあたるミューが標的だった。
「なんだかんだと因縁のある相手です」
涼はそう考えた後、思い出した。
「いちおう、今回の件も上司に報告します」
涼は報告・連絡・相談を怠らない、模範的な社会人なのだ。
((襲撃してミトリロ塊を奪っていったのは、暗殺教団でした))
((ん? ああ、例の倉庫襲撃か。うん? 暗殺教団? マジか?))
((ええ。倒した人たちの胸に、例のタトゥーがありました))
((双頭の鳥を剣が貫いているやつか。シャーフィーの胸にあったやつだな))
アベルも覚えている。
シャーフィーの胸からタトゥーをはぎ取るのを、アベルたち『赤き剣』も手伝ったからだ。
((王国にあった暗殺教団の村を、リョウは壊滅させたとか言っていたよな?))
((ええ、言いました。その際に、創設者で首領だった人物は倒したのですが……その後、新たにトップになったのが『黒』と呼ばれていた人です。その人に関しては、僕は情報を持っていません))
((俺が知る限り、その情報は回ってきていない。後で、ハインライン侯に確認しておく))
ハインライン侯爵は王国宰相で、諜報関連の大家だ。
((今回動いたのは、暗殺教団西方支部とかなんですかね))
((そんな、平和な名前ではないと思うがな))
((いちおう今回ので、千キロの内の半分、五百キロは奪還できたそうです))
((そうか。王国としては、それだけでも十分なんだが……))
アベルは国王として現実的だ。
((残りも手に入れて、王国魔法団全員に、魔法融合のブローチを貸与できれば……))
((全員使えるのか?))
((使える人というか、相性があるって聞いた覚えがあります))
((ダメじゃないか。苦しみながら魔法を放つことになるぞ、しかも戦場で))
((……融合魔法の方は慎重にやりましょう))
涼も魔法使いとして現実的だ。
涼が、怖い上司への報告を終えると、他の三人は現場で見た状況を話し合っていた。
「黒い服の連中は、全員左手首にブレスレットをつけていたな」
「やっぱりあれって、隠蔽の? 模倣しての生産に成功していたのでしょうかね」
「だからこそ、もっと大量に生産するためにミトリロ塊を狙った? 共和国政府の物だから危険なのに、それを分かった上で……」
ニルスが事実を述べ、アモンが推測し、エトが理由を考える。
「暗殺教団のような人たちにとっては、破格の性能ですからね」
涼は顔をしかめて頷いた。
隠蔽のブレスレットを付けた暗殺者とどう戦うか?
確かに涼はソナーによって存在に気付ける。
だがそれでも、反射的に分かるかと言われれば……どうだろう?
さらに、涼以外はどうだ?
港では、多くの守備兵が倒されていた。
五人の暗殺者に対して、二十人以上が倒されていた。
「目の前にいても気付けない相手とは、戦えません」
そう、一方的に倒されるだけだ。
「厄介なのは確かだよね」
神官のエトが涼に同意する。
「ワクワクしますね」
剣士のアモンはなぜかワクワクしている。
「まあ、やるだけやってみるしかねーだろ」
剣士のニルスは適当な答えだ。
いろいろ仕方ない。
「おいリョウ、今、俺のこと馬鹿にしただろ」
「そ、そんなことはないですよ」
「何でわざと、ばれてしまった、みたいな言い方をするんだ。そこは隠せよ!」
「指摘したり隠せと言ったり、ニルスはなんてわがままなんでしょう」
「リョウにだけは言われたくない!」
小さく首を振る涼、顔をしかめるニルス。
二人を見て苦笑するエトとアモンであった。




