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水属性の魔法使い  作者: 久宝 忠
第二部 第二章 西方諸国へ
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0310 処理

ゆったりとした四日間の船旅の後、王国使節団は、ファンデビー法国、北部国境の街ヴァルペガラに到着した。

ヴァルペガラからは陸路で、ファンデビー法国聖都マーローマーに向かうことになる。


「なあ、リョウ」

「何ですか、ニルス」

「その、後ろについてきているのは……」

「水属性魔法の<台車>ですよ?」


上陸した涼の後ろを、氷製の荷車のようなものが、三台ついてきていた。

以前より、少しバージョンアップした<台車>だ。

もちろん、その中には、分解されたキューシー公国製ゴーレムが入っている。


「公国から、このゴーレムを払い下げられた際の条件として、ファンデビー法国に着いたら跡形もないほどに処分すること、っていうのがありましたから……。色々と勉強させてもらったので、ちょっともったいない気もしますが、約束は守らないといけません」


公国としても、同じ西方諸国の国に対しては、できる限りゴーレムの情報を渡したくないということなのだろう。


そもそも、中央諸国の人間であり、暴動どころかクーデターを防いだという功績があるとはいえ、涼を含めた使節団にバラバラのゴーレムを与えるということ自体が、かなり異例のはずだ。

感謝の気持ちと共に、口止め料的な意味合いも入っているだろう。



涼は、一度交わした約束は、守る性分だ。



「でも、ゴーレムの装甲は、剣でも魔法でも傷つきませんでしたよね」

「あれは、どこのパーティーも苦労してたね」

アモンとエトが、ゴーレムとの戦闘を思い出しながら言う。


「どうやって処分するんだ?」

ニルスも、そんなゴーレムの処分の難しさは理解したのであろう。

涼と、その後ろについてくる<台車>を交互に見る。



涼も振り返って、<台車>を見て言う。

「装甲は、確かに硬いです。処分で、一番いい方法は、高温で燃やす……まあ、溶かすのが理想ですよね。ケネスが以前言ってましたけど、鹵獲した連合のゴーレムは、王都を脱出する際に溶かして、帝国の手に落ちるのを防いだそうですから」

「いや、リョウは水属性の魔法使いだろ……水じゃ燃やせないだろう?」


ニルスが、非常に常識的なことを言う。


そう、普通の水では燃やせない。

むしろ、水は、燃えている火を消す……。


だが……。

「燃える水があるんです」

涼は、そう答えた。



その答えが、水プラズマだ。



その辺りにある水、これに電圧をかけてプラズマを発生させる……そのプラズマトーチは摂氏一万度、あるいは二万度……。

ほとんどのものが、『溶ける』を通り越して『蒸発する』

鉄は二千度で溶ける……つまり、固体から液体になるが、プラズマにさらされれば、一気に気体となって空気中に拡散する。


文字通り、消失するのだ。


21世紀の日本においては、すでに研究室レベルを通り越して、商業化されていた。

車載式の水プラズマ発生装置があり、廃棄物の処理に力を発揮しようとしていた……。


水プラズマで廃棄物を処理すると、出てくるのは水素。


水素社会に進もうとしている社会にとっては、とても素晴らしい手法のはずなのだ。

街のゴミ焼却炉を全て水プラズマでの焼却炉に換えれば、埋めるしか処分方法の無かったごみは全て焼却できる……もちろん、ダイオキシンのようなものは発生しない……そして、社会で使う水素を大量に生み出せる……。



そんな水プラズマだが……残念ながら、未だ涼は生み出せていない。

涼ほどの水属性の魔法使いであっても、難しい……。


(でも、いずれは水プラズマも使いこなしてみせますよ!)


固く心に誓いつつも、目の前のゴーレム部品の処理には使えない。



だが涼は、もう一つ、水関連でのプラズマを知っている。

それは、テッポウエビ。


かつて、海中で、テッポウエビのでっかい版による衝撃波を食らって、気を失ったあれだ。


あれは、『水中プラズマ』あるいは『液中プラズマ』と呼ばれるものだ。

名称は『水プラズマ』と似ているが、全くの別物!


キャビテーションや気泡圧壊と呼ばれる通り、水中において生じる現象。



テッポウエビは、刃を打ち合わせるだけで、4400度もの高温を発生させる……。

もちろん、水中なため、その高温はすぐに収まるのだが。


だが、それならば!

