正妻オーラ?
一方、赤を引いた、鏡華、アメリア、朱雲、クラウディアの四人は、直接水着コーナーには向かわず、まずはゆるりとフロアを回っていた。
「うち、水着も買ったことないんやけど、砂浜に着ていくような服もあまり持ってへんさかい。みんなで選べたらええなって、思うんやけど……」
「いいと思うッスよ!アタシはシチリアの生まれッスから、地中海の雰囲気に合ったコーディネートのアドバイスもできると思うッス!」
「ほんまに?頼もしいわぁ!なぁ、二人も……どうしたん?」
アメリアは提案に賛成してくれたが、朱雲とクラウディアはどう思うか聞いてみようと振り返ると、朱雲は見るからに表情が硬く、クラウディアも緊張しているのか俯いて両手を擦り合わせている。
「いえ!その!改めて考えてみると……拙ごときが、鏡華殿とご一緒に買物をするというのは……僭越の極みと申しますか……勿体なく思うと申しますか……」
(鏡華殿は双魔殿の御正妻です……失礼があっては……)
「わ、私も……その……一緒に買物なんて……その……」
(……前にフローラさんが六道先輩に気に入られるように……なんて言ってましたけれど……私には無理です……)
この場での最年少二人組は鏡華の放つ圧倒的な正妻オーラ?にお手上げどころか、瀕死寸前まで精神が削れていた。二人は鏡華と付き合いも浅いので仕方がないところもあるかも知れない。
一方、恐縮と遠慮と緊張の濃密度スムージーのような二人の雰囲気に、流石の鏡華も困惑せざるを得ない。何というか、イサベルやロザリンと違って、朱雲とクラウディアは自分の中に一つの核となる自信がないのか、弱気になるととことん弱ってしまうようだ。
(……朱雲はんとクラウディアはんには、気ぃつこうたらなあかんみたいやね……)
「えっと!二人とも!そんなこと言わずに!せっかくだから楽しく買い物するッスよ!」
そこで、重くなりかけた雰囲気をどうにかしようと、アメリアが元気に優しく朱雲とクラウディアの肩に手を置いた。おかげで、鏡華も話しだしやすい空気になる。
「そやな。朱雲はんも、クラウディアはんも。うちに遠慮しぃひんで。うちも二人とは仲ようなりたいさかい。悪なんて全然思ってへんよ?な?」
「鏡華殿……」
「あ、ありがとうございます……でも、その……緊張してしまって……」
鏡華の笑顔と柔らかな物腰で、二人は少し安心してくれたようだが、身体も表情も硬いのは変わらない。
「ううん……緊張しな。なんて無理はいえへんさかいねぇ……」
「大丈夫ッスよ!何事も慣れって言ったらへんかも知れないッスけど!一緒に服を選んだりしてれば、緊張もしなくなるッス!鏡華さんはいい人ッスし、二人ともあんまり話したことはないッスけど、いい子だってアタシには分かるッス!」
「……アメリア殿」
「…………」
アメリアが満点の笑みで断言してくれたおかげか、二人の雰囲気がさらに柔らかく解れたように、鏡華の目には見えた。これで何とかショッピングをはじめることができそうだ。
「ほほほ!アメリアはんの言う通りや。そしたら、早速、行こか。まずは、朱雲はんとクラウディアはんの水着から」
「え?その……鏡華さんから選んだ方が……」
「そうです!拙たちは後回しで構いません!」
「構わへん、構わへん。アメリアはん、よろしゅう」
(いきなり肌晒すのも恥ずかしいさかい……)
鏡華は心の中でそう思いつつ、アメリアをけしかける。鏡華の羞恥心が理解できたのかは分からないが、アメリアは明るく二人の背中を押した。
「はいッス!二人とも、可愛くてバッチリの水着を選んで伏見くんにアピールッスよ!」
「そ……双魔さんに……」
「そ、そのように大胆な……」
「クラウディアも朱雲も可愛いッス!伏見くんも男の子ッスから喜ばないはずないッスよ!さあ!さあ!水着の他にも洋服も選ばなくちゃいけないッス!時間が勿体ないッスから!さあ!さあ!さあ!」
勢いでガンガン朱雲とクラウディアを押していくアメリアが一瞬、振り返って鏡華と視線が合った。
(アメリアはん、ほんまおおきに)
視線で感謝を伝えるとアメリアはニッコリ笑って鏡華の後ろに回ってきた。
「アメリアはん?」
「鏡華さんも!」
「あっ!ちょっと!」
「さあ!さあ!さあ!」
思わず大きな声を出してしまった鏡華に構うことなく、アメリアはグイグイ背中を押していく。アメリア主催の控えめ女子三人のファッションショーの結果は如何に?





