0115 <<幕間>> 不景気を望む者たち
本日(6月27日)、二話投稿の一話目です。
短い幕間です。
「計画通り、景気は悪化しております。そろそろ、景気振興策を……」
「まだ早い。この資料通りだというのなら、春いっぱいはこのままで、夏に入る段階で増税した分を元に戻せ。その後はしばらく経過観察」
「かしこまりました」
そういうと、財務大臣は皇帝執務室を出て行った。
入れ替わりに、執政ハンス・キルヒホフ伯爵が執務室に入って来た。
「陛下、ご報告したい件がございますが……ああ、景気動向について話されていたのですね」
ハンスは、机の上に広がる資料を見て言う。
ルパートは一つ大きくため息をついて、言った。
「レオンも決して無能ではないのだが……財務大臣としては、常に好景気でありたいと考えているようだ……」
「まあ、それは帝国臣民であれば誰しも思うことかと」
「現実には不可能であろうが。景気は、過熱しすぎれば一気に弾ける……弾けてしまえば、尋常な手段では回復できぬわ」
ルパートは何度も首を横に振った。
「全ては、あの大戦のせいですな」
ハンスが指摘したのは、十年前に起きた連合と王国の戦争の事である。
「あの戦争で、特に連合で作れなくなった製品を、代わりに我が帝国から輸出してやりましたからな。帝国内の景気が良くなりすぎました」
「戦争で減ったむこうの生産能力も、戦後しばらくすれば回復してしまう。それは連合、王国どちらもだ。代わりに帝国内の生産能力は、多すぎる状態になった。まったく……他国に迷惑を掛けないように戦争しやがれ、って話だ」
ルパートの無茶な愚痴に、ただ苦笑するしかないハンス。
「過熱しすぎた経済を冷ますために、増税せねばならなかった我が心痛……誰も理解はしてくれぬであろうな」
今度はルパートが苦笑しながらそう言った。
「国の経済は、臣民には理解できぬかと」
ハンスは小さく頷いて言う。
「常に好景気を現出できればいいが、そうもいかぬ」
「ですが、増税によって、多少は税収が増えたと聞きましたが?」
「ふん、税収など後からついてくるものよ。三年もすれば、増税前より景気は悪くなる。そもそも増税というものは、税収を増やすためにやるものではない。熱くなりすぎた景気を冷ますために、増税はするものよ。そして十分景気が冷めたら、減税と公共事業を行って、また好景気へとなっていくようにする。それが国の経済だ」
ルパートは深いため息をつきながら、さらに続けた。
「もちろん、景気が悪い間にやらねばならぬ事が、いくつかある。それまでは、景気が回復してもらっては困る」
「景気というものは、そんなに簡単にコントロールできるものなのですか」
「当たり前だ。こんなもの、何百年も前に確立している技術だ。技術を知らずとも、まともな思考力があれば誰でも理解できるものでもある。もし、いつまでたっても景気が回復しない国があるのだとしたら……」
「あるのだとしたら?」
「それは、わざと不景気な状態を保っているということだ。その方が都合がいい者たちのためにな」
「そんな者たちが……?」
ハンスの頭には、『景気が悪い方がいい者たち』が思い浮かばない。
「ん? ハンスは時々、抜けるな……。ほれ、その辺で国のために働いてくれている者たちがいるであろうが」
「あ……」
「そう、官僚を含めた官吏たちだな。彼らは、好景気になったとしても、ほんのわずかしか給料は上がらぬであろう? だが商人を筆頭に市井の民は収入が一気に増える。民の収入は増え、あの者たちの給料は変わらず……それは、相対的に貧乏になるということだ。ならば、好景気になどなって欲しくないであろうが?」
「国のために滅私奉公で働いてくれているのに……ですな」
「仕組みの欠陥だな」
ルパートはそう言うと、最後に残ったコーヒーを飲み干した。
「で、ハンス、何か報告があって来たのであろう?」
「はい。先日話題に上りました、王国の水属性の魔法使いにつきまして、新たな情報が……」
「帝国はあえて不景気にしてるんだな~」
という事を伝える為だけに、この幕間はあります……。
本日21時に、二話目『0116 王都』を投稿します。
新章『王都騒乱』の開幕です!
(よくある題名?ですね……)
しばらく、アベルを中心にお話が進みます。
涼の到着まで、今しばらくお待ちください……。




