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水属性の魔法使い  作者: 久宝 忠
第四部 第三章 暗黒大陸
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0764 それぞれの満足

「いやあ、いいものを見せてもらえましたね」

「ああ。歴史ある建物という点だけでも興味深いが、西方教会の暗黒大陸における布教の歴史も面白かったな」

「話してくれたエンゾンさん、なかなかの冒険をされてました」

「聖職者がワイバーンと戦ったというのは、とんでもなかったな」

涼もアベルも、満足しながらジェルダン教会を出た。


しかし、ずっと無言のまま二人についてきているスコッティーが、話を聞いている間に、一番感動してそっと涙をぬぐったり、目を輝かせてエンゾンを見ていたのを涼は見逃さなかった。


「スコッティーさんは、イケメンでシュッとしていますが、熱い人ですね」

「ああ。俺やザックに比べて根が真面目だからな。あの手の話は好きだぞ」

小さな声で涼とアベルの間で、そんな会話が交わされた。




三人がジェルダン教会を見学した二日後。

ジェルダン港に、教皇御座船アークエンジェルが戻ってきた。


「アークエンジェル、もう戻ってきたんですね」

「往復四日か、速い船なんだな」

涼とアベルが、スキーズブラズニルの甲板から感想を述べる。


アークエンジェルが出ていた四日間、王宮や政府に呼ばれることなく、彼らは平和なジェルダン逗留(とうりゅう)を楽しんでいた。


「アベルは書類仕事もせず、コーヒーを飲み歩いていました」

「事実なんだが、言い方がな」

涼が事実を述べ、アベルが言い方に不満を表す。


そう、人が関わる多くの場面で問題になるのは、事実かどうか以上に言い方なのだ。


「書類仕事は確かにない」

「以前は馬車の中でもサインしていたのに」

「カフェに行き、唯一のメニューであるコーヒーを飲んでいたのも確かだ」

「働きもせず豪遊していたわけです」

「俺は何も悪くない」

「ついに開き直りました」

アベルも涼も悪くない。



二人がそんな会話を交わしている間に、働き者の教皇はジェルダン王宮を再訪した。

「聖下……いかがだったでしょうか」

「ボッホス陛下、うまくいきましたよ」

心配そうな表情のボッホスに、微笑みを浮かべて頷くグラハム。


次の瞬間、ボッホスと側近たちは歓声を上げた。

そして握手し合った。


「聖下、なんとお礼を言っていいやら」

「いえ、お気になさらずに。我々にとっても、その方がいいから動いただけです」

「それでもです」

ボッホスは何度も握手した。



「いちおう、我々がシオンカ侯爵を討伐するまで待ってもらっています」

「結構です。そこまで待っても元首が戻らなければ……もう、西部諸国連邦はもたないでしょう。遠からず、東部諸国に飲み込まれます。我々も同様に飲み込まれるだけのことです」

ボッホスは小さく首を振る。


自国だけで、東部諸国に対して独立し続けることが不可能であることは理解しているし、そもそも、絶対に独立を保ちたいというほどでもない。

東と西の戦争に巻き込まれたくないだけなのだ。


大国同士の戦に巻き込まれて、最も苦しむのは小国の民。

いつの時代も変わらない事実。


「滅びない国など存在しない」

ボッホスの呟きは、辛うじてグラハムにも聞こえた。


もちろん、グラハムは何も言わない。

言うべき立場にない。


それより、自分が言うべきことは他にある。

多分、ずっと忘れられている……。


「ボッホス陛下は、中央諸国ナイトレイ王国の船が、ジェルダン港に寄港していることはご存じですか?」

「ナイトレイ? ああ、そういえば、報告を受けた覚えがあります。ん? だいぶ前に受けた報告で……え? もしや、まだ港に?」

「ええ」

「なぜ?」

「待っててほしいと言われたと、アベル国王がおっしゃいましたが?」

「え? 国王? 乗船されているのは、国王ですか?」

「はい」

驚くボッホス、平静を保ったまま頷くグラハム。


ボッホスが側近を呼び、急いで確認するように言う。



ボッホスの側近たちが慌ただしくなり……急いで資料が運び込まれてきた。


いくつかの書類をめくり……。


「確かに、乗船者名簿に国王アベル一世陛下の名前があります」

「なんたること!」

側近が確認し、大きく目を見開くボッホス。


「アベル陛下は、私も勇者パーティーにいた頃から存じ上げております。まさに英雄の器。小さいことに拘泥(こうでい)されたりはしません。ほら、陛下はご存じないですか。最近、吟遊詩人たちが歌って回っている『ナイトレイ王国解放戦の歌』。あれに出てきますよ」

「そういえば、聞いたことがある。『王都は落ちた。王弟と帝国の手に落ちた。民の嘆きが王国の空を覆う……王国に新たな王を生む。その名はアベル王。辺境の街にて立ち上がらん』。ああ……」

グラハムが優しい表情で述べ、ボッホスは額に手を持っていった。

自らの失態の大きさに気付いたのだ。


だが、すぐに顔を上げる。

「すぐに港に使いを出せ。アベル陛下に王宮に来ていただいて……いや、私が行く。馬引けー!」


こうして、ボッホス王は慌ただしく王宮を出て港に向かった。


一時間後。ジェルダン王宮。

自ら港に迎えに行き、ボッホスはナイトレイ王国一行を王宮に招いたのだった。




翌朝。

「昨晩は、食べ過ぎました……」

晩餐会(ばんさんかい)で食べ過ぎるとか、あんまり聞かないぞ」

苦しげな声を出す涼、呆れるアベル。


ジェルダン王宮で行われた晩餐会。

なぜかボッホス王と意気投合した涼は、調子に乗ってテーブルに出される料理を次から次へと食べたのだ。


お開きになったのもけっこう遅い時間だったため、スキーズブラズニルに戻ってきて眠っていた時間も四時間ほどで……四時間では回復できなかったらしい。


「昔の僕なら、一時間もあれば消化しきっていたのに!」

「いや、無理だろ」

悔しそうな涼、やっぱり呆れるアベル。


そこに福音が。


「リョウさん、スープならどうですか?」

コバック料理長が、コンソメっぽい香りの美味しそうなスープを持ってきた。


「いただきます!」

飛びつくようにもらい、一口目を口に運ぶ。


「はうぁ」

思わず口から漏れる感嘆の吐息。


それを見て、国王陛下の心も動いたようだ。

「料理長、俺にも頼む」

「はい、陛下」


こうして、スープに舌鼓(したつづみ)を打つ王と公爵。

「これは美味いな」

「お腹がほぐれていく感じです」

それぞれの表現で、満足を表す二人だった。

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