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水属性の魔法使い  作者: 久宝 忠
第二部 第二章 西方諸国へ
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0308 原因

王国使節団に向かってきた十一体のゴーレムは倒したが、未だに公城の騒動は収まっていないらしい。


団長ヒュー・マクグラスは、腕を組み、言葉を発さない。

他国の事であり、正直、どこまで首を突っ込んでいいのか判断がつかないでいた。

向かって来れば迎え撃つが、それ以外は……。


地上に残っているB級、C級パーティーも、パーティーごとに集まって、話し合っている。



ただ一人を除いて。



全ての懸案が解決し、涼は、最初に倒した十一体目のゴーレムの脇に座り込んで、何かを解体したり、分解したり、読んだりしている。


そこに集まってくる、十号室と十一号室の六人。


「リョウは……」

「多分、錬金術……」

「趣味に走っているな」

エトが呟き、アモンが推測し、ニルスが結論づける。


それを見て無言の十一号室の三人。



正解である。



涼は、十一体目のゴーレムを分解し、その仕組みと魔法式を分析していた。

もちろん、魔法式は、『設計者それぞれが独自の言語を紡ぎだすかのような』ものなので、読み解くのは簡単ではない。


三年前とは比べ物にならないほどの、錬金術の知識と経験を身に付けた涼であっても、それは同じだ。

とはいえ、全く理解できないというわけではない。

細かな部分は理解できなくとも、大筋は分かる。



「これは、凄いですよ……省電力化というか省魔力化の極みと言うか……それほど大きいわけでもない土属性の魔石一個で動いています。こんな魔石一個で、これほど巨大なゴーレムを動かせるというのは……設計も製造も、かなり高次元です」

涼は感嘆を込めて、そう呟いた。


六人が近づいてきたことにも、気付いていない。


「自律式であることは当然なのですが……簡単な指示だけでいろいろやれるのが……地球の人工知能みたい……ファジーってやつですね。しかも音声入力式……。ん? あれ? なんか、攻撃目標の部分に強制書き込みがある?」


魔法式を読み解く過程で、涼はあらぬものを見つけてしまったらしい。


そこで、ようやく自分の周りに、十号室と十一号室の六人がいることに気付いた。


「ああ、いいところに。ニルス、ヒューさんを呼んでください。今回の騒動の原因と思われるものを見つけました」




「リョウ、何を見つけたんだ」

「ヒューさん、今回の騒動は、ゴーレムの暴走などではありません。ゴーレムの『攻撃目標』の欄に、時間指定で、1.使節団宿舎の破壊、2.使節団の襲撃というのが、明確に記録されています」

