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バカンス行きますか?

 「というわけで、試験が終わったら皆でアテネに行きたいと思うんだが……」


 休日明け。試験期間開始一週間前の遺物科評議会室。双魔は集まったいつもの面々にアルバートからの提案について話していた。アッシュから話した方がいいと思うのだが、当の本人が、「双魔から伝えてよ」と、にこにこしながら言うので仕方ない。


 「カッカッカッ!オーエン家所有のギリシアのプライベートヴィラにご招待?しかもタダで!そりゃあ、なんとも太っ腹だぜ!行かない手はないな!俺も連れて行ってくれよ!クラウも行くよな?」

 「に、兄さん……私たちは学科も違うし……」

 「私も連れていって欲しいねぇ~!美しい地中海の青、燦燦と浮かぶ太陽、白い砂浜!素晴らしい!ロンドンは鬱屈としたところがあるから、気分転換にはもってこいの場所じゃないか!まあ、タダより怖いものはない。ともいうけれど、私は怒ったイサベルくんの方が怖いよ!」

 「議長、貴女は招待のうちに入っていないと思いますよ。それに、私は怖くないです。おかしなことを言わないでください」


 双魔の提案に真っ先に食いついてきたのは、なぜかいる錬金技術科議長と魔術科議長だったが、各々の右腕にしっかりと突っ込まれている。


 「……そもそも、アンタたちなんでここにいるんだ?」

 「あ、その……ごめんなさいです……」

 「いや、違うんだ。クラウディアに言ってるんじゃないんだ。そこの馬鹿二人に言ってるんだ」


 邪魔者扱いされたと勘違いしてしまったクラウディアを慰めながら、双魔ははしゃいでいる宗房とフローラに冷たい視線を送った。


 「「なんとなく面白そうな予感がした!」」

 「ってことよ!」

 「ってことさ!」


 普段もつるんで悪巧みをしているだけあって、息ピッタリな二人に双魔は軽く辟易してしまう。アッシュを見ると、苦笑いだったが、断るとは思えないので、トラブルメーカー二人の参加は決定してしまったようだ。


 「じゃあ、宗房さんとクラウディアさん、フローラさんも来るってことで……イサベルさんも来るよね?」

 「そうね……予定は空いてるし……」

 「ん?」

 「……せっかくのアッシュ君からのお誘いだし、お願いするわ」


 アッシュに聞かれたイサベルは、一瞬双魔の方に視線を送ってから答えた。


 「おいおい!双魔くん!君って人は!!イサベルくんの君に水着を見せたいとか!めくるめく時間を過ごしたい!という気持ちにヘブッ!?」

 「議長、いい加減にしないと怒りますよ?」


 茶々を入れてきたフローラの顔を、イサベルは目にも止まらぬ速さで机に置いてあったトレーで叩いた。図星だったのか、頬はすこし赤らんでいる。そう思ってくれていると分かると双魔も嬉しい、とは思ったが、顔に出すと厄介なのがもう一人いるので平静を装う。


 「えーと、ロザリンさんも行きますよね?」

 「うんうん。むぐむぐむぐ……ごくんっ……泳ぐの好きだよ。楽しみ。後輩君も一緒だから、ドキドキするかも?」

 「そう、ですか」


 ロザリンはお茶請けのドーナッツを食べながら、いつものようにストレートに気持ちをぶつけてくるので、双魔は顔の筋肉により力を入れる。


 「フェルゼンはどうする?カラドボルグさんは行きたいって言うと思うけれど……」

 「そうなるだろうな…………はあ……ああ、嫌なわけじゃないんだ。誘ってくれて嬉しい!もちろん行かせてもらうさ!よろしくお願いする!」


 フェルゼンが一瞬、憂鬱な顔をしたのは、カラドボルグに振り回される未来が見えたからだろう。双魔もティルフィングとレーヴァテインに振り回されているような気もするが、特に気にはならない。フェルゼンの場合は、カラドボルグがあからさまに色気マシマシで振り回してくるのになかなか慣れないのだろう。


 「あとは、鏡華も行くし、もちろん、ティルフィングとレーヴァテインも、な」


 一応、双魔は補足しておいた。それを聞いて皆が、当然という顔をした。


 「むぐ……ごくんっ……シャーロットちゃんはどうするの?楽しそうだよ?」


 ドーナッツを一つ食べきったロザリンが、わいわいがやがやと騒がしい空気の中、一人書類と向き合っていたシャーロットに声を掛けた。シャーロットは不機嫌そうに顔を上げる。


 「私は用事があるので、それに色情魔の伏見先輩の毒牙にかかりたくないので。それでは、今日はここで失礼します」


 いつものように双魔の心にザクリと一刺しすると、シャーロットはさっさと評議会室から出て行ってしまった。


 「カッカッカッ!色情魔の毒牙、ね!双魔はさておき、その毒牙にかかった奴ら前でよく言うぜ!大した肝っ玉だ!カッカッカッ!」

 「兄さんっ!」


 すぐに茶化した宗房の脇腹をクラウディアがポカポカと殴って怒る。おかげで、部屋の空気が微妙にならずに済んだ。イサベルも慣れたもので、気にした様子もなく、ロザリンは両手にドーナッツを持って頬張っている。


 「アハハ……悪い子じゃないと思うけど……どうして双魔にだけ冷たいというか、辛辣というか……」

 「これだけ誑していたら。普通は女の敵だと思われて仕方ないと思うけれどねぇ~?イサベルくヘブッ!!?」


 さらに茶化そうとしたフローラは再びイサベルに制裁を加えられる。それで、部屋の空気は完全にもとに戻った。


 「えっと、それじゃあ、一緒に行くのは、双魔とティルフィングさん、レーヴァテインさん。鏡華さんと浄玻璃鏡さん。イサベルさんにロザリンさん、ゲイボルグさん。フェルゼンとカラドボルグさん。宗房さんとクラウディアちゃん。フローラさん。僕とアイってことでいいかな?」

 「なんか、大所帯になったな……っと、待てよ。朱雲にも声を掛けた方がいいんじゃないか?」


 朱雲は元々、扶桑樹の種の担い手を探しにブリタニアに留学していたのだが、蜀での一件の後、主である白徳の許可を得て、再び留学生として学園に戻ってきたのだ。


 「そうだね!じゃあ、朱雲ちゃんも誘ってみようか!双魔、お願いしてもいい?」

 「ん、分かった……何というか、改めて大所帯だな……」

 「気にしなくていいよ!僕もみんなで一緒に行けたら楽しいから!えっと、双魔は……」

 「ん、協会への申請は一緒に行く。学園長にも掛け合っておく」


 双魔とアッシュは、“聖騎士”になったことで、契約遺物の国家間移動の申請を自分で行えるようになった。しかし、今回は移動する遺物の数が多いので、学園長から遺物協会に口添えしてもらえるように頼んだ方がいい。


 「じゃあ、出発は試験が終わった月曜日!みんな、しっかり準備してきてね!」


 夏季休暇ギリシア旅行のメンバー確認会は、アッシュの明るい声で締めくくられたのだった。


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