ゴーレムの部品を水中に入れ、部品の表面に高温を発生させればいいじゃないか!

鉄の融点2000度をはるかに超える高温を、水中プラズマならば発生させることが可能なのだから。



そして、テッポウエビのキャビテーションは、涼はすでに使いこなせている。

ロンド公爵領の水田管理の際、(ひえ)を取り除くのに使った……それこそ、毎日、何発も何発も……。



涼は、三つの<台車>のうちの一つの荷台部分を、水で満たす。

ゴーレムの部品は、どの部分も金属が使われているのであろう、浮いてこないで全て沈んでいる。


それに向けて親指と人差し指を広げた右手を伸ばした。

狙いをつけて……。

「<バンッ>」


ドゴンッ。


荷台の水中で、けっこうな音が響く。



<台車>は、透明なため、外から中が見える。

アモンが台車に近づき、何事が起きたか観察した。



「リョウさん……確かに、溶けてはいますけど……すごく、ちょっとだけです」

「あ、あれ?」

涼も慌てて近寄り、それを確認した。


人差し指の先ほどの穴……。


「くっ……。<バンッ256> <バンッ256> <バンッ256> <バンッ256> <バンッ256>」



涼が唱えるたびに、連続して重なる重低音。



近くで見ているアモンは、その光景に目を奪われているが、少し離れて見ている五人は、アモンの身を心配している……。


もちろん、魔力を注ぎ込んで強化してある<台車>の中で行われていることなので、外には一切の被害はない。



数十回の256連射が終わった。



ついに……。


「リョウさん、完全に消えちゃいました! すごいですね!」

「み、水属性魔法にかかれば、これくらい楽勝なのです!」

アモンが尊敬のまなざしで涼を見て、涼は幾分荒い呼吸を整えながら宣言した。


「あと、二台分ですね!」

「う、うん……頑張る……」

無邪気に言うアモン、そしてゴールまでの困難さを自覚して、冷や汗を流す涼。

その二人を、無言で見守る五人……。


いつの時代も、廃棄物の処理は大変なのだ……。




そんな七人を、さらに遠くから見つめる団長ヒュー・マクグラス。

「あれは……何をしているんだ?」

「ゴーレム部品を処分とか、さっき言ってましたね」

ヒューの問いに、傍らのB級パーティー『コーヒーメーカー』のデロングが答えた。


現在、王国冒険者の中で、最も護衛経験の豊富な『コーヒーメーカー』のデロングは、この使節団において、ヒューの片腕として、冒険者たちを纏めるのを補佐していた。

そのため、たいていは、使節団の先頭か、団長ヒューの傍らにいる。


「ああ……そういえば、キューシー公国からそんなことを言われていたな。氷で押し潰したりするのかと思ったが、なんか重低音を響かせて、俺の知らない何かが行われたらしい……」

「リョウは特殊ですから」

ヒューの呟きに、苦笑しながらデロングは答える。


涼は、他のパーティーリーダーからも特殊と思われているようだ……。


「アベル辺りじゃないと、リョウを使いこなすとか無理な気がするわ」

「アベル陛下も、ある意味特殊でしょう。元A級冒険者の国王陛下とか……」

「ちげえねえ」

そして、二人は大笑い。


アベルも、いろんな人から特殊と思われているらしい……。



もしや、涼とアベルは似た者同士……?




王国使節団一行が到着したヴァルペガラには、当然、先に帝国と連合の使節団も到着していた。


「マクグラス団長、災難でしたな」

「さすがは、我が国の人工ゴーレムも軽くいなした王国冒険者。無事の到着を、お祝い申し上げますぞ」

先帝ルパート、先王ロベルト・ピルロ、どちらも表面上は、王国使節団の無事を祝福した。



三大国は、潜在的には敵同士なので、まあ、いろいろ仕方ないであろう……。



この後の旅程は、ヴァルペガラで一泊して、明日早朝に出立というものであった。


使節団の宿舎も、ファンデビー法国によって準備されている。

もちろん、最上級のものが。




だが、その夜、予定されていない訪問が、王国使節団長に対して行われた……。


第二部初話「0256」の、<バンッ>の伏線が回収されましたね!

よかったよかった。

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