「なんだと……」


さすがにヒューだけでなく、十号室と十一号室の六人も絶句した。


もちろん、これだけ明確に攻撃してきたのだから、ただの暴走とは思っていなかったが、使節団への襲撃が明示されていたのは、さすがに考えたくなかった。

まあ、最初の十体は、持っていた槍を真っ先に船に向けて投げたことを考えると、その時点で意図は明確だと言えなくもないが……。



「リョウ、時間指定で、襲撃が指示されていると言ったが、いつ、その指示が出されたかわかるか?」

「詳しい時間は分かりませんが、昨日だということは分かります」

変更履歴を記録する箇所は見つけてあった。

そこには、昨日の日付が入っている。


「川が治まって今日の出航が決まったのは、今朝、未明だ。ということは、王国使節団だけではなく、使節団全体が攻撃対象だったのか……」

ヒューは確認するように、ゆっくり言葉にして言う。


だが、明かされない謎は残る。



そう。何のために使節団を襲ったのか。



「まだ、公城の中は騒がしい。他のゴーレムが暴れている可能性は高い。……偵察を出すのも難しいし。もうしばらくここで待つか」

ヒューはそこまで呟くと、大声を張り上げた。


「王国使節団、全員、別命あるまで、そのまま待機!」

「はい!」


冒険者は、返事をし、頷いた。

ヒューは、団長であるとともに、王国冒険者ギルドのグランドマスター、つまり冒険者たちの総元締めでもある。

冒険者たちを統率する力は高い。



ヒューは指示を下すと、振り返り、涼を見て言った。

「リョウ、よく見つけてくれたな。ゴーレムを解体し始めた時は何事かと思ったが、今回の暴走の原因を探っていたのか、よくやった」

「ありがとうございます!」


ヒューは感心し、涼は清々(すがすが)しい笑顔を浮かべて返事をした。



だが、『十号室』の三人は知っている。


「グランドマスターは、そういう評価らしいですが……」

「リョウは絶対に、自分の趣味を優先したと思うんだよね……」

「趣味を結果に結びつけたのか……リョウ、すげえな……」

アモンが疑問を呈し、エトが真実を言い当て、ニルスが別の意味で感心する。


もちろん、ヒュー・マクグラスの評価よりも、十号室の三人の評価の方が真実だ。

これは、涼との付き合いの長さによるものかもしれない。


とはいえ、再びゴーレムの分解に取り掛かった涼を止める者はいない。

団長の大義名分すら手に入れた涼は、嬉しそうにゴーレムをいじくり続けるのであった……。




その頃、公城では。


広場には、キューシー公ユーリー十世の近衛、あるいは第一騎士団など、特にユーリー十世に近い者たちの死体が、多く転がっていた。


その光景を、少し離れた塔から眺める一人の青年。


「父上子飼(こが)いの戦力を、かなり削ることに成功した。そのうえ、使節団を襲撃したという事実もできあがった。教皇聖下がもてなせとお命じになった使節団を、ゴーレム兵団が襲撃したなど……父上は西方教会からの追放すらありうる。今回の(はかりごと)、ほぼ成功か」



