目覚めたらハプニング?
第七部もエピローグに入っていきますのでよろしくお願いします!
「…………」
目を開くと知らない天井だった。最後に目に映った記憶があるのは金蛟剪の不敵で満足気な笑みだ。今は質素ながら品を感じさせる木材でできた天井と、その手前に銀色の頭と若草色の頭が映っている。
「ソーマ!?」
「双魔くん、起きた?」
双魔が目覚めたのに気がついた二つの頭、もといティルフィングとロザリンがずいっと顔を覗き込んできた。
「……ん……ティルフィング……ロザリンさん」
「ソーマ!」
「っ!!??あててててっ!ティルフィング!ちょっ!待ってくれ!」
双魔が名前を呼んで微笑むと、ティルフィングがガバッと抱きついてきた。その瞬間、身体に大きく痛みが走り、思わず悲鳴を上げてしまった。
「だっ!大丈夫か!?」
「ん……控え目にしてくれると嬉しい……」
「う、うむ。分かった……」
ティルフィングは双魔の悲鳴を聞いて不安になってしまったのか、目を潤ませたが、双魔が何とか手を動かして頭を撫でてやると、少し安心したのか、今度はそっと抱きついてきた。
「双魔くん、大丈夫?」
「ああ……はいはい」
「うんうん」
ティルフィングを見て羨ましくなったのか、ロザリンも双魔に労い言葉を掛けつつ顔を近づけてきたので、耳の下辺りから手を差し込んでうなじの横を撫でると嬉しそうに鼻息を荒くした。
「ところで、ここは……金蛟剪はどうしたんですか?鏡華はイサベルとレーヴァテイン、アッシュとアイギスさんは……」
「ヒッヒッヒ!起きてすぐで良く頭が回るな!流石だぜ!ヒッヒッヒ!先に鏡華の嬢ちゃんとロザリンの嬢ちゃん、レーヴァテインはそこにいるぜ」
ゲイボルグの顔が向いた方に、錆びた機械のような動きで首を動かすと、鏡華とイサベル、レーヴァテインがいた。鏡華はベッドの上で着物の袂を直していて、イサベルはタオルを、レーヴァテインがお湯の入った桶を持っているようなので、身体を拭いていて、それが今終わったところのようだ。目が合った二人は安堵の笑みを浮かべていた。
「双魔、目え覚めたんやね。良かった……うちもついさっき起きたとこ」
「双魔君!良かった!また無茶をして!身体、痛むでしょう?起きられるかしら?」
「ん……あてててて……な、何とか……な」
鏡華は茶目っ気を出して明るく笑っているが、イサベルは優しさの中に呆れをほんの少し混ぜたような笑みだ。
「自業自得ですわ!あんな無茶をしておいて!」
三人が無事だったことにホッとして双魔が一息つこうとしたところに、今度は叱責するような声が飛んできた。声の主はレーヴァテインで、見るからに不機嫌そうにこちらを睨んでいる。
「レーヴァテイン!」
「あ、いえ!お姉様!違いますわ!えーと……その……」
「ほほほ。ティルフィングはん、怒らんといてな。レーヴァテインはんも双魔のこと心配してるだけやさかい」
「む?そうなのか?」
「いえ……その……」
ティルフィングに怒られて、一転あわわといった様子となったレーヴァテインだったが、鏡華の助け舟が本音を射ていたのか、今度はしどろもどろし始めた。
「……悪いな」
「べ、別に心配なんてしていませんけれど!……無事なら幸いなのではありませんか?」
最後には、心中とは裏腹と察せる言葉を吐いて、つんと顔を逸らしてしまった。そこに話が一段落したと理解したロザリンが、双魔の疑問に答える。
「ここはね、白徳さんが用意してくれた宮殿の中のお部屋だよ。一日くらい眠ってたかな?私はご飯食べて元気。双魔くんも早く元気になってね」
「金蛟剪はお前らと決着する直前にどこかへトンズラこきやがった。あの様子じゃ何があってもしばらく手は出してこないだろうよ。太公望やらここの王様やらに任せとけばいいだろうよ。ああ、アッシュとアイギスは少し外してるぜ。察しの通り、鏡華の嬢ちゃんが身体拭いてたからな。安心しろって!俺も見ないようにしてたからよ!ヒッヒッヒッ!」
「ゲイボルグ。めっ!だよ?」
「ヒッヒッヒッ!分かった分かった!」
自分に続けて口を開いたゲイボルグが茶々を入れたので、ロザリンが叱るとゲイボルグも敵わないとニヒルに笑って、上等な絨毯の上に横たわる。
「丁度よかった。双魔君も身体を拭きましょう。汗、かいてるでしょう?タオル、用意するから」
そう言ってイサベルはテキパキと置いてあったタオルを手に取り桶の水を流して、温度を調整してあったお湯を注いで準備をする。
「ん?いや……俺は……」
「嫌も何もありませんわ!つべこべ言わずに服を脱いでください!」
「あっ!レーヴァテインさん!」
「分かった!自分で脱ぐからちょっと……」
あまり汗をかいているように感じなかった双魔は、一瞬迷ったが、レーヴァテインがつかつかと勢いよく寄ってきて服を脱がせようと着ていた寝間着の襟に掴みかかってきたので、双魔は慌てて自分でボタンを外してはだけさせた、その時だった。
バーン!
「失礼します!双魔殿!お目覚めです……ひゃーーーーーっっ!!!!????」
「馬鹿者――っ!!」
バシッーン!
「あいたーーーーーーーっ!!??」
特に前触れもなく、朱雲が元気かつ嬉しそうに部屋に突入してきたと思うと、室内の光景を目にすると両手で顔を覆って悲鳴を上げながら、すぐに部屋を出て行ってしまった。直後には青龍偃月が叱責と同時に主塔を見舞ったのか、また違う声色の悲鳴が聞こえてきた。
「えっ!?朱雲ちゃん?何が……って双魔!何でちゃんと服着てないのさっ!?」
朱雲に続いて部屋を覗いたアッシュも、双魔を見ると少し顔を赤くして頭を引っ込めた。
「あらら、着替え中かな?そうしたら、一度出直そうか。終わったら外に立ってる者に伝えてね」
白徳も来ているようだが、前の二人を見て状況を察したのか、手だけを出してヒラヒラ振るとそのまま、足音は遠のいていった。
「レーヴァテイン、お前双魔のこと襲おうとしてる盛った遺物だと思われたかもな!ヒッヒッヒッ!」
「……なっ!?なーーーーーーーっ!!??」
「あ、危ない」
すかさず、ゲイボルグがレーヴァテインをからかうと、レーヴァテインは一拍置いて白い頬を羞恥と怒りで真っ赤に染めた。もちろん蒼い剣気が一気に漏れ出て部屋の温度が沸騰しかける。
「……“発散”」
「ひゃうううううーーーーんっ!!!!」
が、既に慣れた双魔が聖呪印の刻まれた左手をレーヴァテインに向けると熱はすぐに散り、代わりにレーヴァテインの子犬の遠吠えのような叫び声が宮殿に響き渡るのだった。





