太陽の下、水柱?
ザッパァァァーーーーーーーー!!!!
美しく整備された砂浜に轟音と共に水柱が高く、高く昇った。降り注ぐ水飛沫は陽光に輝いている。それを見上げながら双魔は苦笑した。
ヴィラに着くと、すぐにビーチに出て遊ぶことになり、荷物は常駐しているお手伝いさんに任せて各々オーエン家のプライベートビーチに繰り出していた。
双魔はもともと泳ぐつもりはなかったので、革靴からサンダルに履き替え、持ってきた本を片手に屋根の下から太陽の下に出た。パラソルとチェアは用意してあるというので、地中海の風に吹かれながら気持ちよく読書でも……そう思っていた矢先、最初に目に映ったのが十メートルはあろう水柱だった。
「ふぉーーーーーーー!!!」
「きゃーーーーーー!!」
「わーーーーーー」
「っーーーーーーーーー!」
そして、聞こえてくる彩りのある悲鳴。打ち上げられて宙を舞うバナナボートには四人の影。楽し気なのはティルフィングとレーヴァテインだろう。楽しそうなのかよく分からないのがロザリン。そして、文字通り声にならない悲鳴を上げているのがクラウディアに違いない。
「まだまだです!舌を噛まないようにお気をつけを!それーーーーー!!」
今度は水面あたりから威勢の良い声が聞こえてきた。それとほとんど同じタイミングで、バナナボートを受け止めた水柱はうねうねと龍のように身体をくねらせて、予測不能な動きを演出する。
「うおおーーーーーーー!?」
「きゃーーー!お姉様―――――!!」
「わーーーーー!」
「た、たす、助けてくださーーーーーい!!!」
バナナボートに乗ったまま縦横無尽に振り回される四人からは、さらなる悲鳴が上がった。クラウディアに限っては明確にヘルプを求めている。
(こりゃあ、助けてやった方がいいかな?)
双魔が苦笑を浮かべたまま、朱雲に声を掛けようと思ったそのときだった。
『馬鹿者――!!』
「ふぎゃーー!」
お馴染みのやり取りが聞こえてきた。青龍偃月刀が拳の代わりに朱雲の顔に水を浴びせ掛けたらしい。水流の激しさが一瞬揺らぐ。
『やり過ぎだ!クラウディア殿は明らかに怖がっているではないか!戯れに付き合ってやったが、もう終いにしろ!』
「え?でも、義姉上は『嫌よ嫌よも好きのうち』と仰っていましたよ?」
『馬鹿者!それとこれとは話が別だ!今すぐ止めよ!』
「はっ、はい!……あ!」
「あ」
こちらまではっきりと聞こえてくるほどの青龍偃月刀の剣幕に朱雲はバナナボートを下ろす前に海水を操っていた剣気を霧散させてしまった。それに気づいたのか、「やってしまいました!!」とばかりに間の抜けた声が出た。
双魔もそれに釣られて思わず声が出た。これから起こることがすぐに予想できたからだ。剣気の支配が消え、突然自由になった水は言わずもがな、そのまま垂直自由落下する。
……ザザザザァーーーーーー!!!
「……あちゃあ」
突如現れた瀑布は大きな飛沫を上げてもといた海に戻っていく。そして、その余波で浜辺に向かって見上げるほど大きな波がやってくる。すでにバカンス気分に浸かっている双魔は紅氷で防ぐ気にもならず、ポツリと呟くだけで、ずぶ濡れを覚悟した。
「ん?」
が、そうはならなかった。双魔の周りの砂がモコモコと隆起し、一瞬のうちに水柱に負けないほどの砂の巨人が現れたのだ。
巨人は双魔を海水から守るように立ち塞がると、そのまま水を吸収して白から灰色へと身体の色を変色させていく。やがて、打ち寄せられた波を全て受け止めると体を引きづるようにパラソルから離れていき、ピタリと動きを止めた。
ドサッ……ドサドサッドサドサドサ!
そして、頭から足へとその身体を崩していき、砂浜には巨人の代わりに巨大な砂山が聳えた。
「双魔君、大丈夫?」
「ああ、おかげさまで助かった。イサベル、ありがとさん」
掛けられた声に振り返るとそこには丈の長い白のパーカーに身を包み、スラリと伸びる美脚に黒のビーチサンダルを履いたイサベルが微笑みながら立っていた。砂の巨人はイサベルのゴーレムだったのだ。お陰でバカンス初日が何もかもずぶ濡れにならずに済んだ。
「フフフフッ、皆楽しそうでいいじゃない」
「そうだといいけどな……」
双魔は水柱が立っていた方に視線を向けた。そこでは案の定、朱雲が青龍偃月刀に雷を落とされていた。
「馬鹿者!者には限度というものがあるといつも口酸っぱく聞かせておるだろうが!」
「みなさんが楽しんでくれていたようだったのでつい……」
「そうだぞ!シュウンは我らを楽しませようとしてくれたのだ!実際楽しかったしな!」
しょげて俯いている朱雲をティルフィングが弁護する。それにバナナボートライダーたちが加わる。
「うんうん。楽しかったから、そんなに朱雲ちゃんを怒らないであげて?」
「わ、私も!怖かったですけど楽しかったです!本当に怖かったですけれど……貴重な体験でした!」
「ええ!ええ!おかげさまでお姉様にピッタリ抱きつくことができましたし!」
一人だけ方向性が違う弁護が聞こえた気がするが、全員に朱雲を擁護されては仕方ない。青龍偃月刀は渋々といった表情で説教の矛を収める。
「……皆を思っての行動で、皆が楽しめたのならば我から言うこともない。ただし、限度はしっかりと考えるように」
「はい!気をつけます!皆さんもありがとうございます!」
朱雲がぺこりと頭を下げた。そして、勢いよく頭を上げる。そこで双魔と目が合った。
「あ!双魔殿!鏡華殿も!お待ちしていました!」
「ソーマ!」
「双魔くん」
「双魔さん!」
朱雲に続いて双魔たちに気づいた皆がわらわらと集まってくる。刺激的でダイナミックな水遊びは、一旦のお開きとなったようだった。