そんな青年の部屋へ、ノックと共に一人の老人が入ってきた。


「公太子殿下、十一体のゴーレムが、中央諸国の使節団によって破壊されました。また、公城を襲撃した四体のゴーレムは、魔力切れによって停止いたしました」

「破壊、だと?」

公太子は、眉をひそめて問い返す。

「はい。かなり早い段階で、十一体全て、首を落とされた模様です」

老人は、表情を変えずに報告した。


「……して、使節団の被害は」

「死者ゼロ」

「馬鹿な!」


老人の報告に、思わず大きな声を上げる公太子。


だが、すぐに声を小さくして問い返す。

「ゴーレム十一体だぞ? それが襲っておいて、誰も死んでいないというのか? いくら連れている護衛が精鋭といえども、そんなことがあり得るか!」

小さい声ながらも、鋭い詰問調。


だが、やはり老人は全く表情を変えずに答える。


「事実です」



「くっ……わかった。報告ご苦労」

公太子が苦々しい表情でそう言うと、老人は一礼して部屋を出ていった。




同時刻。

公城内、謁見の間に、キューシー公ユーリー十世はいた。


玉座に座り、額に手を当て、顔をしかめている。

その口からは、先ほどから何度もため息が漏れていた。


「なぜこのようなことが……」


うわごとのように、その言葉を繰り返している。



「現在、錬金団と整備師たちが、原因を探っておりますれば……」

公国内の治安に責任を持つ内務大臣が、大量の汗をかきながら答える。


だが、それに対するユーリーの声は弱々しい。

「教皇聖下は、私を許さぬであろう……。もてなせと言われた使節団を、我が国のゴーレムが襲ったのだ……。しかも、近衛や第一騎士団にも多くの被害……」


そこまで言ったところで、守備隊長が報告した。

「閣下、使節団のヒュー・マクグラス団長がお目通りを願い出ております」

「そうか……。会わぬわけにはいくまい、お通ししろ」




「マクグラス団長、申し訳なかった」

開口一番、キューシー公ユーリー十世は謝罪した。


それは、さすがにヒューの想定外であった。

謝られるであろうとは思っていたが、最初の一言目からとは。


「いえ……。幸いなことに、我が使節団には被害はありませんでしたので」

「え? 被害がなかった?」

ヒューの言葉に、呆けたように問いかけるユーリー。


報告では、十一体のゴーレムが使節団を襲撃したと聞いている。


最終的に、公城内で暴れた四体同様に動きは止まったらしいが、使節団の人的被害については、報告は上がってきていなかった。

それよりも、ゴーレム暴走の原因究明を優先していたからだ。



「はい。数名出たケガ人は、神官たちの回復魔法で治しました。ゴーレムは……大きく損壊させたものもありますが、使節団及び船への損害はありません」

ヒューは、涼によって分解された十一体目のゴーレムを頭に浮かべて、答えた。

かなり細かく分解されたそれは、再び組み上げることができるとは思えないほどの状態になっている。


「おぉ……そうか、そうですか……それは良かった……」

ユーリーは涙を流しながら、そう言った。

酷い惨事の中での、ほんのわずかな明るい兆しだった。



原因究明の責任者となっている内務大臣が、ユーリーに代わって現状の説明を始めた。

「暴走の原因については、未だによく分かっておりません」


そこで一度言葉を区切り、さらに続ける。


「公城を襲った四体は、最終的に魔力切れで活動を停止しました。魔力切れと同時に、変更履歴などが消去されるようになっていたらしく、錬金団と整備師たちが総出で原因を究明しているのですが……」

顔をしかめて、そうヒューに報告した。



ヒューは、一度頷いて言った。

「それにつきまして、報告したいことがございます。実は、錬金術に詳しい者が、倒したゴーレムから情報を得ておりまして……ゴーレムの『攻撃目標』の欄に、時間指定で、1.使節団宿舎の破壊、2.使節団の襲撃というのが、記されていると言っております」

「なんですと!?」

内務大臣は驚きの声を上げた。


「とはいえ、公国ゴーレムの魔法式に詳しいわけではないので、専門家に見てもらった方がいいと言うものですから……どうでしょう、その錬金団と整備師の方々に、うちが倒したゴーレムを見てもらうのは」

「それは、ぜひお願いしたい!」

内務大臣はそう言うと、ユーリーを見た。

ユーリーも、何度も頷く。


ようやく、この騒動の原因究明に近づけそうな光明が見えてきた。




涼は、専門家に見てもらった方がいいとヒューに伝えたが、自分が分解した十一体目のゴーレムを渡すつもりは毛頭なかった。


そもそも、王国使節団との戦闘跡には、残り十体のゴーレムが、首を落とされた状態で転がっているので、誰も、涼が分解したゴーレムを、強引に奪おうなどとはしなかった。

実際、涼によって分解され、ほとんど原形をとどめていないゴーレムは、公国が誇る錬金団と整備師たちですら、元のように組み上げることができるとは思えない状態だったのだ。



首を落とされたゴーレムは、魔力切れで止まった公城内のゴーレムたちと違い、変更履歴などは消え去ってはいなかった。

そもそも、変更履歴のセキュリティは高く、簡単には修正、消去はできない。

動力源たる魔石の力が尽きてはじめて変更履歴そのものも消え去る……そこまでしか細工できなかったらしい。


基本的に、普通の人間では、戦闘用のゴーレムを倒すなど不可能であり、止まるとすれば魔石の魔力切れしかありえない……。

であるならば、その細工で問題なかったのだ。



だが、どこかの水属性の魔法使いのせいで、『途中で倒され』てしまった。



そのため、攻撃目標の欄に、強制的に書き込みがされた跡が見つかった。


そして、詳細な分析の結果、誰の権限を使って強制書き込みがなされたかも……。



「馬鹿な……公太子殿下の命令だと……」

報告を受けた内務大臣は、言葉を続けることができなかった。

だが、それ以上にショックを受けたのは、キューシー公ユーリー十世であろう。


報告を聞いて、一言も発することができず……顔面は蒼白となっていた。


しかし、一分後、顔面は紅潮した。


表情も、愕然(がくぜん)とした表情から、憤怒(ふんぬ)の表情に。



だが、命令を出すその口調は、いっそ静かですらあった。


「公太子を、いやキリルを連行しろ」


側近の内務大臣すら、今まで聞いたこともないほどの、感情の籠もっていない声。

ユーリーが抱いた怒りの深さを、嫌でも想像させた……。




一時間後。

公太子キリルは、公城内には、いないことが確認された。


錬金団と整備師たちが、使節団が倒したゴーレムたちの元に赴くのとほぼ同じタイミングで、城を出たという情報が得られた。

魔力切れであれば、ゴーレムの情報は消えたはずだったが、倒されたために、変更履歴など情報が消えず、事が露見すると分かったのかもしれない。



即刻、公太子の身分剝奪の発表がなされた。


だが、その後も、キリルの行方はようとして知れなかった……。


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『水属性の魔法使い』第三部 第4巻表紙  2025年12月15日(月)発売! html>
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